第384話 離脱
『ポラリムちゃんが!。』
『ふん!。通さん!。』
『ぐっ!?。この!。邪魔しないで!。』
ポラリムちゃんを抱えたメイド服の女の子がエーテルで歪めたゲートの中へ入っていく。
なんとか阻止しようとエーテル砲を放ったけど、もう一人のメイド服の女の子の能力によって軌道を変えられた。
『このままじゃ…。』
『行かせん。』
『ぐっ!?。邪魔するな!。神具!。【機装外神七光戦鎧 マキスガリュア・ペキュメデミア】!。赤玉!。起動!。』
私の神具。機械の刀。
その刀に嵌め込まれた七色の宝玉。
それぞれに適した外装が封印された宝玉の一つを解放する。
赤玉は近距離戦に赴きを置いた外装。
エーテルを噴出し速度と機動力を上げた近距離戦を得意とする。
『あっち行け!。』
『無駄だ。貴様の神具では俺の【神星武装】を破れん。』
『なっ!?。』
全身からエーテルを放出し一気に距離を詰めた。
刀で斬りかかるも、敵は素手で刀を止めた。
『俺の役目は時間稼ぎだったのだが、このまま倒せてしまいそうだ。異神。その程度ならこのまま死ね。』
振り抜かれる拳。
速い。一瞬巨大化して見えた拳。咄嗟に死を連想してしまう程の圧力を感じた。
『青玉起動!。』
『むっ!?。』
青玉が中距離の多角攻撃と全面の防御に主体を置いた武装。
複数の小型遠隔ユニットによる多面エーテル防御膜を張ることで全面にバリアを作ることが可能だ。
『エーテルによる防御か。しかし、その程度では防げん。』
『うそっ!?。バリアにヒビが!?。』
『ふんっ!。』
『ぐふっ!?。』
エーテルの防御を破壊され拳がお腹に命中する。
私の身体はそのまま地面に激突した。
『けほっ。けほっ。けほっ。危なかった。』
咄嗟に緑玉を起動し外装を変えた。
緑玉は自身の防御力を上げるだけでなく、自動回復能力を備えている。
『ほぉ。そんな形態まであるとはな。侮れん。』
『貴方のせいでポラリムちゃんを救えなかった。』
ゲートは既に閉じポラリムちゃんの姿が消えた。
それに、さっきから魔力の反応を探っているけど、儀童ちゃんを見つけることも出来ない。
『そうだな。それが俺の役目だ。任務は完了した。』
『貴方…何者?。』
顔は鉄仮面で見えない。
外見は上半身裸で筋肉質。
腰巻きから伸びる二本の布。それが後ろまで伸びてる。
何か模様が刻まれてるけど良く分からない。
けど、エーテルが宿っていることから、多分あれが彼が言ってた【神星武装】って武器なのかな?。
戦闘スタイルは徒手空拳。
体内で爆発させたエーテルのエネルギーをそのまま拳や蹴りに乗せて破壊力を上げてる。
煌ちゃんみたいな戦い方だ。
『自己紹介か。まぁ、俺個人の情報ならくれてやろう。俺はカガガス。【神造偽神】の一体だ。』
『【神造偽神】?。』
『お前たちで言う神具。俺たちでは【神星武装】と呼ばれる武装に青国の技術で意思を持たされた偽りの神だ。簡単な話。俺の本体はこの二本の布だ。』
『青国はそんな技術まで持っているの?。』
『無論だ。俺がこの場にいることが証明。』
『ポラリムちゃんをどうするつもり?。』
『知らん。俺は俺の役目だけを考えている。それ以外に興味はない。さて、無駄話はここまでだ。異神。ここで貴様の首を持ち帰るとしよう。』
『くっ…黄玉!。起動!。』
黄玉は空中戦での遠距離砲撃を得意とする外装。
高速飛行からの射撃が主な武器だ。
高速移動。そして、刀から変化させたロングライフルでエーテルの弾丸を飛ばす。
『無駄だ。エーテルによる攻撃では俺の防御は突破出来ない。』
『うそっ!?。掻き消された!?。違う…エーテルが消滅した!?。』
『返すぞ。』
拳にエーテルが宿り、私の放ったエーテル弾と全く同じ攻撃を放ってきた。
『くそっ!?。何なのあれ。』
辛うじて避ける。
速度なら空中を制している私が上だ。
『ふっ。空中にいれば安全と思っているな。だが、甘い。その程度の高度ならば。』
『なっ!?。』
『跳躍で一瞬だ。』
『うぐっ!?。』
視界から消えたカガガスが飛行している私の前に一瞬で現れ首を掴まれた。
苦しい…なんて握力…。
『このまま叩き落としてやる。』
カガガスはあくまで跳躍。
自然とそのまま落下する。
『死ね。』
『死なない!。よっ!。』
赤玉を起動。
背中から一気にエーテルを放出し落下の速度を緩和した。そして、カガガスと身体の位置を入れ替える。
『叩きつけられるのは貴方だよ!。』
『ぐふっ!?。』
刀を全力でカガガスに叩き込む。
身体を入れ替えてエーテルの噴出で得た力ををフルパワーでカガガスの身体にぶつけ地面に叩きつけた。
『はぁ…はぁ…はぁ…。どうよ…。これで…。』
雪とその下にあった土が舞う。
『今のは効いた。』
『無傷なの?。』
『ああ。無傷だ。』
『そう。貴方の能力が少し分かった気がするわ。』
『ほぉ?。』
『貴方の身体。エーテルで作られた層に包まれてるでしょ?。そのエーテルの層に他のエーテルが触れるとその層に阻まれて少し止まる。層の数は三つ。各々の層に別々の効果があるんでしょ?。』
『………ククク。見事だ。俺の【神星武装】【多重念層鎧 エテル・マジュハブ】の能力を見抜くとはな。』
『叩きつけた時、手応えを三回感じたのよ。それにさっき私の放ったエーテル弾を跳ね返した時も一瞬だけ何かに阻まれ止まったように見えたから。』
『そうだ。この二本の布。俺の本体であり、能力は【他のエーテルが触れた瞬間に、停止 反射 吸収の三つの効果のあるエーテルの層を発現させる】。俺にダメージを与えたければこの防御を突破するしかないぞ?。』
『厄介ね。』
『お互い様だ。』
どうしようかな?。
ここで切り札を使うのは避けたい。
威力が高過ぎて山ごと破壊してしまう可能性がある。
儀童ちゃんが何処かに避難している場合、山の崩落に巻き込んでしまう。
けど、切り札以外でカガガスを倒せる手段も思い付かない。
今は儀童ちゃんを見つけることが優先だから切り札は選択肢から除外する。
なら、どうするか。
『『っ!?。』』
考えが定まらない中、周囲に広がるエーテルの波。
上空に投げられた神具が無数に分裂し空を埋め尽くす。
『このエーテルは!?。』
この感じ…雨黒君?。
しかも、神技だ。
『馬鹿な!?。なんという数だ!?。』
空が見えなくなるくらいのナイフの数。
その内の一本が私の方へやってくる。
そこに刻まれた文字…雨黒君からのメッセージ。
「頃合いだ。神技終了と同時に敵二体を纏めて吹っ飛ばせ。」
そう書かれていた。
って、そんなの切り札使わないと無理じゃん。
そう思ってる間に神技が発動。
目を覆う数のナイフが様々な軌道で高速飛行しながらカガガスと、もう一体の敵に降り注ぐ。
迷ってる時間はないね。
『白玉。起動!。』
白の宝玉が輝き出し、外装が召喚される。
それを装着し巨大な羽を広げ空中へと飛翔する。
『ターゲット。ロック。』
周囲のエーテルの残留を翼に集める。
雨黒君の神技で空気中のエーテル濃度は高い。
複数の戦闘。複数のエーテル使いがその能力を使用したことで翼に集まるエーテルの量は増していく。
白玉専用の武装を展開する。
翼で集めたエーテルを砲撃する超巨大ロングレンジライフル。
狙いは一直線に並んだ敵二体、山に当てないように斜面ギリギリを掠めるように狙う。
『ぐっ…防ぎ切れん…。まさか俺までも巻き込む広範囲攻撃を仕掛けて来ようとは…。』
カガガスが起き上がる。
ナイフ一本一本に宿るエーテルを停止させ、反射し、必要とあらば吸収を繰り返し攻撃を防いだのだろう。
けど、次から次に降るナイフの雨の前にそれも間に合わず、その無敵の身体には無数のナイフが突き刺さっていた。
もう一体の敵は、どうやら身体が金属で出来ているようでダメージはない。
それどころか身体をバラバラにして今の攻撃を回避してみせたようだ。
『くっ…女はどこだ?。っ!?。このエーテルは!?。』
カガガスが私の存在に気がついた。
けど、もう遅い。
既に二体の敵は私の射程範囲、射線に入っている。
カガガスが見上げると同時にエーテル砲を放った。
『このエーテル濃度は!?。ぐあああああぁぁぁぁぁ…。』
『ギギギッ!?。ギ…。』
極大のエーテル砲撃に呑まれた二体の敵。
私は白玉から武装を黄玉に変えて高速でその場を離脱する。
既に砲撃直後に雨黒君も姿を消したみたいだ。
氷姫ちゃんと水鏡さんが無事だと良いけど。
ーーー
『今のエーテルは?。』
『はぁ…はぁ…はぁ…私の仲間の神技のようですね。』
独特の動きで長刀を振り回すセティアズ。
明らかな間合いの外からでも私の身体を切り裂くことが出来るようで、全身が傷だらけです…。
『ああ、そうなのですね。ああ、本当です。どうやら私の仲間は離脱したようですね。異神の…えっと…水鏡さんの仲間の力を侮っていたようです。過信は厳禁と言っておいたのですが…まだまだ調整が必要なようですね。』
『ふふ。そうみたいですね。私の仲間は強いですから。』
『ええ。ですが、貴女は少し期待ハズレですね。私の能力の前に手も足もでないではないですか?。』
『はい。けど、そろそろ反撃しようかと。』
『む?。聞捨てなりません。反撃出来る余力があると?。』
『ええ。貴女の能力も大体理解しました。その刀…いえ、貴女の言い方でしたら貴女の身体も、極小サイズのエーテル粒子に出来るのでしょう?。それで一瞬間合いを伸ばし、斬る瞬間、一部分だけ粒子化を解除して攻撃していた。粒子ですからね、伸ばすも縮めるも、移動も自由です。それが貴女が間合いの外から攻撃していた能力の正体ですね?。』
『………ふふ。気付かれてしまいましたか。分からないように動きで誤魔化していたのですが…。侮っていたのは私も…ですね。』
セティアズは長い刀の刀身を粒子に変え自身の周囲に纏う。
『改めて、自己紹介しましょうか。セティアズ。私の本体はこの刀。有する能力は【粒子化】です。【神星武装】名【念粒子刀 セリュクローミラ】。』
『自己紹介ありがとうございます。』
『いえいえ。それで?。どうします?。貴女の攻撃は私には届きません。私はこの肉体をも粒子化することが出来ます。水の刃も、水のレーザーも私には効きません。』
『ふぅ…そうですね。この傷では長いこと戦えません。なので、切り札を使うとします。』
『っ!?。まさか、神技ですか?。』
『ええ。私の仲間は既にこの場を離れたようなので巻き込まないで済みそうですしね。』
神具、【水深海神球 マリクリア・ディプリシア】。
仮想世界・神海に接続し支配空間となっている神球を通して海水を自在に取り出し操ることが出来る。
取り出せる水の量には制限が掛かっている。
水球の周りを浮遊するリング。
それを破壊することで制御不能な量の水を取り出す…いや、召喚することが出来ます。
『行きます。エーテルの粒子になったところで無駄ですよ。』
『え?。は?。ちょ!?。』
『呑み込まれて下さい。神技。【大海嘯界瀑波】!。』
リングが壊れ、制限の失くなった神球から大量の水が大津波のように召喚され全てを呑み込み流していく。雪を溶かし、木々を薙ぎ払い、地面を削り、山の斜面を流れていった。
『こんなの聞いてないですぅぅぅぅぅ………。』
抵抗も出来ず、逃げることも、回避も儘ならないまま流れに呑まれていくセティアズ。
その姿が見えなくなり、暫く経った頃、能力を解除し水は消滅した。
全てが流れた後、その場に残ったのは私だけだった。
『はぁ…はぁ…はぁ…。限界…。』
放出するより、召喚した水を消す方がエーテルを使う。
エーテルが底を尽きかけ傷口を押さえていた水の維持も難しい。
特に最初に不意打ちで受けた胸の傷…それが少し深い…エーテルを失えば出血で死ぬ…。
「ふふ。」
『え?。』
私の前に突然現れたのは…。
『金魚?。』
エーテルで固めた水で作られた金魚だった。
くるくると空中を泳ぐ。
これ…神具だ…。しかも、凄いエーテルの濃度。
『あれ?。傷が?。』
治っていく?。
淡い光を放つ金魚。
その光が私の身体を包み、全身の傷を癒していく。
傷が全て癒えた頃、金魚は消えていた。
『今のは…いったい?。』
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