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第383話 雨黒の戦い

 俺が…雨黒がこの場に駆け付けた時、一瞬で状況のヤバさを理解した。

 一緒にいる筈の儀童の姿の姿はなく、力なく気を失うポラリムが今まさに拐われようとしている場面だったのだ。

 視界に映る敵の数は五。気配は更に多い。

 危機的状況なのは一目瞭然だった。


~~~


 空間の歪みによって発生したゲートが閉じ始めた。

 俺が切り落とした片腕を抱えたリーダー格の男、ムダンは此方を警戒しながらも脱兎のごとくゲートへと飛び込む。

 一刻も早くこの場から撤退したいのであろう、表情と行動から用意に奴の心情が読み取れる。

 その部下であろう、空間の流れを操るレディス、ポラリムを抱えたパラエーダと呼ばれていた二人の女が後に続く。


 俺は目の前の行く手を遮った鎧の騎士の猛攻で足止めをくらい、ゲートが閉じるのを見ていることしか出来なかった。

 ポラリムを見す見す奴等に拐われてしまった。

 まさか、敵がここまでの戦力で攻め込んでくるとは…未知数の戦力の前に立ち往生が強いられた。

 奴等、自分たちの力だけを見せつけ此方の戦力を分散させた上で仕掛けてきた。

 計画的に。最初から計算された作戦。

 恐らくは、俺たちの行動は監視されていたのだろう。

 七大大国。最大の機械文明国。この国にいる限り奴等の監視下から逃れられないということか。


『くそっ…。最初から罠か。』


 しかも、最悪なことに儀童は行方不明。

 最初にこの場にいた女たちの会話では崖下へ落ちたと言っていた。

 どうやら、奴等の仲間の一人と一緒に落ちたらしい。

 この場所は断崖絶壁の高所。

 エーテルを扱う者ですら落ちれば無事では済まないだろう。

 どういう流れでそうなったのかは分からない。

 しかし、儀童一人ではポラリムを守りきれない状況だった筈だ。

 加えて、エーテル使いに囲まれていた。

 可能性として逃げるために飛び降りたと考えるのが普通。しかし、それが儀童という 男 には考えられない行動だ。

 目の前にはポラリムが敵の手の中にいる。

 その状況で彼ならば逃げずに戦う、無謀でも、愚かでもなく、前へと踏み出す筈だ。

 ならば、儀童でないもう一人の介入で突き落とされた?。

 何のために?。相手は敵だ。

 しかし、落ちた奴の仲間と機美の会話。


「敵である俺たちの言葉など信じられないだろうが、あの小僧は必ず無事で連れ帰ってやる。」


 信じられないが、奴等は儀童を 助ける と言ったんだ。


「あの男の子は私たちの仲間が守ったから。」


 とも言っていた。

 つまり、一緒に落ちた敵は…誰か…いや、この場合は奴、ムダンしかいないか。

 ムダンの手から儀童を救う為に崖から飛び降りた…ということか…。


 だが、何故だ?。

 ムダンと女たちの間には何かしらの軋轢があった?。

 確かに女たちがムダンに向ける言葉、視線には憎悪や倦厭のような感情が含まれていた。

 つまり、裏切り?。そんな大胆な?。

 いや、もしやカモフラージュの為に飛び降りた?。…そうだ。ムダンは頬に傷を負っていた。あれはエーテルではなく魔力が残留していた。

 あの場で魔力を使うのは儀童だけ。

 儀童はムダンに対し一撃を喰らわせた、しかし、魔力ではムダンを倒せず逆にムダンの逆鱗に触れてしまった。

 儀童をムダンから引き離すために?。

 巻き込みたくなかった?。


『憶測では限界があるな。』


 今すぐにでも救出に向かわなければならない状況。

 敵の女たちも仲間の救出に向ったようだし。

 すでにその姿はない。新たに現れた敵とのどさくさに紛れ姿を消したのだろう。


 敵である筈の女たちに対し、機美は儀童を救うことを託した。

 恐らくは彼女の勘だろう。

 少なくとも奴等は儀童にとっての敵ではない…と、そう考え儀童に対し手荒なことはしないと判断したと考えられる。


 俺には理解出来ない感情と思考だ。

 如何に同じ目的。この場合は仲間の救出という目的があったとて、敵をそう簡単に信じられるのか?。

 俺には無理だった。

 だが、その勘も侮れないことを知っている。

 何せ、機美たちは俺たちのいた仮想世界の頂点だ。

 俺たちよりも色々なモノを…様々な事柄を見てき体験したのだろう。

 そして、その勘も奇々怪々な人生の中で培われた超人の域へと達しているのだろうから。

 

 俺には出来ない判断を取った機美。

 

『ふっ…面白い。』


 転生し、かつて敵だった者たちに協力することになった。

 神獣に役割を与えられ、クロノ・フィリアのメンバーだった者たちを探し世界の真実を伝える。


 そして、自分たちを苦しめた存在と今は肩を並べ同じ意思のもと戦っている。

 奇妙な感覚。だが、悪くはない。か。


『お前もそうか…紫柄。』


 この場に残ったのは俺、機美、少し離れた場所に水鏡。

 対峙しているのは青国の敵。


 状況の整理をする。


 敵の最大の目的はポラリムの奪取。

 これは儀童たちの言葉から理解できる。

 青国は巫女だったポラリムを何らかの実験に使おうとしている。

 理由や内容は分からないが、ここまで敵の行動で確定だろう。

 ムダンという男、ポラリムを手にした瞬間に撤退の準備を始めていた。


 作戦は最初の砲撃による拠点の爆破。

 それによる俺たちの戦力の分断。

 その後の各個撃破の流れ…に乗じての奇襲とポラリムの奪取。


 その作戦は忌々しいが完璧に遂行されてしまったということか…。


『チッ…大胆だな。』


 それに一番ヤバイのがいる。

 離れた場所で氷姫が足止めしている存在。

 敵の中でも抜きん出たエーテルを放つ者。

 ソイツがこの場にいれば全滅していた可能性すらある。


『敵の底が知れんな。』


 奴等の後ろにはまだリスティナが控えている。

 頭の痛いことだ。


 状況の整理を終了する。

 次は目の前の敵を撃破する。

 一度距離を取り敵を観察。


『ギギギ…ギギギ…。』

『さて、戦闘を始めるか。黒い騎士。生憎と貴様に時間は掛けてられないんでな。速やかに排除させて貰おう。』


 外見は黒い鎧を纏ったような騎士。

 だが、外装は鎧ではない。

 奴の全身は、あらゆる刃物が複雑に絡み合って鎧の形を作っているのだ。

 軽く確認出来るモノでも、俺の扱うようなナイフを含め、刀、剣、鋸、鎌、ハサミ、剃刀、鉈、鍬、斧、槍やら薙刀やら…。ありとあらゆる凶器に埋め尽くされている。


 気持ち悪いな。

 

 エーテルが接着剤のような役割を果たし、関節部分は鎖で繋がっている。結果、人のような形を取り人体と同様に動いている。

 動く度に錆びた金属が擦れる甲高い音が耳を不快にさせる。


 爆発の後、コイツに奇襲され関節の鎖にナイフを突き刺して動きを封じた。

 儀童とポラリムを探すことを優先したからだ。

 だが、時間稼ぎにすらならなかったな。


『さて、どうするか…。』


 エーテルを足に集中させ特殊な歩法で距離を詰める。

 奴の背後に回り、神具のナイフで切りつける。


『ギギギ!。』


 金属同士がぶつかり合う音。

 火花が散り周囲に花開く。


『ふっ。はっ!。』


 身体を屈め、足を払う。

 重心の移動に合わせ、拳から肘打ち、そして、顎目掛けて蹴りを打ち込む。


『っ!?。』


 重い。そして硬い。

 バランスを崩させるだけで倒れるまではいかなかったか。

 打撃によるダメージもほぼ無い。

 一度距離を取るか。

 

 後退の為の跳躍。


『ギギギ!。』

『なっ!?。』


 しかし、奴はこの機に乗じて反撃に転じた。

 関節部である鎖を伸ばした腕で追撃を仕掛けてきた。

 あの関節は伸びるのか。更に奴の指は鎌、手の平には複数の刃が飛び出している。


『ちっ…ファラバグラ・エジビア!。』


 伸びる奴の腕を無数のナイフで受ける。

 数本のナイフで軌道を変えることに成功する。


『ギギギ…。』

『ふぅ…。面倒な相手だ。』


 分析に時間を稼ぐか。

 

『言葉が通じるか分からんが…俺は雨黒という。貴様、何者だ?。名はあるのか?。』

『ギギギ…。ジ……グ……バ……イ……ザ……。』

『ジグバイザ…ほぉ。ちゃんと喋れるじゃないか?。』


 スピード、反応速度は俺が上。

 攻撃力自体は互角か。

 だが、奴の防御力は俺の攻撃力よりも上。

 エーテルを込めた打撃、神具による攻撃では奴自身の防御を突破できない。

 伊達に金属の身体を持ってはいないな。

 エーテルによって硬度も上がっている。それは本来なら弱点になり得るであろう関節部の鎖でも同じだ。

 神具を持ってしても鎖の隙間に突き刺し動きを一時的に封じるだけで破壊までは出来なかった。

 奴の攻めは単純。自身の身体を構成する刃物を突き立て突進してくるだけ。しかし、伸ばして攻撃してくる器用さもある…が、所詮、獣の本能。勢いと突進力だけで押し通してくるのみ。


『意思はあるようだな。』

『ギギギ…異神。………ギギギ。殺す。』

『ふむ。見たところ、この世界に住む普通の生物ではないな…青国、そしてリスティナのことを考えると奴に創られた存在か…。まぁ、質問に応えるとは思っていないが…。』

『ギギギ。ギッ!。』


 肩から丸鋸を飛ばしてくるがナイフで弾く。

 横目でもう一体の男と対峙している機美を見る、どうやら向こうも苦戦しているようだ。

 機美のエーテルによる攻撃が無効化されている?。

 どうやら、あっちも相性の悪い相手のようだな。

 俺たちに宛がう敵の配置も計算されているということか。


『敵の頭は撤退。残された雑兵には相性が悪いと。ならば、やることは一つか。』

『ギギギ!?。』


 無音の歩法で距離を詰め、両手のナイフの内の一本を奴の身体に打ち込む。

 本来ならこれで勝負はつくのだがな…。


『ギギギ!。』

『おっと。』


 金属の腕を残ったナイフで防ぎ再び元の位置へと戻る。

 これで準備は整った。


『さぁ。仕上げだ。これで決着はないだろうがな。はっ!。』


 上空に手元に残ったナイフを投げる。


『神技!。』


 天に放たれたナイフは億千の星を彷彿とさせる輝きが放つ光に分裂し対象に突き刺したナイフに向かって降り注ぐ。

 その様は、嵐の強風、豪雨の飛沫を彷彿とさせる逃げ場の無いナイフの氾濫だ。

 数は無限。止むことのない嵐は対象を跡形すら残さない。


『【星乱渦雨荒嵐刃】!。』

『ギギギ!?。』


 ナイフの嵐に呑まれるジグバイザ。

 巻き上がる突風にその姿が消える。


『っ!?。そんなことも出来るのか?。』


 ジグバイザが身体を固定しているエーテルを解除し飛び交うナイフの群れを逃れた。

 分離しそれを遠隔操作出来る能力か。

 怪影のような能力だな。


『ふっ…頃合いだな。』

『ギギギ…殺す。』

『それは無理だ。悪いが俺の攻撃力ではお前を倒せないようなのでな。勝機の低い戦いはしない主義だ。と、いうことで終いだ。機美!。』

『ギギギ!。ギッ!?。ギアッ!?。』


 俺の神技を避け油断したのだろう。

 ジグバイザの身体に機美の神具が放つ極大のエーテル砲が直撃した。

次回の投稿は28日の日曜日を予定しています。

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