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第375話 紗恩の戦い

『僕…いや、私は凍摩(トウマ)。氷結の魔術師の二つ名を持つ青国の幹部です。ん?。君の顔には見覚えがあるね。はて、誰だったか?。』


 青い剣を持った男。名前は凍摩。

 聞いてもいないのに名乗り始めた…急に始まる自己紹介。

 正直、キモいんだけど?。

 しかも私のことを知ってるみたいだし…余計に気持ち悪い。

 勝手に見覚えがあるなんて言うクセに…誰とか…何か視線がムカつくし、頭湧いてるんじゃないの?。


『魔女の帽子に、機械仕掛けの杖。【機巧魔女】の………ああ、思い出しました。確か…紗恩さんでしたね。青法詩典の幹部だった方だ。』

『知らないわよ。そんなの。』


 コイツは前世の記憶を持っている?。


『ふ~ん。記憶が無いと…それに扱っているのはエーテルではなく魔力。成程…貴女はただの異界人ということですね。』

『だから何?。』


 杖を構える。

 魔力を高めて攻撃の体勢を取る。


『おやおや。私と戦う気…でしょうか?。くく。エーテルすら扱えないか弱い少女が?。くく。とても正気とは思えません。笑わせてくれますねぇ。』


 私を見る凍摩の目は、明らかに格下を相手に小馬鹿にしている。

 確かにエーテルを扱えない私は凍摩にしてみたら雑魚でしょう。

 そんなことは知ってる。痛いくらいに。

 けど、だからって思い通りになると思ったら大間違いなんだから!。

 その為に修行をしたんだ!。


『くらえっ!。』


 まずは普通の魔力砲。

 通じないのは分かってる。けど、これで相手の動きを見る。


『やれやれ。実力差を理解しているのに挑んでくるとは…抵抗せず大人しくしていれば優しくしてあげたというのに…。良いでしょう。貴女が望むなら私の力を思い知らせて差し上げます!。【ヴィグルダ】!。』


 青い剣から放たれる冷気。

 何気無く剣を振った瞬間、魔力砲が一瞬で凍りつき砕け散る。

 やっぱり、氷姫姉と同じ氷系統の能力者。


『ほらね?。無駄だったでしょ?。』

『勝手に無駄とか決めないで!。』


 魔力を高め修行の成果を発揮する。

 圧縮して、圧縮して密度を高めて…一気に。


『放つ!。』

『ぐおっ!?。ぐっ…。』


 魔力のレーザーは凍摩の纏っているエーテルの壁を見事に突破。肩を貫通した。


『はぁ…。はぁ…。どう?。これでも雑魚呼ばわりする?。』

『………いいえ。どうやら私は貴女の実力を見誤っていたようですね。魔力を極限まで高めることによってエーテルへと近づける。かなりの魔力操作技術を要求されることでしょう。一朝一夕ではまず無理だ。』

『ええ。頑張ったもの。』

『この傷と痛みは貴女を甘く見た己への戒めとしましょう。そして、貴女を敵として改めて認識するとしましょう。』


 今までの私を弱者としていた雰囲気から一転。

 凍摩の纏うエーテルに殺気が込められ周囲に冷気が放出された。

 周囲を瞬時に凍らせる程の冷気が私の纏う魔力の壁を突き破ってくる。

 与えた傷も凍らせて出血を止めてるし。


『行きますよ。はっ!。』

『っ!?。ぐっ!。』


 青い剣が青光な残光を残しながら振り下ろされる。

 その剣を杖で防ぐも次から次に振り回される剣の斬撃が襲ってくる。

 狙いは的確。重くて…速い。防ぐだけで精一杯。


『どうです?。貴女では防ぎ切れないでしょう?。』


 徐々に後退させられる。

 奴の剣を受けた箇所から氷がまとわりつき徐々に重くなっていく。

 おまけに奴の纏うエーテルを防ぐ為にこっちは全力で魔力を高め続けないといけない。

 こんなことを続けてたらあっという間に魔力が尽きて敗北…殺されちゃう。


『ぐっ…。』


 なんとかしないと…。

 防御に集中しつつ魔力を集める。

 狙いは奴の額。一撃で勝負を決める。


『これならどうですか!。』


 胴を狙った横薙の一撃。それを杖で防ぎつつがら空きの頭目掛けて魔力レーザーを放つ!。


『無駄です。既にその技は見切っています。』

『なっ!?。』


 至近距離から放ったレーザーは僅かに頭をズラしただけで避けられた。

 ついでに杖に纏わせていた魔力も乱れ、奴の剣が杖と私のお腹を斬りつけた。


『ぐふっ!?。』


 地面を転がる。

 杖が破壊されて真っ二つに。

 お腹の傷は………深くはない。けど…浅くもない。

 けど、どうして…さっきはレーザーに反応すら出来てなかったのに?。


『ふふ。疑問ですか?。簡単なことです。貴女のその技はタメに時間が掛かり過ぎです。確かに発射されてからの回避は私には難しい。ですが、来るタイミングと角度さえ前もって分かっているなら別です。タメの時間が私に避ける為の情報を与えてくれたのです。』

『………。』


 確かに。

 平常時ならばそこまで気にならなかった。

 けど、戦闘中。それも魔力を消費しながらでは、魔力を収束させる時間がどんどん長くなってしまっていた。


『お分かりですか?。つまり、貴女の努力は戦闘では役に立たない。無駄な努力だった訳です。』

『っ…。』


 無駄な…こと…。


『ですが、安心して下さい。強く為に努力した貴女に敬意を表し、戦いに赴いた戦士として殺して差し上げます。』


 確かに無駄だ。最初から分かってたこと。

 魔力じゃエーテルに勝てない。

 そんなこと改めて言われなくても理解してる。痛い程分かってる。知ってる。


『どうしました?。折角、一人の戦士として殺して上げるのです。最期まで戦士として戦う意思は示して欲しいですね。』


 けど、私には目的がある。

 目標が出来たんだ。

 その為にする努力が無駄なんて…。


『言わせない。』

『ん?。何のことですか?。』


 そんなこと…ない。

 無駄なんかじゃない。

 目標に向かう為の努力を…。

 

『無駄だなんて言わせない!。』


 魔女の帽子を取る。

 そこには無数の魔力の塊。

 既に限界まで圧縮が完了した魔力弾。

 至近距離。しかもその数は十を越える。

 奴は言った。発射されてからの回避は私には難しいと…なら、視認した直後に発射すれば良い!。それも沢山だ!。

 残った魔力の全部と思いを込めて解き放つ。


『なっ!?。』

『くらえええええぇぇぇぇぇ!!!!!。』


 魔力が衝突した輝きに周囲が包まれる。

 私はその直後に発生した光と衝撃で後方に転がる。

 魔力を使い果たしたからか、上手く受け身も取れない。

 大きな雪の塊に背中を打ち付けるまで飛ばされた。


『はぁ…はぁ…はぁ…これで…どうよ。』


 今の私に出来る全部を出し切った。

 数日の鍛練。お姉やお兄たちのアドバイス。

 そして、過去を取り戻すという目標を掲げた意思の力。

 この場所に来る前の自分では出せなかった力だ。

 

『いやぁ。驚きました。まさか捨て身にも近い攻撃を仕掛けて来るとは…誠に恐れ入りました。』

『うそ…無傷…。』


 凍摩は傷一つ無かった。

 

『魔力だけでエーテルに迫る威力を出すとは…恐らく貴女は異界人の中で最強ですよ。』

『なら…どうして無傷なのよ…。』

『簡単なことです。貴女は確かに魔力を極限まで高めてエーテルに近づける技術を手に入れた。ですが、所詮はエーテルに近づくだけ。エーテルを纏う私は貴女が魔力でしているのと同じくエーテルを高めて防御しただけ。簡単なことです。』

『……………。』

『結局、元を辿れば魔力はエーテルの一部に過ぎない。如何に魔力を高めたとて強力なエーテルとぶつかれば吸収、取り込まれて終わりです。』

『はぁ…。』


 やっぱり…駄目だったか。

 足掻きは、足掻きのまま…か。

 

『残念がることはありませんよ?。貴女の意思の強さ。魔力に込められた思いは一瞬とはいえ私のエーテルを上回った。エーテルの防御を抜けた攻撃は私の身体に当たりましたから。』

『……………。』

『ふふ。良い目ですね。まぁ、結局は当たっただけ。即座に氷の防御膜を作り魔力のレーザーを屈折させました。技術面でも貴女は私に勝てなかった。それだけです。』

『ぐっ…。』


 言われなくたって…。


『はぁ…はぁ…はぁ…。』

『ほぉ。魔力は尽きた状態でまだ立ち上がるとは…。』

『わかってんのよ…そんなこと…。』

『はて?。何のことかな?。』

『だけど…私は少しでも…ちょっとずつでも…。』


 そうだ。

 あんな小さい儀童だって頑張ってるんだ。

 私が諦めて、挫けてどうするんだ!。


『前に進むんぐぶっ!?。』


 立っているだけでも限界。

 その状態で頭を踏まれ地面に沈む。


『良い気迫ですが…いい加減弱い貴女に付き合うのも飽きてきました。ああ。ですが、貴女の一生懸命さに敬意を表して、今度は私の道楽に付き合って貰いましょう。』

『何を…ぐぶっ!?。』


 踏み潰されていた頭の足を退けた途端、顔面を蹴られた。

 防御も回避も出来ないまま顔面と身体の痛みに耐えた。引きずられたみたいに地面を抉りながら仰向けに倒れる。

 全身に纏っていた魔力も消え雪の冷たさを感じる。

 寒い…。痛い…。苦しい…。辛い…。


『さて、既に抵抗する力の失くなった貴女はこれから苦しむことになります。まずは逃げられないように足を。』

『っ!?。うぎゅっ…。』


 左足に剣が突き刺される。

 鈍い痛むの後、急激に冷やされる。

 感覚は鈍り痛みと熱さにも似た感覚だけが足全体に広がった。


『次は右足です。』

『や、めっ…。』

『ふふ。やめません。』

『あ…がっ…。』


 両足が凍らされていく。

 動かせない。感覚のない指先が崩れ落ちる。

 崩れた指先に痛みが無いのが逆に恐怖となった。


『さぁ、これで逃げられません。』

『もう…やめ…て…。』

『良い表情ですね。楽しみ甲斐のある方だ。ふふ。じっくり、ゆっくり、凍らせてあげましょう。』

『ああああああああああ………。』


 何度も、何度も、何度も、剣は私に突き刺された。

 私の反応を楽しむように浅い傷を身体に残していく。

 ジワジワと、ゆっくりと、楽しむように全身を凍らされていく。


『あっ…うっ…。ぐっ…。』

『やれやれ…随分と反応が鈍くなってしまいましたね。身体も震えるだけ…小さな声を漏らすだけ。はぁ…これは終わりですね。では、最期に氷漬けにして美しい氷像になって貰いましょう。』


 寒い…。動けない…。視界もぼやけて…。

 辛うじて見えるのは凍摩の持つ剣が徐々に近付いてくる。


『ふむ。これだけ傷つけられ、凍らされているにも関わらず、貴女の目は死んでいない。認めましょう。貴女は強い。満足して死んで下さい。』


 くっ…。

 

 振り下ろされる剣。

 悔しい。怖い。

 咄嗟に目を閉じた。

 結局、頑張ってもエーテルを使う奴には勝てなかった。

 きっとコイツはお姉やお兄たちに比べても、あんまり強くない。

 それなのに、相手にもならなかったなぁ。


『わ…たし…よわ…い………ね。』

『いいや。良く頑張った。お前は強い。しっかりとした内面の強さを持っている。』

『え?。あ…青嵐兄?。』

『ただ強いだけでは暴力でしかない。そこには何も無く何も生まれない。強さとは心が伴って初めて意味が生まれるのだ。』


 突然の青嵐兄の登場に剣を止める凍摩。

 私と凍摩の間に割って入った。

 助けに来てくれたんだ。

 青嵐兄…。

 

『君は…青法の…。』

『ほぉ。私を覚えているか?。白蓮の下にいた氷使い。直接話すのは初めてだな。』

『成程。その少女とは違い。貴方には記憶があるようだ。ふふ。漸く、出会えましたね。異界の神。』

『個人的には私は未だ神と呼ばれる程の存在ではないのだがね。』

『確かに貴方からは大した全く脅威を感じませんね。どれ…少し試させて貰いましょうかっ!。』


 斬りかかる凍摩。

 エーテルを纏う剣が青嵐兄に迫る。


『青嵐兄!。』

『ふっ…ぶぐはっ!?。』


 ええ…。

 青嵐兄が吹き飛ばされた。

 そのまま私の元までやってくる青嵐兄。

 剣による胸の傷口から血を流しながら表情を変えない青嵐兄は私を見つめ。


『言ったであろう?。紗恩。私がこの中で最弱だとな。』

『い、言ってたね…。』


 嘘じゃなかったの?。

 魔力もエーテルも扱えないとか。

 けど、何でそんなに冷静なの?。


『紗恩。』

『な、何?。』

『助けてくれ。』


 冷静じゃなかった!?。


『無理だよっ!?。』


 動けないし!?。


『そうか。なら、もう少し私が動くか。』


 立ち上がる青嵐兄。


『どうやら、本当にエーテルを扱えないようですね。そして、自身の弱さも理解しておいでだ。つまりは、そのお嬢さんを殺させない為に自らを盾にしに来たと?。』

『その通りだ。現に紗恩は今生きている。そして私もな。』

『時間の問題。だと思いますがね。貴方は何も出来ず。手負い二人では私から逃げることは出来ない。』

『ああ。そうだ。私の役割は少しばかりの時間稼ぎだからな。』

『何?。』


 その時だった。

 

『このエーテルは?。』


 異常なエーテルの冷気。

 凍摩の冷たいエーテルとは違う、肌を突き刺すような痛いくらいの冷気。


『君は…いや、お前は…。ああ。忘れるわけもない。俺を殺した。女ぁ!。』

『誰だっけ?。まぁ。良いや。月涙。お願い。コイツは任せて。』

『はい!。氷姫さん!。』


 いつの間にか現れた月涙。

 青嵐兄と私を担いで跳び立つ。

 

『紗恩さん。良く頑張りましたね。遅れてすみませんでした。』


 助けに来てくれた。もう大丈夫だ。

 そう思った瞬間、安堵と疲労。そして…無力感が一気に押し寄せて、自然に涙が溢れてきた。


『大丈夫です。紗恩さん。貴女は強くなります。必ず。私も力になりますから!。』

『……………うん。』


 私は静かに泣いた。

次回の投稿は31日の日曜日を予定しています。

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