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第372話 青国の異神たち

「紗恩。必ず、見つけるから。」


 誰かの声が聞こえる。

 知らない声?。ううん。記憶に…記憶の底にある…そんな気がする。

 記憶には残ってるんだ。この人の声。懐かしい…凄く大切な人の…もう会えないと思ってた…存在。だって、死んじゃったから…私も…あの人も。

 

 あれ?。誰のことを言ってるの?。

 私は誰を思っているんだったかな?。


 顔も思い出せないけど…ああ、不思議と悲しいなぁ。

 心にポッカリ穴が空いたみたいに落ち着かない。

 

 けど…会いたいなぁ。会いたい。会いたい。


『お、お姉……………あれ?。』


 視界に映る白い天井。

 慌てて上半身を起こすと涙が頬を伝った。

 あ…私、泣いてた?。

 どうして………ん?。いや、そんなこと今は後回し!。


『ここ何処!?。』


 周囲を見渡すと知らない部屋。

 天井と一緒の白い壁と床。ひんやりとしたエーテルに包まれてる?。

 

『これ…ここ、全部…氷だ。』


 きっとこの部屋の外もここと同じ状態なんだろう。どんだけのエーテルを使って…しかも、それを維持し続けてる。


『いったい…誰が...あ?。』


 気が付かなかった。

 私の膝の上にいた温もり。


『あはは…良かったぁ…無事で…本当に。』


 儀童。ポラリム。

 寝息を立てている二人の頬をそっと撫でる。


『ん?。あっ!?。紗恩お姉ちゃん!。』

『え?。あっ!。起きたんですね!。良かったぁ!。』

『わっ!?。ふふ。うん!。』


 皆。生き残ったんだ。けど…。


『二人は…いえ、ここは何処なの?。あれから何があったの?。』

『あ…起きた。』

『え?。ゔぇ!?。』


 開いたドア。

 女性の声に顔を向けた。

 目に映ったのは真っ白な………着物が着物の意味を為していない…恥女。

 辛うじて肩に引っ掛かってる着物のお陰で大事な部分が隠れてる程度の…。


『皆。呼んでくる。あ。』


 振り返ろうとした瞬間。

 最後の引っ掛かってた砦がずり落ち、真っ白な肌の全てが露出された。


『見ちゃ駄目!。』

『うぎゃあああああぁぁぁぁぁ…。』

『ポラリム!?。』


 ポラリムが儀童に目潰しを!?。

 叫び転げ回る儀童に覆い被さるようにのし掛かる。


『失敗。失敗。』

『今の儀童君の叫びは何?。』

『ちょっ!?。氷姫ちゃん!?。またですか!?。』


 違う女の人が二人入ってきた。


『お目覚めのようですね。紗恩さん。』

『あ、貴女は!?。』


 今度は私を助けてくれた女の子がいつの間にかベッドの横に立っていた。


『あはは…もう何が何だか、分かんないやぁ。』


 私はただ渇いた笑いをするしかなかった。


ーーー


『わっ!。お、美味しい。』


 芳ばしい香りを漂わせる、どこか懐かしい味のスープを口に運ぶ。

 優しい味に感動し口を隠して驚いた。

 転生し、この世界で活動し初めてからこんなに手の込んだ料理は初めてだった。


『お口に合って良かったです。沢山あるので、おかわりして下さいね。』 


 水色の髪の女性。

 名前は水鏡さん。この中では一番の年上っぽい。大人の女性。そんな言葉の似合う綺麗な方だ。

 この料理も彼女が作ってくれた。


『はい。儀童。あ~ん。』

『え?。氷姫お姉ちゃん!?。』

『駄目です!。氷姫お姉ちゃん!。儀童にあ~んするのは私です!。』

『え?。ポラリム!?。』

『むぅ。儀童。弟みたい。甘やかしたい。』

『あはは…氷姫ちゃん。一人っ子じゃない。』


 真っ白い肌の…エッチな人が氷姫さん。

 儀童たちとのやり取りを、あたふたしながら見てるのが機美さん。

 機美さんと儀童は前世で戦ったことのある知り合いだって言ってた。


『そういえば、えっと月涙ちゃんは何処に?。』


 私の命の恩人。神獣の女の子。

 さっきまではいたんだけどな。


『ここにいますよ。』

『え?。』


 何処からともなく出現した水が空中で集まり次第に人型になった。

 忍装束の女の子、月涙ちゃんの登場だ。


『あまり人数がいても仕方がないので隠れていました。すぐ側にいますので、ご用がありましたら気軽にお呼び下さい。』


 そう言うと空になっていたコップに水が注がれた。


『あ、う、うん。ありがと。』

『いいえ。では。』


 笑顔を向けその姿が消える。

 正直、もっとお話をしたかったなぁ。


 えっと、気を取り直して、奥の部屋にいる二人の男性が青嵐さんと雨黒さん。

 包帯でグルグル巻きの方は前世で私の上司だった人らしい。

 全然覚えてないけどね。


『紗恩ちゃん。』

『ひゃう!?。あ、はい。何でしょうか?。』


 改めて、この場にいる人たちの事を頭の中で整理してた時、機美さんが話し掛けてきた。

 突然の呼び掛けに変な声が出ちゃった。


『えっとね。儀童君とポラリムちゃんにこれまでのことは聞いたんだ。ここまでたどり着いた経緯と今までに何があったのか。…響ちゃんのこともね。』

『………。』


 私は儀童とポラリムの方を見ると二人は頷いた。


『それでね。今度は私たちの事を教えてあげるね。私たちがどういった存在でこの世界に何故転生したのか。そして、この世界で何をすべきなのかを。』

『………はい。宜しくお願いします。』


 もしかしたら、その話の中に私の前世のヒントがあるかもしれない。

 夢の中に現れる知っている声の主のことも。

 私は…記憶を…取り戻したい。

 

ーーーーー


 雪山に無理矢理作ったであろう横穴に青国からの追跡者たちが集まっていた。


『戻った。』

『おかえりなさい。シャメラルア。』


 刀を携えた少女。シャメラルア。

 彼女の帰還にその場に全員の視線が集まる。

 その内の一人。

 優しげな雰囲気のシスターのような服を着た杖を持った少女が嬉しそうに彼女に声を掛けた。

 背中から生えた白い翼がパサパサと動く。


『ああ。待機御苦労。フィメティワ。』

『惜しかったね。もう少しで任務完了だったのに。』


 身の丈程のライフルを持つ迷彩色に染まる軍事服を着た少女。

 楽しそうに足をぷらぷらさせながら高いところから見下ろしていた。


『貴様のせいだぞ。デュシス。合図の前に撃ちやがって。』

『ははは。めんごめんご。けど、あのままでも結果は変わらなかったからさ。良いじゃん。』

『チッ。貴様はせっかち過ぎる。』

『まぁまぁ。ターゲットが異神と接触する確率はかなり高かったんだ。予想通りになって良かったじゃねぇか?。』

『こら!。頭を押さえるな!。潰れるだろ!。レイサーラ!。』


 両手に機械を装着した赤を基調とした服を着た少女。

 その両手の機械は八雲が当初使用していた機械と同系統の性質を持っている。

 殴ることも。エーテルを放出することも。刃に変換させることも可能だ。


『そうだな。だが、予想を越えて強力な対象が引っ掛かってしまったようだ。』

『だねだね。あの崖の下。ぜ~~~~~んぶ。敵の支配空間でしょ?。しかもこの吹雪もきっとソイツの能力っぽいし。』

『ええ。ですが。カリュン。敵が如何に強大な力を有していようと私たちのすることは変わりませんわ。焦らず、慌てず。自らの役割をこなす。それだけですわ。』

『だねだね。うん!。フォルンチカの言う通り。』


 身の丈よりも長い槍のような武器に身体を預けている小柄な少女。カリュン。

 そして、ドレスにも似た服を着た優雅な佇まいの少女フォルンチカ。


 シャルメルア 

 フィメティワ

 デュシス

 レイサーラ

 カリュン

 フォルンチカ


 彼女たち六体の【神造機人】にもう一人を加えた計七体によるチームこそ青国最強の部隊である。


『全てはリスティナ様の為に。』 


 自らの生みの親。

 リスティナに対する忠誠が彼女たちの全てである。


『ふふ。待たせたね。諸君。』

『っ!?。…………。』


 そこに現れた水色の髪の青年。

 その少年を視界に入れたシャルメルアは小さく舌打ちをした。


『何故、お前がここにいる。凍摩(トウマ)。』

『相変わらずつれない言い方だね。リスティナ様からの新たな指令を持ってきたというのに。』


 凍摩。

 仮想世界で白聖連団に所属し幹部の一人だった男。

 氷を操る能力を持つも、氷姫に倒された。


『何?。』


 シャルメルアがいぶかしむように凍摩を見る。

 その視線は彼を一切信じていないという気持ちが含まれていた。

 そんな視線を知ってか知らずか凍摩はお構い無しに話し始める。


『ふふ。まず一つ。目的の巫女への捕縛内容を【殺す】から【生け捕り】に変更。そして、二つ目。君たちはこの作戦中、君たちの部隊は僕の指揮下に入ること。以上だよ。』

『は?。何言ってんの?。』

『何故俺たちがお前なんかの下につかなきゃいけねぇんだ?。』

『全くもって遺憾ですわ。』


 次々に凍摩に向け不満を漏らす。


『それは君たちが僕より弱いからさ。』

『意味分かんないんですけど?。異界人程度が私たちより強いって言いたいの?。』

『その通りさ。これを見なよ。』


 そういうと凍摩は即座にエーテルを放出し氷の造形を作り出した。

 美しい、芸術的なペガサスの氷像。


『うそ…エーテルを!?。』

『異界人は魔力しか扱えない筈じゃ?。』

『だねだね。そんなの知んないよ。』

『ふふ。僕はリスティナ様より力を授かったんだよ。核に特別な細工と改造を施してね。今ではエーテルを体内で生み出し自在に操ることが可能なのさ。今の僕はイグハーレンさんのような神眷者とも互角…いや、それ以上の存在になったのさ。』

『……………。』

『しかも君たちと同じくリスティナ様より【神星武装】を頂いた。神具に匹敵する力を持つ最強の武器だ。分かるかい?。既に僕は誰も届かない高みへと至ったんだよ!。ははは!。』


 凍摩の話を無言で聞いていたシャルメルア。

 彼は気付いていないが、その瞳は哀れみを帯びていた。

 凍摩は神眷者の外面的な強さしか知らない。

 奴等は神の恩恵を一身に受けることで、その力を無尽蔵に増大出来るのだ。

 聖獣だった使い魔は神獣へとなり、更に同化へ至り、神具そのものが別物に変化したりと、神の気紛れで如何様にも変化し進化する。

 凍摩はそのことを知らないのだ。

 ただの一回。イグハーレンをその目で見ただけ、後は噂しか聞いていない。


『この雪嶺に潜む異神の結界を先程拝見してきた。あの程度のエーテル密度ならば…はあああああぁぁぁぁぁ…。』


 凍摩がエーテルを収束し掌サイズの雪の結晶を作る。

 その結晶に内在するエーテルはこの周囲一帯を覆っている結界に使用されているエーテルの強さを明らかに上回っていた。


『はぁ…はぁ…はぁ…ほらね。この通りです。』

『………はぁ。』


 シャルメルアたちの中で異界人の認識は魔力しか扱えない雑魚。

 儀童や紗恩。転生した直後の凍摩など数多くの異界人を目にしてきた彼女たちの結論は、異界人は異神との戦いにおいて戦力にはなり得ない…というものだった。

 理由の大きな部分はエーテルを扱えないから…だったのだが、今の凍摩を見て考えが改まった。

 確かに瞬間的に高められたエーテルは凍摩の方が大きく力強かった。

 だが、あの結界を張っている者、異神は今の一連のやり取りの中で、肩で息をしている凍摩が行っているエーテルの維持をし続けているのだ。今、この瞬間にもだ。

 その事を何故か気付いていない凍摩を見てシャルメルアたちは言葉を失い深いため息をした。


 こんなのが一時とはいえ上司になるのかと。

次回の投稿は21日の木曜日を予定しています。

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