番外編 神世界のゴールデンウィーク
『気になる。』
ふと、私が背もたれにしているベッドの上から、そんな声が聞こえた。
ベッドの上をコロコロと転がりながら閃兄に似せた抱き枕を抱きしめているお姉、こと詩那姉さんの言葉に反応する。
閃兄に創造してもらった少女漫画を読む手を止める。
同時に、お姉のもふもふとした尻尾が頭の上に乗った。
毛並みも綺麗で柔らかいクッションみたいな感触。温かくて、お姉の良い匂いがする。
私の密かな楽しみの時間だ。
けど、たまに帯電と放電するのが苦手なんだよね…。
『何が気になるの?。』
『え~とね。』
まぁ、お姉が気になることなんて基本的に閃兄絡みだろうけど、一応、聞いて上げようかな。
『紗恩。今は連休じゃない?。』
『そうだね。元の世界で言うゴールデンウィークだよ。』
本来、リスティールにはそんなモノはない。
だけど、仮想世界…私達の故郷の行事を大事にしているクロノ・フィリアの皆さんはリスティールでの五月頭の一週間をゴールデンウィークと銘打って休日に設定した。
世界を運営する神のお仕事も必要最低限に留めて全員が休みを満喫する決まりだ。
今日はその一日目。
他の方々はお出掛けしたり、恋人同士で過ごしたりしているらしい。
私達は明後日に閃兄を中心とした恋人全員で二泊三日の旅行に行くことを計画しているけど、それ以外は神の居城で過ごすことになってる。
先程、私とお姉は朝食を済ませて、今はお姉の部屋で寛いでいる
そんな静かな一時を遮ったのがお姉の叫び声だったということだ。
『ウチ達以外の先輩の恋人達がウチの知らない場所で先輩とどう接しているのかを知りたい!。』
『ええ。何それ?。』
『だって、きっと皆ウチ達の知らない顔を先輩にしてるじゃん?。普段の顔とは違う顔をきっと先輩と二人きりの時とかにしてると思うの!。』
『そりゃあ、してるでしょ。大好きな人と二人きりなんだよ?。皆、普段は人目を気にして心の中で押し留めてる感情を思う存分解放できるんだから。』
私だってそうだし。
閃兄と二人きりの時は沢山甘えちゃうし。
女の子なんだから皆そんな感じじゃないかな?。
『ねぇ。ねぇ。皆が休みの日にどう過ごしてるか見てこようよ。』
『ええ…。何で?。』
『だって気になるじゃん。休みだからさ。きっと皆、先輩に会いに行くと思うんだよね。そんな時の皆の先輩に対する反応を見てみたい!。』
『………もしかして、先輩達の行動を参考にしようとしてない?。どんなことをすれば閃兄が喜ぶとか?。どうせ、恋人になって日が浅い自分より閃兄に近い先輩達の行動を観察したいだけでしょ。』
『バギッ!?。グギッ!?。ドキッ!?。』
何の効果音?。
『ど、どうしてそれを!?。ウチの完璧な計画が…。』
『何年姉妹をやってると思ってるのよ。はぁ…どうせ、断ったら一人でやっちゃうんでしょ?。心配だから私も付き合うよ。』
『紗恩~。』
『わぷっ!?。』
突然、お姉に抱きしめられて顔面がお姉の胸に埋もれる。
くっそ~。なんて、肉付きの良い柔らかい身体だ。
私の貧相な身体とは別物…同じ姉妹なのにどうして差が出るんだよ~。
はっ!?。べ、別に羨ましくなんかないし…。ちょっと、良いなぁって、どんなことしたらそんな男性受けしそうな身体に育つんだよ~とか思っただけだし!?
…やっぱり閃兄もお姉くらい胸もお尻も大きい方が良いのかな…。
自分の胸とお尻を触り、お姉と比べてしまう。
『くぅ~。この化物め!。恨み晴らさでおくべきか~。』
『急に何っ!?。』
そんなこんなで、お姉と二人で他の閃兄大好きメンバーを覗き見…盗み見?。いやいや、何か犯罪っぽくない?。
うん。観察することになった。
うん。うん。これは、お姉に誘われて仕方なくね。別に私は興味なんかないし、そう!。お姉が心配だから、お姉が問題を起こさないように、はっ!。そう!。お姉を監視する為なんだからね!。
『何、一人でぶつぶつ言ってるの?。』
『はっ!?。な。何でもない。』
『じゃあ、早速これに着替えて!。』
『え?。何これ?。』
お姉が立ち上がりクローゼットから持ってきた服。
『潜入捜査には欠かせない。探偵服だし!。』
『ええ。私達いつから探偵に?。寧ろ、やろうとしてるのは犯罪者側な気がするんだけど!。』
『何を言ってるのよ!。我が妹は!。皆の秘密を知りたい欲求は正義なの!。先輩が恋人にして貰ったら嬉しいことを探るチャンスなんだから!。』
『探偵要素無いじゃん!。やろうとしてること、ただの盗撮だし!。』
『違うもん!。良いから早く脱ぎなさい!。』
『ちょっ!?。自分で着れるから!。そんな乱暴にしたら服破れちゃうから!。』
泣く泣く、お姉の用意した探偵服に着替え終える。
なんだろう…一昔前の、咥えタバコが似合いそうな服のデザインは…。
『ふふ。こんなこともあろうかと、光歌先輩と豊華さんにお願いして作ってもらったんだ~。』
『うん。だろうと思った。けど、この服サイズ合ってないよ?。特に…。』
ぽすぽす…ぽすぽす…胸とお尻の布が随分と余ってる…。
何これ…私のサイズにしては…大きく作られて…。
『あ。ごめん。それウチのだった。紗恩のはこっちだし。』
そう言って反対の手に持っていた同じ柄の探偵服を手渡してきた。
つまり、今、私が着ている服がお姉のだと?。
この胸とお尻の隙間…これだけの差があると私に知らしめる為の行動だったってこと?。
『お姉なんか…大っ嫌い!。』
『はえ?。な、何でよ!?。服を間違っただけじゃん!。』
『天然かよ!。ふん!。もう知らない!。』
お姉の無自覚ムーブは昔から、慣れっこだけどムカつくものはムカつくんだからね!。
『しゃ、紗恩が反抗期に!?。』
『畜生!。こっちのサイズはピッタリかよ!。』
『言葉も乱暴に…ああん。紗恩がグレた~。』
『ガチ泣き止めい!。』
しかも、この服、可愛いのが余計にムカつく!。
所々のあしらわれたレースがコテコテの探偵服なのに女の子らしさが垣間見れて、チクショ~!。気に入っちまうよ!。こんなもん!。
『ふん。意地悪するお姉は嫌いだけど。この服は気に入ったわ。貰ってあげる。』
『そう?。まぁ、紗恩のために頼んで作って貰ったからさ。喜んで貰えて嬉しいし、えへへ。』
嬉しそうに笑うお姉。
本当に私のことを想っての行動だったことが伝わってくる。
『ふん。ほら!。行くよ!。お姉!。グズグズしてたら日が暮れちゃう!。』
『そう?。じゃあ、早速、レッツゴ~。』
こうして探偵服に身を包んだ私達姉妹の盗撮…こほん。もとい、調査が始まった。
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『お姉、見て見て。あそこ。』
『え?。何々?。』
壁伝いに進み何個めかの曲がり角を曲がった所で足を止めた。
壁越しに縦に重なって向こう側を見る私達姉妹…はぁ、端から見たら…いや、見なくてもヘンタイさんだよこれ…。
『あそこに閃兄発見。』
『あっ…本当だ。はぁ…いつ見ても先輩、格好いい…。』
『うっとりしない!。それよりバレないように静かにね。』
『うん!。頑張るし!。』
『声、デカイって!。』
『うぅ…紗恩もデカイし…。』
お姉にチョップし、再び閃兄に視線を向ける。
『何処かに向かってるね。』
『何処に行くんだろう?。』
あの方向は、資料室?。
リスティールや仮想世界などの情報が乗っている本やPCが置いてある部屋。
いや、違う。
多分、その隣の図書室に向かってるんだ。
仮想世界の本や、リスティールにある多くの本が収容された図書室。
閃兄によって復元された本はデータ化され、創造した専用のPCにタイトルを入力すると実体化されるというハイテクな図書室だ。
『何か探し物かな?。』
『う~ん。閃兄なら何でも知ってると思うけど。』
わざわざ、本を探しに行かなくても観測神の閃兄なら世界に繋がってあらゆる情報を獲得出来る筈なんだけど…。
『あ。誰か図書室から出てきた。』
『あ。本当だ。智鳴先輩と氷姫先輩だ。』
『何か、手に沢山本を持ってるね…。凄い量…。』
二人は前が見えないくらいに積み上げられた本を運ぼうとしていたみたい。
もしかして、休み中に一気読みする為に自室に運ぼうとしてる?。
『あ。先輩が二人に話し掛けてる。』
『うん。手に持ってた本を持ってあげるみたいだね。閃兄は優しいなぁ。』
二人がふらふらと運んでいた本の山を一人で軽々と持つ閃兄。
智鳴姉も、氷姫姉も驚いてるけど、すぐに嬉しそうに一緒に並んで歩き出した。
『この方向は、やっぱり二人の部屋だし。』
『結構、距離があるのに全然疲れてないね。閃兄。』
『はぁ~。格好いい…。』
『お姉。そればっかりじゃん。』
三人の後を尾行、ついに氷姫姉の部屋に到着。
氷姫姉は閃兄に抱きついて、そっと唇を彼の頬に添えた。
一瞬、驚いた表情をした閃兄は、すぐに氷姫姉と向き直して今度は唇同士をくっつけた。
その様子を見ていた智鳴姉は尻尾をバタバタさせて自分を指差している。
結構離れてる私でも何を言ってるか想像つくよ。
大方、「氷ぃちゃんだけズルい!。閃ちゃん!。私にもチューして!。」、だよね…あれ。
閃兄はそんな智鳴姉に優しく微笑むと背中に腕を回して自分の方に引き寄せる。
そして、そっと唇を重ねた。
暫く、互いの唇を吸い合っていた二人に氷姫姉が横槍を入れる。
その顔はムッとした感じで、キスをしていた二人を押し倒した。
そして、倒れる先輩に二人で交互に抱きついたままキスを繰り返していた。
『大胆すぎる…。』
『廊下なのに…凄いね…。』
『羨ましいなぁ…ウチも、先輩といっぱいキスしたいし。』
『後で先輩の所に行けば良いじゃん。いっぱい甘えておいでよ。』
『それ良い!。よぉし、紗恩も一緒に行こう。』
『え!?。私も!?。………ま、まぁ、お姉が一人で行く勇気がないって言うなら一緒に行ってあげても良いけど?。』
『本当?。やったぁ!。一緒に行くしぃ!。』
この姉~。素直過ぎ~。
『ああ。見てお姉。閃兄達に動きが!。』
『えっ?。って!?。何でこんな廊下で氷姫先輩脱いでるの!?。』
気付けば閃兄の上に馬乗りになった氷姫姉が服をはだけさせて上半身裸になっていた。
どうして、そんな流れに…。
まぁ…氷姫姉の服装って、いっつも乱れてるし、今は白い着物を青い帯で留めてるだけの格好だしね。あれじゃあ簡単に脱げちゃうよ。
しかも、下着を着けてないし…。
眩しいくらいの白い肌と大きな胸に否応なしに視線が行ってしまう。
それは閃兄も同じだったようで、その視線は明らかに泳いでいた。
しかも、それに対抗するように智鳴姉まで脱ぎ始めて…。
二人の頭に閃兄のチョップが炸裂した。
頭を擦りながら涙目になる二人。
次の瞬間、馬乗り状態の閃兄の姿が消える。
瞬きの間に二人は立たされ、乱れた服が一瞬で元の状態に戻っていた。
『恐ろしく早い。早業…。』
『ウチでも見逃しちゃうし。』
二人に対しお説教をする閃兄。
真剣な閃兄に対して嬉しそうな二人。
暫くして、大きな溜め息をした閃兄が二人に何かを渡した。
『あれ。何かな?。』
『小さな箱?。』
閃兄から受け取った小さな箱を、開けるように促された二人は中に入っていたモノを確認すると驚いた表情の後、嬉しそうに中のモノを取り上げた。
『何だろう、あれ?。キラキラしてて…。』
すると、徐に二人が取り出したモノを自分の髪に添えた。
『ああ。髪留めだ。』
『閃兄。あれを渡すために二人を探してたんだね。』
嬉しそうに髪に添えた髪留めを閃兄に見せる二人。
閃兄も嬉しそうに二人の頭を撫でた。
そして、閃兄はまたしても二人に押し倒された。
『第二ラウンドが始まったね。』
『けど、良いなぁ。先輩からのプレゼント。ウチも欲しい。』
『結構、貰ってるよね。何かイベントがある度に貰ってる気がする。しかも、全部閃兄の手作り。』
『凄いよね!。先輩の作るのお店で売ってるのよりも丁寧で綺麗で…本当にウチの為に作ってくれてるんだって分かるんだよね。』
『うん。私達のイメージや特徴を形にしてくれて、世界に一つしかないって凄く特別な感じなんだよね。』
エーテルを瞳に込めて視力を強化する。
人族程じゃないけど、三十メートルくらいまでなら小さなモノでも見えるようになる。
『氷姫姉のは雪の結晶に青い帯が結ばれているようなデザインの髪留めだね。それで、智鳴姉のは狐の尻尾と炎に扇子…か。うん。やっぱり各々のイメージに合わせたプレゼントだね。』
『二人とも嬉しそう。』
『そりゃあそうだよ。私達だって閃兄からプレゼントされたらあんな顔になっちゃうよ。』
『ああ…先輩…格好良い…。』
今日何回それ言うのかな?。
『あ、手を振ってる。二人と分かれるみたいだね。』
『先輩。次は何処に向かうのかな?。』
『ふふふ。探偵の血が騒ぐね!。』
『騒がないよ!。推理の一つもしてないし、ただ盗み見みしてるだけだし!。』
『ほら!。行こう!。紗恩!。先輩が行っちゃうよ!。』
『会話しようよ。お姉…。』
足早に閃兄を追うお姉の後を追った。
閃兄の行き着いた先は、植物園。
リスティールに自生する様々な植物を集めて研究している場所。
ここに来たということは…。
『あっ…美緑ちゃんと兎針姉だ。』
『チッ…蝶女め。美緑と楽しそうにお花の匂いを嗅いで楽しそうに…似合うじゃねぇか。チクショウめ!。』
悪態をつくお姉。
『お姉…何に悔しがってるのさ…。』
照れ隠しなのバレバレだよ…。
一番の大親友。昔からの付き合いだしね。
口では強目の口調で文句を言っているけど尻尾はくねくねして、耳はぴくぴくして喜んでるし…。
『美緑ちゃんと兎針姉は一緒にいることが多いよね。』
『蝶女は花とか好きだし、美緑と趣味が合うんじゃない?。わぁ…早速、先輩に気付きやがった。なんて卑しい女だ。』
いや、普通あれだけ近付いたら誰だって気付くよ。
先輩との距離、十メートルもないんだよ?。
『現在、先輩に身体を近付け、顔を見上げるように上目遣いで厭らしい視線を向けています。しかも、そっと、先輩の厚い胸板に手を添えて、まるでキスをせがんでいるみたいです。なんて卑しいのでしょう!。なんて、破廉恥でしょう!。羨まけしからん!。です!。はい!。』
何で実況してるのさ…。
それにしても兎針姉はあんな感じなんだ。
皆がいる時は、一歩引いた感じで遠慮してるけど、周りに人がいないと積極的なんだね。
『くっ。先輩も普通にキスしてるし…。蝶女なんて胸に置いてある手を先輩の背中に回して離れないようにしてるし!。後で問い詰めてやる。』
『止めなよ。見られてたなんて知ったら喧嘩になるよ。いつも兎針姉は皆がいると引いてくれてるんだからさ、こういう時くらい先輩を独占させてあげないと。嫌われちゃうよ?。』
『それは嫌!。喧嘩も嫌!。』
素直で宜しい。
『続いて、蝶女と離れた先輩は遠慮しながらキスの様子を顔を隠しながらチラチラと横目で見ていた美緑ちゃんを抱き寄せてキスをしています。』
『顔真っ赤だね。美緑ちゃん、奥手で…可愛い…。』
私もあんな風に可愛くなれたらなぁ…。
『ああ!。今度は蝶女が先輩の胸に顔を埋めて匂い嗅いでる!。あの女ぁ!。』
『兎針姉…他人の匂い嗅ぐの好きだよね…。』
『気に入った人だけね!。ウチも良く嗅がれてるし、まったく油断も隙もないんだから!。』
私もこの前嗅がれたなぁ~。
『そして、美緑ちゃんにも手招きして…。』
『閃兄を二人で囲いで…二人で匂い嗅いでる…。』
何…あの状況…。しかも…。
『長いね。もう五分くらい経つけど?。』
『先輩も困り顔だし、行き場を無くした腕は二人の頭を撫でてるし…。』
それから、更に十分。
『『……………。』』
更に…十分…。
『ああ…やっと離れたね…。』
『うん…長かったね…けど、閃兄が止めたから二人とも離れたけど…。』
『多分、止めなかったらずっと続いてたし…。』
『『はぁ~。』』
お姉と二人。大きく溜め息をしてその場にへたり込む。
流石に、ちょっと疲れたぁ~。
二人は閃兄にプレゼントを渡されると、智鳴姉達と同じように開封した。
中身を確認して、これまた嬉しそうに髪留めを受け取っている。
蝶々と扇子。大樹と惑星。
うん。二人にぴったり、似合ってるね。とっても可愛い。
『これで確定だし。先輩はあのプレゼントを渡す為に皆の所に向かってるんだ。』
『みたいだね。プレゼントは閃兄お手製の髪留めみたいだし、私達のもあるのかな?。』
『早く欲しい!。』
『うん。閃兄からのプレゼント…欲しいなぁ。』
兎針姉と美緑ちゃん。二人と分かれた閃兄は次の場所に向かう。
『お姉?。どうするの?。これ続けるの?。』
閃兄の目的がプレゼントを渡すことなら、その内私達の所にも来るだろうし、いっそのこと部屋で待ってた方が?。
『ううん。目的は先輩に会った時の皆の反応だからね!。まだまだ、探偵稼業は辞められないよ!。』
『いつから稼業に?。』
『先輩~。待って~。』
『って!?。おい!。お姉~。会話しろ~。』
先輩のことになると物事の優先順位が変わっちゃうお姉の背中を追う。
『食堂だ。』
先輩が次に向かったのは、皆が利用する食堂。
仁さんの喫茶店も中にある。
居城の 食 に関することを一手に引き受けている場所。
だいたい、この場所にいるのは…。
『睦美ちゃんと砂羅姉だね。良くここで二人そて料理の研究してるよね。』
『見て見て。先輩が二人に近付いた途端。』
『うわぁ…微笑みを浮かべて流れるように一礼して…砂羅姉が椅子に誘導して、その椅子を引いて閃兄を座らせて、睦美ちゃんが飲み物を用意してる。』
『二人とも先輩のお世話したい組だもんね。凄い幸せそう…。』
物凄い速度で料理が運ばれてる。
しかも、閃兄の好物ばかり。
左右に座る睦美ちゃんと砂羅姉が代わる代わる閃兄にあ~んしてる。
片方が手隙になればデザートやら飲み物やらを運んできて動作に全く隙がない。
どんどん運ばれてくる料理に対して、嫌な顔や苦しい顔一つしないで美味しそうに食べる閃兄。
多分だけど、二人は閃兄のことを知り尽くしているから閃兄の限界を見極めた量を用意してるんだと思う。
ほら、今じゃ、床に絨毯を敷いて用意されたクッションに寝転んだ閃兄を二人でマッサージしてるし。
『女子力?。いや、あれは嫁力だよね…高ぇ~。』
『閃兄も、慣れてるのか。完全に脱力してされるがままになってるし。膝枕されてるし…。』
『良いなぁ。ウチもされたい~。』
『ああ、される側なんだね。お姉は…。』
まぁ、私も閃兄にしてもらいたいなぁ。
そして、思い出したかのように飛び起きる閃兄が二人に例のプレゼントを差し出す。
不死鳥と炎。砂の星。二人の頭で輝いてる。
うわぁ…二人、嬉しさで泣いてるよぉ…。
手を振る閃兄に対し、深々とお辞儀で送り出す睦美ちゃんと砂羅姉。
二人と分かれた閃兄が次に向かった先は、様々なスポーツや運動を行えるジム。
かなりの広さだけど、誰を探してるのかな?。
『あれ。無華塁さんと累紅さんじゃん。』
運動をしていた二人と挨拶する閃兄。
今までと同じように抱き合い口づけを交わしてプレゼントを二人に渡していた。
『相変わらず、あの二人は身体を動かすのが好きなんだね。連休でも、あんなに汗だくで。』
『今でも毎日、早朝は閃兄と一緒にランニングしてるみたいだしね。』
『ふへ~。ウチには無理だ~。』
『えへへ。お姉は朝弱いもんね。』
『むぅ。それは紗恩もじゃん。』
『お姉程じゃないもん!。ちゃんとお昼前には起きてるし!。』
『大した変わらないじゃん!。って、何か知らない間に先輩と無華塁さんが決闘してる!?。』
『はい!?。』
お姉が見てる方向に顔を向けた瞬間、さっきまで、ほのぼのとした空気が流れていた場所が大爆発を起こした。
その爆発は周囲に強烈な衝撃を発生させて離れた場所で隠れていた私達の方まで襲ってきた。
様々な物が爆風に乗って巻き上がり、私達の上から降り注ぐ。
『わぁっ!?。い、今のは危なかったね…お姉、大丈夫?。』
『……………。』
横にいた筈のお姉からの反応がない。
『お姉?。』
『くゅぅぅぅ~~~。』
そこには、降ってきた瓦礫に頭を打ち付けたお姉が気絶していた。
あ、完全に伸びてる…。
『お姉ぇぇぇぇぇえええええ!?!?!?。』
次回の投稿は4日の日曜日を予定しています。