第365話 これからに向かって
転移装置を起動し赤国へとやってきた俺は、そこで智鳴と睦美と再会した。
俺のエーテルに最初は混乱を招いたようだが、赤皇たち、かつての仲間が赤国のメンバーに俺を紹介してくれたお陰で仲間として認められた。
その場には今までに見た顔もちらほらあるが、智鳴の補足説明もあり仮想世界での記憶を失くして転生した柘榴たちについても理解できた。
元々、ある程度基汐に聞いていた情報と照らし合わせ赤国の現状を正確に把握していく。
戦いの後の復旧作業に追われる毎日。
資源不足、人員不足によって国としての形を保てていないと…現在は、全員をフル稼働させギリギリのところで踏ん張っているという感じだ。
『成程な。』
『ああ。出来れば旦那の力を借りたい。』
『それは問題ねぇよ。智鳴も睦美も世話になってるんだ。その礼もしたいしな。』
『えへへ。閃ちゃ~ん。』
『ん。』
右に智鳴。
俺の腕に抱きついてニコニコだ。
頭を撫でてやると耳と尻尾が異常な速度で左右に動く。
最初の説明補足以外完全に丸投げしやがった。
そして、左の睦美はというと。
俺の横にピッタリとくっついて服の裾を握ったまま『ん。』しか言わなくなっちまった。
懐かしいなこの感じ。
睦美のことだ。態度には出さないが内心いっぱいいっぱいだったんだろうな。
『それにしても旦那は見違えたな。そのエーテル。圧倒的じゃねぇか?。前世ん時以上にえらい存在感だぜ?。』
『まぁ、色々とあったからな。赤国にゼディナハが来てたことも知ってる。絶刀相手に良く皆生き残れたよ。』
『ボロボロだったがな。あれは反則だわ…。』
愛鈴の頭を撫でる赤皇。
それを受け入れる愛鈴。
その様子を見るだけでも二人に深い絆があることが分かる。
赤皇は王である愛鈴を支える存在なんだろう。
俺たちは会議室のような部屋へと移動した。
光歌に言われた通り転移装置は停止している。
大きな円形のテーブルを中心に座る俺たち。
最も奥に愛鈴と赤皇、その横に玖霧と知果が座る。
他の赤国のメンバーは後ろに用意された並んでいる椅子に座った。
俺から見て左側には基汐が。
胸のポケットの中は紫音の定位置なんだな…。
そんで両手に花。確か龍華と鬼姫だったっけ?。
基汐の顔が引き吊ってるし、女の子を無下に出来ない心理と、光歌を怒らせるであろう未来への恐怖と罪悪感が葛藤しているんだろうなぁ。
平手打ちじゃ済まないかもなぁ…。
そんで右側に時雨と威神。
他のメンバーは後ろで待機だ。
『あ、あの…。』
赤皇の横にいる少女。愛鈴。
歳は瀬愛くらいか。赤皇との様子を眺めていたが良好な関係のようだ。
『何だ?。』
『改めまして、赤国を任されている愛鈴と申します。観測神様。宜しくお願い致します。』
深々と頭を下げる愛鈴。
そうだ。この娘が赤国の王なんだ。
こんな小さな娘が…基汐に教えて貰った時には信じられなかったが実際に目にすると…。
『閃で良いよ。此方こそ、宜しくお願いします。それと頭を上げてくれ。』
『はい…。そ、その…私からもお願いしたく…差し出がましい願いとは重々承知しているのですが…赤国をお救い下さい。現状のままでは再び他国から攻められた場合、我々の力だけでは対応できない状況なのです。』
『ああ。さっきも言ったが勿論だ。後で一通り国の中を見て回っても良いか?。』
『はい。それは勿論です。護衛と案内役を用意致します。』
『そうだな…いや、出来ればこの国の頭…赤皇と愛鈴に頼みたい。忙しいと思うがお願い出来ないか?。』
『いえ、赤皇の仲間である貴方様の申し出なら問題ありません。』
『そうか。助かる。ああ…智鳴と睦美の同行もお願いしたい。』
愛鈴の視線が睦美と智鳴に向けられる。
『はい。お二人との時間も大切に。』
『ああ。ありがとう。』
俺たちの心境を察してくれたようだ。
まぁ、睦美の普段とは違うこんな姿を見せられたんだ。戸惑うよなぁ。
『さて、ここからが本題だ。』
空気を変え俺がここに来た目的を話し始める。
世界の真実。
これから俺たちに起こること。
本当の敵。
そして、俺自身が思い描く対処法。
『……………。』
『それは…本当なのか?。』
『ああ。信じられないだろうが、真実だ。』
全員が言葉を失う。
このままでは世界が滅びること。
そして、新たな世界が一から構築されること。
自分たちの死が目前まで迫っていることを知ったんだ取り乱すのは当然だ。
理解できない者もいるだろう。
周囲からの戸惑いを強く感じる。
『旦那…俺等はどうすれば良い?。』
『正直な話。話が大き過ぎて混乱しています。閃さん。』
『う、うん…どうすれば良いのかな?。』
玖霧と赤皇、知果が率直な質問を投げ掛けてきた。
『国同士の協力。各国の戦力の増強とスムーズな連携が必要不可欠だ。そこで、愛鈴たちに提案だ。』
『はい。何でしょうか?。』
『緑国は今現在、前王と女王を倒したことで、俺たちに理解のある奴等と俺の仲間たちが国を動かしている現状だ。』
『もしかして、その仲間って緑ぃのか?。』
『ああ。美緑だ。それに砂羅や累紅、涼たちもいる。そして、今の王は美緑の兄の律夏だ。』
『律夏…ああ。アイツか。緑ぃのの兄だったな。確かにアイツは強かったなぁ。』
『律夏の下にはかつての緑龍の仲間たちが集っている。しかも、全員が前世の記憶を取り戻して。その上で俺たちに協力してくれているんだ。』
『ほぉ。ん…前世の緑…端骨のクソも居んのか?。』
その赤皇の質問に睦美の身体がピクリと反応する。
前世、仮想世界で自分を殺した奴だ。
トラウマになってんだろうなぁ。
俺は睦美の身体を引き寄せその顔を胸に押し当て背中を擦る。
『いや、アイツは仮想世界で俺の絶刀によって命…存在を絶った。奴は完全に殺したんだ。転生していない。』
睦美の頭を撫でながらそう答える。
『つくづくバケモンみたいな性能だな。絶刀ってのは。』
『だが、もうゼディナハには効かない。』
『絶刀を吸収して耐性を得た火車の野郎を吸収したんだったな。あの馬鹿野郎は最後の最後までクズだったってことか。ゼディナハの野郎に利用された最期だったって訳だ。』
赤皇、玖霧、知果。
火車とはかつて仲間だった。素行はどうであれ思うところがあるんだろう。
『はぁ...まぁ。今の本題はそこじゃねぇな。愛鈴、俺の考えだが緑国は信用できるぜ。どうだ。同盟を結ばないか?。』
『ん…。しかし、同盟となれば互いに利益を求め合うもの…現在、赤国には緑国とより良い関係を築ける材料がない。』
愛鈴の懸念はそこか。
『それは戦いが終わった後で良いんじゃないか?。今は世界の崩壊に対し力を合わせなければならねぇ。損得の問題じゃなく生き残るための同盟だ。利益云々の話しは平和になった後で良いだろう?。』
『ふむ…緑国がそれで納得してくれるのであれば願ったり叶ったりですが…。』
『問題ねぇだろ。俺からすれば全員が仲間なんだ。手と手を取り合うくらいはして貰わねぇと困る。』
『そういうことでしたら…。』
『だな。何にしても一度緑国の連中と話がしてぇ。』
『ああ。その言葉を待ってたぜ。』
俺は立ち上がる。
『さて、一度話し合いは終わりしよう。一先ず、大至急伝えたいことも伝えたしな。愛鈴。赤皇。赤国の様子を確認したい。それが終わり次第もう一度ゲートを開く。』
『ああ。こっちだ。ついてきてくれ。』
『他の者は一度待機だ。休憩してくれて構わない。』
俺、智鳴、睦美。基汐、紫音。
そして、赤皇と愛鈴。六人で赤国内を回る。
まぁ、後ろから数人の気配を感じるんだが…うん。無視しておこう。
『ああ。このデカイ門が四方の入り口になってんのか…で、それを智鳴たちが壊したと…。』
『うぅ…そうだよ…あの時はまだ味方じゃなかったからぁ~。』
『それにしても襲撃とは…智鳴にしては大胆な作戦だったんじゃねぇか?。』
『もう一人の私が考えたの!。私じゃないよ!。』
『完全に二重人格になっちまったのか。』
『ええ。そうよ。閃様。ふふ。ずっとお会いしたかったわぁ。』
智鳴の雰囲気が一転。
大胆に胸元を開け迫ってくる。
『おお。普通に変われるのな。』
『ええ。いつでもどこでも。なんならエーテルで実体を作ることも可能よ。これで閃様に可愛がって頂けるわ。何言ってるの!。最初は私だよ!。いいえ!。私よ!。私!。私よ!。私!。私よ!。私ぃ~。』
神獣のような存在ってことか?。
これもちょっと特殊な感じなのかな?。
『待て待て!。混乱するからやめい!。』
『うぅ…だって、久し振りに会えて嬉しいんだもん。』
『そんなもん俺だって嬉しいに決まってんだろ。後で必ず時間を作るからその時に一緒に過ごそうな。』
『本当?。うん!。楽しみにしてるね!。』
『ん。』
『ああ。勿論。睦美もな。』
『んー。』
駄目だ。当分、睦美は元に戻りそうにないな。
『旦那。ここが一応赤国の中心。宮廷があった場所だ。』
一通り見て回ったが…ものの見事に瓦礫の山だな。
燃えた跡。崩壊した跡。戦いの跡。
『あの時は、無華塁が来てくれて助かったんだ。じゃねぇと、ゼディナハの他に惑星の神とかいうのも相手にしなけりゃいけなかったからな。』
『へぇ。無華塁が?。』
どうやら、厄災から人間に戻れたらしいな。
おっさんに再会出来てれば良いけど…。
『今は紫国に向かったよ。何か呼ばれてる気がするとか、勘だとか言って飛び出して行っちまった。』
『そうか…。』
それに惑星の神か。
「このエーテルの残留。恐らくマズカセイカーラだな。アイツは気性が荒いからな。加減も知らんし出来ん。良くもまぁ抑えたものだな。」
『これで大体案内は終了だ。何も失くなっちまったからな。観光にはならねぇだろ?。』
『そう…かもな。だが………さて。やるか。』
俺は宮廷があった場所へ移動する。
皆で頑張ったんだろうな。土台は既に完成し所々に柱が立っている。
また暫く動けなくなりそうだが、箱の転移一回くらいの余力くらいなら残せるだろう。
『閃。本当にやるのか?。』
『ああ。折角、律夏たちが来てもまともに話せる場所…各国の代表が話し合える場所くらい用意してやらねぇとな。』
それに今は時間がない。
幸いにも、土台があるからイメージしやすいし、クロロとトゥリシエラの記憶に王宮がある。ある程度の材料も残ってるからな。そこら辺の瓦礫も使えば多少は負担を抑えられるだろう。
『旦那。何するんだ?。』
『なぁに。少しお前たちの手助けをな。睦美。智鳴。』
『なぁに?。』
『ん?。』
『多分気絶はしないと思うが動けなくなると思う。俺の身体支えてくれな。』
『え?。あ、うん。良くわからないけど。支えるね。』
『んー。』
『抱きつくな。支えれくれ。てか、これじゃあ動けねぇよ!?。』
『えへへ。つい。』
『んー。』
『はぁ...まぁ良いや。さて、やるぞ。』
集中する。
全身を流れるエーテルを高め、収束させ、イメージを加える。結果を固定する。
クロロ。時間回帰。
おっけー。ご主人様。王宮を元の形に戻すよ。
足りない モノ は全て創造する。
クロロとトゥリシエラは記憶のイメージを俺の意識と重ねてくれ。
了解や。ご主人~。
『神力…発動!。』
王挺の上空に巨大なエーテルの陣が描かれ、世界の法則へと介入する。
神の在り方を世界の結果に結びつけ、望む未来を引き寄せる神のみの能力。
創造と時間。それらを組み合わせ元の形とへと復元を願った。
世界は歯車の提示した願い(ルール)をエーテルを支払うことで了承し、一時的に世界の法則を歪め結果を操作する。
歯車の形を変化させ世界の仕組みに干渉。
それが神の持つ神力という力だ。
故にそれには願いの大きさに比例する膨大なエーテルを消費する。
神獣たちとの契約。
神具たちの回帰。
惑星の神との神合化。
最高神の一柱である観測神へと確実に近づいている俺でさえ、ほぼ全てのエーテルを使わなければならない諸刃の剣だ。
そして…願いは聞き届けられる。
『これは…。こんなことが可能なの?。』
『ああ。これが旦那だ。俺たちの希望だ。』
『希望…。凄い…ね…。』
何か赤皇と愛鈴が恥ずかしいこと話してるんだけど…。
俺は俺に出来ることをしてるだけだぞ~。
『建物だけで限界だな…あっ…ぐっ…やっぱこれデカすぎたな…。消耗が半端ない…。』
目の前に出現した王宮。
愛鈴たちが暮らしていた場所が完全な形となって再建した。
だが、庭や塀などの細かな部分までは無理だった。
その前にエーテルが尽き、その場で倒れる俺を支えてくれた智鳴と睦美。
どうにか気を失わない程度で済んで良かった。
『これで、拠点は大丈夫だろ?。一応、皆を呼んで中を確認してきてくれ。』
『あ、ありがとうございます。閃殿!。このご恩は必ず赤国の全身全霊を賭けてお返し致します!。』
愛鈴はすぐに赤国の連中を呼び王宮の中へと入っていった。
『旦那。サンキューな。愛鈴のあんな嬉しそうな感じはなかなか見ねぇよ。』
『そうなのか。まぁ、これで少しは話し合いもスムーズに行くだろう?。』
『すげぇ能力だが、相当な負担があるみたいだな。』
『まぁな。俺もまだまだ修行が足りないな。』
『十分だと思うが…さっきの話を聞いた後だとその言葉の重さも現実味を帯びるな。』
『俺たちはまだまだ強くならなきゃいけないからな。皆で生き残るために。』
『ああ。だな。』
『えへへ。動けない閃ちゃんは~私のもの~。』
『ん~!。』
『あは~。私たちのもの~。だね。』
『ん。』
エーテルを使い尽くした動けない俺を膝枕する智鳴はペタペタと身体をまさぐってくる。
睦美はというと横たわる俺の上に乗って抱きついてくるし。
くすぐったい。抵抗できない。
『基汐。私も。あれ。したい。』
『え…。そ、その…また、後でな。』
『後でなら。良いの?。』
『光歌には。言わないでいられるならな。』
『うぅ…光歌怖いよぉ。』
どんだけトラウマだよ!?。
基汐と紫音。二人して震え始めた。
二人とも泣いてるし…。
『それより、基汐。』
『お、おう?。何だ?。』
『あの二人のことどうするんだ?。龍華と鬼姫だっけ?。随分と惚れられてるみたいだけど?。』
『うっ…一度助けたらあんな感じなんだ。俺には光歌がいるって言ったんだけどな。諦めてくれなくて…。』
『光歌には言ったのか?。』
『………言ってない。』
『………死ぬなよ。』
『ふっ………本望。』
『お~い。格好良くねぇぞぉ~。足震えてんぞ~。涙目やん!?。』
『うぅ…光歌怖い…あの銃でまた撃たれるの嫌あああああぁぁぁぁぁ…。お尻があああああぁぁぁぁぁ…。』
紫音が叫び声を上げながら基汐のポケットへイン。
『種族的な本能も合わさったんだってな。助けられたこと。アイツらは個体数が少ない原初の種族だ。折角見つけた強く理想的な基汐の旦那を手離したくないんだろうよ。』
『うぅ…余計に断れないじゃないか?。それ。』
『だな。諦めて全員娶ってやれよ。』
『ぐっ…。』
基汐も罪な男だなぁ。
『閃ちゃんが他人事みたいな顔してる。』
『ん!!!。』
『いててててて…噛まないでくれ~。睦美…。』
暫くして愛鈴が戻ってくる。
どうやら成功のようだ。
彼女たちが以前住んでいたままの状態を完全再現出来ていたらしい。
って、自分でやっといてなんだけどその辺のコントロールは殆ど適当だから分かんないんだよなぁ。
まぁ、無事に成功して良かったが。
『今、転移装置を移動しています。暫く、お待ち下さい。』
転移装置を王宮へと移動。
専用に部屋を作り、そこへ先程の全員が集まる。
『さて、ちょっと緑国に戻るな。すぐにゲートが開くと思うからちょっと待っててくれ。』
赤国にも緑国と同様にエーテルの 箱 を創造する。
これで出入り口が繋がった。
緊張した空気の中、少し回復した俺は箱へと飛び込み緑国へと転移した。
『ふぅ…流石に…疲れた…。』
箱による転移成功っと。
そこには…。
『閃さん。お帰りなさい。』
『ああ。ただいま、美緑。』
『お帰りなさいませ。お兄様。』
『お帰り。閃君!。』
『ただいま。砂羅、累紅。ずっと待っててくれていたんだな。』
『はい。いつでもお兄様を御迎えするように。』
『私。皆を呼んでくるね。』
美緑、砂羅、累紅が俺を迎えてくれた。
次回の投稿は27日の日曜日を予定しています。