第362話 美緑との時間
ホワセウア。
緑国の女王、神眷者 エンディアが契約していた【白夜梟】の神獣。
エンディアはホワセウアを人型へと進化させることは出来なかったが、謎の男によって人型へと進化を遂げた。
八雲と戦い。
八雲がソラユマと同化し覚醒したことで敗北し、その後の行方は分からなかった。
『観測神。仕留める。』
『くっ…まだ、来るのか!?。』
『何してるんですかあああああぁぁぁぁぁ!。』
『ぅ。』
追撃を仕掛けようとしたホワセウアが後方から怒気を含んだ美緑の声に驚き停止する。
『ホワセウア!。貴女はもう私たち、いえ、閃さんの敵ではないと話したではありませんか!。どうして攻撃を仕掛けたんですか!。』
『ぅ…つい。反射的。』
『閃さんは私たちのリーダー的な存在です。そして、私の恋人でもあります。そんな方に刃を向けるなど!。私が許しません!。』
『ぅ。申し訳。ありません。ご主人様。』
『謝るのは私にではありませんよね?。』
『はい…。ごめんなさい。閃様…。敵だった。脳内。修正。失敗してた。』
『あ、ああ。まぁ、元々敵同士だしな。てか、この感じ…美緑と同化しているのか?。』
『はい。』
『主を失くして緑国内を彷徨い、弱っていたところを世界樹を通して発見しまして、成り行きと言いますか…困っていたようなので助けたのです。』
『そうか。神獣は色々と助けてくれるしな。ホワセウア。これからも美緑のこと助けてやってくれな。』
『はい。勿論。美緑様。命の恩人。新しい主。この身。彼女に捧げる。』
『ははは…そこまでしなくて良いですよ。』
『ホワセウアのことを伝えるために呼んだんだな。確かに驚いたよ。』
『はい。同化について色々と聞きたいこともありましたから。こんな経験初めてで…彼女の記憶が一気に押し寄せてきて…少し混乱してしまいました。』
美緑は甘えるように身体を預けてくる。
その身体を抱き上げ、ベッドの上に下ろす。
俺はそのままベッドに座り、美緑は俺の隣に移動した。
『美緑様。私。邪魔?。少し。消える?。』
『そ、そんな気の使い方…今はいりません。………ですが、ちょっと二人きりになりたい気もあるので…その。』
俺も同じ気持ちだ。
『ソラユマ。』
『なんだぁ~?。ご主人様~。』
突然、出現したかつての宿敵に臨戦態勢へ移行するホワセウア。
そんな彼女をチラリと横目で見たソラユマは一瞬の鋭い視線の後、いつものだらしない笑顔になる。
どうやら、今の一瞬で敵か味方かを判断したようだ。
俺が契約している神獣の中で最も警戒心の強いのがソラユマだ。
普段はわざと脱力感を漂わせているが、その本性は誰よりも仲間以外に冷酷だ。
『っ!?。貴様は!?。』
『構えない。武器出さない。』
『はい…。』
美緑の言葉に落ち込むホワセウア。
『ソラユマ。同化した神獣についてホワセウアに色々と教えてやってくれ。ホワセウアはもう敵じゃないからな。くれぐれも喧嘩するなよ?。』
『はいは~い。了解だぁ~。いくよ~。』
『むっ。ひ。引っ張るな。』
フワフワと空中に浮かびながらホワセウアの腕を引っ張っていくソラユマ。
二人はそのまま外へと出ていった。
『実はもう一体、神獣を発見しているのですが…あの娘は気紛れで…一応、光歌さんが同化しているのですが…。』
『光歌が?。そんなこと一言も言っていなかったが?。』
『あはは…放任主義らしくて…同化しても一緒にいないみたいなんです。忘れてはいないみたいですが…。』
『そうか…。まぁ、光歌なら問題ないだろう。基汐も神獣との同化をしているし二人で何とかするだろうさ。てか、もしかしてもう一体の神獣って…【地泳鰐】か?。』
『あ、はい。そうです。アリガリナちゃんという名前ですね。お知り合いですか?。ああ、もしかして、ホワセウアと同じですか…以前に戦ったとか。』
『ああ、奏他とチナトがな。セルレンが契約していた神獣だろ。アイツも野良になってたからな。チナトの記憶でも戦いの後のことは分からなかったが…そうか、主を見つけられたのなら良かったよ。』
『はい。凄くお腹を空かせていましたので。』
『後で光歌に聞いておくよ。』
『はい。お願いします。』
静かな時間。
美緑とこんなにゆっくりと時間を過ごすのは久し振りだな。
『閃さん。また、旅立たれてしまうのですよね。』
『ああ、そうだな。灯月を救いたい。詩那たちとは別れてしまったから早く助けに行きたい。他の国の恋人や仲間たちとの再会も………やることがいっぱいさ。それに…。』
『世界の未来を…ですね。』
『いや、美緑達との平和な日常だな。世界は二の次だ。』
『ふふ。目指すべき結果は同じですね。』
『だな。』
美緑の肩に手を乗せ引き寄せる。
すると、美緑も素直に肩に頭を乗せ体重を預けてきた。
『こうしていると、仮想世界でのことを思い出しますね。』
『ああ、この世界に転生してからは、こういう時間がなかったもんな。』
『はい。懐かしいですね。ふふ。デートをした時のことを思い出します。』
『あの頃の美緑か…本当に成長したよな。』
『そうでしょうか…成長…と言った感覚はあまり感じませんが…あの頃のような押し潰されそうな心の重さは無くなりました。閃さんの仰ってくれた通りでした。私は…独りではありません…でした。気付かなかっただけで…今も昔も。』
『律夏や、かつての仲間たちとも再会出来たしな。それに…今は俺の恋人だ。俺のいる限り美緑が孤独を感じることはもう無いからな。』
『ふふ。そうですね。』
その後、紅茶とクッキーを用意してくれた美緑とお茶の時間を過ごす。
『このクッキー旨いな。甘さがさっぱりしてて食べやすい。』
『ふふ。喜んで貰えて嬉しいです。それはこの国で自生していた食べられる花を使っているんですよ。』
『そうなのか?。いくらでも食べられるな。この紅茶も…クッキーに合う。クッキーとは別の甘さと仄かな苦味がするな。美味しい。』
『ふふ。その茶葉もこの国の原産なんですよ。緑豊かな国ですから色々な植物があって、ふふ。幸せです私。』
『お菓子作り好きだもんな。美緑は。』
『はい。毎日皆さんのために作っています。楽しいです。』
『そっか。俺も毎日食べたいな。』
『えへへ。私はいつでもお待ちしていますよ。』
『ああ、必ず…な。』
その夜は美緑と共に過ごした。
翌朝、フラフラと戻ってきたソラユマとホワセウア。
『さぁ~。ホワセウア。ご主人様に、もう一度謝罪をするだぁ~。』
『せ、閃様。いきなり。斬りかかって。すま…。』
『あん?。』
『ひっ!?。す、すみませんでした!。もし貴方様が許して下さいますなら…こ、この身体を好きに使ってくれて構いません!。』
『ふん~。宜しいぃ~。』
何をしたんだあああああぁぁぁぁぁ。
あの句読点だらけの喋り方だったホワセウアが凄い流暢に…てか、明らかにソラユマに対し恐怖を感じているんだが…。
『駄目です!。ホワセウア!。閃さんは貴女には渡しません!。』
『いや。本当は。いら…。』
『あ?。』
『今、何て言ったの?。閃のこと?。いらない?。』
『ひっ!?。あ、貴女様は!?。神獣神様!?。も、申し訳ありません!。もう…ご勘弁を…。う、うわあああああぁぁぁぁぁん…。』
ソラユマだけでなく、クティナまで登場。
ホワセウアは涙目に、いや、完全に泣いてるなこれ。
冷静な暗殺者。そんなイメージだったホワセウアが子供のように泣きじゃくる。
『ソラユマ。クティナ。戻ってくれ。可哀想になってきた。』
『はいは~い。』
『ん。閃に生意気する神獣。許さない。』
二体の姿が俺の中へと消えた。
『はぁ…すまんな。二人がやりすぎた…。』
『っ!?。い、いえ。』
泣いているホワセウアの頭を撫でる。
同時に俺のエーテルを敵意がないという意思と感情を乗せてホワセウアへと流す。
これで俺が怒ってないことも分かるし、少し落ち着くだろう。
『閃様…温かい。です。それに。優しい。ご主人様の記憶のまま。ぽ。』
『っ!。ホワセウア。戻って下さい。今度、二人でお話しましょう。』
『え?。あ。ご主人さ…。』
強制的に肉体を構成していたエーテルを体内に戻した美緑によってホワセウアは消えた。
『閃さん!。』
『あ、はい?。』
『私は貴方が大好きです!。』
いきなり何の宣言?。
『ああ。俺もだよ?。昨日の夜も散々言ってたよな?。』
『はい!。その通りです!。』
その後、美緑は暫く頬を膨らませながら俺の腕にしがみついていた。
ーーー
美緑の部屋を出た後のこと
『閃く~ん。』
『お?。累紅。』
遠くの方から走ってきた累紅が抱きついてくる。
その身体を受け止める。
『えへへ。閃君。今、時間ある?。』
『ああ。あるぞ。今日は累紅と過ごすつもりだったからな。』
『本当っ!?。やったぁ~!。ねぇねぇ。久し振りに、あれやって欲しいなぁ~。』
『ああ。良いぜ。何処でする?。』
『勿論、私の部屋だよ!。行こ。閃君!。』
『おっと。こら、引っ張るなよ。』
『えへへ。だって嬉しいんだもん!。』
相変わらず元気いっぱいだな。
笑顔の累紅に腕を引かれ彼女の部屋へと案内された。
次回の投稿は10日の木曜日を予定しています。