第354話 現在の到達点
俺の放った神気によって地下都市に旋風が巻き起こる。
大気は震え、痺れるような感覚が肌を焦がす。
『よぉ。随分と好き勝手にやってくれたな?。ゼディナハ。それと、懐かしい顔じゃねぇか?。火車に、ゲーム時代以来だな…黒牙。』
『っ!?。』
『ちっ…。まさか、これ程…とは…。』
『最悪だな。くっそ。ついてねぇ。』
自分でも驚く程の怒気を含んだ声に、警戒し言葉を失う三人。
ゼディナハ。火車。黒牙。
クロロの記憶も受け継いだ俺はコイツ等の企みも考えも知っている。
『さぁ。散々、俺の同種を蹂躙してくれたんだ。自分が同じことをされても文句はねぇだろ?。』
もう、この地下都市に残された人族は睡蓮だけ。
守理も憧厳も。あの時から住んでいた人達も、睡蓮達が集めた人達も...……コイツ等のせいで一瞬で奪われた。
『………はぁ。こりゃあ、予想してた以上だわ…。絶対神の野郎…無理無体な要求を押し付けやがって。』
溜め息をし絶刀を肩に乗せたゼディナハが前に出る。
『初めましてだな。アンタが…いや、今更聞くことでもないか。なぁ?。観測神様。』
『流石に俺のことは知っているようだな。』
『ああ、話も噂も聞いてるぜ?。正直、俺にとっては悪い方に噂通りだったわ。』
『誰に…って、これも今更聞くことじゃねぇな。』
『ああ。今更だ。どうやら互いに互いの情報はある程度持っているようだな。まぁ、知っていると思うが俺が神眷者としての力を貰ったのは絶対神だ。この刀もその時貰った。』
『だろうな。その刀が無ければお前の目的は果たせない。それを見越して絶対神はお前を選んだんだろうな。そうだろう、ゼディナハ?。』
『………へぇ。そこまで知ってんのかい?。流石、観測神様。何でもお見通しってか?。…その通り、俺の目的は世界征服さ。この力を起点に理想の能力を得られればアンタ達、異神を全滅させ絶対神の野郎から仮想世界を貰えるって訳さ。』
『へぇ。その為の…火車か?。』
視線を火車に向ける。
小馬鹿にしたように、挑発的に笑ってやる。
『………はん?。何言ってんだ?。お前。』
『………火車。止めろ。まだ、動くな。』
『止めんじゃねぇ。今、アイツは俺を挑発しやがったんだ!。俺は見くびられんのが大嫌いなんだよっ!。』
こんな顔見て笑っただけの単純な挑発に乗ってしまう馬鹿が、俺の仲間を殺したってことに余計に苛立つ。
『らあっ!。』
『てめぇ…よくも、守理や憧厳達を喰ってくれたな?。それに仮想世界でも、赤国でも暴れてくれやがって。』
速く鋭い巨大な拳を軽く躱して奴に頭の上に乗る。
『は?。てめぇ!。降りろ!。』
『俺はお前が端骨の次に嫌いだ。だから、容赦はしねぇ。【雷獣・放雷】。』
ラディガルの雷を脳天からお見舞いする。
全身の肉を焦がし、稲妻が筋肉を破壊する。
『ぎゃああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?!?!?。』
雷の放出を止めると黒焦げになり気絶した火車の体を蹴り飛ばす。
ゼディナハの足元まで地面を転がっていった。
『もう再生が始まってんな。コイツは仮想世界の時以上の再生力だ。それに、俺の技を喰らう直前に人功気と仙技を使って防御してたな。他人を喰らって得た力、使いこなしてんじゃねぇか。気に入らねぇ。』
『まぁな。それが目的だからな。』
火車の頭を蹴ったゼディナハ。
既に再生を終えた火車が意識を取り戻す。
『頭が悪いのがどうしようもない弱点だな。』
『ははは。違いない。おい。火車。お前じゃ、奴に勝てねぇよ。俺の合図まで動くんじゃねぇ。』
『あ、ああ。すまねぇ。ゼディナハさん。頭に血が登ってた…。』
『馬鹿が。敵の力量くらい察せよ。アイツは桁が違ぇ。黒牙。分かってると思うが…。』
『ああ。お前に任せる。』
ゼディナハが更に一歩前に出る。
コイツ…危険だな。
この状況下でも何かを考えている。
逃げる手段か。生き残る術か。勝つ方法か。
『すまねぇな。話の途中に…空気を読まねぇ手下でよ。』
『気にするな。俺のすることは変わらねぇ。』
『ははは。怖い怖い。今ままで何柱か異神と接触してきたがアンタは別格だったわ。イグハーレンの野郎が敗けたって聞いた時は、まぁ、そんなもんだろっとか思ってたんだがな。アンタが相手なら敗けて当然だったな。』
『世辞はいらねぇぞ。後、必死にこの場を切り抜ける作戦を考えてるようだが、無駄だ。俺はお前等を逃がさねぇ。』
『………くくく。俺の作戦も思考も筒抜けっと。はぁ…勝てる気がしねぇな。』
『その割には諦めた様子はねぇな。まぁ、考えても仕方がねぇし教えてもくれないだろう?。なら、その表情を少し崩してやろうか?。』
『へぇ。どうやってだ?。』
『お前の目的。』
『何?。俺の目的はさっき話した通りだが?。神から報酬として与えられる仮想世界。俺はそれを手に入れ一世界の頂点に君臨する。』
『ははは。嘘つけよ。お前の目的は 【世界網】の外 に出ることだろう?。』
『っ!?。』
『ほらな。漸く表情が変わったな。』
俺の口から出た単語にゼディナハの表情から笑みが消える。
『お前…何故…その答えに辿り着いた?。』
『あん?。そんなもん簡単だ。お前、世界が終焉を迎え再生する、繰り返しを知っているだろう?。恐らく、情報の出所は絶対神か………青国にいるリスティナもどきだ。仮想世界の情報を持つアイツならそこからの情報を逆算して世界の真実に辿り着いても可笑しくはない。』
リスティナもどきのことはアリプキニアの記憶にあった。
『可笑しいねぇ。アンタはリスティナには会っていないと思ってたんだがな。ここと緑国にしか行っていないと聞いてたが…。そうか…。そこまで完成に近付いていたんだな。』
『ああ。俺の神具は覗き見が趣味でね。俺の中に戻ったら色々と知れた訳さ。』
「ちょっと!。ご主人様!。そんな変態みたいな言い方止めてよ。それしか、やること無かったの!。」
心の中でクロロが喋っているが取り合えず無視。
『………。そうかい。そこまで分かってんのか。』
『ゼディナハ。世界網とは何だ?。』
『ゼディナハさん。俺も知らねぇ。』
『仲間にも秘密だったと…いや、そうだろうな。お前自身も半信半疑だったろうし。だが、安心しろよ。お前の考えている方法でも生き残れると思うぜ。いや、逆だな。その方法でしか神眷者が生き残る方法はねぇ。ただし、そこまで辿り着く道は険しいぜ?。』
悔しそうに身体を震わせるゼディナハ。
無理もない。今まで隠していた秘密の一端が手駒にバレたんだ。いくら、ゼディナハといえど冷静ではいられないだろう。
『この…クソ神が…。………すぅ。まぁ良い。黒牙、お前には後で話す。火車。』
『あ、ああ。何だ?。』
『どうやら、悠長にしている時間はないみたいでな。俺の目的が敵に知られた上に、この場から逃げ切らなきゃならねぇ。あんま時間をかけてられねぇ状況なんだわ。…だからよ。』
『な、何してんだ?。ゼディナハさん?。』
『神具。絶刀。起動。ついでに、能力。解除。』
『!?。な!?。は!?。か、身体が!?。割れる!?。うっ…。』
火車の身体に触れた瞬間。
その筋肉に包まれた巨体にヒビが入っていく。
『ぐぎ、ぐぎゃああああああぁぁぁぁぁ!?。』
断末魔の叫びを上げながら全身から黒い刀が飛び出し火車の肉体を切り刻んでいく。
『悪いがお前の役目は終わりだ。散々、自由にやって来ただろ?。最期は俺の糧になって死ね。』
『そ、そんな…ま、まだ…女で遊んでねぇ…。』
『はぁ…くだらねぇな。最初から最期まで。じゃあな。聞き飽きたし聞き苦しいぜ。火車。』
『ぶぎゃっ!?。』
短い悲鳴にも似た声を上げ、火車の肉体が小さな無数の肉片となって散らばった。
その一つ一つが同時に放出されたエーテルに取り込まれ次々にゼディナハへと吸収される。
『はぁ…さて、待たせたな。観測神様。』
『やっぱ。火車を生かしてたのはそういうことか。』
『ああ。最初からこうする為だった。もっと、色んな能力を覚えさせてからと考えていたんだが、そうも言っていられねぇからな。』
『成程ね。お前の種族…【幻像族】(ドッペルゲンガー)だろ?。』
『ご名答。対象とそっくりな分身を作れる種族だ。やっぱ、分かっちまうよなぁ…。』
分身させた絶刀を火車に吸収させ、その絶刀を自らに戻すことで火車の能力ごと吸収した。
最初からこれを狙って他国を襲撃してたんだな。
『さて、うるせぇ奴はいなくなった。黒牙。生き残りたければ全力でやれ。アイツは俺達の最大の敵だ。』
『ああ。最初からそのつもりだ。後でお前の計画を話して貰うぞ。全てな。』
『ああ。覚えとくさ。…約束だ。』
ゼディナハ。黒牙。二人の纏うエーテルが意思を表現するように黒く染まる。
どうやら、本気でこの場を潜り抜け、俺から逃げる気でいるみたいだな。
人族を皆殺しにして、俺の仲間を傷つけて…俺の家族を…響を殺したこの男は。
『お前は必ず殺す。』
『なら、俺はアンタから逃げ切るぜ。』
火車の能力で得た筋肉操作で強化した肉体で距離を詰めるゼディナハ。
振りかぶり、放たれる拳に対し俺も拳をぶつける。
俺の身体強化と同等の強化。
人族を喰らったことで身体強化の精度も練度も向上しているようだ。
ゲームだった頃のドッペルゲンガーは身体操作系統の能力が苦手な種族だった。
だが、その弱点を他者を吸収して得た能力で補っている。
『防いだか。だが、エレラエルレーラ!。』
『はい。マスター。絶ちます。』
ゼディナハの身体を陰に懐から現れる少女。
その手には絶刀。その漆黒の刃が振り抜かれる。
『だろうと思ったぜ。セツリナ!。』
『はい!。お任せ下さい!。』
エレラエルレーラの絶刀とセツリナの絶刀で受ける。
絶刀は俺ですら防げない。
なら、相殺する方法で対応する。
『私がいる限り、貴女の刀は主様には届かん。』
『くっ…私のオリジナルですか…ですが、負けません!。』
二本の絶刀の衝突。
互いに能力を打ち消し合い、火花を弾かせ衝突を繰り返す。
『まさか、あの女までもう手にしてたとはな。』
『今のお前相手に絶刀は意味がないからな。』
『ちっ…そんなことまでお見通しかよ。』
絶刀を火車に吸収させることによって絶刀への耐性を獲得させた。
その火車を取り込んだ今、ゼディナハは絶刀では絶つことが出来ない。
『ゼディナハ!。さがれ!。』
『『っ!?。』』
漆黒の羽が舞う。
上空へ飛翔した黒牙がその巨大な翼を広げた。
その背後に輝く神具の太陽が燃え盛るように大気を歪め始める。
『神具。【純黒翼・覇炎死葬光 カリュラメザ・ディべテェモース】!。【魂火】!。』
紫色の炎がマシンガンのように連射された。
人族の魂を燃料にし火力を上げた呪いの炎。
それを弾丸にして放ってきた。
『ナイスだ。黒牙。』
距離を取るゼディナハ。
広範囲の射撃。俺に逃げ場はない。
『全力で来いよ。そんな弱火じゃ俺には届かねぇ。【地龍・鱗盾】。』
全面に展開するクミシャルナの鱗の盾。
エーテルによって強度を高めた盾は炎の弾丸を容易く防ぐ。
『くっ!?。』
『なぁ、本気出せ。じゃねぇと。何の為に人族の仲間達が犠牲になったのか分からねぇだろ?。まぁ、先に言っとくが…。』
『っ!?。』
『黒牙!。上だ!。』
『上!?。地下で!?。』
地下都市の上から感じる圧倒的なエーテルの気配に気づいたゼディナハ。
人族の気配感知まで獲得しているようだな。
だが、関係ない。
行くぜ。アリプキニア。
「ああ。良いぞ。妾の力。存分に使え。」
手を天に翳し、視線で狙いを定める。
『今の俺は全力だ。一切、容赦はしねぇ。【恒星・神光】。』
遥か彼方。
リスティールを含む姉妹星を照らす眩い恒星。
その星の内部から放たれる大質量のエーテル砲撃。
光を越えた速度で放たれたそれは、神の反応速度の上。回避すら追い付かない刹那の時間で宇宙を走り目標に命中する。
即ち。
黒牙が多くの命を生け贄にし復活させた神具を塵一つ残らず破壊する。
地下都市の天井を溶かし、漆黒の太陽を破壊。そのまま、地面を焼き払う。
神具はエーテルの構成を破壊され、形を留められずに爆発を起こした。
青国の技術によって建造された地下都市は、爆発により高く聳えた建物から吹き飛び倒壊していった。
地面は俺の砲撃の威力で発生した爆風が駆け、瓦礫を巻き上げ、地面を捲り上げた。
『ぐおっ!?。』
『ちっ!?。これが…。』
爆風に巻き込まれ吹き飛ばされる黒牙。
『【雷獣・雷走】!。【炎鳥・炎翼】!。』
ラディガル走法とトゥリシエラの翼で一気に黒牙へ距離を詰める。
『なっ!?。速っ!?。』
『お前もだ。黒璃や聖愛を騙したな。俺はそれも許してねぇよ!。』
『このエーテルは!?。マズイ!?。』
『ああ。マズイぜ。全力で防げよ。防げるならな。じゃねぇと…これで死ぬぜ。神技…。』
『ぐっ!?。』
エーテルを拳に込める。
クロロ、クロエが揃った今。転生した後で編み出した神具も完成された。
エーテルによって極限まで強化された拳の一撃。
時間を操る二人の神具の能力によってこの拳は 相手のあらゆる行動よりも先 に命中する。
回避も防御も出来ないエーテルを込めただけの拳だ。
『【絶刻】。』
『ぐぶふっ!?。』
『黒牙!?。っ!?。がはっ!?。』
『マスター!?。あぐっ!?。』
拳は翼で防ごうとした黒牙の動きを止め、その腹に命中する。
衝撃とエーテルが全身を破壊し、高速で吹き飛んだ。
飛んだ先にいたゼディナハとエレラエルレーラを巻き込んで一緒に飛んでいく。
幾つもの瓦礫や建物を貫通し、揉みくちゃになった連中が倒れていた。
『すげぇな。まだ、生きてんのか?。』
『ちっ…この…化物が…。』
『くっそ…。』
俺を見るゼディナハと黒牙の眼。
恐怖か。憎しみか。怒りか。絶望か。
圧倒的な強敵を前にした時の様々な感情が感じ取れる。
『じゃあな。ゼディナハ。黒牙。お前達が奪った命…その汚い命で償って貰うぜ。』
『ぐっ…。』
再び。エーテルを拳に込め神技の準備を始める。
コイツ等を倒せば世界を守ることに一歩近づく。
これで…皆の仇を…。
『っ!?。』
『主様!。』
セツリナも気づいたか。
周囲のエーテルの異様な高まり、何かの…誰かの支配空間に入り込んだ感覚。
外部からいきなり支配空間を広げた?。
俺の気配感知を掻い潜って?。
いや、考えている場合じゃない。これは神具の発動の気配。
こんな感覚。俺の記憶にない。
『セツリナ!。戻れ!。』
『は、はい!。』
俺は全力でゼディナハから跳び退いた。
その瞬間、周囲の全てが崩壊。物質を構成しているエーテルが形を失い崩れ落ち、新たな別の物質に強制的に変化され書き換えられる…。
『こ、これは…。』
辺り一帯。
目に見えるもの全てが…輝く結晶が支配する世界に一変した。
次回の投稿は5日の木曜日を予定しています。