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第368話 睦美と…。

『旦那様。此方です。』


 夕方。陽が沈みかけ赤く染まった光が道行く俺たちの影を伸ばす。

 「ん。」、しか言わなくなった状態から回復した睦美に引かれて歩いていく。

 兎針や奏他と交流を深める女子会?から戻ってきた睦美は普段の態度に戻っていた。

 変に遠すぎず、けど近すぎずの距離での対応。

 一歩下がったところで尽くしてくれるいつもの睦美だった。

 けど、まぁ、まだ本調子じゃないらしい。

 前なら道案内も俺の少し前をゆっくりとした動作で案内してくれていたのだが、今は違う。

 前を歩きながらも、その手は俺の手の裾を握ったまま。離そうとしない。

 この事からも、もっと睦美と一緒にいないといけないと心に誓う。

 沢山寂しい思いをさせてしまったからな…。


『………睦美。』


 俺は裾を掴む睦美の手を取り握る。

 指を絡めた恋人繋ぎに。


『っ!?。……………。んふふ…。』


 驚いた反応の後、此方に視線だけを向けて笑う睦美が手を握り返してくる。

 温かい。

 俺の腕の中で冷たくなっていた睦美を思い出してしまう。

 自分の無力さ。あの時の睦美を救えなかった後悔は今も変わらない。

 けど、この世界で。再会できたんだ。

 今度こそ、俺は睦美を守り抜く。仲間も、皆も、全部だ。


『睦美。』

『はい。』

『好きだよ。』

『………はい。私もです。ずっと。ずっと。』


 言葉はそれだけ。

 後は互いの温もりを感じながら睦美の家に案内されていく。


『到着です。』


 赤国の中心から少し離れた場所。

 平屋に近い建物が並んでいる。

 そこには戦いから生き残ったであろう赤国の住人たちが暮らしていた。

 急ごしらえなのか、建物自体が造られたばかりのようで、少ない木材はまずここを造るのに使われたことが分かる。

 なんとか住める。そんな感じの雨風を防げる程度の平屋が各々の家族分所狭しと並んでいるんだ。

 これはまだまだ復旧には厳しいかな。


 並ぶ平屋を抜けると少し広くなった場所に出た。そこは資材置き場のようで、様々な物が置いてある。

 更に横に隣接する川に沿って歩き、今度は大きな湖、そして、そこから下に落ちる滝。

 

『旦那様。ここから下へ降ります。飛べますか?。』


 炎の翼を広げる睦美。

 そして、俺の方に両手を突き出し如何にも「来て下さい。」のポーズをする。


『大丈夫だ。俺も飛べるよ。』


 トゥリシエラの翼を広げた。


『ん~。むぅ~。ん~。』


 ぽかぽかと不満そうに俺の胸を叩く睦美。

 どうやら、飛べない俺を抱きしめて飛びたかったようだ。

 こう接触していると睦美の感情が直に流れてくるのを感じる。


『じゃあ、こうだ。』

『きゃっ!?。ん!。』


 睦美身体を抱きしめて飛び上がる。

 夕陽も大分沈み、夜空が空を支配しようとしていた。

 星の輝きが徐々に覆っている。

 突然抱きしめられたことに驚きの声を上げた睦美だったが、はしたないと思ったのだろう、急いで口を両手で押さえた。

 変わらないなぁ。睦美は。

 記憶の中の睦美と今の睦美の行動が重なり懐かしさと愛おしさが同時に心を満たしていく。


『睦美。寒くないか?。』

『はい。とても温かいです。旦那様。』


 睦美を抱きしめたまま空中で停滞。

 赤国全体を見渡せるくらいの高度だ。

 当然、気温も低くなっているのだが、睦美は俺の腕の中で満足気に顔を埋めている。


『さて、何処に降りれば良いんだ?。』

『はい。滝の裏側に。このまま飛んで行けますので。』


 睦美の案内で到着したのは本当に滝の裏側。

 崖をくり貫いた中に造られた場所に家が二つ。

 これ、空飛べないと来れないな…。


『不死鳥はこの世界でも珍しい種族でして、特に赤国の王の愛鈴さんと同じ種族というだけで住人から神聖視されてしまい。まともな生活がままならず…。』

『仕方なくこの場所を造ったのか?。』

『はい。この場所でしたら敵から見つかりにくいですし、すぐに皆さんの所に駆け付けることも出来るので不便ではありません。』


 灯りの点いた方の家を指差す睦美に従いドアの前に降り立つ。


『旦那様。少々、御待ち頂けますか?。』

『ああ、良いよ。』


 一礼し、家の中に入っていく睦美。

 暫くすると…。


『お待たせしました。どうぞ。』


 睦美に通された家の中は木製の綺麗な内装。

 レンガで作った暖炉。複数のランタンが部屋を照らし、大きなテーブルと椅子が中央に設置されていた。

 そして、睦美以外の五人の男女。


『父様。母様。伯父様。伯母様。フェリティス。この方が私の旦那様です。』


 睦美が全員に俺を紹介してくれた。


『初めまして。閃です。睦美の恋人です。宜しくお願いします。』

『あら、これはご丁寧に。私は睦美ちゃんの母のフェリスです。ふふ。貴方のことは睦美ちゃんから窺っています。閃さん。宜しくね。』

『僕はフェリスの夫で睦美ちゃんの父のフェネスです。話には聞いていたけど、凄いね。何て言うか…存在感が…。』


 最高神になってしまった影響か、普段から垂れ流しになっているエーテルがこの世界の普通の住人にとって驚異的な存在感として感じるんだろう。

 特にエーテルを扱えない者たちからすれば自分の存在を脅かせる圧倒的な存在だ。恐怖とまではいかないが本能的に緊張してしまうんだろうな。

 一応、抑えてはいるつもりなんだが、完全にエーテルを抑え込むのは疲れてしまう。


『それにしても格好いいわね。睦美ちゃんの旦那様は。ふふ。イケメンじゃない!。』

『こらこら。フェリナ。止めなさい。閃君が困ってしまうよ。初めまして閃君。妻のフェリナと夫のフェリオです。』


 フェリスさんの姉がフェリナさん。

 その旦那さんのフェリオさんか。

 そして…。


『旦那様。この子がお話しした。私の弟のフェリティスです。』


 フェリナさんの後ろに隠れ俺を覗いていた男の子と目が合う。

 その瞬間、ビクッと身体を跳ねさせ頭を引っ込めた。


『こら。フェリティス。どうして隠れるの?。ごめんなさい。この子、人見知りなのよ。』

『はい。私の時もそうでした。フェリティス。旦那様に御挨拶なさい。』

『う…。』


 睦美に言われおずおずと顔を出す。

 そして、フェリナさんから睦美の後ろに移動して俺を見る。

 ふむ。


『フェリティス。初めまして。閃だ。』


 睦美の後ろに隠れるフェリティスに近づきしゃがむ。自然と視線を合わせた。


『睦美から聞いてるぜ。睦美を助けてくれたんだってな。ありがとうな。』


 警戒されていることは分かっているが、フェリティスの頭を優しく撫でる。


『お、お兄ちゃんは…お姉ちゃんが好きなの?。』

『ん?。』

『フェリティス!?。いったい何を!?。』

『お姉ちゃん…お兄ちゃんの前だと普段と全然違うの。喋り方も。態度も。』

『うぅ…そ、それは…。そのぉ…旦那様ですし…。』


 どうやら今の睦美の態度は皆の前であまり出してはいないようだな。

 それに…ふふ。随分と好かれてるようだ。

 睦美を見ると顔を赤らめて俯いている。


『フェリティス。質問の答えだ。俺は睦美のことが大好きだ。愛している。』

『あぅ…。』

『この世界で…そうだな。俺にとってかけがえのない特別な女性だよ。』

『旦那様…。』

『…結婚するの?。』


 結婚!?。てか、こんな子供に睦美は普段どんな会話をしているんだ!?。

 睦美を見るとさっきより赤面。耳まで真っ赤になり、俯いたまま視線は俺へと向けられている。期待と不安。そんな感情が俺に流れてきている。


『ああ。俺は睦美を手離さない。この世界が平和になったら睦美と結婚する。だから。』


 フェリティスの頭を再び撫でる。


『睦美は例えフェリティスであっても譲らない。睦美は俺の大切な存在だからな。』

『ぅ…うう…。』


 その言葉に涙を浮かべるフェリティス。

 それだけ睦美のことが好きなんだろうな。


『フェリティス。今はまだお前は子供だ。』

『…ぅん…うん…。』

『今は色んなことをやれ。どんなことでも良い。ああ。勿論、危険なことは駄目だぞ。色んなことに挑戦して学べ、誰かの真似でも良い、沢山学んで成長するんだ。そうすりゃあ。』


 フェリティスの肩を軽く叩く。


『良い男になれる。』

『なって…どうするの?。』

『色んなことに挑戦するってことは、色んな人に出会えるってことだ。悪いヤツも良いヤツにもな。人との出会いは自分を成長させる切っ掛けだ。そして、そんな出会いの中で見つけるんだ。自分にとって大切な人…自分の全てを捧げたいと心から思える、そんな存在をな。』

『……………お姉ちゃんも同じこと言ってた。』

『そうか…。さて、俺も頑張るか。』

『?。』

『フェリティスに認められるようにな。一緒に成長しようぜ。な!。弟!。』

『弟?。僕の?。………お兄ちゃん?。』

『ああ。睦美の弟なんだろ?。なら俺にとっても弟だ。兄弟になろうぜ。』

『お兄ちゃん……僕の…。うん!。』


 フェリティスが睦美から離れ俺に抱きついてくる。

 本当に弟みたいだな。


『これから宜しくな。フェリティス。』

『うん。えへへ。お兄ちゃん。いっぱい遊ぼうね。』

『ああ。勿論だ。』


 その後、夕食を頂く。

 久し振りの睦美の料理が胃に染み渡る。

 これだよな。既に前世で胃袋を掴まれてる俺にとってはこの世界の何よりも懐かしく美味い料理だ。


『えへへ。美味しい~。』

『ふふ。フェリティス。慌てずにお食べ。』

『うん!。美味しいね。お兄ちゃん!。』

『ああ!。美味すぎる!。いくらでも食べられるな!。』

『ふふ。』


 睦美。フェリティス。俺の順番で並んで食べる。

 向かい側にはフェリス、フェネス夫婦とフェリオとフェリナ夫婦が俺たちの様子を笑いながら食事を楽しんでいた。


『やだぁ~!。お兄ちゃんとお姉ちゃんと入るのぉ~!。』


 食事の後、女性陣が片付けをし終え風呂に入る話になったことでフェリティスの叫び声が部屋中に響いた。

 どうやら、俺たちと一緒に入りたいらしい。

 聞いた話、ここの風呂は露天風呂なんだと。

 久し振りの再会。恋人同士の俺たちに気を利かせてくれたフェリスさんたちはもう一つの家の方に移動してくれると提案してきた。

 睦美はというと恥ずかしそうに俯きながら俺の腕の裾を握ったまま小さく頷く。

 俺にとっても願ったり叶ったりな提案なんだが…フェリティスが我儘を言い始めたのだった。


『ふふ。気に入られてしまいましたね。旦那様。』

『ああ。嬉しいことだがな。』


 まぁ、睦美と二人っきりになれないのは残念だが、新しい弟と一緒に過ごすのも悪くないか。


『こぉら。フェリティス。我儘言わないの。』

『ママ…でも…お姉ちゃんとお兄ちゃんと…一緒ぉ~。』

『ふふ。大丈夫。一緒にいられるのは今日だけじゃないのよ?。それに、閃君と睦美ちゃんを二人にしてあげればフェリティスの弟か妹ができるかもしれないわよ。』

『弟!。妹!。』


 ちょっ!?。

 何を言い出すのでしょうか?。フェリナさん?。

 フェリティスがキラキラした目で俺と睦美を交互に見てるし…。


『ええ、そうね。フェリティスちゃん。ここは我慢よ!。睦美ちゃんには頑張って貰わないといけないからフェリティスちゃんがいると二人は本気になれないのよ!。』

『本気になったら、弟と妹?。』

『ええ!。沢山できるかもね!。』


 貴女もですか?。フェリスさん?。

 チラリと睦美を見ると、今日何度目か分からない赤面と涙目の上目遣いによる攻撃。

 フェネスさんは静かに目を逸らし、フェリオさんは親指を立て素敵な笑顔。


『さぁ、フェリティス。今日は私たちと寝ましょうね。』

『うん!。お姉ちゃん!。お兄ちゃん!。頑張ってね!。』


 カンコン。

 桶を置いた音が反響する。

 何だかんだで睦美と二人きりで露天風呂へ。


『旦那様。どうでしょう?。』

『ああ。ありがとう。気持ちいいよ。』


 身体にタオルを巻いた睦美が背中を洗ってくれている。

 懐かしいなぁ。この感じ。仮想世界で何度もやってくれたっけ。


『終わりました。どうぞ。此方へ。』


 湯船に浸かると、タオルを取った睦美が横に座る。

 肩と肩が触れ合う距離で互いに無言のゆっくりとした時間が流れる。


『睦美。』

『ひゃい!?。』


 可愛い悲鳴が露天風呂から見える空の闇に消えた。

 久し振りだからかな。睦美の緊張が伝わってくる。

 横を見ると綺麗な睦美の肌が輝いていた。

 恥ずかしいのか局部を隠すように身体を丸めて足を抱えているが、片腕だけは俺の腕に巻き付けている。

 顔も、耳も、真っ赤で、視線だけは忙しく泳ぎ回っていた。


『し、失礼しました。旦那様!?。わ、私、どうしちゃったのでしょう?。旦那様と再会できて嬉しいのに…以前までどの様に接していたのか分からなくなって…。ぐすっ…。』


 歓喜に幸福。戸惑い。恐怖。困惑。そして、後悔。

 睦美の心から流れてくる感情の波。

 自分の心の動きに振り回された感情が涙となって睦美の頬を伝い露天風呂のお湯の中に溶け込んでいった。

 

『睦美。お前は悪くないよ。悪いのは…あの時守れなかった俺だ。辛い思いを沢山させて最期の最期まで睦美のために何も出来なくて本当に…ごめんな。』

『それは違います!。』


 立ち上がる睦美。

 勢いよく動いたことで水飛沫が舞った。

 睦美の綺麗な裸体が目に前でキラキラと輝き思わず見惚れてしまう。


『私が…私のせいで旦那様に辛い思いをさせて…私がもっと強ければ…。アイツを倒せるくらい強かったら…。』


 真剣な睦美。

 俺は彼女の気持ちに応える。


『それは俺もだよ。俺たちが弱かった。それが俺の後悔だ。』

『私の…後悔でも…あります。』

『そうか………けど、こうして出会えた。再会出来たんだ。』


 俺も立ち上がり睦美の小さな身体を抱きしめる。


『旦那様…。』

『今度は必ず守るから。必ず幸せにするから。睦美。もう一度俺を信じてくれないか?。』

『…信じています。私は…旦那様が私を選んでくれたあの日から、一度たりとも信じなかったことはありません。あの時だって、旦那様を信じていた私を迎えに来てくれましたから。』

『睦美…本当に…こうして、生きていてくれて…俺と再会してくれて…ありがとう。』

『はい。旦那様も。お元気そうで。本当に良かったぁ。』


 重なる唇。何度も繰り返す。

 次第に激しく求め合い。身体と身体が夜が生み出す自然な明かりの中で重なっていった。

 完全に二人の世界に入った俺たちは…気付けば部屋へと移動し明け方まで互いの存在を身体に刻み合った。


『旦那様…。』

『…何だ?。』


 意識は朦朧としている。

 横には眠そうな顔の睦美。

 消え入りそうな声で俺を呼ぶ彼女に答える。


『愛しています。今までも。これからも。』

『俺もだよ。睦美。愛してる。ずっと。永遠にな。』

『はい。えへへ。幸せです。』

『これからもっと幸せにするからな。』


 睦美の頬に汗で張り付いた髪をそっとずらすと微笑む睦美。


『おやすみ。睦美。』

『おやすみなさい。旦那様。』


 最後に何度目かも忘れたキスを交わし、お互いの温もりに包まれながら夢の中へと意識を手離した。

 夢の中でも出会えるように…。

次回の投稿は7日の木曜日を予定しています。

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