第353話 覚醒する観測神
アクリスの神具、魔水極魚星から召喚した船に乗って青国の上空へと到着。
警戒の薄い高さからの侵入を試みようとしたその時だった。
全身に感じる浮遊感。
歪む視界。失われる平衡感覚。
まるで、激流の中を流されているみたいに身体の自由が奪われる。
強制的な転移の感覚。
一緒に巻き込まれた近くにいた兎針と奏他。
俺にしがみつく両脇にいる二人を離さないように自分の身体へ抱き寄せ密着させた。
「神様…。助けて…。」
確かに聞こえた声。今の声は睡蓮?。
そして、この現象は恐らく守理に渡した、無凱のおっさんの 箱 の能力を記憶させた封印石の働きだ。
箱と箱による中身の入れ替えを利用した転移。
この感覚に覚えがあった。
何故、渡した守理ではなく睡蓮の声が聞こえたのかは分からない。
だが何にしても、転移が発動している以上、人族の地下都市で 何か が起きていることは間違いなさそうだ。
空間の移動に身を任せていると。
転移の反応。見つけたぞ。
おっけぇ~。捕まえたぁ。
そんな緊張した心持の中で感じた別方向に引っ張られる感覚。
まるで緊張感のない少女達の声が聞こえた瞬間、俺達の視界が晴れ別の空間に投げ出される。
『きゃっ!?。』
『わぶっ!?。』
『わっ!?。っ…いてぇ…。無事か?。二人とも?。』
『う、うん。大丈夫、閃君が庇ってくれたから。』
『私もです。ありがとうございます。』
身を挺して二人の下敷きになる。
身体は痛いが二人が無事なら良しとしよう。
『こ、ここは?。』
『知らない場所ですね。星が輝いているみたいで…宇宙?。』
俺の上にいる二人が周囲を見渡し感想を述べる。しかし、横たわる俺には二人の姿しか見えない。
宇宙って…なんだ?。
『わぁい!。ご主人様だ~。』
『うぷっ!?。』
仰向けに倒れている俺の顔が柔らかいものに包まれた。
更に何も見えなくなったな…。
しかも…く、苦しい…し。
てか、ご主人様?。この少女の声…前に何処かで?。
いや、知っている。この声は以前出会った。
出会って早々にキスをしてきた…。
『クロロか?。』
『うふふっ!?。私の名前を覚えてくれてたのですか!?。私…感激です!。ご主人様ぁ!。漸く出会えました~。大好きです~。』
黒いドレスの少女。
クロノが少し成長したような容姿だ。
緑国内で絶対神と会合した際に出会った少女。
『クロロ。ご主人様から離れる。困ってる。』
俺とクロロを引き離すように間に入ったのはいつの間にか俺の中から出てきていたクロノだった。
小さな身体で一生懸命にクロロを引き剥がそうとしていた。
『あら?。クロノ。久し振りね。』
『うん。変わんないね。』
『ええ、勿論。貴女もね。』
二人の間に微妙な空気が流れる。
何だ?。この状況は?。てか、ここ何処だ?。
睡蓮の声に呼ばれて来た筈がそこにいたのはクロロ?。
改めて、クロロが離れたので周囲を見渡す。
星の輝きが取り囲む空間。
まるで宇宙に放り出されたような場所だ。
だが、見えない地面があるせいで立つことも横になることも出来る。
重さを感じるということは重力もある。
『ここは次元の狭間に創った支配空間だ。』
『え?。…お前は…誰だ?。』
クロロの他にこの場には三人…いや、クロロを含めここにいる全員がエーテルを身に纏っている。それも…神と同等のエーテル…だ。
てか、何で四柱中二柱は隠れているんだ?。
遠くから此方の様子を窺っている二柱。
そして、堂々と登場したクロロともう一柱の神。
小さな幼女な外見だが…コイツの内在するエーテル…絶対神に近くないか?。
俺よりも…今まで出会った絶対神以外の誰よりも強いエーテルを感じる。
まるで、星そのものみたいな。
リスティナにも似ている気がするし…誰なんだ…。
『む?。キキキ。妾のことが気になるか?。閃?。』
『ああ。クロロと一緒にいるんなら敵ではないだろうが、それだけ強いエーテルを垂れ流してるんだ。気にならない訳ないだろう?。』
『キキキ。そうか。そうか。気になるなら仕方がないなぁ。では、自己紹介といこうか。妾の名はアリプキニア。最高神の一柱にして【恒星神】と呼ばれる神だ。率直に言うとリスティナの母で、閃にとってのお婆ちゃんだな。キキキ。さぁ、孫よ。妾の胸に飛び込んでくるが良い。』
『遠慮する。』
手を広げ飛び込んで来いとばかりに笑顔で待つ幼女。
アリプキニア?。婆ちゃん!?。
その幼女な見た目で孫とか言われても。
いや、神ならば外見は特に問題じゃないか。
てか、リスティナの母親ってマジか。
『キキキ。驚いているな。だが、事実だ。リスティールを照らす輝く恒星。それが妾だ。デカイだろ?。眩しいだろ?。格好いいだろ?。』
地球でいう太陽みたいな存在か。
リスティールという星の神がリスティナなら他の星に神がいても不思議じゃないし、リスティナ自身が仮想世界で姉妹が沢山いるって言ってたしな。
母親だっているか…。いるのか…。
『そうか…えっと、アリプキニア。』
『キキキ。孫に呼び捨てにされるのは、なかなかに変な感じだな。キキキ。』
『いや、その可愛い姿で婆ちゃんなんて呼べねぇし、それに会ったばっかりで今一実感がねぇ。』
『キキキ。可愛いか?。キキキ。嬉しいなぁ。実感がないというのも仕方がないことだろうし。まぁ良い。閃の人柄も知れた。なら、次に進むとしよう。おい、チィ。いつまで隠れているんだ!。出てこい。』
『っ!?。ぅ…ん。ママ…。』
隠れていた二柱の内の片方が小走りで近寄って来た。
小動物みたいで可愛い動きだ。
アリプキニアよりも幼く見えるな。
茶色の髪。青と緑のオッドアイ。瞳と同じく緑と青の色の衣服に身を包んだ少女。
『閃。』
『おっと。』
小さな身体で腰に抱きつくチィと呼ばれた神。
『閃は優しいね。沢山の命の匂いがする。皆に好かれてるね。』
『はい?。』
いきなりどうした?。
『私。チィ。リスティナの一つ下の妹。貴方の叔母さん。』
その見た目で!?。
いや、さっきつっこんだばかりだな。
『初めまして。チィ。閃だ。宜しくな。』
『うん。えへへ。閃。リスティナ姉様じゃなくて私の子供になろう。ママになってあげるよ。』
『…何を言ってるんだ?。』
『私。【生類の神】。閃と似てるよ。だから、子供。私。お母さん。』
もう見た目の幼さのせいで、おままごとのセリフにしか聞こえないんだが。
『え、遠慮しておくよ…。』
『そう?。けど、考えておいてね。』
『う…ん。』
『キキキ。チィはリスティールの隣にある惑星の神だ。誕生した順でリスティナの妹になる。妾の娘達の中で生命を誕生させたのはリスティナとチィの二柱だけなのだ。』
『うん。私。凄いよ。生まれながらのお母さん。包容力もいっぱい。』
『生命の誕生か…それは確かに凄いな。他の姉妹には出来なかったんだろ?。』
『むぅ。お母さんアピール失敗。』
『あはは…。』
俺も創造の力で他人の傷を癒すことは出来る。しかしそれは一から生命の一部分を創ることだ。それだけでも相当なエーテルと集中力を使う。最初は気を失ってたしな。
それをゼロから創ったのなら、本当に凄いことだということが理解出来る。
『ねぇ。閃。しゃがんで。』
『え?。あ…うん。』
『閃のことずっと見てたよ。いっぱい頑張ってたね。偉い。偉い。』
しゃがんだ俺の頭を小さな手が撫でる。
何か…変な感じだな。
『さて、最後の一柱だ。』
『セツリナ。いい加減に出て来なさいよ。ご主人様に失礼でしょ!。』
『は、はい!。い、今!。すぐに!。』
今度は黒い学生服を着た少女の登場だ。
黒い長い髪を束ねてポニーテールにしている。
この娘の感じ…クロノやクロロと同じ…。
『お、お久し振りです!。あ、いや、この姿でお会いするのは初めてですね…えっと…は、初めまして!。主様!。ご挨拶が遅くなり申し訳ありません!。私、セツリナ・ゼ・トキシルと申します!。主様からは【時刻ノ絶刀】と呼ばれていた神具です!。』
絶刀か!?。
【時刻法神】や【刻斬ノ太刀】がクロノやクロロだったのなら、【時刻ノ絶刀】が人型になれるのも不思議じゃないか。
けど、こんな真面目そうな美少女だったとは…。
何でも【絶つ】ことの出来る刀。
もっとこう…鋭い、危険な感じを勝手にイメージしてた。
『ああ。その…宜しくな。セツリナ…。』
『っ!。は、はい!。これから、主様の刃となり迫り来るあらゆる敵を絶ち斬ってご覧に見せます!。』
セツリナが腰に携えた絶刀を抜き放った瞬間、この場の空間に亀裂が入った。
『こ、こら!。セツリナ!。こんなところで絶刀を抜くな!。空間が壊れる!。』
『まだ!。早いぞ!。本題に入ってからだ。』
『あ…すまん…つい…嬉しくて…。』
クロロとアリプキニアに止められ刀を納めるセツリナ。
えっと…うん。イメージは違うけど、この真っ直ぐ感というか…猪突猛進みたいな性格は間違いなく絶刀っぽい…。
『絶刀か…。仮想世界やゲーム時代は色々と助けられた。ありがとうな。』
俺にとっては切り札の一つだ。
何度も助けられ窮地を救われた。
『っ!?。め、滅相もありません!。私は主様のお役に立てれるだけで満足ですので。』
『そうか?。まぁ、何にしてもこれから宜しくな。セツリナ。』
『ん~。はい!。此方こそ!。え、えへへ…。』
セツリナの頭を撫でると嬉しそうに笑ってくれた。
それから兎針や奏他とも挨拶を済ませ円陣を組んで説明が始まった。
しかし、徐々にその円が俺の方へ収束しているのは気のせいか?。
『それで?。この状況を聞いても良いか?。俺は睡蓮…人族の仲間に呼ばれたと思ったんだが、ここは何処なんだ?。』
クロロが創った支配空間と言っていたが?。
『それはね。ご主人様が転移してる最中に無理矢理こっちの空間に引っ張り込んだからだよ~。私の創った【時間と時間の間の空間】にね。』
『時間の間?。』
『そ。外の世界の一秒間の狭間に創ったの。だから、外の世界は今時間が止まってるんだぁ~。ここから出ても一秒しか経ってないの。どうしてもご主人様に会いたかったから強行手段を使ったんだ。』
『俺に?。』
『はい。主様。私とクロロは貴方様の神具です。クロノ同様、主様にこの身、この力を捧げるべく、この時を待ち望んでおりました。』
きっちりと正座してハキハキと話すセツリナ。
行動の端々から真面目さが窺える。
『成程。クロノも俺と合流する為に動いていたからな。本来の俺の力を取り戻すにはお前達の力が必要ってクティナも言っていたし。』
因みにクティナは俺の中で寝ている。
たまに起きて出てきては抱きついて帰っていく。
『はい。なので、私達は貴方の中に戻る為に待っていたのです。貴方の神具である本来の形に。』
『ああ。心強いよ。それで?。アリプキニア達が俺と接触した目的は何だ?。』
『ん。簡単だ。妾も閃にこの内にある力をやろうと思ってな。』
『それは…どういうことだ?。アリプキニアは俺の神具ではないだろう?。』
『話せば長くなるのでな。それは一つとなってから自ずと知れよう。なぁに。閃も知っているように一つとなっても他の神獣同様に閃の中に入るだけだ。キキキ。何も問題あるまい。』
『何だ?。その含みのある言い方は?。』
『なぁに。孫と共に生きるこれからも楽しそうだと思っただけだ。知っての通り一つとなれば運命共同体だ。神となり永遠とも呼べる時間を共に過ごすのだ。キキキ。退屈はしないだろうな。』
『肝心なことは言わないのな。まぁ、俺はお前達が俺と同化して一つになった後に後悔しないなら断らないけどな。強くなれるなら…それは俺にとっては願ったり叶ったりだ。』
『キキキ。そうかそうか。後悔などせんよ。世界の真実を知った今、最善の手はこの方法しか有り得んのだからな。』
『世界の真実?。』
『それはぁ~。私の役目ですよぉ~。ご主人様~。』
クロロが立ち上がり俺の横に移動する。
軽い口調のクロロから真剣さが伝わって来た。
自然と立ち上がった俺にクロロが膝をつき頭を下げる。
『ご主人様。このクロロ。貴方様から頂いた命令、無事遂行致しました。これまでの貴方様の【記憶】…お返し致します。』
クロロが俺の中へと入ってくる。
その身体は光の粒子となり、本来の在るべき場所へ。失われた歯車が填まるように俺の中で一つとなった。
その瞬間。俺の脳裏に通常では考えられない程の情報が流れ込んできた。
今の自分のモノではない。自分の記憶。
今までの【閃】の人生。
何度も繰り返した転生。生まれて死んで、再び生まれる繰り返される輪廻。
同時に世界の真実が記憶として蘇る。
その事実に振り回され翻弄され続けた人生が実体験の記憶として改めて脳に刻まれた。
繰り返される誕生と死。
様々な出会いと別れ。
始まりは同じでも別の流れを辿った人生。
神となり世界の運命を背負った戦い。
敗北の繰り返し。
神々の在り方と世界の運営。
絶対神の考え。そこから導き出される結論。
本来の世界の形。
神眷者達の狙い。
俺達の…異神の役割。
惑星の神の存在意義。
俺…観測神の存在する理由。観測神の役目。
このリスティールを舞台に行われていること。
神の居城と最高神。そして、世界神。
今までと違う今回の世界。
クロロの想いとクロロの記憶。
そして、本当の敵…ダークマター。
その敵によって訪れる終焉。
『うわああああああああああ!?!?!?。』
過剰なまでの情報量の奔流によって意識が深い闇の中へと落ちていった。
~~~~~
全身がグルグルと回転しているような感覚。
圧倒的な記憶の情報量の奔流。まるで一気に押し寄せる濁流に巻き込まれたような、そんな感覚も徐々に治まってきた。
少しずつクリアになっていく思考。
浮上する意識。
俺の肉体と脳は、脳内で自動的に統合された新たな記憶に対応し始めていた。
『うっ…。』
どれだけ寝ていたんだろうか?。
俺はゆっくりと目を開いた。
不快感はない。それよりも意識がはっきりしていて、清々しい気分ですらある。
『お、起きたか。閃よ。どうだ?。気分は?。』
『あ、ああ。思い出した。全部。』
『そうか…無事なようで安心した。』
目の前には逆さまになって覗き込むアリプキニアの幼い顔。どうやら、膝枕をされているようだ。
小さな手が俺の頭を撫でている。
何だろうな。幼い外見なのに妙に安心する。
『閃さん!。』
『閃君!。』
俺の両手を握ってくれていた兎針と奏他も俺の顔を覗き込んできた。
二人とも心配そうに手を強く握ってくれ、その大きな目には涙が溜まっていた。
『二人とも心配かけたな。大丈夫。何ともないよ。』
『はい…良かった…。』
『もう!。心配したんだよ!。急に叫び声を上げて倒れるから!。』
大量の情報が入り込んで来たせいで、脳が負荷に耐えきれず焼き切れ意識を手放したようだ。
『心配させてごめんな。俺は大丈夫だ。』
ゆっくりと上半身を起こす。
身体が軽い。何よりも意識や思考が今までにないくらい晴れやかだ。
クロロから与えられた今までの俺には無かった記憶。しかし、今はその記憶が自分のモノだと認識し整理されている。
生まれ変わった感じかな。
それに、俺とは別の記憶までも俺の中にある。
これは…。
『キキキ。その様子だと上手くいったようだな。』
『ああ、それにアリプキニアの記憶もあるみたいだ。』
『気がついたか?。閃が気絶している間に此方も色々と済ませてある。妾やクロロの記憶も取り込んだ今の閃ならば何をしたか理解出来るだろう?。』
『ああ。神合化か…確かに今の俺には必要だ。…けど、良かったのか?。自由が好きなアリプキニアが俺と一つになっちまって?。』
『問題ないさ。閃の神獣達とも挨拶を済ませた。こうして自由に出入りも出来るからな。不便はない。何より閃の中は居心地が良い。キキキ。婆ちゃんからのささやかなプレゼントだ。存分に扱え。』
『プレゼントにしては見返りがデカイ気がするが…まぁ、手伝ってはくれるんだろ?。』
星の運営。
アリプキニアはこの星を照らす恒星だ。
その星も管理しなければならなくなった。
『キキキ。安心せい。そっちの方は引き続き妾がしてやる。』
『そうか?。じゃあ、手伝えることがあったら言ってくれ。こうなった以上、何でもするさ。』
『キキキ。ああ。期待しているぞ。』
さて、状況は理解出来た。
アリプキニアの記憶は俺が気を失った後のこともあったからな。
アリプキニアとの神合化。
クロロとセツリナは俺の中に戻った。
これで、全ての神具が戻って来たことになる。
そして…。
『チィは、兎針と神合化したんだな。』
兎針の方を見ると明らかに先程までとは雰囲気が変化していた。
纏うエーテルの性質も兎針本来のものとチィの持っていた性質が融合したモノへと進化していたのだ。
『はい。チィさんと契約を交わしました。これでもっと閃さんの力になれます。』
『奏他は閃との繋がりが強かったから…兎針が適任だったの。能力の性質も近かったから。』
蝶の神である兎針と生類の神のチィ。
確かに相性は良さそうだな。
俺と兎針。この短期間で惑星の神に進化してしまった。
予想だにしていなかったことだが、今の俺達には必要なことなんだ。
真実を知った今、これからの行動に全てがかかっているんだから。
『世界の真実も二人には説明しておいたぞ。後は閃次第だ。』
『分かった。クロロ。セツリナ。アリプキニア。チィ。これから宜しくな。』
『はい!。主様!。』
『ふふ。やっと待ちわびた時、ですわ。』
『ああ。孫よ。妾は主と共に世界を救う。』
『うん。私、閃の仲間。』
新たな出会いと仲間。
取り戻した過去と力。
俺の目的は確定した。世界を救う。
『兎針。奏他。準備は良いか?。』
『はい。』
『うん。』
クロロの能力を使い空間に穴を開く。
『この先は人族の地下都市だ。いきなり戦闘が始まることになる。覚悟して行くぞ。』
クロロの記憶を得た俺は人族の地下都市で何が起きたのかを知っている。
黒牙、ゼディナハ、火車による突然の襲撃。
黒牙の神具によって人功気を操れない人間は抵抗すら出来ずに肉体を燃やされ魂を吸収された。
人功気を操れる者も火車に蹂躙され殺され奴の餌にされて…憧厳も…守理も殺されて…喰われた。
何度も俺を呼ぼうとした守理だったが、人功気を黒牙に吸収され封印石を起動することが出来ずに睡蓮に託す形となった。
既に人族の地下都市に生きている人は睡蓮だけ。
それ以外は皆死んでしまった。
『………行くぞ。』
高まる気持ち。
沸き上がる怒りを抑えながら俺は空間の穴へと身を投げた。
ーーー
『神様…。助けて…。』
黒牙に首を絞められながらも、片手には力を失い輝きが消えた封印石を握る睡蓮。
瞬時に黒牙の腕を切り裂き睡蓮の体を抱き距離を取る。
『ああ。遅くなった。睡蓮。助けに来たぞ。』
俺の登場に目を見開く睡蓮。
助けられたことを理解した睡蓮がジワリとその瞳に涙が溢れ震える声で。
『閃…様…。』
俺の名を呼ぶ。
そして、しがみつき。
『皆が………アイツ等に…。』
状況を説明する睡蓮を制する。
『言わなくて良い。全部知ってる。ここで何があったのか。だから、安心しろ。』
その言葉に口を噤む。
俺の雰囲気を察したのか、服を掴む手だけに力を入れた睡蓮が胸に顔を埋めた。
睡蓮を兎針と奏他に任せる。
睡蓮の身体の傷はクロロに時間を巻き戻させ回復させる。
ゼディナハの絶刀で傷つけられた足はこの方法でしか治癒できない。
さて、いい加減我慢の限界だな。
睡蓮が完治したことを確認した俺は改めて、この惨状を引き起こした連中に声を掛けた。
『よぉ。随分と好き勝手にやってくれたな?。ゼディナハ。それと、懐かしい顔じゃねぇか?。火車に、ゲーム時代以来だな…黒牙。』
『っ!?。』
『ちっ…。』
『最悪だな。』
警戒を強める三人。
あの猪突猛進の火車までも冷や汗を流しているくらいに動揺している。
その理由は。
俺が…神が纏うエーテル。
純エーテルに人功気の応用で気を乗せた【神気】で威圧したからだ。
『さぁ。散々、俺の同種を蹂躙してくれたんだ。自分が同じことをされても文句はねぇだろ?。』
完成形へと近づいた観測神となった俺は全力でエーテルを放出した。
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