第361話 緑国でやること
緑国の端の森。
【狂嵐神】ジュゼレニアに会いに来た俺と兎針。
俺たちとは以前に戦い。その戦いが夢伽がクミシャルナとの同化する切っ掛けとなった。
俺のエーテルに反応し姿を現したジュゼレニア。
緑を基調とした巫女服のようなデザインの衣装に身を包んだ神。
彼女はアリプキニアの姿を見た瞬間に以前見せた嵐のような荒々しさは鳴りを潜め、おどおどし慌てた様子で俺の背後に隠れた。
まるで悪いことをした後に母親に会った時の娘のような反応だ。
『な、何でママがここに!?。てか、何で閃の中から出てくるのよ!。それって…もしかして…。』
『ああ。妾は閃と合神化した。故に今の妾は閃と一心同体なのだ。』
『は?。マジで。ズルい!。私だって閃としたかったのに!。いや、待って。きっと、合神化に数の制限なんてないよね?。相手は観測神の閃だし。ねぇ、閃?。』
『それは駄目なんだ。』
『がーーーん。即答!?。何でよぉ~。』
コロコロと表情の変わるジュゼレニア。
何か前回出会った時との印象が全然違うな。
『なぁ。ジュゼレニア。』
『な、なになに?。合神化してくれるの?。』
『いや、お前…前にあった時と性格違わないか?。前はもっと荒々しかったというか?。』
『むっ。だって、前は本気で殺そうとして戦いを挑んだのに負けちゃったからさ。絶対神の言いつけ通りね。けど、もう今の私じゃ閃たちに勝てないの分かったから、もう良いかなぁって思ったの。正直、めんどいし。』
『なぁ。ジュゼレニアは絶対神とどんな内容の話をしたんだ?。』
『え?。えっと、何だったかな?。閃の仲間に全力で戦いを挑めって。殺しても構わないってさ。で、負けたら強制的にソイツと合神化しろって…そんな感じ。』
『んん。この世界のことを何処まで知ってる?。』
『え?。どういうこと?。』
俺はジュゼレニアに俺たちの知っている世界の真実を伝える。会話の内容を補足するようにアリプキニアも会話に加わり信憑性を上げる。
突然、繰り返されされる世界の話をしても混乱させるだけだしな。
『…という訳だ。』
『マジの話?。それ?。私たちってもう何回も死んでんの?。』
『ああ。この世界も例外なく終焉へ向かっている筈だ。世界が終わってる訳だから、リスティール以外の惑星も…いや、宇宙そのものが滅ぼされているんだ。』
『じゃあ、私たちの役割って何なの?。絶対神の野郎は何も教えてくれなかったよ!。』
『ジュゼレニア。お前はこの緑国に自らの惑星を繋げてその身を現界させているな?。』
『え?。う、うん。絶対神がそうしろって言ったから。私以外の妹たちも皆そうしてたよ。そのせいで本当の力が出せなくなってるの。最初は世界のバランスを保つためって聞いてたけど。』
『まぁ、それも理由にあるだろうな。いきなり最高神が顕現したらリスティール自体が神のエーテルに耐えきれないだろう。だから、力の制限をリスティールそのものに掛けたのだろうな。神々の力を制限し抑制する構造。リスティールを守るためだな。』
いくら巨大な惑星リスティールでも複数の神々が本気で力を解放すれば無事では済まないだろう。
それを見越しての絶対神の判断だと俺たちは考えている。
『むぅ、じゃあ結局勝てないってことじゃん。見す見す負けて合神化させられて自由が失くなるのは嫌だよ?。それなら、自分の意思で閃と一緒になりたい!。』
『それは難しいな。』
『どうしてなの?。』
『これは推測の話だが、ジュゼレニアの場合は緑国に自分の惑星を繋げたんだろ?。』
『う、うん。そうしろって言われたから。』
『それが世界を守る重要なことなんだと思う。』
『どういうこと?。』
『きっと、惑星の神には、世界を滅ぼすエネルギーであるダークマターの侵食を遅らせることが出来る能力があるんだ。今までの世界ではそれを確かめた者はいなかった。だが、抗った者たちもいたんだ。その結果、神に近い者が支配した空間に対しダークマターの侵食は明らかに遅くなった。』
『支配した空間…もしかして…。』
『ああ。惑星の神のみが扱える【惑星環境再現 プラネリント】。あれが、ダークマターの侵食に抗える唯一の方法なんだと思う。』
プラネリントは空間支配系統の能力の最上位に位置する能力だ。
『だからこそ、リスティールを治める七つの国に惑星の神を配置したんだろうな。』
『じゃあ、私がこの国を守るってこと?。』
『いや、最終的にはそうだがジュゼレニアだけの力では足りない。だからこそ、絶対神の奴は俺たちとお前たちを戦わせたんだ。ジュゼレニアに認めさせた者と合神化させて強力な力を持つ最高神を出現させるために。』
『じゃあ、結局、私たちがここにいる目的って合神化を強制させるためってこと?。』
『ああ。しかも、この国の奴とな。俺たちが転生する先が種族によって決まっていたのは、その国にいる惑星の神が選びやすいようにするためでもあるんじゃないかと俺は思う。恐らく、相性が良い奴を選択できるようにしているんだろう。』
『むぅ…。何よそれ…。人権…いや、私たちに神権は無いわけ?。』
『まぁ…こればっかりは世界のためにってとこだろうな。』
『納得いかない!。』
『だがな。このままじゃ、世界は滅んでまた最初からなんだぞ?。』
『むぅ…閃は、未来を目指してるの?。』
『ああ。俺はこの世界を終焉から守りたい。』
『……………それは何のため?。世界のため?。自分のため?。絶対神の奴に期待されているから?。』
『いや、仲間たちと…家族との平和な日常を取り戻すためだ。散々、巻き込まれて酷い目にあったんだ。もう、仲間たちが悲しい思いをするとこなんて見たくない。だから、俺は皆が安心できる未来を手に入れる。そのために戦うって決めた。』
『……………。』
『折角、今までに築き上げた絆や繋がりがリセットされるなんて悲し過ぎるからな。未来を手にするためにジュゼレニアの力を借りたい。だから、俺はここに来たんだ。』
『……………そう…なんだ。未来を…家族と、平和な日常か…。』
『合神化。そこまで悪くないよ。』
『はえ?。』
『ん?。』
俺たちのやり取りを眺めていた兎針の方からの声に反応する俺たち。
その視線が兎針に集まった。いや、正確には兎針の背後に。
『やっほ。ジュゼレニア。』
『は?。え?。チィ姉?。何でチィ姉がその娘と一緒に…てか、神同化してんの!?。』
『うん。兎針は私のパートナー。不便無し。』
兎針に抱きつくチィ。
戸惑いながらもチィを抱きしめる兎針。
『そうなの?。』
『うん。出入り自由。寂しくない。あと…。』
チィがジュゼレニアに耳打ちする。
『はっ!?。確かに!?。』
『兎針は閃が大好き。』
『え!?。』
『頭の中ピンク色。』
『あ、あの!?。チィさん!?。その違う…いえ、閃さんを好きなのは当たっているのですが!。いつもピンクという訳では...。』
『嘘。兎針。閃の匂い嗅ぐだけでもむもむ!?。』
チィの口を無理矢理押さえる兎針。
珍しく涙目になりながら真っ赤な顔で俺を見る。
『あの…閃さん。今のは忘れて下さい…。』
『あ、ああ。努力する。』
そうか~。兎針はピンク色なのか~。
『うぅ…絶対忘れてない…。』
『ねぇ、ねぇ、閃の恋人。この国にもいるんでしょ?。』
『あ?。ああ。いるよ。』
『分かった。じゃあ、観察してくる!。』
『急にどうした!?。』
嫌な予感しかしないぞ。
さっきまで嫌々だったのに。
『まぁ、あれだ。世界のために我々、惑星の神は閃たちと協力する必要がある。未来に関わることだ。慎重にな。』
『うん。ママ。良いよ。私も手を貸すよ。』
『ふ。チョロい。単細胞。』
何かチィが呟いた気が…うん、聞かなかったことにしよう。
『因みに兎針とチィはこの国に残ることになってるから色々手伝って貰ってくれ。』
『え…チィ姉いるの?。』
『何?。文句あるの?。』
『な、ないよ…。』
ーーー
ジュゼレニアとの会合を終えた俺たちは緑国に用意された部屋に戻ってきた。
ジュゼレニアはあの後、緑国全域に支配空間を広げ、自らが合神化する相手を模索するため国全体を観察している。
陽も沈み。
用意された夕食と入浴を済ませた俺は、世界樹の枝の先にある展望台へと赴いていた。
見渡す限りの海。星々の輝きに海面が輝いている。
『お待たせしました。閃さん。』
『いらっしゃい。兎針。』
俺はこの場所に兎針を呼び出していた。
戦力の増強のためにここに残ってもらうように頼み、兎針は快く引き受けてくれた。
長らく共に旅をしていた仲間。
そして、俺に好意を持ってくれていることも知っている。
学生時代に知り合い、仮想世界では敵となった。しかし、この世界で再び出会え正真正銘の仲間になった。
何度も助けられた。
蝶による周囲の警戒。気配りができ、仲間のサポートを陰ながら行っていたことも知っている。
『悪いな。急に呼び出しちまって。』
『いいえ。閃さんのお願いですから。何処にいても優先しますよ。』
嬉しそうに微笑むと静かに横に立つ兎針。
仄かに甘い匂い。頬は火照っていて風呂上がりだということが分かる。
『それで?。私に何かご用ですか?。何か急用でも?。』
『いや、用事という訳ではないんだ。俺はこれから赤国、そこから黄国を経由して青国へと向かう。』
『はい。存じています。』
『兎針には緑国に、奏他には赤国に残ってもらう予定だ。』
『はい。終焉への対抗策としての戦力の増強。惑星の神になった私とチィさんがいればジュゼレニアさんと合わせて強固な守りになる。理解しています。』
『ああ。そうだ。…それでな、俺とは少しの間、別行動になる。』
『………はい。そうですね。』
『だから、その前に兎針に伝えておきたいことがあるんだ。』
『伝えておきたいこと…ですか?。』
『ああ。兎針。』
俺は兎針と向き合う。
兎針も俺の方に身体を向け不思議そうな視線を送る。
『兎針。知っての通り、俺には恋人が沢山いる。普通じゃ有り得ない状況だ。』
『………。』
『普通の恋人たちのように四六時中一緒にいることも出来ない。一人だけを特別扱いすることも特別になることも出来ない。俺には皆を平等に愛することしか出来ない。』
『………。』
『だが、俺は俺に好意を抱いてくれた彼女たち全員を愛している。その決意もした。何が何でも彼女たちを幸せにすると心に決めた。』
兎針は俺の言葉に一切動かず、その瞳は俺の目をずっと見ていた。
『俺は…陰ながら気配りが出来て、仲間を…いや、友人を大切にできる兎針が好きだ。』
『…っ。』
『勿論、一人の女の子として惹かれている。』
『閃…さん?。これって…。』
『ああ。告白だ。俺は普通の恋人がやるような幸せを与えてやれない。だが、俺だけが与えられる幸せを兎針に与えてやりたい。頼りないかもしれないが…もし、兎針が良ければ…俺の恋人になってくれないか?。』
『………良いのですか?。他の…まだ、再会できていない方々に了承を得ずに?。』
『兎針が俺に好意を抱いてくれていたのは知っている。これは俺の意思だ。美緑たちには了承を得た。灯月たちには…まぁ、ビンタの覚悟はしておこうか。』
『ふふ。基汐さんのようにですか?。』
『あはは…あれは痛そうだったな。』
『あの…閃さん。』
『何だ?。』
『誰か一人を特別扱い出来ないと申されましたが、二人きりの時は特別にしてくれるんですか?。』
『当然だ。』
『ふふ。そうですか。閃さん。』
『ああ。』
一歩踏み出した兎針。
身体が密着するかしないかの距離で俺の顔を見上げてくる。
そっと俺の胸に右手を当て、左では自分の胸に。
『閃さん。私も貴方が好きです。学生の時、初めて貴方の姿を目にした瞬間から心奪われていました。一目惚れ…だったんです。私は特別ではなくても大丈夫です。少しでも貴方の心の片隅にでもいられれば私は十分です。閃さん………私を貴方の恋人にして頂けませんか?。』
『ああ。絶対に幸せにするよ。』
『はい。閃さん。愛しています。』
唇同士が重なる。
柔らかな感触と甘い香り。
星空に照らされた兎針の蝶の羽は星の光に負けないくらいにキラキラと輝いていた。
暫くしてゆっくりと離れると。
『ふふ。本当は貴方を好きになったのは詩那よりも先だったんですよ。』
珍しく、いたずらっ子のような表情で舌を出す兎針は凄く可愛らしかった。
その後、一緒に俺の部屋で一夜を過ごした兎針。
次の日の朝、皆のいる広間にやって来た俺を見た連中が驚き目を丸くした。
『あら?。閃さん。羽が生えてますよ?。』
『蝶々の羽ですね。お兄様、種族が変わったのですか?。』
『あははは…上手く行ったみたいだね。閃君。』
美緑たちが俺の姿に反応する。
鏡を見ると俺の背中から蝶の羽が生えたように見える。
しかしてその実体は、
『兎針。良かったね。恋人になれて。』
『はい。これで心置き無く閃さんの匂いを堪能できます。』
奏他の声に反応する兎針。
現在、俺の背中に抱きついたまま顔を埋めて離れない兎針を引き摺って移動中。
『なぁ、流石に離れないか?。動きづらいし、その…昨晩に十分堪能したんだよな?。』
『はい。忘れられない夜になりました。閃さん。初めての私を優しくリードしてくれて…。私、幸せでした。ぽっ。』
『それは良かったよ。それで、どうして未だに嗅ぎ続けているのでしょうか?。』
『飽きが来ません。』
『おうっ。』
『確かに、閃君の匂いっていつまでも嗅いでいたくなる感じだよね。こう、身体が熱くなるっていうか…とても大きくて温かで安心できる存在に包まれているような感じ?。』
『分かります。お兄様は頭の天辺から爪先まで愛でびっしりですから。』
ト○ポ?。
『はい。閃さんの香りは七色に変化すると灯月さんが言っていました。私には深い青々しい大森林の香りに感じます。』
『そうなの?。私は閃君の匂いは大草原みたいな広大な匂いに感じるけど?。』
何それ。怖い。俺、化け物やん。
てか、人の匂いで賑わうなよ…。
めっちゃ、話弾んでるやん。
『まぁ、臭いって言われるよりは良いのかな?。』
流石に皆の視線を感じ取った兎針は渋々といった様子で俺から離れた。
『おはよ~。皆~。』ツヤツヤ。
『お、おはよう…。』ゲッソリ…。
『むぅ…。』シュン…。
雑談の最中、広間にやって来た三人。
お肌も機嫌も艶々した光歌と、全てを貪られたように痩せ細った基汐。基汐の手に抱きついて光歌を恨めしそうに睨む紫音だ。
うん。深くは聞かないでおこう。
大体、想像つくし。
『てか、増えたな。ビンタの痕。』
『ああ、レクシノアのことを報告したからな。』
『ああ~。基汐の神獣か…。』
基汐の契約した隠竜子の神獣。
まぁ、神獣とはいえ基汐の中に別の女の子がいるって分かったら光歌怒るよなぁ。
『ビンタ一発で許してくれたんだ。俺の彼女は優しいよ。』
『お前…強いな。』
昨日のビンタの痕も消えていない。
両の頬に残る手のひらの痕が光歌の本気の怒りを物語っていた。
アイツ…ハーレム系の主人公好きじゃないかなら…人には薦めるくせに。
『何よ。』
『何でもない。』
嫉妬のオーラに包まれた光歌の睨み。
エーテルが燃え盛る炎のように…怖い怖い…。
『あ、あの…閃さん。』
『ん?。』
不意に美緑に声をかけられる。
『その…後で良いので、私の部屋に来ていただけませんか?。出来れば…お一人で。』
『ああ、それは構わないよ。最初から二人きりの時間を作るつもりだったから。』
『ふふ。ありがとうございます。閃さん。助かります。あの娘たち…人見知りなので。』
『あの娘たち?。』
そんなこんなで美緑の部屋の前に来た。
数回のノックの後、ドアを開けた瞬間。
俺の背後から首にかけて冷たい感覚が走り抜け、咄嗟にクロロの自己加速を発動しその場から離れる。
『な、何だ!?。』
『………消えた?。』
さっきまで俺がいたドアの前には純白の翼。黄金の瞳。白髪。真っ白なドレスの少女が立っていた。
その手には硬質化させた翼を短剣に変えたモノが握られていた。
あの冷たい感覚は殺気か…。誰だ?。
いや、ソラユマの記憶にあるな…確か…。
『お前は…。ホワセウア…か…。』
次回の投稿は6日の日曜日を予定しています。