第37話 狐の再会
『何処から探そうかなぁ~。』
閃ちゃんや氷ぃちゃんと別れた私は住宅地の方角を探索することにした。
流石は白聖連団のエリアだ。私みたいな獣人型の人達がいっぱい居る。
ちょっと嬉しいな。尻尾が動いちゃうよ。
『たくさん情報集めて、閃ちゃんに褒めてもらうんだぁ。頑張るぞ~。』
「いやいや。頑張るとこ違うから。せっかく大好きな閃様と仲良しの氷姫とのデートなのに行ったのは服屋だけ?もっと色んな場所に行けば良いのに。」
心の中で聞こえる、もう1つの声。
ちょっと低めな私の声が私の中で響く。
『良いんだよ!。お出掛けの、そのものが嬉しいんだから!。』
「いっそのこと押し倒しちゃえば?なんなら今夜にでも?。」
『そっ…そんなこと出来ないよぉ…。』
「照れすぎ。そんなんだから進展しないのよ?。
『むぅ。そんなこと分かってるもん。』
「ウチの力が必要になったら言いなさいよ?いつでも閃様を押し倒す手伝いするから!。なんなら全部私に任せてくれても良いわよ?。」
『い、いらないってば!。』
心の中の声が聞こえなくなる。
『もう。意地悪。』
私は、周囲をキョロキョロ見渡しながら住宅地を進んでいく。
高級マンション。一軒家。アパート。様々な建物が並び建ってる。
『ちょっと宜しいですか?。』
『え?。』
突然、声を掛けられた。
ちょっとだけ、警戒して振り向く。耳と尻尾が逆立ってるよ。
振り向くと、そこには剣を携えた女性が立っていた。
『ああ。すみません。驚かせてしまって。』
『いえ。貴女は?。』
『私は、白聖連団所属 白聖十二騎士団 序列7位の里亜と申します。』
『白聖連団の…。』
『少しお尋ねしたいことがあり、貴女に声を掛けました。』
『な、何ですか?。』
心臓が緊張でバクバクいってるぅ。
大丈夫かな?挙動不審じゃないかな?。
クロノフィリアだってバレないかな?。
『この写真の2人を、この辺りで見ませんでしたか?』
そう言って2枚の写真を取り出して見せてくる里亜さん。
写真には2人の男女が写っていた。
顔に見覚えはないね。
『いいえ。見てません。』
『そうですか。彼等は私と同じ白聖連団所属の十二騎士団…なんですが。数ヶ月前にこの辺りで消息を絶っているんです。名前は彗と修。もし見掛けたら白聖連団まで連絡下さい。』
『わ、わかりました。』
『お願いしますね。』
里亜さんは住宅地の奥へと消えていった。
『はぁ。緊張したよぉ。』
「もう。いっそのこと殺しちゃえば良かったのに。」
『そ、そんなこと出来ないよぉ。いい人そうだったし。』
「替わろうかしら?。」
『ダメ!。』
「はぁ。わかったわよ。」
気を取り直して再び探索を始める。
住宅地から少し離れた場所に、とある建物が見えた。
『教会?。』
あんな場所にあったっけ?。
昔の記憶を辿っても思い出せない。
『行ってみよ。』
一先ず教会を目指すことにした。
『あはははは…。お姉ちゃぁぁあん。』
『ははははは。こっちだよぉ。』
教会に近付くと建物の中から子供の声が聞こえた。何か賑やかだ。
周囲を色んな花に囲まれ、海の近くに建っている教会。壁はぼろぼろ。かなり古いみたい。
『お邪魔しま~す。』
静かに扉を開けて中を窺う。
キラキラと太陽光がステンドグラスに射し込み教会内を色とりどりに染めていた。
とても神秘的だぁ。
尻尾がふりふりと動く。
『誰もいない?。』
周囲に人影はない。
子供の声も聞こえなくなっていた。
『あれ?。』
取り敢えず中に入る。
まだ日は高いのに教会内は涼しげで少し肌寒さを感じる。
『わっ!。』
『きゃっ!?。』
突然、近くでした大きな声に驚いて転んでしまう。
『いたた…。』
『あっ!?。ごめんなさい。お姉ちゃん。』
『こら!修っ何してるの!。』
私が転ぶとは思っていなかったのか男の子が驚いて、あたふたしている。
その男の子を怒る女の子。
さっきの声はこの2人かな?。
『あっ。大丈夫だよ。ちょっと擦りむいただけだから。平気平気。』
『あっ!血が出てるよ?。』
『これくらい舐めたら治るよ。』
『ダメ!。お姉ちゃん!こっち来て!おばぁちゃんに治して貰おう!。おねぇちゃん手伝って!。』
『うん。任せて!。』
男の子が私の手を引っ張る。
女の子が私の背中を押す。
『え?どこ行くの?おばぁちゃんって?。』
腕を引っ張られたまま私は教会の地下まで連れていかれた。
そこは広い空間。
数本の柱が立ってるだけの場所。
2人の姉弟に、その奥へ連れていかれる。
そこに垂れ幕の下がった部屋の入り口があった。
『おばぁちゃん!お姉ちゃんが怪我したの治してぇ!。』
先に中に入った男の子が叫ぶ。
『おや、今日は彗が怪我したのかい?珍しいねぇ。』
お年寄りの声。
あれ?この声って…。
『違うよ。おねぇちゃんじゃなくてお姉ちゃん!。』
『はて。どういうことじゃ?。』
私は部屋の中へ入る。
そして、小さな椅子に座っていた、そのお婆さんの顔を確認し確信した。
『こんにちは。睦美ちゃん。』
『おっ?。お前…智鳴か?。』
『うん。久し振りです。』
『ああ。まさか…こんな場所でお前に会えるとはな。思わんかったぞ。』
『こっちもだよ。びっくりした。』
『まあ、立っててもなんだ…中に入んな。』
『うん。お邪魔するね。』
私は部屋の奥にある椅子へと案内された。
ーーー
『それで?お前はどうしてここに居るんだ?』
転んでできた、かすり傷を睦美ちゃんに治してもらい、今は椅子に座ってお茶を飲んでいる。
椅子に座る私の両側には、さっきの姉弟が私の尻尾で遊んでいる。
ふりふり、ふりふり、ふりふり。
『私たちは今、青法詩典の拠点に捕まってる矢志路君を迎えに行くところなの。青法は遠いから白聖のエリアを経由しないといけないからね。』
『矢志路が捕まっているのか?。アヤツが!?。』
『捕まっているって言うよりは避難してるんじゃないかって閃ちゃんが言ってたよ。』
『ああ。奴の種族か。』
『うん。今はクロノフィリアのメンバーを一刻も早く集めないといけないんだ。』
『私たちと言っていたが、ここには誰と来た?。』
『閃ちゃんと氷ぃちゃんだよ。』
『ほぉ。閃がいるなら安心じゃな。』
『うん。今は3人で情報収集の途中なの。あっ。睦美ちゃんは知らないかな。白聖の人達が地下から鎖で繋がれた人達を病院みたいな施設に連れてったんだけど。その施設のこと何か知らない?。』
『ほぉ。そのことを調べとったんか。』
『何か知ってる?。』
『あくまでも…噂、程度の内容だが構わんか?。』
『うん。全然良いよ!。』
しわしわの顔が更に歪む。
空気が重くなり、緊張感が部屋全体に広がる。
『今、白聖の奴等は無能力者を能力者にする実験をしているそうじゃ。』
『ゲームのプレイヤーじゃなかった人達ってこと?。』
『そうじゃ。』
『そんなこと出来るの?。』
『わからん。噂じゃ。だが、お前が見たと言う連れていかれた者共も無能力者じゃろうな。』
『………。』
『ワシが分かるのはこれくらいじゃ。何せ指名手配されてる身…まあ、それ以前にこの身体じゃ立つこともままならん。外には出れんさ。』
『そうだよ。クロノフィリアの拠点に行こうよ。連れてくよ?。皆待ってるし。』
『ああ。それは了承してある。少し前に無凱が来てな。ワシが動けるようになるまで待って貰っているところさね。』
『え?無凱さん来てたの?。』
『ああ。来て色々話してったわ。』
『そうか…居場所が分かってるって言ってた3人目は睦美ちゃんだったんだね。』
『ほう。他の2人は?。』
『矢志路君と…多分、煌真君かな?。』
『懐かしいな。この2年、誰とも会っとらんかったからのぉ。』
『皆、睦美ちゃんが来たら喜ぶよ!。』
『ああ。暫し待っとれな。』
『うん。』
睦美ちゃんと笑う。
早く皆揃わないかなぁ。
『おばぁちゃん。どっか行っちゃうの?。』
『ええ。どこも行かないで。』
話を聞いていた姉弟が心配そうに睦美ちゃんに尋ねる。
『心配するな。お前達も一緒じゃて。』
『一緒!。』
『やった。』
とても嬉しそうに跳び跳ねる姉弟。
可愛いなぁ。
『睦美ちゃん。この子達は?。』
『この子らは彗と修じゃ。』
『彗ちゃんと修君?…どっかで聞いたような…。』
「ほら。あの白聖の女が探してた写真の2人と同じ名前よ。忘れちゃったの?。」
『あっ。そうだね。』
『どうかしたか?。』
『え?。あっ…と。実はね。』
私は、さっき出会った白聖の騎士団 里亜さんの話をした。
『もしかして…睦美ちゃん。 綺麗 にしちゃったの?。』
『まあな。襲ってきたからな。仕方なくじゃ。』
『ああ。相変わらず凄い能力だね。あっ。だからそんな姿なんだね。』
『そろそろかと思って能力使ったんだがな。若干だが足りんかったみたいでな。』
『そっかー。』
私の尻尾に抱き付いていた2人が顔を上げて首を傾げている。
『お姉ちゃん!。白聖って何?。』
『騎士団って?。』
『なぁに。いずれ分かるさ。』
睦美ちゃんに撫でられて無邪気な笑顔のまま尻尾を更にもふもふする2人。
もふもふ、もふもふ、もふもふ。
「えげつないわね…。」
『じゃあ、私は1度、閃ちゃんのところに戻るね。』
『ああ。ワシも動けるようになったら拠点に戻ることにするぞ。』
『うん。暫く会えないけど。帰ってきたら色々お話ししようね。』
『ああ。そうしよう。』
睦美ちゃんの差し出した手を握って握手。
そして、私は睦美ちゃんに抱き付いた。
『お姉ちゃん!行っちゃうの?。』
『ええ。やだやだ。一緒に遊ぼうよ。』
『ごめんね。お姉ちゃん行かないといけないんだ。また、会えるから、その時は一緒に遊ぼうよ。だから、待ってて。』
『そうなの?。』
『うん。待ってる。』
と、その時だった。
バーーーーーーン!!!ザザザザザザ………。
上の階の…教会の大きな扉が破壊される音と、数人が雪崩れ込む足音。
『誰か…入ってきた。』
『うむ。これは、ちとマズイかもな。』
『おばぁちゃん…怖い。』
『お姉ちゃん…。』
睦美ちゃんに抱き付く姉弟。
『睦美ちゃん。ここで隠れていて。私様子を見てくるから。』
『わかった。彗、修。こっちに来い。』
『うん。』
『はい。』
姉弟は睦美ちゃんに連れられ部屋の奥へ。
『じゃあ、行ってくるね。』
『頼む。』
『お姉ちゃん…。』
『おねぇちゃん。』
『良い子で待っててね。』
私は姉弟の頭を撫で上の階に向かった。