番外編 神世界のゴールデンウィーク②
ーーー詩那ーーー
窓ガラスから射し込む陽気で暖かな日差し。
同じリズムで鳴り響く鐘の音に、小鳥達の囀りが合唱となって、赤いカーペットの上を歩くウチの周囲に彩りを添えてくれる。
どこかの神様が描かれたステンドグラスを介した輝きがウチの幸せを祝福してくれる中。
ウチは運命の人と向き合う。
ウチの左手を取った彼は、淡い光を反射した指輪を指にはめてくれた。
これから、ウチはこの人のお嫁さん。
運命を共有する大切な存在。
そっと。
顔の前のヴェールが持ち上げられて、目の前にいる彼の顔がハッキリと見えるようになった。
初めて出会った時と同じ、優しげで頼もしい笑みはウチの全部を包み込んでくれてるみたい。
そして。
ウチと先輩は、静かに誓いの唇を…。
ああ…ウチ、今、この瞬間、世界で一番幸せ~。
『お姉…起きろおおおおおぉぉぉぉぉ!!!。』
『わきゃぶっ!?!?!?。』
輝かしくも美しい世界は暗転。
急に冷たい何かが顔に掛かり飛び起きた。
『あ、あれ?。廊下?。ウチの結婚式は?。』
『もう!。何?。結婚?。まだ夢見てるの?。お姉はそこの瓦礫が頭に直撃して気を失ってたんだよ?。』
え?。夢?。あっ…夢…かぁ…。
周りを見渡して状況を確認。
スポーツジムの中心には大きな穴が空いている。
その周囲には床が抉れたことで飛び散った破片が散らばっていた。
ウチの横にはボーリングの球くらいの大きさの破片が落ちてる。
ああ。ウチ、これに当たって気絶したんだ。
『お姉、大丈夫?。一応、私の能力で傷は治したけど、あと、これまでのこと思い出した?。』
『う、うん。大丈夫。どこも痛くないし。思い出した。ウチ、探偵だったんだ。』
『ごっこね。』
目の前には妹の紗恩。
ウチ、何してたんだっけ?。
えっと…。
ウチの脳裏に今日これまでのことが思い出される。
朝ごはん…白米、お魚、納豆、お味噌汁、お漬け物…部屋でゴロゴロ…紗恩と一緒に探偵ごっこ…結婚……………はっ!?。
『先輩!。』
『きゃう!?。きゅ、急に立ち上がらないでよぉ。うぅ…お姉の石頭に顎ぶつけたぁ~。』
見ると先輩の後ろ姿が僅かに見える。
いつの間にか戦闘で出来た穴も塞がれて何事もなかったように元通りになっていた。
『何してるの!。紗恩!。先輩行っちゃうし!。追わなきゃ!。』
『ちょ!?。少しは労ってよぉ~。あと、ちゃんと会話しろ~!。お姉~。』
ウチと紗恩は先輩に気付かれないギリギリの距離を見定めながら追跡を再開した。
神経を研ぎ澄ませ、気配を読み、誰にも気付かれない完璧な追跡。
ウチ、本当に探偵になれるかも…ししし。
『紗恩。見て、先輩がとある部屋に入ってく。』
『そうだね。とある…っていうか、普通にカラオケルームだね。皆が利用出来るように閃兄と無凱さんに頼んで造って貰ったんだよね。私達もたまに使うじゃん。』
『ドアを三回ノックする先輩。はぁ…格好良い…。』
『ノックしただけだよ!?。その感想変じゃない?。』
『中から現れたのは…あっ。奏他だ。』
『うぅ…突っ込みまで無視されたあああああぁぁぁぁぁ~。お姉の馬鹿あああぁぁぁ。』
『しっ!。静かにするし!。紗恩!。先輩に気付かれちゃう!。』
『はむっ!?。』
ボソボソ喋っている紗恩を抱き寄せて静かにさせる。
うん。どうやら先輩にも、奏他にも気付かれてないみたい。よかった~。
『もめぇ~。』(お姉)
『ん?。何?。紗恩?。』
『ふういい。』(苦しい)
『ああ。ごめん。つい。』
ウチの胸に顔を埋めた紗恩が睨んでいた。
『この巨乳!。イジメか?。自慢か?。チクショーめ!。』
『もう!。怒んないでよ。抱きついたのは咄嗟だったの。』
『くっそぉ。自覚なしかよ!。お姉の駄肉ぅ!。うわあああああぁぁぁぁぁん。』
『だっ!?。ちょっと蝶女みたいなこと言わないでよ。あと、良く分かんないけど泣かないでよ。ごめんって。ウチ、何悪いことしたのさぁ?。』
『ふん。あとで閃兄に慰めてもらうもん。お姉はその間、閃兄に触っちゃ駄目ね!。』
『えぇ…何でそうなるのさぁ…。』
うぅ…妹が反抗期だぁ…。
けど、そんな紗恩が可愛いよぉ~。
『ちょっと…何で頭撫でてるのさ?。』
『ん?。何か可愛いなぁって。紗恩が妹で良かったなぁって改めて思ったんだぁ。』
『うっ…。っ…お姉…のばかぁ。』
『えへへ。紗恩~。』
暫く、紗恩を撫でているとカラオケルームの前で話していた先輩と奏他に変化が訪れた。
『あっ!?。部屋の中に入っちゃった…。きっと、部屋の中でプレゼントを渡すんだ。』
『奏他姉かぁ~。メンバーの中だと常識人枠だよね。皆を纏めるのが上手だし、しかも元アイドルの可愛さも持ってる。スタイルも良いし、あんな人が閃兄と二人きりだとどんな会話してるのか気になるなぁ。あっ、そうだ。ねぇ。お姉?。』
『何?。流石にウチ等じゃ中の様子までは分かんないし。』
『いや、お姉の獣耳をエーテルで強化したら中の様子聞こえるんじゃない?。さっき目を強化したみたいに。』
『ナイスアイディア~。じゃあ、早速。んん~~~。』
『ちょっ!?。お姉!?。電気漏れてる!。痛い痛い!。』
『あ、ごめん。えっと、集中~集中~。』
どうしても集中すると放電しちゃう癖があるんだよねぇ。
今回は落ち着いて静かに…ゆっくりエーテルを耳に…うん。上手く出来てる…気がする。
少しずつ先輩と奏他の話し声が…奏他は真面目だから先輩と二人きりでも清いお付き合いしてそう。
聞いた話じゃ、学生時代はアイドル活動しながら生徒会長だったらしいしね。スペックが高過ぎるよぉ…。
さぁて。ししし。奏他の秘密を握っちゃうぞぉ。
「一人で歌ってたのか?。」
「うん。いつもは漆芽や初音と来たりするんだけど、今週は皆、恋人達と過ごすんだって。私は歌の練習してたんだ。」
「そうか。俺も一緒に居てやりたいが今日は忙しくてな。今度一緒に歌おうな。」
「本当?。うん!。楽しみにしてるね!。閃君!。」
嬉しそうな奏他の声。
先輩はいつもの優しい声で奏他と話してる。
うん。いつも通りの二人だ。
何か特別な変化があるわけじゃないし、やっぱり奏他はしっかりしてるなぁ~。
「ねぇ。閃君。何か用事があってここに来たんでしょ?」
「ああ。エーテルの気配を辿って来たんだ。伝わってくる感情が凄くリラックスしてたからな。予想はしてたんだが、やっぱりここだった。」
「えへへ。嬉しいなぁ。閃君は私が何処に居ても見つけてくれるから。」
「ああ。だから、奏他が俺に会いたくなったら直ぐに分かるからな。我慢しないでいつでも来いよ。少しでも 寂しさや悲しさ を感じたら直ぐに駆け付けてやるから。」
「うん。閃君。ありがとっ。」
「それで、ここに来た理由だが、これを奏他に渡したかったんだ。手作りだが、見映えは悪くないと思う。受け取ってくれ。」
「なぁに?。もしかして、プレゼント?。」
「ああ。奏他の為に作ったんだ。」
「開けても良い?。」
「勿論。」
プレゼントを開ける音。
中身は髪留めだよね。
やっぱり私達全員に作ってくれたんだ。
えへへ。早く先輩から受け取りたいなぁ。
「わぁ。髪留め?。しかも、マイクと五線譜が綺麗に並んでる。それにキラキラしてて…凄く綺麗…。」
「アイドルな。奏他をイメージしたんだ。」
「閃君…。えへへ。嬉しい…ありがとっ。大切にするね。」
「ああ。喜んで貰えて嬉しいよ。」
「ねぇ。閃君。これ、私の髪に着けてくれない?。」
「勿論。良いぞ。」
「ありがとっ。」
良いなぁ。ウチも先輩にお願いしようっと。
あっ、その前にシャワー浴びて髪の毛梳かさなきゃ!。放電したせいで髪の毛ボサボサになってるし。
「どうだ?。」
「うん。可愛い。気に入っちゃった。閃君。いつも、ありがとっ。私のこと大切にしてくれて。」
「当たり前だ。奏他は俺の恋人だからな。俺に出来ることなら何でもしてやるぞ。」
「何でも…。かぁ…。ねぇ。閃君。今は忙しいって言ってたけど…少しだけ…時間ある?。」
「ああ。勿論だ。奏他との時間を作れない程、切羽詰まってないよ。」
「今ね。この部屋には私と閃君だけだよ?。」
「はは。良いよ。おいで。」
「っ。うんっ!。閃くぅぅぅん。」
「よっと。奏他は甘えん坊だな。」
「うん~。閃くんの前だけぇ~。」
あれ?。
ウチの知ってる奏他の声じゃないなぁ…。
しっかり者の奏他の声から変化して。
とろんっと甘ったるい幼い子供の様な声に変わった?。
「閃くん~。頭撫でて~。」
「良いぞ。こうするの好きだよな。」
「うぅん。好きぃ~。ふふん…気持ちいいよぉ~。もっと~。いっぱい~。」
「ああ。満足するまでしてやるぞぉ~。」
「満足なんてずっと来ないよ~。んん~。」
「はは。仕方ないなぁ。ちゅっ。」
「えへへ。ちゅぅ~。幸せ~。もっとして~。」
「ああ。いっぱいしてやるよ。」
はわわわ~。
何かいけないモノを聞いている気がしてきた。
「閃くん。だ~い好き。」
「ははは。俺も好きだよ。愛してる。奏他と恋人になれて心から嬉しい。」
…確かに先輩に甘えてる感じは何回か見たことあるけど、こんなとろとろな声は出してなかったし?。
「閃くん。どきどきしてる。」
「そりゃあな。奏他みたいに可愛い女の子に抱きつかれて甘えられれば緊張もするさ。けど、何よりも愛おしいって感情が勝ってるけどな。」
「えへへ。私もどきどきしてるよぉ。触ってみて。」
「おっと。」
「どうかな?。どきどきしてるでしょ?。」
「ああ。凄くしてる。それに柔らかいな。」
「あん…えへへ。もっと揉んでも良いんだよ?。前は皆の奏他ちゃんだったけど、今はもう閃くんだけの奏他だからねぇ~。貴方の好きにして良いんだよぉ。」
「魅力的なお誘いだけど、それはまた今度な。今はプレゼントを配らないといけないんだ。けど。すぐに迎えに来るからさ。待っててな。」
「うん。もっとたくさん甘えさせてね。閃く~~~ん。」
「勿論。奏他が飽きるまで離さないよ。」
「飽きることなんかないよぉ~。ん~。」
ちゅっ。
『……………。』
『お姉?。どうしたの?。何か凄い汗の量だけど?。閃兄と奏他姉どうだった?。』
『えっ!?。あの…ね。えっと…。』
『あっ。閃兄出てきたね。無事、プレゼントは渡せたみたいだね。』
『う、うん。そうだね。』
未だにエーテルで強化された耳に会話が入ってくる。
「閃君。髪留め、ありがとっ。大切にするからね。」
「ああ。喜んで貰えて嬉しいよ。また、来るからな。」
「うん。待ってるね。」
いつもの奏他に戻ってる。
こ、このことは広めないでおこう…。
ごめん…奏他…。秘密を知っちゃって…ごめんなさい。
直接言えないけど…この秘密は墓の下まで持っていきます。
『あっ。閃兄行っちゃうよ!。お姉!。早く追おうよ!。』
『う、うん。ウチ…反省!。』
何度も奏他に心の中で謝りながら先輩の後ろ姿を追い駆けた。
次回の投稿は8日の木曜日を予定しています。