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第371話 紗恩

『【黒曜宝我】が陥落!。ギルドの支配エリア及びギルド内の全ての人々が完全に消滅しました。』


 そんな報告が【青法詩典】全体に走った。

 【黒曜宝我】。

 ゲーム時代から良い噂を聞かなかったが、六大ギルドの一角であることからも分かる通り、かなり高レベルの戦闘能力を持っている集団だった。

 プレイヤーキルは勿論、盗み、騙し、果ては必要とあれば仲間ですら切り捨てる。

 そんな噂が後を絶たなかった。

 規模も私の所属する【青法詩典】と同等のギルド。

 そんな【青法詩典】と同格に位置する大きなギルドがゲーム、エンパシス・ウィザメントに侵食された現実からの二年後に消滅するなんて。

 周囲の皆も信じられないといった反応だった。

 けど、次の瞬間。報告に来たメンバーの一言で納得してしまう。


『やったのはクロノ・フィリアのメンバーと思われます。詳しい内容は不明。現在、全力で調査に当たっています。ですが、支配エリアには既に 何も 存在していないことから報告は真実かと…。』


 クロノ・フィリア。

 ゲームだった頃、二十人規模の極小ギルドだが数々のクエストをトップクリアし、何年も攻略の出来なかったラスボス、クティナを最初に倒した伝説のギルド。

 そのメンバーの一人がこの青法に捕らえられている。

 しかし、特殊なスキルを持っているようで此方からの干渉を一切受けず手を焼いていた。


 最近、黒曜のギルドマスターが捕虜と何度も接触をしていると噂を聞いたがそれと関係あるのだろうか?。

 しかし、警備員に確認しても来ていないと行っていたし…。


 けど、噂…伝説通りのデタラメな力を持った連中ならば六大ギルドの一角を落とすことも不可能ではない。

 そう考えてしまう。


 しかし、私の中ではこの場にいるメンバーとは違う意味で胸の鼓動を早めていた。


『お姉…。』


 世界が侵食されてから会えていない詩那お姉。

 【黒曜宝我】に所属していたことは知っている。

 ギルド同士の接触は火種になりかねない為、積極的に会いにはいかなかったけど…。

 【黒曜宝我】が報告通りの結末を迎えたのならお姉はもう………死んでしまった可能性が高い。


『バカ…。』


 努力しないと何も出来ない私と違って、何でも適当に出来てしまうお姉。

 本人には自覚がないだろうけど、私は何でも出来るお姉に嫉妬していた。

 けど、同時に尊敬もしていたんだ。

 大好きだったし、姉妹仲だって悪くなかったと思う。

 本当はずっと一緒にいたかった。

 けど…世界が壊れて、両親の様子が変になった頃から全部が狂い初めてしまった。


『……………っ。』


 私は人知れず静かに涙を流していた。


ーーーそんな記憶も今の私には失われてしまっていた。


 ポラリムを背負って逃げる儀童君を狙う機械の女…名前は…シャメラルア。

 彼女の刀を杖で防ぐもエーテルを纏う刀には魔力しか扱えない私の杖は呆気なく切断されてしまう。

 そのまま肩から胸を斬られて私は後退する。

 倒れそうになる身体に無理矢理力を入れ踏ん張る。

 私がここで倒れたら二人が狙われる。

 二人が逃げる僅かな時間を稼がなければ。

 その思いだけが私の身体を動かしていた。


『逃げなさい!。』

『紗恩お姉ちゃん!?。』

 

 儀童の身体を力一杯に押す。

 その先は崖になっていて、二人を突き落とした。 


『はぁ…はぁ…はぁ…。』


 出血が酷いなぁ。

 ちょっと深く斬られちゃった…。

 魔力も残り僅か、とても戦闘に使えるだけの量は残っていない。

 けど…。

 半分になった杖を両手に持って構える。

 震える両手を広げてこの先へは行かせないと意思を示す。


『二人を逃がしたか。無駄なことを。貴様程度では時間稼ぎにすらなりはしない。』

『ええ。理解しているわ。けどね。きっと。あの二人なら何とかするわ。』

『不思議だな。この場で最も絶望的な状況に置かれているお前が何故笑っているのか?。』


 ああ。そうか。響姉もこんな気持ちだったのかな?。

 意思を…希望を託す。

 あの二人ならこんな状況も乗り越えられるって信じたんだ。


 きっと響姉の中には私の含まれていたんだろうけど…ごめんね。私は二人を守るので精一杯みたいだよ。

 思わず苦笑してしまう。

 それを見て笑っていると思われたんだろう。


『笑っている?。ええ。そうね。私はあの二人を信じているもの。』

『………よく…分からないことを言う。』

『そうね。私も今までは分からなかったわ。けど。』


 残り僅かな魔力を集める。

 自分の出来ることに全力を注ぐ。


『愚かな。その身体で戦う意思を示すとは。』

『ええ。あの二人の元へは行かせない。私の命に替えてもね。』

『………そうか。覚悟は決まっているのだな。ならば。死ぬが良い。』


 全力で。ただ、全力で。

 魔力を放つ。

 効かないことは分かっている。

 けど、これが私に出来る最後の足掻きだから。

 残ってる魔力を全力を…。込める!。


『儀童…ポラリムをちゃんと守るのよ。』

『死ね。』


 放った魔力砲ごと私の身体は斬り裂かれた。

 そして、身体に十字の斬り傷を残した私はその場に崩れ落ちる。

 

『ぐぶっ…はぁ………はぁ………。』


 私の身体を中心に雪の大地が真っ赤に染まる。

 

『まだ生きているか。流石は異界人。異神のなり損ないというべきか。存外にしぶとい。』

『うっぐ…。』


 首を掴まれ軽々と持ち上げられる。

 駄目だ。意識が薄れる…。


『確実に核を破壊し抹消する。安心しろ破壊したお前の核には利用価値がある。無駄にはしないさ。』


 刀の切っ先が胸に勢い良く突き付けられた。


『っ!?。こ、これは!?。水?。』


 胸を貫かれようとしたその時だった。

 私の胸を守るのように小さな水の球体が出現して女の刀を止めた。

 水の玉はビー玉くらいの大きさにも関わらず物凄いエーテルが練り込まれている。


『暫く観察させて頂きました。どうやら、私が肩入れしなければならないのはこの少女のようですね。』

『なっ!?。うぶっ!?。』


 次の瞬間。

 小さな水の玉が弾けた。

 同時に大量の水が津波のように女を呑み込み水量と水圧で押し流した。

 大地も、積雪も全部を抉る水量が全てを破壊した。


『大丈夫ですか?。紗恩さん。』

『貴女は?。どうして私の名前を?。』

『今はこの場を離れることが先決です。どうやら追手は彼女だけではないようなので。』


 忍者のような装束を着た女の子。

 見た目は私よりも全然年下っぽい。

 何よりもこの子の纏ってるエーテル。それと外見から分かる。


『貴女。神獣?。』

『はい。主である閃様に使える五行守護神獣の一つ。水を司る月涙(ルナ)と申します。』


 閃?。五行守護神獣?。

 分からない言葉が何個かあるけど、月涙という名前だけは分かった。


『月涙。どうするの?。』

『囲まれています。このまま戦えば勝機はありません。ですが、この吹雪を利用すればこの場から逃げることは可能です。紗恩さん。その場から動かないで下さい。』

『う、うん。』


 吹雪で見えないけどさっきの女。シャメラルア以外にも敵が潜んでいたんだ。

 つまり私たちは最初から逃げられてなかったんだ。

 ずっと後をつけられていたんだ…。


『展開します。』


 両手を広げた月涙の周りにさっきと同じ小さな水の玉が複数個浮かび上がる。

 水の玉一つ一つに内在する信じられないくらいの量のエーテルを感じる。

 それが無数に私たちの周りに出現したのだ。


『くっ。ここで増援とはな。貴様。神獣だな。誰の使い魔だ?。』

『貴女方の言うところの観測神様です。』

『っ!?。成程。それで合点がいった。その小さな身体に内在するエーテル。普通の神獣では有り得ない量だからな。観測神の使い魔なら納得がいく。』

『それを理解しながらも戦うのですか?。』

『ああ、異神とそれに連なる者たちの情報収集も我々の任務だからな。』

『そうですか。っ!?。』


 突然、シャメラルアのいる方角とは別方向から攻撃された?。

 反射的に反応した月涙の水が盾のように広がり防ぐことに成功する。


『ほぉ。今のを防ぐか。』

『ええ。貴女のお友達の居場所は把握しています。話中ですが随分と気早なお仲間さんですね…ふぅ…なので…反撃も可能です!。』

『っ!?。』


 複数の水球から一斉に放たれる水の光線。

 エーテルを込められているようでキラキラと輝いて見えるが、その美しい光とは裏腹に威力は絶大。

 反射的に刀で防いだ女だったが、その圧力に押され後方へと押し返された。

 更に、一定の量の水が放出されたと同時に爆発を起こし女の身体を大量の水が押し流す。

 同時に別方向に放たれた光線も各所から水が弾ける爆発音が聞こえた。


『今に内に逃げます。しっかり掴まっていて下さい!。』


 月涙の小さな身体が私の身体を背負う。

 小柄なのに凄い力で私を軽々と背負ったまま飛び出し、崖から飛び降りた。


『この下は安全です。仲間の支配空間となっていますので。なので少しお休み下さい。』

『助けてくれてなんだけど…貴女を信頼して良いの?。』

『はい。貴女の仲間のお二人も救助されています。安心して下さい。』


 その言葉を聞いて一気に心の重りが消えた。

 こんな簡単に信頼して良いのかは分からないけど、体力も魔力も尽きた私にはこの子を信じることしか出来なかった。

 不安よりも安心が勝り、ギリギリのところで保っていた緊張の糸が切れ、私の意識は途絶えてしまった。

次回の投稿は17日の日曜日を予定しています。

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