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第364話 巡り会う

『お姉ちゃん!。早く早く!。』

『これ!。待たんか!。フェリティス!。そんなに急ぐと転んでしまうぞ?。して、急がんでも皆は何処か行ったりせん!。』


 ワシは大きなバスケットを持ち、先を走るフェリティスを追う。

 赤国の戦いが終わり数週間。

 現在、赤国は復旧作業の真っ只中じゃ。


『だって~。今日のおやつ凄く美味しかったんだもん!。皆きっと喜ぶよ!。』

『口に合えば良いのじゃがな。』

『絶対合うよ~。』


 復旧作業の息抜きにと、こうして毎日差し入れを届けておるのじゃが。

 現在の赤国は異神と協力関係、同盟を結んだことで他国との交流と物流を絶ち、自国のみの力だけで復旧を続けているせいで、圧倒的な物資不足に陥っている。

 特に木材の不足が著しく、中心部から遠く離れた山林地帯から伐採し持ってくる必要がある。

 人手も、時間も、食料までも足りんのが現状じゃ。

 そんな中、何とか遣り繰りしこうして甘味を届けている訳だが…正直、長くは作れんのじゃ。

 備蓄も保ってあと数週間と言ったところじゃ。

 しかし、皆に活力を与えんと国としても復帰に遅れが生じ復興自体が難しくなってしまう。

 問題だらけじゃ。

 

 現在、急ピッチで進められているのは、愛鈴等の住む場所。

 赤国の中心となる王城から、赤国の者等全員が一丸となって復旧作業に勤しんでいる。

 

『はぁ、基汐に期待するしかないのぉ…。』


 戦いの後遺症。あまりにも多くの建物が崩落、燃えてしまったことで木材の資源が枯渇寸前。

 正直、進行自体は芳しくないといった状況じゃ。


『皆~。差し入れだよ~。』


 まだ陽も頂点に昇りきっておらんというのに、気温は上がり照り付ける陽射しに作業していたメンバーも汗だくだ。

 作業に勤しんでいる者たちのために大きな樽に冷水を入れた物を設置する。

 ワシ等が住んでいた渓谷から持ってきた湧き水じゃ。

 飲んで良し。頭から浴びるも良しじゃ。


『おっしゃ~!。休憩だ~!。睦美の姉さんいつもありがとうっ!。』

『睦美の姉さんが差し入れを持ってきてくれたぜ~!。』

『助かるぜ…。睦美の姉さん!。』


 いち早くワシ等の到着に気づいた三人。

 柘榴、塊陸、獅炎。前世ではチンピラ同然な性格だった彼等は先の戦いを通じ、赤国…強いては王である愛鈴への義理と忠誠によって良く働いている。

 前世でしか知らん奴等だったが、最近の行動を見るに人としても大きく成長したようじゃな。

 しかし、姉さんと呼ばれているのが気がかりじゃ。

 三人ともワシより年上の筈なんじゃが…。


『待て三人共に。その汚れた手で差し入れに手をつけようとしていないか?。まず最初にやることがあるだろう。』

『フェリティスも行っておいで。』

『うん。皆、手を洗ってこよう!。』

『了解だぜ!。フェリティス坊!。』

『よっしゃ!。誰が最初に戻ってくるか競争だぜ!。』

『負けん!。負けんぞぉ!。』


 フェリティスを先頭に近くの河原まで走っていく三人だった。

 ふむ。中身は子供のままか…。

 じゃが、フェリティスと仲良くしてくれるのは嬉しいことじゃな。


『おはよう。睦美。毎日の差し入れ感謝する。』

『威神もな。あの連中の指揮は大変じゃろ?。』

『いや、そんなことはない。彼等は確実に成長している。今では善きムードメーカーだ。仕事も早く丁寧だ。正直、戦闘より素質がある気がする。』

『はは。そうか。ほれ、威神の分だ。ついでに飲み物もあるぞ。』

『ああ。後で頂く。ありがとう。』


 ワシから風呂敷包みを受け取った威神は、建物に不備がないかを確認しながら消えていった。


『真面目よなぁ。』

『あら?。睦美?。今日も差し入れ?。』

『ああ。時雨か…相変わらず凄まじい量の兵隊だな。』


 声を掛けてきた時雨。

 その後ろには材木やモルタルが入った樽などを持った神具で召喚した兵隊達が列を為していた。


『まぁね。人手は多いに越したこと無いでしょ?。出来ることはやらないとね。』


 自身の分身をエーテルで造り出す神具。

 時雨のお陰で人手の問題が大きく改善されておる。


『そうじゃな。手伝えることがあれば何でも言うのじゃぞ?。』

『ふふ。ありがと。けど、その差し入れだけで十分よ。いつも少ない備蓄で遣り繰りしてくれているでしょ?。凄く助かっているって愛鈴も言ってたわ。』

『そうかのぉ。自分の出来ることがこれしかないのでな。』

『もう。謙遜しちゃって。ふふ。じゃあね。作業に戻るわ。あら、フェリティス。おはよう。』

『おはよう!。時雨お姉ちゃん!。ばいばい!。』

『ええ。ばいばい。』

『お姉ちゃん。ただいま~。』

『おんや。お帰り。』


 時雨と入れ替わる形で戻ってくるフェリティス。

 一緒に行った三人は既に休憩に入っているようじゃ。

 三人の他にもいつの間にか群叢と心螺と狐畔、あと、現場監督役の珠厳も合流したようじゃな。

 ワシを見つけた珠厳が足早に近づいてきた。


『睦美様。いつもありがとうございます。赤国の戦士一同感謝致します。』

『なぁに。ワシに出来るのはこれくらいじゃ。皆が作業に集中出来るなら苦ではない。』

『はい。こうして、毎日美味しいモノを作って頂ける。それは皆の原動力と活力となっております。あの三人に至っては睦美様の差し入れを心待ちにしているくらいですから。』

『そう言って貰えると嬉しいのぉ。』


 一礼して去る珠厳の背中を眺める。

 さて、ワシも休憩にしようかの。


『フェリティス。彼処の木陰で休むとしようかのぉ?。』

『うん!。』


 レジャーシート替わりの布を敷き、フェリティスと並んで座る。

 優しく頬を撫で吹く風が心地よい。


『ほれ。フェリティス。ゆっくりお食べ。』

『は~い。いただきます!。あぐあぐあぐ!。』

『ふふ。そんなに急いで食わなくても沢山ある。ほれ、飲み物もあるぞ。』

『うん。えへへ。美味しいね。』

『そうか。それは良かった。良く噛んでな。』


 暫くの間、安らかな一時を満喫していると。


『睦美ちゃ~ん。』

『きゃん!?。』


 突然、背後から抱きつかれ驚く。

 この声と胸の感じは智鳴か!?。


『ふふ。脅かすの成功。睦美ちゃんの悲鳴はいつも可愛いね。』

『智鳴。いつの間に背後に回ったのじゃ?。』

『ふ、ふ、ふ。秘密だよ~。』

『ふむ。覚えておれよ?。』

『いや~だよ。ふふ。ねぇ聞いてよ。睦美ちゃん。』

『むっ…何じゃ?。』


 フェリティスと挨拶を交わし、その身体を抱き抱える智鳴。

 フェリティスに菓子を貰って食べておる。


『愛鈴ちゃんがね。転移装置に反応があったって教えてくれたんだよ。』

『何?。それは…もしや…。』


 まさか…。


『ええ!。その通りだ!。きっと基汐様が緑国との交渉に成功したのだ!。』

『ふふ。愛鈴様に教えられてから、龍華ったらずっとこのテンションなのですよ?。』

『むっ…それは当然だろう!。転移装置が機能すれば、また基汐様に会えるのだ!。鬼姫だって朝から笑ってばっかりではないか!。』

『お前たちもいたのか?。龍華、鬼姫。』

『ええ。おはよう。睦美。美味しそうなモノを食べているわね!。』

『ふふ。おはようございます。睦美さん。』

『ほれ。お前たちのも用意してあるぞ。』

『ふふ。貰ってあげるわ………その…ありがとっ…。』

『いつもご馳走さまです。』


 龍華と鬼姫も一緒だったようじゃ。

 転移装置に反応があった。

 つまり、対として基汐が緑国へ持っていったもう一つの装置が起動したことになる。

 基汐のことだ。緑国の仲間と合流し上手く事を運んだのじゃろう。

 基汐に惚れた龍華と鬼姫も再会を待ちわびているし、事は順調に進んでいると考えようかのぉ。

 光歌が二人のことを知ってキレなければよいが…。


『ふふ。皆嬉しそう。緑国には誰がいたのかなぁ?。』

『そうじゃのお。種族によってワシ等の転生先が決まっておるようじゃし、間違いなく美緑はいるじゃろうな。』

『ああ。そうだね。もしかしたら美鳥さんもいたりして、ふふ。威神君も喜ぶね。』


 美鳥とは恋人同士じゃ、威神は表情が読みにくいが再会を待ちわびているじゃろうしな。

 転生後、この様な早期に赤皇が玖霧や知果の恋人との再会ができたことは奇跡に近いことじゃろう。


『そうなると光歌もいそうじゃのぉ。』

『はは。だね。銀虎だしね。森に住んでた種族だしね~。基汐君に会えてると良いなぁ。』

『じゃな。………恋人か…。』

『………大丈夫だよ。閃ちゃんもきっと私たちを探してくれてるよ。』

『そうじゃな…。そうだと………嬉しいですね。』


 旦那様…。お会いしたい…。


『御休憩中に失礼致します。』

『ん?。何じゃ?。』

『あれ?。貴女…確か麗鐘さんの…。』


 突如、麗鐘の部下の一人がワシ等の前に現れる。

 

『はい。愛鈴様からのメッセージを至急皆様方へお伝えするために馳せ参じました。』


 女性が取り出したのはエーテルに包まれた羽。これは不死鳥の羽か。つまりは愛鈴の…羽を包んだエーテルは光の粒子となって広がり粒子の中に込められたメッセージが音となって放出された。


「赤国内にいる者等よ。赤国と他国を結ぶ転移装置に反応があった。幹部及び助力の神々よ、今すぐに転移装置の前に武装し集合されたし。戦闘可能な兵士たちは念の為、民等の護衛につけ!。」


 ついに転移装置が起動したのじゃろう。

 緑国との会合。これで同盟を結ぶことが出来ればゼディナハたちのような者たちもおいそれと攻め込めなくなる筈じゃ。


『睦美ちゃん。』

『ああ。ワシはフェリティスを避難所へ連れていく。智鳴は先に行っておれ。』

『うん。』

『行くぞ。フェリティス。急ぐのじゃ。』

『はい!。お姉ちゃん!。』

『良し。良い子じゃ!。』


 ワシはフェリスとフェネス、母様と父様の元へフェリティスを送り届けてから愛鈴等の待つ転移装置のある部屋へと向かった。


 その場所は、先の戦いで奇跡的に無傷で残っていた場所。

 地下室だったこともあり、転移装置にも傷一つついていなかったようじゃ。


『すまん。待たせたのぉ。』

『全然、待ってないよ。睦美ちゃん。これからみたい。』

『ふむ。そうか。赤皇、愛鈴。どんな様子じゃ?。』

『ん?。おお。睦美嬢か。転移装置が勝手に起動してな。恐らく、基汐の旦那に持たせた方が起動したんだろうぜ。』


 転移装置の側には赤皇と愛鈴。

 その後ろに玖霧と知果。麗鐘と宝勲が護衛として待機していた。


『睦美ちゃん。お疲れ様です。』

『さっきのお菓子美味しかったですよ!。また、楽しみにしてますね!。』


 玖霧と知果に話し掛ける。

 緊張はしていても、いつも通りの反応。

 まだ、焦る時ではないようじゃな。


『この場合、警戒せねばならぬのが緑国以外からの介入だ。基汐殿に手違いが無いとは思うが万が一、別のモノの手に転移装置が渡っていた場合も考慮せねばな。』

 

 愛鈴が冷静に分析する。

 他国からすれば介入する絶好の機会じゃ。

 最悪の場合は想定しなければな。


 見ると、転移装置が起動した際に輝く中心部の宝石が光を発していた。

 もうすぐゲートが開くということか。

 この場には赤国の主力が全員揃っておる。

 皆が武装していつでも戦闘を始められる状態じゃ。

 急な襲撃に備えワシも神具を出現させておく。


『ゲートが…開く…ぞ。』

『皆の者!。警戒せよ!。』


 装置が動き、エーテルが放出される。

 中心にある宝石に周囲のエーテルが収束し、稲妻に似たエーテルの波動と豪雨に地下室内にある物が宙を舞った。

 尚もエーテルの暴走は止まらず、収束したエーテルは徐々に形を持ち、宝石を核とした黒い穴が出現した。


『これがゲート?。』


 周囲が静かになり、誰かが呟く。

 黒い穴の渦。この奥が転移先に繋がっておるのか?。


『よっと!。転移成功だな!。ただいま!。皆!。上手くいったぞ!。』

『帰ったぞぉ~。』


 ゲートから飛び出したのは基汐。

 そして、その胸のポケットには紫音が手を振っていた。

 どうやら、無用な心配じゃったようじゃな。

 目立った傷もなく元気な姿で帰ってきおった。


『基汐様!。』

『良くご無事で!。』

『おわっ!?。』

『あぶっ!?。』


 基汐に気がついた龍華と鬼姫が飛び付く。

 二人の勢いにそのまま倒れ込む基汐。

 ついでに紫音は潰れたの…。


 その様子に全員の緊張が解れた。

 武器を持つ手の力が弛み、自然と皆の表情に笑顔が戻る。


 だが、次の瞬間、この場にいる基汐と紫音以外の全員が感じ取った。

 圧倒的な存在感から放たれるエーテルの奔流。ゲートの奥から近づいてくるその宿る底の見えない力に愛鈴たちが慌て始める。

 

『これは…あのゼディナハを越えておるぞ!?。』

『コイツはヤベェ。この場にいる俺たち全員よりもデカイ気配だ!?。』

『愛鈴様!。御下がり下さい!。』

『赤…皇…。』

『コイツは………愛鈴…大丈夫だ。』


 赤皇は気がついている。

 時雨も、威神も、玖霧も、知果も。

  彼 を知っている全員の顔が綻んだ。

 この感じる気配は…間違える筈もない。


『あ…あ…。』


 声にならない声が口から溢れ出る。

 同時に涙で視界が歪む。

 両手で口を押さえ嗚咽を抑える。


『ここが...赤国か?。って、うおっ!?。基汐!?。何で倒れてって…まだ、恋人いたのか?。流石に光歌に殺されないか?。それ?。』


 懐かしい声。

 ああ…やっぱりだ…あの方だ…。

 私の世界一…愛している方…。


『あれ?。ちょっと注目浴びたか?。ん?。』


 周囲の様子を確認している。

 智鳴を見つけて微笑み、私と目が合った。

 そして…。


『はは。ようやく会えたな。久し振りだな。智鳴。………睦美。』

『閃ちゃ~~~~~~~~~~ん!!!。』

『おっと!。はは。智鳴。相変わらずだな。元気そうで良かった。』

『うん!。うん!。閃ちゃんも!。』


 抱きつく智鳴。

 そのまま流れるように口づけを交わした。

 暫く二人の世界を作り出した後、智鳴を下ろし私の前に来る。


『睦美。無事で良かった。あの時…守ってやれなくてゴメンな。』


 彼が私の身体を抱き寄せる。

 彼の温もり、声、感触の全てに包まれた。

 心の奥底から込み上げてくる複数の感情が複雑に混ざり合い思考を覆い。

 私は…。


『だ、だん…な…さ…ま……………うわあああああぁぁぁぁぁ……………。』


 泣くことしか出来なかった。

次回の投稿は24日の木曜日を予定しています。

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