第366話 自分の役割
今、緑国と赤国を結ぶ転移装置によるゲートが結ばれた。
両国にいたクロノ・フィリア同士の再会。
威神と美鳥さんの恋人同士の再会。
ゲートを潜り赤国へとやって来た光歌を迎える基汐。同時に震える紫音。
光歌の視線は後ろにいた龍華と鬼姫に鋭い視線を向けた途端、自身等との力関係を察した彼女たちは無意識に基汐の後ろへと隠れる。
その様子に全てを理解した光歌の肉食獣の眼光が基汐に向けられた瞬間、基汐の全身から大量の汗が流れ出る。
獲物を逃がさんとする虎の瞳。無言の圧力。
力関係…上下関係を一瞬で心に刻まれたようだ。
全員が震えながら、光歌の笑顔の手招きに緑国へと消えていった。
大丈夫か?。あれ?。
律夏とレルシューナ、シュルーナもいるな。
愛鈴と赤皇と握手を交わしている。
この後で互いの同盟についての会議が行われるようだ。
護衛に緑国からは涼とヴァルドレと獏豊。赤国は時雨と玖霧と知果が共に会議室へと入っていった。
両国の同盟の問題は当事者たちに任せよう。
この世界の真実は教えてあるし、世界の平和のためだ。悪い結果にはならないだろう。
他の連中は互いに交流。
俺たちは会議が終わるまで各々で時間を過ごす。
『美緑ちゃ~ん!。砂羅ちゃん!。累紅ちゃん!。元気そうで良かったぁ~!。』
『智鳴さんも、睦美さんもお元気そうで。』
『ははは。相変わらず智鳴は元気だね!。』
『ふふ。ですが、安心です。』
『ん~。』
『あらあら。睦美ちゃんはいつぞやの?。』
『珍しいですね。ああ。閃さんと再会してそうなっているのですね。』
『懐かしいね。それ。』
『ん。』
因みにまだ睦美は俺の裾を握ったままだ。
再会して半日しか経っていないからな、前は元に治るのに三日掛かったし…。
『こ、この方が裏ボス…ですか。』
『あはは…何か…思ってた感じじゃないね…。凄く小さくて可愛い…。』
『ん?。』
『あれ?。っ!。貴女は!。』
部屋のドアから顔を覗かせた兎針と奏他に対し急に智鳴が臨戦態勢に移行。
神具を取り出し周囲に炎が舞う。
『っ!。此方にいらしたのですね。私がお会いしたかった方の一人。』
『何を言って!?。貴女は夢伽ちゃんと儀童君を!。』
『智鳴。ストップ。』
二人の間に入り制止する。
『閃ちゃん?。どうして?。それにどうしてその娘と一緒にいるの!?。』
『色々あってな。少し話そう。』
『う…ん。』
『ん。』
智鳴の頭を撫でる睦美。
一触即発の雰囲気に息を呑む美緑たち。
突然の空気に奏他も驚いて言葉を失っている。
神具を消し一先ず戦闘の意思は消えたことを確認する。
『…以上がこれまでの旅の内容だ。兎針は夢伽と和解している。もう敵じゃない。兎針は何度も俺たちを助けてくれたんだ。この旅も夢伽や儀童に謝りたい一心から始めたことなんだ。』
転生してからの俺たちの流れは以前に話した。
今回は個人個人の目的や同行の理由について詳しく掘り下げ説明した。
『そうなんだ…じゃあ、夢伽ちゃんも一緒に旅をしていたんだね。それに…あの事も許してあげたんだ。うん。じゃあ、私がとやかく言うことじゃないね。』
仮想世界で兎針は夢伽と儀童を殺した。
二人のために智鳴は兎針を倒し仇を討ったのだった。
『兎針ちゃん。早とちりしちゃってごめんね。それと、これからは私たちの仲間なんでしょ?。宜しくね。』
『はい。宜しくお願いします。智鳴さん。色々とご迷惑を御掛けして申し訳ありません。』
『いいよ!。いいよ!。えへへ。本当はいい人で良かったぁ~。』
二人の間の溝も消え一件落着。
『じゃあ、奏他も自己紹介な。』
『う、うん。奏他です。多分知ってると思うけど元白聖の幹部です。』
『うん。知ってるよ。宜しくね。奏他ちゃん!。』
『ん。』
互いに自己紹介も終えた。
『睦美ちゃん。智鳴さん。ちょっと、お耳を。』
『え?。何々?。』
『ん?。』
美緑が二人に耳打ちする。
声が小さくて聞き取れないが、智鳴の視線が兎針と奏他に向き、その後、俺に向いた。
驚いた顔。嬉しそうな顔。納得したような顔に変化した智鳴は睦美に耳打ちし立ち上がる。
『えっ!?。そうなの?。』
『ん!?。』
『じゃあ、ちょっとしようか。閃ちゃん。閃ちゃん。ちょっと女の子同士でお話したいから時間もらえる?。』
そんなことを言われたのが数時間前。
そして、今に至り。現在…。
『さて、俺は俺のやるべきことをしようかねぇ。』
俺は一人で赤国の外れにある砂漠地帯へやって来ていた。
ここなら多少暴れても他に被害が出ないだろう。
愛鈴からの情報で彼女がこの国にいることは理解している。
なら、俺がやることは一つだ。
『さぁ、出てこいよ。マズカセイカーラ。』
彼女へ向けた意思をエーテルに乗せ放出する。
『ん?。誰だ?。俺を呼ぶのは?。』
惑星環境再現で創造した仮想世界の中に閉じ籠っていたマズカセイカーラが反応を示しその姿を出現させる。
真っ赤な髪を靡かせた少女。
彼女の周囲は温度が高いのか空気が歪んで見える。
空間に穴を開け、随分と眠たそうに俺に視線を向けた。
ふむ。纏うエーテルはジュゼレニアやチィと同じくらいか。
絶対神との制約で力が制御されているとはいえこの世界に住む生物より明らかに上位の存在感を放っている。神眷者と同じくらいか。
焼き尽くすような圧倒的な熱量が肌を焦がす。。
『ちっ...良い感じに寝てたんだがなぁ?。俺の眠りを妨げて無事で済むと思うなよ?。』
『それはすまなかったな。俺の用事が済んだ後でゆっくり寝てくれ。』
『あん?。随分と余裕じゃねぇか?。惑星の神である俺の前に立っておいて物怖じしねぇとは…ん?。お前…誰だよ?。このエーテル…滅茶苦茶混じりもんじゃねぇか?。母ちゃんの気配まで漂わせて?。』
『俺は閃だ。リスティナの息子で一応通ってる。お前の母ちゃんの気配を感じるのは神合化したからだ。』
『は?。リスティナの?。しかも母ちゃんと神合化だと?。いや、待て、何か聞いた覚えがあるな。………ちっ。忘れた。めんどくせぇな。で?。そのリスティナの息子が俺に何の用だ?。』
『ちょっと話を、な。何個か聞きてぇことがあるんだ。』
『へぇ…俺にねぇ。』
ニヤリと笑うマズカセイカーラ。
やっぱ、聞いてた通りの性格みたいだな。
戦闘は避けられそうにないか…。
『何を聞きてぇのかは知らねぇが、ただで教えてやる義理はねぇな。』
纏う炎の火力が急激に上昇する。
『見たとこお前結構強いだろ?。俺を倒せたら色々と教えてやるよ。』
『やっぱそうなる?。』
単細胞。戦闘狂。男勝り。馬鹿。単純。強引。攻撃的。
アリプキニアとチィから聞いたマズカセイカーラの性格だ。
まんまじゃんか!?。もう少し捻れよ!。
『行くぜぇ!。』
『ぐっ!。』
こっちの意思は関係無しに殴りかかって来やがった。
炎を纏った拳が頬を掠める。
頬から噴き出た血はトゥリシエラの再生の炎で瞬時に治癒される。
『は?。再生する?。』
『不死鳥か?。てめぇは!。』
炎には炎。
トゥリシエラの炎をマズカセイカーラと同様に身体に纏い攻撃力を向上させる。
『らっ!。』
振り抜く拳が空気を焦がす。
高温の身体が動く度に空気が歪みマズカセイカーラとの距離感が掴みづらい。
何とかエーテルの動きを読み拳を強引にいなして方向を変える。
突き出された拳はそのまま直線上に熱のエネルギーを放ち周囲を焼き払う。
つまり、マズカセイカーラが攻撃する度に周囲が火の海になっていくってことだ。
『おらっ!。てめぇ!。何で攻撃してこねぇ!。俺を舐めてんのか!?。ああん?。』
『こっちは実力の差さへ分かって貰えれば良いからな。お前の攻撃が一切俺に通用しなければ諦めてくれるだろう?。』
『はぁん?。ムカつく野郎だな!。はぁ…良いぜ!。やれるもんならやってみやがれ!。プラネリント!。』
『っ!?。』
周囲の環境が書き換えられる。
空間が仮想世界に侵食されマズカセイカーラの本来の姿が反映される。
『暑い…。』
真っ赤な空。真っ赤な大地。真っ赤なマグマ。真っ赤な溶岩。真っ赤な岩。真っ赤な石。
赤…赤…赤…赤…赤。何処を見渡しても赤い。
何かが溶けた蒸気が空気中を上昇し蜃気楼のように歪む視界。
生物が決して誕生することのないであろう死の世界が目の前に広がっていた。
『ははは!。どうよ!。これが俺の世界だ!。所詮は生命が生み出すてめぇのチンケな炎とは桁が違う星の生み出す炎だ!。』
宙に浮かぶマズカセイカーラ。
手を掲げると手のひらに星全体からのエーテルが集まっていく。
不味くないか?。これ?。
『これを受けてもまだ生きていられたら何でも言うこと聞いてやるぜ!。生きてたらな!。』
集められたエーテルは巨大な…数百メートルはあろう炎の球体となって形を与えられた。
クミシャルナ。
あれ、防げそうか?。
難しいですね。
ご主人様のお力で強化したとしても防げるのは一度きり。しかも、完全に防ぎ切れるかは分かりません。
『消えちまえ!。リスティナの息子!。』
迫る火球。
『ちっ。迷ってる時間はないってか?。クミシャルナ!。』
はい!。
『【地龍・鱗盾】!。』
鱗の盾を前面に展開。
全エーテルを注ぎ強度を高める。
だが、火球の威力に次々と花弁を散らす華のように盾が溶解、破壊されていく。
ご主人様。ウチの力も!。
『ああ!。【炎鳥・再炎】!。』
トゥリシエラの再生の炎で盾を再生。
燃え盛る炎の中で破壊と再生を繰り返しながら俺はその中を突き進む。
『抜けたぜ!。』
あれだけのデカイ火球を防ぎきることは出来ない。
ならダメージを覚悟でその威力を最小限に抑えて突っ込む。
殆どの盾は消し去られちまったが、マズカセイカーラの頭上を取ることに成功する。
このまま、一気に距離を詰め神技で倒す。
『っ!?。』
だが、その考えは甘かった。
マズカセイカーラの身体の周りに展開された炎の輪。その中心に燃える小さな火球。
あれは、エーテルで模した疑似惑星。
聞いていた通りならあれが惑星の神の神具か!?。
『ああ!。そうするしかねぇよな!。ははは!。ならこれならどうよ!。その体勢じゃ避けられねぇだろ!。』
『やべぇ…。』
小さな手のひらサイズの火球。
だが、その火球を形成するエーテルの量、密度は今のデカイ火球の数倍…最悪なのは既に発射準備ができ…いや、発射しやがった!?。
一直線に走る圧縮された熱エネルギー。
輝きと共に放たれた光線が自己加速した視界の中で反応速度よりも速く近付いてくる。
体勢が悪い。死にはしないがあれだけのエーテルの攻撃だ再生に時間が掛かるだろう。
しかも的確に心臓…核を狙ってきやがった。
おまけに…連射も可能なようだし…。
『死ねえええええぇぇぇぇぇ!。』
『ぐっ!。』
当たる…。
主様!。私の力を!。
『っ!。』
突如身体の中に出現した新たなエーテルの感覚と声。
いや、 新たな じゃない。
知っている。本来なら俺の中にあるべき力が今、再び戻ったのだ。
五行守護神獣最後の一体が…。
『月涙!。【水天・水盾】!。』
瞬時に形成された水の盾。
光線との衝突により発生した水蒸気に周囲が包まれた。
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