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第378話 夢の世界の氷神

 神具。

 【極氷睡星・凍神姫槍 アキュ・ネプリュアークェサー】。

 氷が形作る槍が周囲の気温を急速に低下させていく。


 吹雪いていた雪は止み、静寂が雪景色に降り立つ。

 対峙する相手であるエーテリュアにゆっくりと近付く。

 その度に足下から氷が広がりスケートリンクのようにキラキラと輝く銀世界が範囲を拡大していく。


『これは…まるで、空間支配のようですね。』

『君も凍らせてあげる。』

『ふふ。それは遠慮致します。』


 互いの距離が近付いたところで、動く。

 神具を振り遠心力で破壊力を上げ斬りかかる。


『おっと!?。速い!?。』

『躱された。まだまだ。いく。』


 自身の身体を軸に常に槍を回転させながら攻撃を繰り返す。

 エーテルが私の性質で氷の属性を持ち周囲のエーテルも巻き込んで冷気の風が渦巻いた。

 吹き抜けた全てを凍らせる風を吹き荒びながらエーテリュアへの攻撃を続けた。

 エーテリュアの能力は未知数。

 だけど、ヒントはあった。

 凍摩を凍らせた氷を砕いた時、エーテリュアは氷に触れただけで破壊した。粉々に砕いたんだ。

 その時のエーテルの動きに違和感があった。

 エーテリュアの指先から氷に流れるエーテルの異常な伝わり方。その速度。恐らく、私の数倍。

 

『ふぅ。流石にしんどいですね。』

『良く言う。その場所から動いてないクセに。』

『あらら。バレました?。ふふ。どうやら身体能力では私の方が上の様ですね。』

『そうみたい。君。速いよ。』

『ええ。エーテルによる肉体強化はお兄様にも負けませんから。』


 体内を巡るエーテルを無駄なく肉体強化に使ってる。

 それこそ、自然に、極々当たり前に、強化する能力を 行使 するというよりも、日常的に普通に行っている身体機能のように扱ってる。

 神力でもない。神具でもない。神としての能力でもない。

 神に近い肉体。いや、神と同等の肉体だからこそ為し得ているんだ。

 世界の歯車である神は誕生と同時に自ずと自身の存在の意味と意義を与えられる。

 能力もそれに影響を受けることで決定する。

 だけど、エーテリュアにはそれがない。

 故にエーテルを純エーテルのまま使用できる。している。


 私の攻撃に対しても、肉体強化だけじゃない。

 思考。動体視力。反射神経。集中力。などの強化を同時に行って対処していた。

 きっとエーテリュアには私の動きはスローモーションに見えていただろう。


『ふふ。貴女が羨ましい。』

『何で?。』

『私に無いものを持っているから…。』

『無いもの?。』

『ふふ。いいえ。何でもありません。………ふぅ。どうやら、貴女は今、私という存在を観察しているみたいですね。ええ。きっと。氷姫さんの辿り着いた答えで正解ですよ。この身体は神を模して創造されました。お母様曰く、【中身の無い空っぽの偽神】。お母様はお兄様と同等の存在を創りたかったようですが…ふふ。残念ながら失敗だったようです。』

『閃と同じ…観測神?。』

『はい。【存在の創造と存在の消滅】を司る神。ですが、そのどちらの能力も私は得られなかった。』

『悲しいの?。』

『ええ。私の存在は何のためにあるのかと。神に近い存在なのに神ではない。私には何もありませんから。目的も。義務も。意義も。』

『何もないのが失敗なの?。』

『はい?。不思議な質問ですね?。貴女だって分かるでしょう?。貴女は氷を司る女神として転生した。新たな命を…神としての生、役割を世界から与えられたのです。想像してみて下さい。それがないのです。自分が何をすれば良いのか。何を目的に生きれば良いのか。何も分からない。』

『なら、自由だよ。何でも自分で決めて良いってことだ。』

『……………。自由?。』

『難しく考えすぎだよ。折角、力を持ってるんだ。何も持たなかった私とは違う。君は抗える力を持ってる。なら、好きに生きれば良いんじゃない?。』

『ふふ。ふふふ。あははははは………。』

『何で笑うの?。変なこと言った?。』

『ははは………はぁ…ふぅ…いえ、すみません。そういう考え方もあるのかぁと、感心してしまって。ふふ。貴女とこうして話せて良かった。』

『どういたしまして。』

『では、私は私の意思でお母様から賜れた任務を遂行するとします。』

『どうぞ。』


 エーテリュアが地面に触れる。

 すると、一瞬にして地面に広がるエーテルの波紋。それは一瞬で物質を構成し列を為すエーテルの配列を分解し崩壊させた。

 翡無琥の能力に似ているそれは物凄い速さで範囲を広げ足場となっていた氷を塵に変えた。

 足場が崩れ、バランスを失い落ちる。


『くっ…。これは…。』

『どうですか?。これが私の得意技です。』

『っ!?。ぐあっ!?。』


 落下中に接近してきたエーテリュア。

 既に右手にはエーテルが纏っていた。

 抜き手の要領で突き出される手刀は防御した神具を粉々に破壊し私の右肩を貫いた。

 地面に叩きつけられたまま転がり体勢を立て直す。

 私の落下地点よりも少し離れた場所にエーテリュアが着地した。

 今ので分かった。

 対象に触れることで自身のエーテルを流して崩壊させてる。

 しかも、そのエーテルが伝導する速度が尋常じゃない。

 触れた瞬間に崩壊が始まっていた。


『ふぅ…。』


 さっきの一撃で捻切られ失った右腕。

 けど、今の私は肉体そのものが氷でできている。だから、エーテルを失った箇所に集中させれば氷で新しい腕を創ることが出来る。


『驚きました。その身体。【氷化】しているのですね。どんなに砕こうが欠損しようが再生できると…つくづく氷の神の名に相応しいですね。』

『うん。身体を砕かれても無傷。』

『ですが、胸の核はどうです?。エーテルを生み出す根源である核を破壊されれば流石の貴女も死んでしまうのでは?。』

『うん。死んじゃう。』

『………素直過ぎません?。』

『私。嘘は嫌いだから。』

『ふふ。やっぱり面白い方。ふぅ…どうやら、貴女を倒すには核を破壊して殺す方法しか失くなってしまった訳ですか。』

『うん。けど、それは君も同じでしょ?。』

『ええ。ですが、私に触れればその箇所が砕け散りますよ?。』

『だね。どうしよう?。』

『そうですね。大人しく、殺されて下さい。』

『嫌だ。神具…【極氷睡星・凍神姫槍 アキュ・ネプリュアークェサー】。』

『驚いた。神具まで復活出来るのですね?。』

『うん。これも氷を固めたモノだから。』


 星の規模でだけど。


『行くね!。やっ!。』

『っ!?。』


 狙いは心臓部にある核。

 それ以外は決定打にならない。


『同じ攻撃…正直、残念です。』


 しかし、私の攻撃は彼女に簡単にいなされる。

 

『身体能力は私が上です。貴女がどんなに攻撃をしてこようが同じ戦法は通用しない。』

『同じじゃない。』

『これは?。霜?。』

『氷は自在。』


 エーテリュアの足を霜が包む。

 合図と同時に霜を伝って氷が彼女の足を拘束した。


『これも。』


 大量の氷柱を作る。

 彼女の周囲、四方八方を取り囲む氷柱を一斉に放った。


『これで逃げられない。』


 霜と氷柱で逃げ道を塞ぎ、間髪入れずに槍で核を狙う。


『良い攻めです。ですが、私には通用しません。』

『っ!?。』

『私のエーテルは触れた瞬間には対象の内部を侵食します。貴女がどんなに優れたエーテル操作を行おうと私のエーテルはそれを容易く越え一瞬で掌握する。そして、崩壊へと続きます。』


 彼女に触れた全ての氷が砕け散る。

 胸を狙った槍ですら彼女のエーテルに触れた瞬間に刃が消えた。

 全身からエーテルの放出。

 身体の何処に触れても破壊されてしまう。


 これじゃあ、エーテリュアを倒せない。

 

『そして、近付いた貴女は今度は私の攻撃を防ぐ番です。まぁ、防げればの話ですが。』


 攻撃の際の僅かな隙。それをエーテリュアが見逃すわけはなく、その手が私の胸、心臓があった箇所にある核を的確に、確実に捉え貫いた。


『これで終わりです。』

『ふぁぁぁ。残念~。ここからは~。私の番だよ~。』

『っ!?。この手応え?。貴女は!?。』


 エーテリュアの腕は私の身体を貫いた。

 そう見えた。しかし、実際には何も触れていない。実体として捉えていた私の身体はまるで霧のように歪み揺らぐ。


ーーー


『幻?。そんな?。いつの間に?。』


 エーテリュアが周囲の違和感の気が付いた。

 景色自体は先程までとの変化はない。

 だが、周囲を満たしているエーテルが明らかに変質していた。


『空間支配?。いいえ。これは【惑星環境再現 プラネリント】!?。』

『正解~。私の星~。私の世界だよ~。ふぁぁぁ。夢の世界へ~。ようこそ~。』

『…ああ、貴女がこの国を拠点とする惑星の神…ですか?。』

『そうだよ~。ネプリピア~。宜しく~。』


  氷姫の姿は変化しネプリピアのモノへと代わっていた。


『はい。宜しくお願い致します。私の世界と仰っていましたが、この空間…何が起こるのかお聞きしても?。』

『良いよ~。』

『なっ!?。』

 

 突然の出来事。

 エーテリュアですら認識出来ない速度で氷柱が彼女の腕に突き刺さった。

 油断はしていない。

 エーテルも緩めてはいない。

 気づいた時には腕に穴が空いていた。


 だが、僅かな違和感に気が付く。


『エーテルが外部に出せない?。いえ、エーテルが能力として機能していない?。』

『正解~。この世界は~。私の決めたルールが全てだよ~。貴女は何も出来ない~。能力を使うことも~。』

『うぐっ!?。』


 今度は両足に突き刺さる氷柱。

 しかし、痛みはない。衝撃だけだ。


『攻撃を避けることも~。』

『これは…いったい?。傷が消えてる?。』

『ふふ。言ったでしょう~?。夢の世界へようこそ~って~。』

『まさか…。』

『早く~。何とかしないとぉ~。現実の肉体が~。氷漬けになっちゃうよ~。』


 周囲に突き出る氷柱に映るのは、現実の世界で眠るように動かないエーテリュアの本体。

 その身体は、氷柱を受けた箇所が凍りつき始めていた。


『そういうことですか…これが貴女の世界…仮想世界の亜種、精神世界ですか。』

『そう~。氷姫の~。神具に触れた者を~。私のプラネリント内に創造した~。精神世界に意識を引き込むの~。』

『…成程。私自身の精神を自身が生み出した精神世界に引き込む能力ですか…。つくづく厄介ですねっ!。』


 ネプリピアへと飛び掛かるエーテリュア。

 手をこまねいていても、不可避の攻撃が繰り出されるだけ。

 時間を与えれば与えるほど不利になると判断しての行動だった。


『ふぁぁぁ。無理だよ~。貴女の攻撃は~。この世界じゃ~。私に届かないのぉ~。』


 エーテリュアの攻撃はその全ての打撃が、まるで蜃気楼のような幻を攻撃しているように全く手応えがない。

 揺らぐネプリピアの身体が煙のように歪んで揺れる。


『くっ…これでも駄目ですか。』


 その身体には複数の氷柱が突き刺さり、氷柱に映る本体は顔と胸を除いて氷の中に呑み込まれていた。

 時間はない。

 早急にこの世界からの脱出を試みなければならない。


『やむを得ませんね…。』

『何ですか~?。これ~。嫌な気配~。』


 これまで劣勢だったエーテリュアの雰囲気が変わる。

 手を前に突き出しエーテルが収束する。


『そんな~。この世界は他者のエーテルが介入出来ない筈なのに~!?。』

『確かにそうですね。この世界は貴女に支配されている。しかし、例外があるのですよ。来なさい。【ミツ・メル】!。』


 そして、出現する身の丈程の大剣。

 先端以外は包丁のような形。そして、先端の形状は鎌のようになっている。

 美しく静かな銀世界とはかけ離れた禍々しさすら感じるその純黒の刃。


 自身の世界に出現した異物に対しネプリピアは恐怖を感じた。

 その瞬間、ネプリピアの胸が斬り裂かれることになる。


『なっ!?。』


 純白の雪と氷の世界にネプリピアの血が飛び散り、白を赤く染めた。

次回の投稿は11日の木曜日を予定しています。

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