第359話 緑国での日常
『朝…ですね…。んっ…。』
上半身を起こす。
窓から射し込む光は朝が来たことを教えてくれた。
身体を伸ばして眠気を飛ばす。
ようやく見慣れた部屋の間取り。
壁も床も、テーブルも椅子も窓も全てが木で作られた部屋。
美緑ちゃんの神具【神界緑樹聖域 シル・ジュカリア】。
現在、緑国の住人はこの巨大な世界樹の一部に家を造り暮らしています。
世界樹の中で生成された水が流れる川や様々な食物を育てている畑まで。
世界樹そのものが国となっているのです。
窓を開け外の様子を窺う。
うん。今日も良い天気です。
お兄様とお別れして数週間。
寂しいですが私は美緑ちゃんを支えると決めているので今日も頑張ります。
着替えと身支度を終え、簡単な朝食を済ませて外に出る。
まずは美緑ちゃんに会いに行きましょうか。
『砂羅お姉様!。』
『あら?。シュルーナちゃん。朝から元気ですね。』
私を待っていてくれていたシュルーナちゃんが駆け寄って来てくれる。
小さな身体で腰に抱きついて来たシュルーナちゃんを受け止め頭を撫でる。
『えへへ。おはようございます。砂羅お姉様。』
『はい。おはようございます。シュルーナちゃん。』
私はシュルーナちゃんに気に入られたようで、彼女は私と一緒に行動することが多い。
毎日のようにこうして迎えに来てくれるのです。
ふふ。新しい可愛い妹です。
『シュルーナちゃん。朝食は済みましたか?。』
『はい。ご飯も着替えも全部終わらせて来ました!。』
『ふふ。そうですか。偉いですね。』
『えへへ。砂羅お姉様。今日のご予定は?。』
『今日は、これから美緑ちゃんの所に行こうと考えています。』
『美緑お姉様の所ですね!。シュルーナも行って良いですか?。』
『はい。勿論ですよ。一緒に行きましょう。』
『えへへ。やったぁ。』
自然にシュルーナちゃんと手を繋いで歩き始める。
『わぁ。甘い匂いがします。』
『本当ですね。何か作っているのかもしれませんよ。』
『あれ?。砂羅?。どうしました?。』
私たちのことに気が付いた美緑ちゃん。
手元を見ると生クリームのような柔らかい生地を混ぜている途中のようでした。
とても甘い匂いが部屋中に満ちていました。
『いいえ。何か美緑ちゃんの手伝えることがあればと、聞きに来たんですよ。』
『美緑お姉様。シュルーナ。何かお手伝い出来ますか?。』
『お手伝いですか?。そうですね…あっ、では、こちらの味見をして貰えますか?。』
『これは?。クッキーですね。』
『はい。今、作っているものの完成品です。一つ食べてみて下さい。』
『は~い。いただきま~す。』
『では、私も。』
美緑ちゃんの作ってくれたクッキーを食べる。
さっぱりとした甘さ。どこか花の香りのような優しい匂いが口から鼻に吹き抜ける。
『美味しいです。これは何のお菓子ですか?。』
『えへへ。この食べられる花弁を使ったんです。仄かに甘い香りがする花弁に、こちらの花の蜜を混ぜてクッキーにしてみました。』
『美味しいですね。甘さがくどくなくて、これならいくらでも食べられそうです。』
『えへへ。良かった~。砂羅。これを皆さんに届けてくれませんか?。』
テーブルの上には小さな包みが並んでいる。
中身はこのクッキーでしょうね。
『皆さんにですね。わかりました。良いですよ。』
『私もお手伝いします。』
『お願いしますね。あっ、二人の分もありますのでお忘れなく。』
『ありがとうございます。美緑ちゃん。』
『わ~い。美緑お姉様も後で一緒に食べましょう!。』
『そうですね。美緑ちゃん。後でお茶会でも開きましょうか。』
『それは良いですね。では、紅茶も用意しておきますね。ふふ。色々な茶葉も集めたんです。』
『それは楽しみですね。では、皆さんの元に向かいましょうか。シュルーナちゃん。』
『はい!。砂羅お姉様。』
『行ってきますね。美緑ちゃん。』
『はい。よろしくお願いします。』
美緑ちゃんから預かった皆さんのクッキーを持って歩く。
シュルーナちゃんも両手にいっぱい持って、一生懸命に歩いています。
『大丈夫ですか?。』
『はい!。これくらいへっちゃらです!。』
『辛くなったら言って下さいね。』
『はい。その時はお願いします。』
まずは何処に向かいしょうか。
一番近くにいるのは…。あっ、彼処なら誰かいるでしょう。
私が最初に向かった先にいたのは…。
『こら!。多言!。サボらないの!。徳是苦はもっと頑張って!。』
『ライテア。この程度でもう力尽きたのか?。気合いが足りんぞ!。』
『いやいや、真面目にやってるって~。』
『つ、つらい…限界…。』
『ま、まだ…やれます!。』
息を絶え絶えに倒れている多言と徳是苦に叱咤する累紅ちゃん。
足を震わせながら奮起し立ち上がるライテアちゃん。
それを見て厳しい表情の中に優しい笑みを浮かべるヴァルドレさん。
彼等は先の戦いを通じ、あの戦いを糧に今までよりも更に己の心身を鍛えるために日々努力している。
『累紅ちゃん。ヴァルドレさん。精が出ますね。』
『皆さん!。おはようございます!。朝から頑張っていますね!。』
タイミングを見計らい挨拶。
すると、その場の全員の視線が私たちに集まった。
『これはこれは。シュルーナ様。砂羅様。気付かずに申し訳ありません。』
『ヴァルドレさん。頭を上げて下さい。それに様付けはいらないですよ。』
片膝をつき頭を下げるヴァルドレさん。
現女王のレルシューナちゃんの妹のシュルーナちゃんは兎も角、私にまで様付けするもんだから困ってしまいます。
『そういう訳には参りません。貴女様は美緑様や累紅様、光歌様や涼様と共にこの国を救って下さいました。故に私共は貴女様方に対し最大限の敬意を払いたいのです。』
『っ。』
頭を下げるヴァルドレさんを見てライテアちゃんも跪く。
『あはは…気にしなくても良いのにね。砂羅姉はどうしてここに?。』
『ああ。そうでした。皆さんにこれを。美緑ちゃんからのクッキーの差し入れです。おやつに食べて下さい。』
『はい!。皆の分がありますよ~。』
シュルーナちゃんがヴァルドレさんとライテアちゃんにクッキーの入った包みを渡す。
『これは、有り難き幸せ。』
『甘い…匂いが…。ありがとうございます。砂羅様。シュルーナ様。』
『ふふ。いえいえ。お礼は今度美緑ちゃんに言ってあげて下さい。』
『畏まりました。』
『分かりました。ですが、届けてくれたお二方にもお礼を言いたかったので…。』
『えへへ。それ凄く美味しいよ!。いっぱい食べてね。』
『お心遣い、ありがとうございます。ライテアちゃん。修行頑張って下さいね。』
『はい!。砂羅様!。シュルーナ様!。』
クッキーを胸に抱えたライテアちゃんは深くお辞儀をすると先程まで修行していた位置に戻って行った。
尻尾がフリフリして何度もクッキーの包みの匂いを嗅いでいた。
『ライテアのやる気を引き出して頂き感謝致します。砂羅様。シュルーナ様。私目も失礼致します。』
ライテアちゃんよりも機敏な動きで頭を下げたヴァルドレさんも戻って行った。
『あはは。真面目だよね。』
『ですね。ですが、それが彼等の強さの秘訣なのかもしれません。それでは、累紅ちゃんにも、はい。美緑ちゃんのクッキーです。』
『わおっ。やったぁ!。美味しそうな甘い匂い。』
『はぁ…はぁ…砂羅姉さん。助けて。累紅が鬼なんだ。』
『うぅ…朝からは…しんどい…。死ぬ…。』
『あらあら。』
『多言さん。徳是苦さん。お二人のクッキーです。これで元気出して下さい。』
『あ、ありがとう…シュルーナ様…。』
『ああ。丁度腹が減っていたところだ。感謝する。』
『何、休憩しようとしてるの?。』
『『っ!?。』』
『二人合わせて私一人に負ける強さ。そんなんで緑国を守れると思ってるの?。』
『い、いや…けど、ほら、休憩は必要じゃないかね~。』
『必要不可欠。』
『ええ。休憩は大切よ。ちゃんと休憩の時間は用意しているわ。ここから地上までを全力疾走、戻って来たら休憩よ!。』
『こっ!?。』
『何十キロあると!?。』
『知らないわ!。気合いよ!。気合い!。それともこの場で私と戦う?。』
『っ!?。走らせて頂きます!。』
『全力全身!。』
全力で走り出す二人。
累紅ちゃん…どれだけ二人に厳しくしたの?。
二人とも怯えてたのだけど?。
『じゃあね。二人とも。クッキーありがと。私も後で美緑ちゃんに会いに行くから。』
『はい。累紅ちゃん。程程にね。』
『頑張って下さい!。累紅お姉様!。』
『おっけ~。行ってきます!。』
二人の後を追い掛けていく累紅ちゃんの背中を小さくなるまで眺める。
横を見るとシュルーナちゃんは累紅ちゃんが見えなくなるまで手を振っていた。
『ふふ。では、次に行きましょうか。』
『はい!。行きましょう!。』
次に向かった先は、世界樹と地上の境界線。
外部との接触、侵攻があった際、それを防ぐために世界樹への入り口は一ヶ所。それ以外は鋼の様な強度を持つ棘が壁を作り侵入を妨げるようになっている。
そして、その唯一の入り口の警護を任されているのが。
『美鳥さん。フリアちゃん。おはようございます。』
『あら?。砂羅さん?。それにシュルーナちゃんではありませんか?。どうしました?。この様な場所に?。』
『おはようございます。砂羅様。シュルーナ様。』
入り口の警護に当たっていた美鳥さんとフリアちゃんの鳥族のお二人。
素早く空中を移動できる種族である二人なら有事の際の伝達をスムーズに行えるため選ばれました。
『美緑ちゃんからの差し入れです。』
『えへへ。美味しいクッキーですよ~。』
『あら?。それを届けにわざわざ来てくれたのですね。お手間を取らせてしまって申し訳ありません。』
『遠かったでしょうに。帰りは私の部下に送らせましょう。』
『ふふ。お心遣いだけで結構ですよ。シュルーナちゃんと色々なところを観察しながら散歩しているので問題ありませんから。』
『はい!。とっても楽しいです!。』
『そうですか?。では、何かあればすぐに知らせて下さい。すぐに飛んでいきますので。』
『えへへ。は~い!。』
『ええ。その時はお願いしますね。はい。では、此方をどうぞ。』
包みをお二人に渡す。
お二人共、包みから漂う甘い香りにうっとりしている。
毎日、警護ばかりだと疲れてしまいますしね。
人手が足りないとはいえ、休息は必要でしょう。
『少し休憩してきて下さい。その間、私とシュルーナちゃんがここを警護していますので。』
『そ、そんなことをさせるわけには…。』
『フリアちゃん。お言葉に甘えましょうよ。折角の差し入れと申し出ですもの。』
『しかし…。』
『ふふ。真面目なんだから。けど、張り付けてばかりじゃ破裂しちゃうわ。少しの時間くらい気を休めるのも仕事よ。』
『確かにそうですが…。』
『シュルーナ頑張りますよ!。』
『ええ!。私もシュルーナちゃんも強いから安心して休んできて。』
『………分かりました。三十分だけ。休憩を頂きます。』
『ふふ。それじゃあ砂羅さん。シュルーナちゃん。少しの間、お願いね。』
『は~い。』
『ごゆっくりです!。』
渋々といった感じで休憩へ向かうフリアちゃん。
しかし、戻ってきた時にはクッキーを食べて満足したようで幸せそうな表情を浮かべていました。
『砂羅お姉様。次は誰に届けますか?。』
『巡回警護の方々ですよ。』
『あっ、空苗お姉様たちですね。どこにいるのでしょう?。』
『まぁ、だいたい彼処でイチャイチャしてそうですが…。』
『イチャイチャ…ですか?。』
次に向かった先は、戦いで生き残った緑国の住人たちが住む居住地。
取れたて新鮮な野菜や果物が売っている賑やかな露店が並んでいる。
前王のセルレンの神具の影響で七大大国で最も多かった住人の数も、今では恐らく最下位。
ですが、それでも住人たちは生きるために一生懸命に暮らしています。
そんな彼等の手助けになれれば良いのですが…。
『あっ!。ゼグラジーオンです!。』
シュルーナちゃんの指差す方向に目を向けると大きな体格に黄金の外皮を持つ甲虫の戦士がいました。
『おお。シュルーナ様。それに砂羅様。おはようございます。』
『はい。おはようございます!。ねぇ、ねぇゼグラジーオン高いのやって!。』
『うっ、それは…危ないので…。』
『大丈夫!。落ちないもん!。』
『しかし、万が一にでも…。』
『ゼグラジーオンさん。私が砂で支えますので乗せてあげて下さい。』
『畏まりました。砂羅様。では、シュルーナ様、失礼致します。』
『きゃわ~~~。高い高い!。』
『ふふ。楽しそうですね。』
ゼグラジーオンさんの兜のような頭、角の付け根に乗ったシュルーナちゃんが持ち上がる。
視線の高さや見られる風景がいつもより高くなることにシュルーナちゃんが気に入ってしまい、彼に会う度にこうして乗せて貰っている。
『それで、砂羅様。如何なされましたか?。』
『あ、そうでした。まずはこれを、美緑ちゃんからのおやつの差し入れです。』
『おお。忝ない。先程から甘い香りが気になっていたのです。これは有り難い。感謝致します。』
『いいえ。休憩の時にでも食べて下さいね。』
『うぅ…待ち遠しい…。』
『ねぇ、ねぇ、ゼグラジーオン。空苗お姉様たちを知らない?。』
『空苗様でしたら、彼処です。』
ゆっくりとシュルーナちゃんに気を遣いながら頭を移動させたゼグラジーオンさん。
その方角にはレンガ上の建物の屋根があった。
良く見るとそこに二つの人影が。
ああ、お二人共あんなところに。やっぱり一緒にいましたね。
『いい加減に仕事しろ。いつまでサボっている?。』
『いやいや、ちゃんとやってるって。今はサボってるんじゃなくて休憩中さ。』
『貴様!。十分前にも同じことを抜かしていたではないか!。』
『怒んなって。折角なんだ一緒にイチャイチャしようぜ。』
『仕事中だ。そんなこと出来るか!。』
『あら?。冷たい反応。ベッドの上だとあんなに甘えて…。『殺すぞ?。』ごめんなさい。銃を下げて下さい。多分、その距離で撃たれたら死にます。』
『はぁ…どうしてお前はこう不真面目なのか…。』
『まぁまぁ、そんなことよりお客さんだぜ?。』
『何?。』
やっと気付いてくれましたね。
相変わらず仲の良いことです。
『お疲れ様。獏豊さん、空苗ちゃん。』
『おはようございます!。』
『ああ。砂羅さんとシュルーナちゃん。』
『おは~。』
『二人ともいつまでも油を売るな。敵がいつ来ても良いように準備するのが我々の仕事だ。』
『ゼグラジーオンまで厳しいねぇ。』
『わ、私はちゃんとやっている!。』
『ふむ。ならば獏豊だけが悪いのだな。累紅殿にお願いして鍛え直して貰おうか。』
『えっ!?。マジでそれ勘弁。て、てか、砂羅はどうしてここに?。』
『話を逸らしたな。』
『ふふ。お二人は相変わらずですね。』
『私たちはこのクッキーを届けに来たのです!。』
『ふふ。どうぞ。美緑ちゃんからの差し入れですよ。』
『ひゃっぽう!。休憩だ~。』
『お前…散々休憩しただろうが!。』
『まぁまぁ、そう固いこと言わずにさぁ~。』
『駄目だ!。見回りが終わってからにしろ!。』
『ええ~。』
空苗ちゃんとゼグラジーオンに引き摺られながら獏豊が手を振っていく。
『クッキーさんきゅう~。二人とも~。』
『ありがとうございます。お二人共。それでは、仕事に戻ります。』
『頑張ってね~。』
『はい、それではまた。』
三人と別れた後に向かったのは…。
会議室の前に差し掛かると僅かに声が聞こえてきた。
立ち止まり、入り口の前でシュルーナちゃんに静かに合図を送る。
コクコクと首を縦に振ったシュルーナちゃんは口に両手を当てた。
『やはり、他国からの侵攻があった場合、自国だけでの防衛力では守りきれんな。』
『ですが、味方になってくれる国など…。』
『まぁ、可能性があるとすれば黄国じゃないかしら?。彼処は中立国でしょ?。神眷者もいない国だしね。情報が少なく、外部の情報が一切入ってこない今、黄国以外は全員敵と見て動くべきよ。』
『セルレンとエンディア。神眷者の二つが俺たち異神に敗れたことは既に他の神眷者に周知されていると考えるべきだな。』
『くっ…他国との交流を行っていなかったことが、こんな場面で足を引っ張ることになるなんて…。』
『正直、他の国がどんな国なのかも分からないのよね。緑国は完全に鎖国状態だった訳だし。』
『唯一の救いは他国との間に巨大な海がある孤立した国だということだな。敵が攻めてきたとしても籠城戦が可能だ。しかも、国全体が美緑の支配領域。攻めるのは容易ではない。』
『それも美緑以上の能力者…それこそ閃並みの奴が出てきたらウチ等じゃ対応しきれないわよ。』
どうやらレルシューナさん、律夏さん、光歌さん、涼さんの四人でこれから方針のことについて話し合っているみたいですね。
『どうしましょう…砂羅お姉様。お姉様たちは大事なお話の途中みたいです。』
小声で話すシュルーナちゃん。
『そうですね。忙しそうですし…お菓子のお届けは後でにしましょうか。』
『はい。砂羅お姉様。』
『大丈夫よ。丁度休憩しようと思っていたから入ってきなさいよ。』
『あら?。良いのですか?。光歌さん?。』
『ええ。どうぞ。シュルーナも。』
『えへへ。はい。光歌お姉様。』
『はいはい。シュルーナ。今日も元気ね。』
会議室に入ると先程まで張り詰めた空気は消えていた。
美緑ちゃんからの差し入れを皆さんに配り、少しの休憩時間に入る。
『状況は芳しくなさそうですね。』
『芳しく…とは少し違うわ。情報が無さすぎてその判断すら出来ない。そんな感じよ。』
『異神を敵とする他国が攻めてきた時のことを考えれば、我々と似たような立ち位置の国と同盟を結びたいのだが…。』
『他国の状況が分からん以上…打つ手の無い状況なのだ。』
『今のような状況のまま攻められるようなことがあれば、この国の防衛力だけでは…その…。』
『力不足が否めないと…。』
『はい。その通りです。』
せめて、お兄様と連絡が取れれば…。
『皆さん!。こちら美緑です!。現在、世界樹の力を使い緊急で発信しています!。』
『っ!?。』
『美緑?。』
『何かあったのか?。』
世界樹の蔦や幹を通じて美緑ちゃんの声が響く。
その声は、普段の美緑ちゃんの声とは明らかに違う。切羽詰まった、焦っている声。
美緑ちゃんの余裕のない声に全員に緊張が走る。
『現在、人族の地下都市があると思われる方角から急速で接近するエーテルの反応を検知しました。住人の皆さんは迅速に避難を!。戦闘可能な方は至急戦闘準備を!。襲撃予測地点は東門付近です!。皆さん!。慌てずに迅速な対応を!。』
敵襲!?。
しかも、魔力でなくエーテルということは神眷者クラスの敵ということ!?。
『皆さん!。至急戦闘準備を!。』
『ああ。』
『シュルーナちゃんは避難民の誘導をお願い出来ますか?。』
『はい!。お姉様!。』
『さて、何処の誰かは知らないけど。ウチ等も行きましょうか。』
『私も行きます。』
『ああ。行こう!。』
私たちは敵襲が来ると予想される地点に集まった。
レルシューナさん、ヴァルドレさん。
律夏さん、獏豊さん、空苗ちゃん、多言、徳是苦、フリアちゃん、ライテアちゃん、ゼグラジーオンさん。
美緑ちゃん。光歌さん。美鳥さん、累紅ちゃん、涼さん。
そして、私。
緑国の全員が集合した。
『このエーテルって…。』
『ああ。その様ね。てか、ダーリンのエーテル?。』
『はい!。このエーテルの反応は!?。』
エーテルの反応が近付くにつれ、そのエーテルの持ち主の気配を強く感じる。
この気配は…。
『お兄様?。』
天を見上げていると、少しずつ輝きが接近してくるのが見えた。
その輝きは徐々に強くなり、そして…。
『っ!?。皆!。離れろ!。』
高速で飛来した輝きが目の前に落下…いや、墜落した。
次回の投稿は29日の日曜日を予定しています。




