第370話 青国での出会い
『うぅ…。』
暗闇の中で踠いている感覚。
何だろう…人の気配を強く感じる。まるで、誰かが僕を間近で見ているような…。
僕…どうなったんだっけ?。
ああ…ええっと。
襲ってくる人たちから逃げるのに雪山に移動して…そしたら、思った以上に雪が凄くて…もう限界で…その時…青国の機械の人が…襲ってきて…。
紗恩お姉ちゃんが…。僕たちを助けてくれて…崖から落ちて…。それから…。っ!?。
思い出した!?。
『ポラリム!?。』
僕は今までのことを思い出し慌てて上半身を起こす。
身体に痛みが走ったけど関係ない。
ポラリムの無事を確認する方が先決だ。
『あ、あれ?。』
目に飛び込んでくる知らない部屋の風景に戸惑う。
白い壁に、白い天井。
暖かいけど…この壁とかは氷だ。
それに僕はどうやらベッドに寝かされていたらしい。
身体も傷の部分に包帯が巻いてある。
誰かが治療してくれたのかな?。
『ここ?。どこ?。』
自然と疑問の声が出た。
そうだ…僕、気を失って…。あれ?。
確か…真っ白な女の人に会ったような?。
ふと、気を失う前、最後に見たお姉さんの姿が頭に浮かんだ。
混乱して頭の中が渦巻いてる。
『あ。起きた。』
『え?。っ!?。』
突然、真横から聞こえた声に咄嗟に顔を向ける。
すると、そこには鼻と鼻がくっつきそうなくらい近くに顔があった。
真っ白な長い髪。真っ白な眉毛。真っ白な肌。全部が純白なのに、僕を見つめる瞳だけが黄金に輝いている女の人。
気を失う前に出会った女の人だ。
凄く白くて綺麗な人の真っ直ぐな視線に動揺する。
戸惑っている僕にコツンと、おでことおでこをくっつけるお姉さん。
『え?。え?。』
『うん。熱無い。風邪もひいてない。良かったね。それに偉い。』
どうやら熱を計ってくれていたみたい。
お姉さんの冷たいおでこが気持ちいい。
少し離れて僕の頭を撫でてくれる。
『儀童おおおおおぉぉぉぉぉ!。』
『おぶっ!?。』
お姉さんに気を取られていたせいか、全然予想だにしない方向からの衝撃を無防備に受ける。
あ。この声。ポラリムだ。
良かった。無事だったんだ。それに凄く元気だ。
抱きつかれたみたいだけど、いきなり過ぎてそのままベッドに倒れる。
うぐっ…全身に痛みが…。
『儀童!。良かった!。良かったよおおおおおぉぉぉぉぉ…。』
『ポラリム…無事で良かった。』
『うん。儀童も!。うわあああああぁぁぁぁぁん…。』
倒れる僕の胸に顔を押し付けて泣くポラリム。
はぁ…。僕たち。生き残ったんだ。
安心と安堵で涙が出てくる。
『うん。頑張った。えらい。えらい。』
『うっ…うん。うわあああああぁぁぁぁぁ…。』
白いお姉さんが僕とポラリムの頭を撫でてくれる。
その優しい手つきから敵じゃないことが伝わってきて僕は声を出して泣いた。
ポラリムと二人で。互いの無事を確認するように抱きしめ合って泣いたんだ。
そんな僕とポラリムを一緒に包むように抱きしめてくれたお姉さんは、僕等が泣き止むまでずっと撫で続けてくれたんだ。
『二人とも元気そう。今、皆。呼んでくる。』
そう言ったお姉さんが立ち上がった瞬間。
着物のような服がパサリと落ちた。
帯が緩かったのか、お姉さんの真っ白な全身が僕の目の前に現れたんだ。
何て表現すれば良いのか分からないけど…初めて見た女の人の裸は凄く綺麗で自然と視線が向かう白くて大きなお山の中に桃色の…。
『あ。落ちた。』
『見ちゃだめえええええぇぇぇぇぇ!。儀童!。』
『おぶっふ!?。』
僕の顔面にのし掛かるポラリム。
一瞬で視界は真っ暗に、そして首が変な音を立てて嫌な方向に曲がった。
そのまま僕の意識は途切れたのだった。
『うっ…。ポラリム…。』
『あっ!。良かった!。儀童!。心配したんだよ!。急に気を失っちゃうんだもん!。』
『僕。どうしたんだっけ?。』
『何言ってるの?。疲れが残っちゃってんだよ?。だから、急に倒れちゃったの!。』
『そうだっけ?。何か凄く綺麗なモノを見たような?。』
『ぐっ…いい。儀童。』
『え?。何?。』
『儀童は何も見てないの。良い?。何にも見てない。儀童が見て良いのは私だけ。はい。復唱して。』
『え?。流石に無理だよ。『復唱して。』あっ、はい。僕が見て良いのはポラリムだけ。けど、ポラリムの何を見れば良いの?。』
『っ!。もう!。儀童のエッチ!。けど、良く言えました。もう。余所見しちゃ駄目だよ。』
『え?。あ、う、うん?。』
何が何だか?。
何か記憶がグルグルしてる?。
『あっ!。やっぱり、儀童ちゃんだぁ~。』
『え!?。あ…機美お姉ちゃん?。』
部屋に飛び込んできた別の女の人。
けど、その顔には見覚えがあった。
この世界に来る前に最後に戦ったお姉ちゃん。
まさかこんな場所で再会できるなんて夢にも思ってなかった。
『儀童ちゃあああああぁぁぁぁぁん!。無事で良かったねえええええぇぇぇぇぇ!。』
『わぷっ!?。』
今度は機美お姉ちゃんに抱きつかれた。
柔らかい感触に包まれて…それに安心するいい匂いがした。
少しお母さんを思い出した。
もう…いない。お母さんとお父さん。
姉貴も…何処か分からないし…。
『機美お姉ちゃん…。』
『うん!。ポラリムちゃんから聞いたよ。彼女をずっと守ってあげたんだよね。凄いよ。良く頑張ったね。』
『うん…。う…わあああああぁぁぁぁぁん…。』
色んな感情が溢れてきて、また僕は泣いてしまった。
そんな僕を機美お姉ちゃんは温かく包み込んでくれたんだ。
本当にお母さんみたいだ。
『氷姫ちゃんに聞いた時にもしかしたらって思ってたんだ。良かったぁ。また会えたね!。』
『うん。機美お姉ちゃん。あの時は…ごめんなさい。』
『何言ってるの!。貴方は全然悪くないよ。悪いのは貴方を操ったあの女。貴方は犠牲になっちゃっただけなんだから。』
『うん…けど、夢伽の姉貴とも離れ離れになっちゃって…。』
『そうだね。夢伽ちゃんも心配だけど。今は貴方が無事で本当に良かった。ふふ。智鳴ちゃんも聞いたら喜ぶよ。』
『智鳴お姉ちゃんもいるの?。』
『智ぃちゃん。いないよ。私も探してる。』
『あっ…さっきの…。』
さっきのことを思い出すと自然と顔が熱くなった。
あんなに綺麗な…。
『儀童?。』
『っ!?。な、何でもないよ。ポラリム。』
うぅ…何かさっきからポラリムが怖いよぉ。
けど、白いお姉ちゃんの着てる着物がまた落ちちゃいそうになってるよぉ。
うぅ…どうしても見ちゃうよぉ…。
『こら。氷姫ちゃん。駄目ですよ。儀童君は男の子なんですから、そんなはしたない姿で出歩いちゃ!。』
『うぅ…けど、暑いし…。』
『最低限しか着てないじゃないですか!。下着だって着けてないでしょう?。』
別の青い髪のお姉ちゃんが部屋に入ってくる。
白いお姉ちゃんの服をテキパキと整えてる。
白いお姉ちゃんはされるがまま。抵抗もなく衣服を整えられてる。
『えっと、儀童ちゃん。動ける?。』
『う、うん。大丈夫だよ。』
『なら、ちょっと移動しようか。少しお話して欲しいの。貴方たちが今まで何をしていたのか。何故、彼処で倒れていたのか。』
機美お姉ちゃんが真剣な表情で僕とポラリムを見る。
ポラリムは僕の腕に抱きついている。
『うん。教えるよ。』
移動した僕とポラリムは大きなテーブルに備えられた椅子に座った。
僕の横にポラリム。
何故か僕と同じ椅子に座って抱きついたまま。
その視線は白いお姉ちゃんに向けられてて…警戒してるの?。
何で?。えっと…けど、ポラリムがくっついてくれるのはちょっと狭いけど正直、嬉しいかも。
それで、対面になるように座る機美お姉ちゃんと白いお姉ちゃん。そして、もう一人のお姉ちゃん。
『自己紹介がまだだったね。まずは改めて私から。私は機美だよ。一応ここではリーダーかな?。ははは。あんまり役に立ってないけどね。』
『私は水鏡と申します。宜しくね。儀童君。ポラリムちゃん。』
『私。氷姫。歓迎する。』
機美お姉ちゃん。
氷姫お姉ちゃん。
水鏡お姉ちゃん。
うん。覚えた。
『あ、ありがとう…。』
『ど、どうも…です。』
水鏡お姉ちゃんが飲み物を用意してくれた。
そういえば喉がカラカラだった。
僕もポラリムも一気に飲み干した。
その様子を見て微笑む水鏡お姉ちゃんはおかわりを用意してくれた。
はぁ…何か緊張する。同時に安心もする。
けど、クロノ・フィリアの人たちだもんね。
ポラリムを守れるくらい強い筈…。
青国の人たちが攻めてきても今までみたいに逃げ回らないでも大丈夫な筈だよね。
『それじゃあ、儀童君。教えてくれる?。』
『う、うん。えっと…。』
どこから話して良いのか分からなくて、この世界で目覚めてからの出来事を最初から話すことにした。
目覚めて、ポラリムに出会い。
青国がポラリムを犠牲にしようとしていることを知ってポラリムを守るために行動したこと。
紗恩お姉ちゃんと一緒に隠れ家を作って。
エーテルの中に突き落とされて全身に酷い火傷を負ったポラリムを担いで逃げて、そこで響お姉ちゃんに助けてもらったこと。
けど、響お姉ちゃんはその戦いで僕たちを守るために死んじゃったこと。
逃げ場を求めて雪山に入ったけど吹雪で遭難。
そこに追い討ちで青国の刺客に襲われて紗恩お姉ちゃんが僕とポラリムを崖の下に突き落として助けてくれたこと。
全部を話した。
『そう…響ちゃんが。』
『その響ちゃんと戦った人って誰なの?。』
『分かんない。黒いフードの男だった。』
『そう…。』
『響が…その男。許さない。』
『落ち着いて下さい。氷姫ちゃん。響ちゃんを倒せる敵がいる。それこそ迂闊に動くのは危険です。』
『むぅ。』
お姉ちゃんたちにとっても響お姉ちゃんは大切な存在なんだ。
『紗恩さんというお名前。聞いたことあるね。』
『うん。ゲームの時しか会ってないけど。青国の幹部だったよね。』
『ほぉ。紗恩が君たちを救ったのか。あの娘は根は誰よりも優しかったからな。』
『え?。』
部屋の奥から突然聞こえた男の人の声に振り返る。
何故か僕たちのいる部屋と遮るように垂れ下げられた白いカーテン。
その布が水鏡お姉ちゃんの手で開けられた。
『だ、誰?。ん?。』
あれ?。この人たち知ってる?。
カーテンの奥にはもう一つの部屋。
ベッドが二つ。その一つに包帯グルグル巻きで横たわる男の人と、窓際に座りナイフを磨いている黒いコートの男の人がいた。
『ああ。紹介しますね。ベッドに横になっている包帯の方が青嵐さん。私たちの世界でギルド【青法詩典】のギルドマスターだった方です。』
『あ...そうだ。赤皇さんに聞いたことあるよ。』
『それと、ナイフを磨きながら嫌らしい笑みを浮かべているのが【紫雲影蛇】のメンバーだった雨黒さんです。』
そうだ。ナイフのお兄ちゃんはお姉ちゃんたちと戦った時に一回だけ会ったことある人だ。
青嵐お兄ちゃん。
雨黒お兄ちゃん。
『あの…どうして、青嵐さんは怪我をしているのですか?。』
ポラリムがおずおずと手を上げて質問する。
確かに、全身包帯で巻かれてる。
如何にも重傷といった感じだよね。
『ふっ…この男は無謀にも単独でこの国の王、リスティナに挑んだのだ。そして、無惨に散った。』
『どういうことですか!?。』
『無謀ではない!。あのリスティナ様の皮を被った偽者が許せなかったのだ。あの憎き存在を…リスティナ様を汚した愚か者を私は必ず殺してやる!。うっ…。』
大怪我なのに立ち上がって力強く力説した青嵐お兄ちゃんは、限界が来たのかそのままベッドに舞い戻った。
立ってもいられないくらいに重傷なのに。
『あのリスティナ様は偽者なの?。』
『だそうだぞ。このリスティナ信者が言うのだからな。間違いないだろう。』
『じゃあ、青国の人たちは皆…騙されてるってことなの?。』
『この世界におけるリスティナの存在は絶対だ。何せこの星を創造した神だ。その姿と声、能力、青国にて起こしてきた奇跡を目の当たりにすれば民の心を掴むのは容易いだろう。故にリスティナと言われれば疑う余地はない。』
『けど、私たちも実際に目にしたことないから今のところ分からないんだよね。』
『確信持ってるの。青嵐だけ。』
『間違いないと言っているだろう?。あれはリスティナ様ではない。リスティナ様の名を騙り民を洗脳し青国を支配している外道だ。』
『しかし、単独での特攻は無謀にも程があるだろう。』
『勝機も秘策もあった。私の神具が発動すればそれで終わりだ。』
『だ。そうだ。コイツのことは放っておいて構わない。話を続けてくれ。』
『くっ…。今は休息が必要か…。』
リスティナ様が偽者。
じゃあ、ポラリムを狙った目的は本当に実験に利用する為だけだったのかな?。
『ははは。まぁ、儀童君とポラリムちゃんは私たちが守るよ。これからは一緒に行動しようよ。』
『良いの?。』
『うん。…響ちゃんが命をかけて守ってくれた子たちだもん。私たちは君たちを守る義務があるよ。』
『ここにいて良いからね。』
『あ、ありがとう。お姉ちゃん。ポラリム。良かったね。』
『うん…けど、紗恩お姉ちゃんが…。』
『っ!。』
ポラリムは紗恩お姉ちゃんのことを心配してる。
響お姉ちゃんと違って紗恩お姉ちゃんはまだやられてない可能性があるんだ。
『お姉ちゃんたち。お願い!。紗恩お姉ちゃんを助けて!。』
『その必要はありません。』
僕の言葉に答えたのはお姉ちゃんたちとは全く別の方向から。
正確には外へと続く扉が静かに開いたことで入ってきた人が答えたんだ。
小さな女の子。
忍者みたいな格好の小柄な。
そして、その女の子の背中には…。
『『紗恩お姉ちゃん!。』』
傷を負い気を失っている紗恩お姉ちゃんが背負われていた。
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