番外編 神世界のゴールデンウィーク③
静かな廊下を歩いていく。
いつもは誰かしらとすれ違い、何処からか話し声が聞こえてくる筈のこの場所も長期休暇に入ったばかりの今は誰もいない。
皆、休みを満喫してくれてると良いんだが。
折角、リスティールに休日やイベント事を取り入れたんだ。普段頑張ってくれてる皆がリフレッシュ出来れば嬉しいな。
『さて、次は…ああ、共有スペースか。』
瀬愛の気配を感じ取ったのは、メンバー達が好きな時に交流出来るように造った共有空間。
食堂の近くに造ったので、数人で食事も楽しめる場所になっている。
はて、さっき睦美に会った時は瀬愛の気配は感じなかったが?。
どれどれ、いるかな?。
『あっ…お兄ちゃんの気配です。』
『えっ…お兄ちゃん!。』
共有スペースに顔を覗かせた俺に真っ先に気付いたのは翡無琥だった。
翡無琥の言葉に瀬愛が反応して飛び出してくる。
『お兄ちゃん!。』
『おっと。お早う。瀬愛。元気してるか?。』
『うん!。元気!。お兄ちゃん~。』
小さな体で俺に抱きついてきた瀬愛を優しく抱き止め頭を撫でる。
そのまま瀬愛を抱き上げて共有スペースに複数設置されたテーブルへ向かう。
テーブルには、様々なお菓子と飲み物が置かれ、それを囲う椅子に座るメンバー。
『お早う。皆。』
『お早う御座います。お兄ちゃん。』
『お早う御座います。お兄さん。』
翡無琥と夢伽が挨拶してくれる。
椅子から立ち上がり、俺の方へと近付いてきてくれる二人に、瀬愛を下ろして頭を撫でた。
『瀬愛も。瀬愛も。』
『はいよ。』
『えへへ。』
暫く三人の頭を撫で、他のメンバーにも声を掛ける。
『母さん。睡蓮。黄華さん。お早う。』
『お早~う。閃ちゃ~ん。』
『よぉ。来たなぁ。閃はん。』
『お早う。閃君。珍しいね。一人でこんな場所に来るなんて。』
テーブルから少し離れた長椅子に座る三人。
どうやら、女性同士の話しに花を咲かせていたようだ。
『ああ。瀬愛達に渡したい物があってな。』
俺は懐から各々へのプレゼントを取り出す。
『わぁっ!。何々!?。お兄ちゃんのプレゼント?。』
『ああ。俺から皆にプレゼントだ。翡無琥にも、夢伽にもあるぞ。』
『良いのですか?。私にまで?。』
『勿論だ。その為に作ったんだ。受け取ってくれると嬉しいよ。』
『お兄ちゃん…ありがとう御座います。』
『開けても良いですか?。お兄さん?。』
『ああ。良いぞ。』
三人は各々のプレゼントを開封していく。
『黄華さん。ごめんな。流石におっさんに悪いから黄華さんの分は用意してない。』
『良いわよ。私のことは気にしないで。閃君は貴方の大切な子達の為に頑張りなさい。』
『ああ。助かるよ。母さんと睡蓮にも用意したんだ。受け取ってくれ。』
『えっ~!?。私達にも~。あるの~?。嬉しいわぁ~。』
『良いんかえ?。ワッチにまで?。』
『当たり前だ。二人とも俺の大切な女性だからな。恋人…と、言って良いか分からないが心から大事にしてるし、愛している。』
『っ~~~。閃ちゃん。抱いて!。』
『いや、抱かないから。母さん。エーテル漏れてるから!。皆、発情しちまうだろうが!。』
『あらら。御免なさい。ふふ。二人きりの時にね。』
『………ああ。その時にな。』
『ワッチも…その…いつんでも、呼んで、くれな?。』
『あ、う、うん。時間は作るよ。睡蓮。』
二人もプレゼントへと意識を落とし開封を始める。
『わっ!。髪飾りだぁ!。』
『あっ。私もです。けど、皆さんと造形が違いますね。』
『私のもです。もしかして、私達に合わせて作ったんですか?。』
『ああ。各々の俺のイメージを形にして作った髪留めだ。ど、どうかな?。気に入ってくれるか?。』
『お兄ちゃん!。お兄ちゃん!。瀬愛に着けて着けて!。』
『ああ。良いぞ。』
しゃがんで瀬愛と目線を合わして髪留めを、その少し癖っ毛な髪に着ける。
『えへへ。可愛いね。これ。』
ぴょんぴょんと跳ねる瀬愛。
近くにあった鏡の前の移動して何度も確認する。
瀬愛には八つの宝石を埋め込んだ髪留め。
翡無琥には七色に輝く宝石の髪留め。
夢伽には龍と花弁を模した髪留め。
『私もお願いしても良いですか?。』
『勿論。翡無琥。失礼するぞ。』
白い。さらさらな髪に着ける。
翡無琥の綺麗な瞳をイメージして作ったからな。かなり良い感じの出来映えだと思う。
『ありがとう御座います。お兄ちゃん。私も見てきます。』
翡無琥も瀬愛と同じく鏡の前に向かう。
『翡無琥お姉ちゃんの綺麗…可愛いね!。』
『ふふ。ありがとう。瀬愛ちゃんのも似合ってます。』
『えへへ。でしょう?。』
瀬愛と翡無琥は互いに見せ合いっこして喜んでくれている。
どうやら気に入ってくれたようだ。
『お兄さん。私にもお願いします。』
『ああ。少し頭借りるぞ。』
『ふふ。お兄さん。』
『おっと!?。』
急に抱きついてくる夢伽。
抱きついてくるだけでは終わらず、透かさず唇を重ねてきた。って、コイツ舌まで入れてきやがった!?。
『ちゅぱちゅぱ。ふふ。お兄さん。大好きです。私を沢山滅茶苦茶に『何しとんか!。』はぎゅあう!?。』
大胆にも服をはだけさせ、素肌の面積を増やし身体を密着させてきた夢伽。
しかし、不意の後頭部に振り落とされた睡蓮の拳骨に沈む。
『夢伽。何度も言っとろうが!。童にはまだ早いわ!。』
『うぅ…お姉さん…酷いです。』
『何を言っとんが!。前々んからお前んには礼儀作法を教えてやっとんだろうが!。成人年齢まで性的行為は禁止じゃい!。』
『むぅ。お姉さん、意地悪です。ですが、仮想世界が異世界に侵食された時、私は小学校三年生。それから二年が経過し、この世界へと転生、そして、それから更に約二年が経過しました。つまり、私は立派なレディです!。』
『…はぁ………夢伽ちゃん。それでも中学生だよ…。』
『ほら、見ろ!。まだまだ拙い童ではないんか!。夢伽にはまだ早うだ!。』
『くっ…黄華お姉さんまで…。ふん。良いですよ。お兄さん。』
『え?。お、おう。どうした?。』
急に話を振られて戸惑う。
『どうやら、私はまだ幼さの残る子供のようです。』
『まぁ、そうだな。』
『ですが、そういう知識は人一倍詰め込んでいます。なので、私が大人になった時は覚悟して下さいね。』
『おお~。宣戦布告ね~。やるわね~。夢伽ちゃん~。』
『つつ美さん…興奮しないで下さい。』
『んまぁ、成人してからは口を出すつもりはないわ。蓄えた知識、存分に披露せいな。』
『はい。睡蓮お姉さん!。』
『何だかな~。』
その後、夢伽は何かを閃いたようで翡無琥と瀬愛を呼んで三人でひそひそと会話している。
『わ~お。可愛いわ~。ハートマークに私の翼がついてるわ~。』
『ワッチのは睡蓮の花を象っておる。綺麗だな。』
『一応、後ろの付け根の部分を動かせばブローチにもなるんだ。髪留めと使うのも良いし服に着けるのも自由だよ。』
『へぇ~。閃ちゃん。ママのここに着けて~。』
そう言った母さんは、その大きな胸を突き出してきた。
敢えて突っ込まなかったけど、今日の服も胸元が半分以上出て…いや、溢れてるんだよなぁ…。
胸が大きくて着る服が偏るのは分かるけど、もう少し露出度を抑えてくれないと…少し困る。
『はいはい。ここで良いか?。』
『あん。もっと真ん中に~。やん、そこは先っぽよ~。』
『まだ、何もしてないけどな…。はい。できたよ。』
『むぅ。早すぎて見えなかったわ。ズルい。閃ちゃんはママが嫌いなのぉ?。』
『好きに決まってんだろ!。』
『あ……………ぅん。嬉しい、わ。あ、はは…。』
不意打ちに弱いのは親子で変わらないらしい。
俺の素直な気持ちを聞いた母さんは顔を真っ赤にして俯いてしまう。
胸につけられたブローチとなった髪留めを指先で撫でながら嬉しそうに、はにかんでいる。
『ワッチは後ろ髪を留めとくれ。』
『おっけ。』
背中を向けた睡蓮。
髪の隙間から覗くうなじが妙に色っぽい。
『出来たぞ。』
『ふふ。あんがと。閃はん。本当にいつでも部屋んに呼んどってくれな?。』
『ああ。寧ろ、俺から行くよ。睡蓮と一緒に居たいからな。』
『ああん。駄目やん~。年甲斐もなくときめいとるん~。』
自分で身体を抱き締めながらその場でくるくると回転を始める睡蓮。
『お兄さん!。』
『お兄ちゃん!。』
『お兄ちゃん!。』
『おっ…と、びっくりしたぁ。どうした?。』
いきなり瀬愛と翡無琥と夢伽に迫られる。
可愛い顔が目の前にあり、今すぐにでも抱きしめたくなる。
『今から一緒にお風呂に入りましょう。』
『何でそうなった?。まだ朝なんだけど?。』
『ふふ。私達三人でお兄さんの身体の隅から隅まで洗ってあげます。いえ!。癒してあげます!。』
『お兄ちゃん。女の子になるのは駄目ですよ。』
『あ、あと、身体はボディタオルを使わずに………私達の身体で…洗って………うぅ…恥ずかしいよぅ…。』
『駄目に決まってんだろ。それに仮に入るとしても風呂にはまだ早すぎる。』
『あら?。お兄さん?。お・子・さ・まな私達の身体でなんて興奮しないですよね?。私は構わないですが、お兄さんが恋人との誘いを断るとは…。』
『お兄ちゃん。瀬愛一緒に入りたい。』
『お兄ちゃん…わ、私も、お姉ちゃん達みたいに沢山ご奉仕…するよ?。』
『ふふ。どうですか?。お兄さん?。私達の身体を一度に堪能するチャンスですよ?。』
『あらあら。閃ちゃん。修羅場ね~。』
『閃はん?。』
『閃君?。』
黄華さんと睡蓮の視線が痛い。
母さんは面白がってるし…。
『後でな。一緒には入るが、普通に入浴しような。特に夢伽。変なことは無しだ。』
『ええ~。』
『ええ~。ししし。』
『え、ええ~。ぅ…。』
三人の示し合わせたかのような『ええ~。』が響く。
『言うこと聞かないと一緒にも入らないぞ?。』
『それは嫌です!。私は!。お兄ちゃんと一緒に入りたい!。』
『おっ!?。おう…翡無琥、そんなにか。分かった。一緒に入ろうな。』
『え?。あっ…その…ふしゅ~~~。』
真っ先に反応した翡無琥が顔を真っ赤にして俯いた。
『なんなら二人きりでも良いぞ。』
『っ!?。…えへへ。うん。嬉しい…です。』
『ええ~。翡無琥お姉ちゃんだけ、ズルい~。瀬愛もお兄ちゃんと二人で入る~。』
『ああ。良いぞ。』
『本当?。やったぁ~。』
『おっ、お兄さん!。わ、私は?。』
『夢伽。変なことはしないか?。』
『はい!。ちょっと裸で抱きつくだけです!。』
『それは…。』
う…うん。恋人ならアリなのか?。
兄としても駄目な気がする。
だがなぁ…女の姿になればアリか?。
チラリと睡蓮を見る。
『ワッチも一緒を所望かえ?。』
『まぁ、それでも良いかな?。』
『駄目~。お兄さんと二人が良いです!。こればっかりは譲れません!。』
『わ、分かったって!。エーテル出すな!。』
『ふふ。尻尾を出したら服が乱れちゃいました。私はどうですか?。お兄さん?。私の身体は~。』
コイツ…反省していない。
てか、どんどん灯月に似て…いや、微妙に別方向の成長?をしているな。
『良し。取り敢えず今はここまでだ。後で迎えに行くからな。』
『はい。お兄ちゃん。』
『瀬愛。良い子で待ってるよ!。』
『うぅ…。まだまだ、色気が足りませんね…。』
『自業自得だ。母さんも睡蓮もまたな。黄華さん。お邪魔しました。』
『閃ちゃ~ん。私も待ってるわね~。』
『ワッチもじゃ。この身は貴方に捧げたモノ…貴方の望むままにせな。』
『はぁ…相変わらずね…貴女達。まぁ、閃君も大変だと思うけど頑張りなさい。』
『ああ。それじゃあ。』
俺はこの場を離れ次の目的地へと向かう。
てか、アイツ等…朝から何やってるんだ?。
四人集まってずっと部屋から出てこないし、円陣組んで動いてもいない。
はぁ…また何か企んでんのか?。
小さく溜め息をし、目的地へと向かう。
てか、あの二人も、いつまでついてくる気かね~。
~~~~~
ーーーとある個室ーーー
部屋の全てのカーテンが閉められ、照明も落とされた一室。
そこでは、一本の蝋燭が中心に置かれたテーブルを囲い四人の少女がとある会議を行っていた。
全員がローブを頭から被り、格好良くテーブルに両肘を立て寄り掛かり、両手を口元の前に持ってくるポーズを取っていた。
まるで、何処かの司令官のようなポーズだ。
『では、次の【にぃ様大好きクラブ】の作戦は【にぃ様に幼児化させる薬を飲ませ、小さくなったにぃ様に対してクラブメンバー達がどの様な母性を発現させるか。】というもので決定。宜しいですか?。』
『うむ。意義はない。小さな神さまぁも見てみたいものだ。さぞ、途轍もない可愛さなのだろうな。今から楽しみだ。』
『代刃君…何か知らない内に灯月ちゃんと八雲だけで話が進んじゃったよ!?。しかも、何か凄い作戦が決定しちゃってるし…。』
『僕は止めたんだ。一生懸命止めたんだ。僕は頑張ったんだ。止めたんだ…止めたんだ…止めたんだ…止めたんだ…。』
『うわあああああぁぁぁぁぁん。代刃君が壊れた~。』
『そこ!。静かにして下さい!。どうやら、いけない何かを想像しているようですが、今回の作戦至ってシンプルかつ安全です。寧ろ、二人にも恩恵は大きいと思いますよ?。』
『え?。それはどんな?。』
『恩恵って?。』
『良いですか?。代刃ねぇ様。燕ねぇ様。想像してみて下さい。そうです。目を閉じて。』
『う…うん。』
『想像ね…。』
『二人の目の前には、小さくなったにぃ様がいます。とっても小さくて二人の腰くらいに頭がくる感じです。とってもプリティで可愛いんです。口に入れても、目に入れても、色んなところに入れても痛くない。そんな幼いにぃ様が貴女方の服の裾を小さな手で必死に掴んで上目遣いでおねだりしてきます。』
『うっ…な。何て?。』
『うぅ…閃さんの…子供の姿…が…上目遣い…。』
『それは……………。』
静かに息を吸う灯月。
溜めに溜めてとある言葉を発する。
『だっこ。』
『『がはっ!?!?!?。』』
血?。を吐いて椅子から落ち倒れ込む二人。
地面を転がりながら悶絶している。
どうやら二人とも鼻血を流していたようだ。
『ふっ。他愛もありません。これで決まりですね。』
『ああ。悪は滅びた。これで我々の邪魔をするものは存在しない。』
『楽しみですね。皆さんがどの様な母性をお持ちなのか。』
『私は一緒に遊んでやるぞ。宇宙に連れてってやるんだ。』
『良いですね。それ。では、作戦会議はここまでにしましょう。まずは、青国の技術を使い光歌ねぇ様達の力を借りて例の薬の開発を…。』
『させねぇよ!。』
『うぐっ!?。』
『うぎゃっ!?。』
俺は一気にカーテンを開け、灯月と八雲も頭をお手製のハリセンで叩いた。
頭を押さえながら俺と目が合う二人は涙目のまま俺と認識するとすぐに笑顔になって抱きついてきた。
『にぃ~様ぁ~。』
『神さまぁ~。』
こ、コイツら反省していない…だと。
『うぅ…閃…僕は止めたんだよぉ…。』
『わ、私もだよ!。け、けど。ちょっと閃さんの小さな姿も興味があるだけで。』
『てか、そんな薬無いだろう?。』
『いいえ。にぃ様。既に試作品は完成済みです。因みに此方です。』
『あるのかよ!?。てか、普通の錠剤だな。』
『はい。これを飲めば忽ち、一定時間子供の姿になることが出来ます。試作品ですがほぼ完成品と言っても差し支えないレベルです。』
『神さまぁ。あれ出来ますよ。』
『あれって?。』
『少年探偵ごっこです。』
『はい?。』
何それ。ちょっと面白そう。
『あ、ちょっと心が揺らいでる。』
『そ、それより閃はどうしてここに?。』
『あっ。そうだった。』
危うく流されるところだった。
『お前達にこれを渡すのに探してたんだ。』
俺は四人にプレゼントを渡していく。
確認した四人がプレゼントを開封していく。
『あっ!。髪留めだ。』
『本当だ。凄く綺麗…閃さん。これ貰っちゃって良いの?。』
『ああ。お前達をイメージして作ったんだ。気にってくれたなら受け取ってくれ。』
『神さまぁ~。一生大事にします!。』
『ありがたいけど。俺があげたプレゼント全部に言ってないか?。』
『私の私物は神さまぁから頂いたもの以外は殆んどありませんのです。神さまぁからの私物が増えることは嬉しいのです。』
そうだった。八雲は食料や消耗品以外、本当に何も買わないからな。
初めて部屋に行った時、部屋の中には俺があげた物以外に本当に何もなく強制的にベッドやタンス、服などを買いに行ったのを覚えている。
自分のこと…というか、どんな環境でも生き延びてそうなんだよなぁ…八雲って。
『皆、各々にデザインが違うんだね。私のは時計と風を切ってるイメージっぽいのに、代刃君のは扉と渦巻き。』
『私のは、並んでる惑星だな。』
『ふふ。にぃ様。本当にありがとう御座います。大切にしますね。』
両手で大切そうに髪留めを握った灯月が身体を預けてくる。
因みに灯月の髪留めのデザインは、黒白の翼だ。
そして、徐に今着けてる髪留めを外す灯月。
『にぃ様。差し出がましい願いですが。この髪留めを着けて下さいませんか?。』
『勿論良いぞ。ほら。』
灯月のさらさら髪に着ける。
『ふふ。有難う御座います。にぃ様。大好きです。ちゅっ。』
灯月とキスをして抱きしめる。
その後は、八雲、代刃、燕と同じやり取り。
『神さまぁ。大好きです。』
『あ、ありがとう。閃。これ、大切にするね。』
『わ、私も。閃さんのこと。好きだからね。』
『ああ。俺も大好きだよ。また、すぐに皆との時間作るからな。』
そうして、俺は皆から離れる。
『それじゃあ、お前達の顔も見れたし俺は次のところに行くな。』
『あの、にぃ様。』
『ん?。』
振り返って扉に向かう途中、灯月が近寄ってくる。
そして、耳元で話してきた。
『あの、ずっと部屋の前にいる二人が私達を…いえ、正確にはにぃ様を観察なさっているのですが?。』
『ああ。そうなんだ。俺が部屋から出て少ししてからずっと俺の様子を隠れて観察してるんだよなぁ。姉妹揃って何してんだかなぁ?。』
『ああ。気付いていたのですね。失礼致しました。』
『話し掛けて来れば良いんだが、観察が目的っぽいしな。どうせあの二人にもこれを渡す予定だったからな。暫く、そっとしておいた。』
『そうですか。ふふ。何となく理由は想像できますが、詩那ねぇ様らしいですね。ふふ。面白いです。もう少しで染まりそう。』
『悪い笑みをするな。じゃあな。また来るよ。』
『はい、にぃ様。また後で。』
俺は灯月達のいた個室を後にした。
~~~~~
ーーー詩那ーーー
『うぅ~。先輩出てこないしぃ~。部屋の中の音も聞こえないし~。』
『お姉、部屋の中に誰がいると思う?。』
『ん~。あと先輩が会ってないのは、ウチ等を除いたら灯月に八雲に…代刃先輩に、燕。』
『何となくだけど、あの部屋に全員居そう…。』
『仮にそれでも、先輩と会った時の反応…これじゃあ分からないしぃ…。』
『ああ。そういう理由で後をつけてたのか。』
『きゃっ!?。』
『きゃう!?。』
柱の陰から部屋の様子を窺っていたウチ等の背後からした突然の聞き覚えのある声に跳び上がる。
『よっ。二人とも。お疲れ。朝からずっと俺についてきてたよな?。他の連中の反応観察とはまた不思議なことを思い付いたなぁ。』
『せ、せんぱい…。』
『せん…にぃ…。』
尻餅をついたウチ等を優しく起こしてくれる先輩。
そのままウチ等の服装の乱れを整えて頭をぽんぽんと大きな手で撫でてくる。
『閃兄。いつから気付いてたの?。』
『ん?。最初からだよ。部屋から出て少ししてから視線を感じたからな。気配を探ったら二人がいたから、何してんのかと思ってたんだが、やっとその理由も分かったよ。』
『ははは…お姉。私達、探偵の才能は無かったね。』
『うぅ…流石、先輩だよぉ。』
先輩には何でもお見通しだったみたいだし…。
『俺のことを見てたんなら分かってるだろうし、隠しても何だから今、渡しちゃうな。はい。プレゼントの髪留めだ。二人に似合うように考えてデザインしたんだ。受け取って欲しい。』
『わあぁ。有難う。閃兄!。』
『ほら。詩那にも。』
『うん。ありがとっ!。先輩!。開けても良い?。』
『ああ。開けてくれ。』
ウチは、出来るだけ丁寧に箱のリボンを外していく。
そっと、箱を開けて中から髪留めを取り出した。
わっ。狼と雷。格好いいデザインけど。決して格好いいだけでなく、絶妙な可愛さも...。
『どうだ?。気に入ってくれたか?。』
『うん!。先輩…。』
『ああ。着けてあげるよ。』
先輩がウチの髪にそっと触れて髪留めを着けてくれた。
『うん。似合ってるな。どうだ?。』
先輩が取り出した手鏡に映るウチの姿。
先輩…ウチの好みと似合うデザインの両方を兼ね備えたのを作ってくれたんだ。
『えへへ。好きぃ。ありがとう!。先輩!。ウチ、コレ、気に入っちゃった!。』
『閃兄!。私も!。私も!。』
『ははは。焦らなくてもやってあげるよ。紗恩。』
先輩が紗恩に髪留めを着ける。
紗恩のデザインはイルカと魔女の帽子かぁ。紗恩っぽいデザインだ。
嬉しそうな紗恩はウチに向ける笑顔とは別の顔を先輩する。
ふふ。紗恩はそんな顔をするんだねぇ。
きっとウチも…先輩の前だと女の子な顔をしてるんだろうなぁ。
『さて、二人はこれから時間あるか?。』
『うん。暇だけどどうしたの?。』
『ウチも。』
『いや、プレゼントも渡し終わったからな。二人が良ければ一緒に過ごそうと思ってな。』
『本当!。やったぁ!。閃兄!。』
先輩の腕に抱きついた紗恩。
『詩那はどうだ?。』
『ウチも。暇だよ。』
『良し!。じゃあ行くか!。』
先輩がウチを抱き寄せてくれた。
急に近づく先輩の顔にドギマギしながら、そっと先輩の手と手を繋ぐ。
握り返してくれる先輩の温もりを感じながら、我が儘を行ってウチの部屋に向かった。
えへへ。先輩と一緒~。ウチ、幸せ~。
これが、ウチのゴールデンウィーク最初の日の出来事だった。
おわり
次回の投稿は11日の日曜日を予定しています。