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第390話 八雲と詩那

 神具【プロム・エリアス】を起動し、逸早く八雲たちの青国への侵入に気づいたルクシエーナが、その頬を綻ばせながらリアルタイムの映像で彼女たちの様子を観察していた。

 

『ふふ。まさか空からの侵入を試みる者がいるとは…私…驚きで色々な液が身体から飛び出してしまいました。ええ、もう、色々な…ふふ。あふん。』


 空中に展開されたモニターに映るのは、リスティナのリングを掻い潜り、純エーテルの砲撃を回避する八雲たち。

 

『まさか、貴女方が敵になって戻ってくるとは…ふふ。しかも、以前よりも強くなって。エーテルまで操って。神具まで~。いったいどんな方法を使ったのですか?。どんな肉体的苦痛に堪えたのですか?。私…凄く、気になっちゃいます。ねぇ?。八雲さん。アクリスさん。』


 イルカの神具に乗って高速で移動する小さな対象を捉え、狙い撃つのは至難。

 

『あらら。なら。こういうのはぁ~。どうですかぁ?。』


 エーテルの砲撃に加え、エーテルの弾丸を乱射することでの弾幕。

 広範囲に永続的に放たれる弾丸を掻い潜りながらエーテル砲を躱す。

 

『そんなこと出来ないでしょう?。あら?。』


 天空に展開された支配空間。

 空に出現する広大な海。

 海はエーテルの弾丸を次々に呑み込み吸収していく。

 

『威力が劣る弾丸ではアレを止められませんか。けど、エーテル砲はどうでしょうね。』


 支配空間に居城頂上からエーテル砲が放たれる。

 純エーテルによる砲撃は支配空間に風穴を開けその構成を破壊する。


『ふふ。いくら貴女でも青国への侵入は難しいでしょう?。え?。あらまぁ…二手に分かれるんですか?。ふむ、流石にここからでは追えませんね。』


 ルクシエーナは別のモニターに視線を向けキーボードを強く叩いていく。

 

『仮想世界とのリンク。採取エーテルから魔力を抽出。仮想世界データから同種、同一のモノを検出……………ヒット。ええ…と、ふふ。詩那さんと夢伽さん…ですか、それと…八雲さん。仮想世界では互いに敵同士だったようですが…どの様な経緯で仲良くなられたのでしょうねぇ?。』


 更にウキウキとした様子で再びキーボードに指を走らせる。

 

『仮想世界での各人物の能力を検索。侵入した四名の現在の戦闘データと照合。八雲さんの神具は空の上からの砲撃…彼女自身は浮遊と転移の能力を所有…ふむふむ。あの小さな女の子は盾を複数展開していましたね。飛行能力は無さそう…防御力特化でしょうか…ああ、そういえば盾でエーテルを反射していましたね。成程。成程。もう一人の女の方は…気を失っているようですね…えっと…詩那さん…ですね。高所恐怖症…の可能性有り、と。』


 次々に八雲たちのデータが表となってモニターに刻まれていく。

 

『さて、こんなところでしょうか。ふふ。どうやら、住民の密集区画とぉ~。あらら。運搬専用の大型通路に落ちちゃいましたか。あまり戦闘をして欲しくない場所ですねぇ。どうしましょう。』


 モニターを全て切り、神具を消して立ち上がる。

 

『地下に潜ってコソコソやっている方々もいますし…そろそろ、総力を上げて一掃しちゃいましょうか。ふふ。ふふふ。はぁ~。』


 楽しさを隠さずにルクシエーナ。


『さぁて。ムダン様に。報告に参りましょうか。』


ーーーーー


 追撃は…ないな。

 夢伽とアクリスと離れてしまったが…無事だと願いたいが…。


『はぁ…はぁ…何とか…生き延びたな。』


 見たところ、物資を搬入する道路の隙間。

 倉庫付近の路地に落ちたようだ。

 運が良い。ここなら隠れる場所が沢山ある。

 すぐに見つかることはないだろう。


『おい、詩那。いい加減に起きろ。地上についたぞ。』

『ん~。先輩駄目だよ。ウチは逃げないから慌てないで、うん。そうだよ。優しくして欲しいし。あんっ…先輩、甘えん坊だしぃ~。可愛い~。ウチの胸好きなの?。そんなに吸い付いて赤ちゃんみたいだしぃ~。』

『……………。』イラッ。


 何という羨ま…じゃなく、厭らしい夢を見ているのか、この駄肉は!?。

 こっちは死に物狂いで砲撃から守ってやったというのに、よもや神さまぁとイチャイチャする夢なんかみやがって…。

 しかも…寝言から察するに…胸を…神さまぁに…。

 私の胸…。


『……………むぅ。』ぺた~ん。

『えへへ………。』ぼい~ん。


 なんか…ムカつくな。

 神さまぁに出会うまで自分の身体など気にすることも、お洒落に気を使うこともなかった。

 だが、今は…神さまぁに私を見て欲しい。

 可愛いと言って貰いたい…もっと触れ合って、抱きしめて貰ったり、頭を撫でて貰いたい…そして、ちゅっ、ちゅ~も、いつかはしてみたい。

 最近、そんな感情が胸の中で湧き上がるのだ。

 こんなに胸が苦しいのに…コイツは私に無いものを武器に神さまぁに迫っている。

 

『えへへ。先輩ぃ~だ~い好きぃ~。』


 カチンッ!。


『この…駄肉があああああぁぁぁぁぁ!!!。』

『うきゃあああああぁぁぁぁぁ!!!。』

『もげろおおおおおぉぉぉぉぉ!!!。』

『痛い!?。痛いし!?。何でウチの胸鷲掴みにしてんのさ!?。』

『煩い!。よこせ!。その胸!。よこせ!。』

『何で!?。そんなの無理に決まってんじゃん!。痛い痛いっ!。引っ張らないでよ!。』

『詩那なんか…詩那なんか…神さまぁとイチャイチャしてれば良いんだぁ…。わああああぁぁぁぁぁん…。』

『急に泣き出した!?。情緒どうなってんの!?。』


 それから一時間程が経過した。


『ねぇ。いい加減に降りてきてよ。いつまでも拗ねてないでさ。』

『拗ねてない…もん。』

『はぁ~。今度、お洒落の仕方教えてあげるからさ。』

『ほんとっ!。あっ…。』


 しまった…反応してしまった。


『うん。八雲は素でも可愛いからお洒落すればもっと可愛くなるし!。』

『……………ふ、ふん。ま、まぁ、詩那がどうしてもというのなら…お、お願いしても良いがな!。』

『マジ?。やった!。約束だし!。』

『う…うん…。……………あ、あり……が…。うぅ…。』


 何か調子が狂うな。


『それでさ。ここ何処なの?。ウチが気を失ってる間のこと教えてよ。』

『そうだな。そろそろ話を進めるか。』


 一先ず、詩那が高所での恐怖で気を失った後のことを説明した。


『純エーテル…星が生み出してる最も純度の高いエーテルだったよね?。』

『ああ。青国は純エーテルを星から汲み上げ兵器や能力に利用しているんだ。青国の頂点に君臨するリスティナの力による部分が大きいな。』

『リスティナか…先輩のお母さん…。』

『青国にいるのはリスティナの名を語る別の誰かだ。神さまぁの話を聞いた限り同一人物とは思えない。』

『そうなんだ。…ウチは良く分からないから何とも言えないな。えっと…さっきの話だと、ウチたちを攻撃してきたのが青国の幹部何だよね?。』

『ああ。間違いなくな。あんなことが出来るのはルクシエーナという女だ。青国全体の防衛を一手に任されている。一応、ここもジャミングでの結界を張っているが既に見つかっている可能性は高いな。奴の神具はこの青国の全てを監視下に置いている。』

『そんなに広範囲を?。化物だね。』

『ああ。変態で露出狂のドMだ。』

『凄い嫌ってるし…。』


 神具を起動し神具内に保管している食料と飲み物転送する。


『これでも食え。』

『あ、ありがと。便利だね。その神具。ウチも生活に使える能力を付与するべきだったし。』

『何言っている。詩那は電気を出せるじゃないか。滅茶苦茶便利だ。』

『えへへ。そうかなぁ~。急に褒められるとテレるし~。』


 くねくねしてる詩那。

 その度に、胸が揺れている。

 チッ…いつか、もぐ。


『けど、心配だね。夢伽たち大丈夫かな?。アクリスもいるんだよね?。』

『ああ。多分、神さまぁが消える直前に実体化のエーテルで出してくれたんだろう。』

『そっか…。それなら夢伽は安心…なのかな?。それに…先輩…どこ行っちゃったのかな?。』

『恐らくだが…神さまぁが消えた瞬間に輝いた宝石…あれは、人族の地下都市で守理に渡した転移の能力を付与した封印石だった。』

『じゃあ、先輩は人族の地下都市に呼ばれたってこと?。』

『可能性は高いな。強制的な転移だ。神さまぁでも予想外だったんだろう。』

『じゃ、じゃあ、ウチたち…これからどうしたら…。』

『そんなもの…決まっているだろう。』

『八雲?。』


 宙を浮遊し周囲を確認する。

 敵は…いないが…油断は出来ないな…。ここは居城に近すぎる。

 きっとすぐに敵が襲撃してくるだろう。


 神さまぁと離れたことは私だって不安だ。

 けど、きっと何処かで神さまぁも戦っている。

 なら、私が逃げて隠れて戦いを避けるような真似は出来ない。


『私たちはこの国にいる神さまぁの仲間を探しに来た。なら、その任務を続行する。神さまぁの仲間を探し出し合流。それが私たちのやるべきことだ。勿論、夢伽とも必ず合流だ。』

『ははは。八雲って思ってたより前向きだね。』

『神さまぁのお陰だ。』

『先輩の?。』

『ああ。先輩を好きになったことで私の世界は広がったのだ。』

『っ!。』


 言った。言ったんだ。

 私の気持ちを立場的にライバルである詩那に言ったんだ。

 だが、後悔はない。

 これが私の本当の気持ちだから。


『あはは。本当に…不器用だよね。私たちって…。ふふ。けど、悪くないかも。』

『え?。』


 呆れているような。困ったような。喜んでいるような。楽しむような。そんな複雑な表情を浮かべる詩那。

 その表情を見た瞬間。記憶の中にある とある人物と詩那が重なった。

 表情も。雰囲気も。仕草も。全くの同じだったから。


『なぁ。詩那。』

『ん?。何?。』

『お前に…姉妹はいるか?。』

『え?。急にどうしたのさ?。まぁ、妹が一人いるけど?。』

『その妹の名は紗恩という名前じゃないか?。』

『え!?。そうだけど…ウチ…妹が紗恩だって言ったことあったっけ?。てか、妹の話しも初めてしたし!?。』

『いや、詩那の何気ない仕草が紗恩と重なった。もしかしたらと思ったが、成程。紗恩の姉だったんだな。昔に話を聞いた気がしたんだ。』

『ああ。そうか。八雲は青法のギルドの所属だったもんね。紗恩の仲間かぁ。』

『そうだ。同種の種族だったこともあってな。良く二人で話していた。』

『そうなんだ…実は紗恩との再会もウチの目的なんだよね。』

『なら、可能性はあるな。』

『え?。』

『私がこの国から去る時までは紗恩はこの国にいたんだ。私と共にこの青国で目覚め記憶の無い同士で行動していたんだ。』

『紗恩が…この国に…。』


 詩那の瞳から大粒の涙が流れ始めた。


『お前の目的が増えたな。紗恩も探そう。』

『八雲は良いの?。』

『紗恩は私の仲間。そして、友である詩那の妹だ。なら、手を貸すのは当然のこと。』

『八雲ぉ~~~。』


 詩那に抱きつかれた。

 その大きな胸に顔面が埋まり柔らかく甘い匂いに包まれた。

 くっ…なんという柔らかさの暴力…絶対、いつか…もいでやる!。 


『っ!?。詩那。じゃれ合いはここまでのようだ。』

『っ!。そうみたいだね。』


 いつの間にか私たちの周囲を囲う大量のエーテルで動く機械人形の量産型。

 四方に逃げ場の無いくらいの数が並んでいる。


『この数…やはり、監視されていたな。』

『今のウチはこの程度じゃ止められないし!。紗恩にも!。夢伽にも!。先輩の仲間にも!絶対に会ってやるんだ!。』

『ああ。行くぞ…詩那。』

『うん!。行こう!。八雲!。』


 神具を起動。


天蓋衛星宙域神光砲(コズリュセンテル・ヴァルミュゼーラ)!。』

麗爆機雷球(ジグナザル・マイジラ)!。』


 私たちの青国での戦いが始まった。

次回の投稿は23日の木曜日を予定しています。

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