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第346話 煌魔輝光石刀 ストリソ・スタルガイド

ーーー異熊ーーー


 さてさて。

 なかなか面倒なことになってきましたね。

 

 だが、ええ。悪くはないか。

 かつては目的の相違で争っていた相手と同じ意思と志を持ち、手を結び、共闘する。

 

 一度は死んだ身。

 今度は、神や支配者の為ではなく。自らの意思で、仲間の為に戦う。

 ふふ。悪くありませんね。

 世界を守るヒーロー…そこまで大それたものではありませんが、ふむ。皆が求める未来の為に私の力が役に立つならば…ええ。悪くない。


 チラリと横を見る。

 そこには小柄な少女。この世界に転生して初めて出会った少女だ。

 リスティナの命を受けた遣い、トゥリシエラに出会い、黄国に流れ着くまで共に旅をした仲間。


 まさか、この私が誰かに心を奪われる日が来るとはな…もう、女性を好きになることなどないと考えていたのだが…所詮、私も一人の男ということか。


 転生しても手に残る感触。

 私が奪った命。妻の胸を貫いたあの感触が今でも蘇る。

 世界が壊れ、自分自身が壊れたあの日の記憶。


「私も同じです。生き残るため沢山の命を奪いました。だから、貴方だけが苦しむことはありません。私も共に、その罪を背負います。」


 共に旅をし、共に過ごして互いのことを理解していくに連れ、惹かれ合ってしまった。

 惹かれ、自然と自身の過去話をしてしまった。

 互いの過去を知り、更に互いを意識する。

 

 しかも、随分と歳の離れた少女にだ。


「あら。異熊さん。普段は澄ましたお顔をなさってイケオジの雰囲気を醸し出しているのに、その実体はロリコ…失礼。幼い少女が好きな特殊性癖をお持ちの方だったのですね?。」

「ロリコン。なの?。異熊?。もしかして。私も好き?。」

「僕は大丈夫。軽蔑したりしないよ?。趣味は人それぞれだし…うん。異熊。頑張って。」

「大は小を兼ねる。しかし、君の女性の趣味は逆だったようだね。君ならば自身よりも年上の女性を選ぶと思っていたよ。」

「異熊…犯罪は駄目ですよ?。」

「まぁ。俺からは特にないさ。だが、過去を乗り越えられたようで俺は満足だ。」


 はてさて、ここにはいない筈のかつての友人達の声が聞こえるね。

 ふむ。彼等なら…言いかねないな…。


『異熊。』

『うん?。』


 私を呼ぶ恋人の方へと顔を向ける。


『時間稼ぎ。宜しくです。』


 親指を立てる漆芽。

 ふむ。この戦いでの私の役割は決まりましたね。

 さて、それでは速やかに任務を遂行するとしましょうか。


 視線を敵へと向ける。


 彼女、【色欲】の大罪神獣 サキュアムか。

 外見はうら若き乙女。格好は恥女。レオタードのような露出度の高い服にコートを羽織り、ウサギの耳を生やしている。

 雰囲気は妖艶。動きの端々が艶かしい。


 彼女の持つ神具は見た目はただの布だ。

 柄はなく。四つ角に金属の装飾がある。

 まるで天女を連想させるように、彼女の周囲を揺らぎながら浮遊している。


 試しに、エーテルを込め硬度を高めた小石を指弾の要領で指で弾く。

 弾丸となった小石がサキュアムに向け飛んでいった。

 威力はそこらの樹木程度なら貫通出来るレベルだ。


『ふふ。先程から可愛らしい攻撃ですね。』


 神具を器用に使い、広げた布で小石を防いだ。

 

『私の【シル・ク・ヴェール】の前では、そんな攻撃無駄ですよ?。』


 ふむ。シル・ク・ヴェールねぇ。

 小石に込められたエーテルがあの布に吸収されたように見えた。

 エーテルを吸収した箇所に不思議な模様が浮かび上がっている…と。


『此方からも行きますよ。』

『おっと!?。』


 彼女との距離は約十メートル。

 彼女は一歩も動くことなく神具を操り攻撃を仕掛けてきた。

 神具の布はまるで蛇のように蛇行しながら鋭く突撃してくる。

  紙一重で躱したが、そのまま布は地面をも抉る。


『危ない。危ない。これは触れると一溜りもない…か。』


 一見、柔らかく見える布。

 しかし、攻撃の瞬間、かなりの硬度を持ち地面をも砕いている。

 あれは私の石でも防御は難しいな。

 まさに攻防一体っと。しかも、思った以上に伸びてくる。


『さて、どう攻めるか。』


 何よりも厄介なのは彼女が展開している支配空間。

 色欲の大罪神獣だけあり、この空間の中にいる者は強制的に発情させられるようだ。

 現に彼女を見るだけでも男としての本能を掻き立てられる。

 今すぐにでも彼女を押し倒し欲望の限りをぶつけたい。

 そう思わされてしまう。


 チラリと離れた位置にいる漆芽嬢を横目で見た。

 ドキッと心臓が高く跳ねる。

 どうやら、空間内にいる異性全てに適用されるようだ。


『頑張って。下さい。』


 漆芽嬢も影響を受けているね。

 普段はやらない投げキッスまでしてくると。

 それと、その視線と言葉には、『まだもうちょっと頑張って下さい。』という意味が含まれている。


 そうだ。

 私の役目は漆芽嬢が扱う神具の発動までの時間稼ぎ。

 彼女の神具が発動すれば勝負は決まる。

 だが、如何せん時間が掛かる。何よりも、この支配空間のせいで思うようにエーテルを練れていない。

 漆芽の準備が整うその時まで、サキュアムの注意を此方に引き付ける。


『はぁ。仕方ない。お嬢さんの為に。頑張りますか。』


 私はエーテルを高め神具を発現させる。


『神具。【煌魔輝光石刀 ストリソ・スタルガイド】。』


 刃渡り二十センチ程度の短刀。

 投げることを想定してデザインした形。

 刺さった場所を中心に私の能力の効果範囲を広げることが出来る。 


 私の種族【煌魔石神】はエーテルを扱い石を生み出し、自らの肉体を石に変化させ、周囲の石を操ることが出来る。

 それが石ならば性質、形状を自在に操ることが出来る。

 そして、神具によってその精度と効力を増大させ広範囲のコントロールも可能となった。


『では、次はこれだ。』


 足下の石にエーテルを流し、石の性質を変化させる。切れ味を優先しイメージしたのは黒曜石。脆さの弱点もエーテルでカバーし、切れ味抜群のナイフが完成する。

 それを足で蹴り、サキュアムへと放つ。


『無駄なことを。私の神具は触れた対象のエーテルを瞬時に吸収する。故に神具を破るにはエーテルで強化された布の防御力をエーテルの恩恵無しで突破しなければなりません。そのようなこと神であれ不可能でしょう?。ですので貴方の攻撃は私には届きません。』


 盾のように前面に展開した神具がナイフのエーテルを即座に吸い取り、その強固な面で弾き返した。


『では、これなら?。』


 弾かれ、地面に突き刺さったナイフを中心に大量の同形のナイフを作り、彼女を取り囲むように一気に放出する。


『ふむ。これでも駄目かい?。』

『ええ。無駄です。数の問題ではないのです。貴方では私の防御は突破できない。』


 全身を覆うように布が彼女の周りを囲う。

 ナイフはエーテルを完全に奪われ通常の石に戻り粉々に砕けた。


『次は此方の番ですよ。ふふ。はぁ。楽しみです。貴方の顔が苦悶の表情に歪むのを見るのが。ね。』


 神具の布を操るサキュアム。

 布の先端が高速で迫る。


『速いっ!?。』


 身を翻しギリギリで躱すも、不規則で変幻自在な布は曲がり、折れ、瞬時に別方向からの攻撃に転じる。


『ぐっ!?。これは…。』


 地面を転がり攻撃を回避したのも束の間、私を囲うように展開された布に逃げ道を無くされてしまう。

 これは短刀一つじゃ防げないな…。

 鋭利な刃と化した布の側面が一気に押し寄せ、私の身体は抵抗すら出来ずにバラバラに分解された。


『ふふ。これで一人。このやり方は確実ですが、相手の表情を最期まで見れないのが残念ですね。ふふ。次は貴女ですよ?。お嬢さん。』

『いいえ。まだです。異熊との戦いは終わっていません。』

『何を言って?。っ!?。』

『ええ。その通り。私を無視して浮気とは許せないね。』


 突如出現した巨大な石の腕に殴られ後方へと飛ぶサキュアム。

 だが、布を巧みに使用して勢いを殺された。


『ああ。成程。貴方の種族は石の種族なのですね。周囲の石を含め、己の肉体をも石へと変化させられると。いくら物理的攻撃でダメージを負わせようと簡単に復元できる、と。』

『正解。君の布は確かに高い切れ味を持っているけど、私の身体には決定的なダメージを与えられないよ?。そして、次の攻撃だ。』


 再び巨大な石の腕がサキュアムを襲うように指示を出す。

 幾つもの腕が小柄なサキュアムを殴り続けた。


『おっと…どうやら、私の想像以上に異世界の神具は厄介なようだ。かなりのエーテル練り込んだんだが…。』

『どうやら、理解が足りていないようですね?。』


 サキュアムが持つ神具は彼女の周囲を回転しながら浮遊している。

 それだけなのに、石の腕はエーテルを吸収され彼女の身体に届くことなく粉々に崩れ落ちた。複数あった腕の全てがだ。


『油断大敵。冷静な貴方も流石に動揺したようですね。』

『しまっ!?。』


 気付いた時には既に彼女の布が腕に巻き付いていた。

 急激にエーテルを奪われる感覚。

 肉体を石に変化させようにも、あの能力にもエーテルを消費する。

 吸われた箇所は石化になれない。


『先ずは右腕です。』

『うぐっ!?。』


 布の先端が容赦なく私の腕を切断した。

 急激に押し寄せてくる激痛に一瞬視界が歪む。


『ふふ。次は右足です。』

『ちっ!?。』


 間髪入れずに右足に巻き付いてくる布。

 逃げるより速く巻き付き、石化より速くエーテルが吸収される。


『させない、よ!。』


 私は神具の短刀を地面に深く刺す。

 全力でエーテルを流し、切り札を発動する。


『来い!。【巨岩神】。』

『これは?。』


 出現したのは、百メートル近くある石の巨神。

 全身の関節をエーテルによって補強することによって生物と同じように動くことが可能であり、私の意思のまま自在に操れる。


『大きいですね。これが貴方の切り札でしょうか?。流石にこれだけ大きいとエーテルを吸収する前に私の身体は押し潰されてしまいますね。』

『理解が速くて助かるよ。じゃあ、早速踏み潰してあげるよ。』


 巨大な巨神の足がサキュアムへと落とさせる。


『ならば、仕方がありませんね。私も切り札を使うとしましょう。神具【シル・ク・ヴェール】。』

『何!?。』

『既に貴方のエーテルで神具に蓄積されたエーテルは満タンです。それを一気に砲撃として解き放つことこそがこの神具の切り札です。』


 布が輝くと、見上げた空一面に巨大な魔方陣が刻まれた。

 まだ、昼前だというのに空は薄暗く、刻まれた魔方陣だけが輝きを放っている。

 そして、その陣の中心から…。


『消えなさい。巨神。』


 天空に描かれた魔方陣から放たれる極大のエーテル砲撃。

 その発動までの速度と効果範囲、威力は足を振り下ろしている巨神を一撃で呑み込み破壊した。

 

『ぐおっ!?。』

『きゃっ!?。』


 エーテル砲は巨神を消し去ると、そのまま地面と衝突、激しい爆発を起こし、私と漆芽の身体を爆風で吹き飛ばした。


『っ…。これは…また、とんでもない威力の攻撃だな…。』


 身体を石にして衝撃から立て直す。

 片腕がないというのは不便なものだ。

 石のままでは起き上がるのも一苦労。

 肉体を石にしてから破損した身体はどんなに細かく砕かれても再生できる。

 しかし、彼女の神具に切断された腕は元には戻っていない。

 エーテルと石化で出血は止めているが、このままでの戦闘は少し厳しいな。


『それに…どうやら、詰み、のようだ…ね。』


 立ち上がり、周囲を確認しようとしたのも束の間、既に彼女の布が私の周囲を取り囲み身体に巻き付いていた。

 

『ふふ。ええ。詰みです。あれだけの巨大な石の巨神を作り出したのです。貴方のエーテルも既に底を尽き掛けているのでしょう?。』

『ははは。ご名答。そうですよ。一応切り札でしたから。しかし、それも貴女の切り札に破壊されてしまった訳ですが。』


 実はエーテルの件は嘘ですが。


『ええ。エーテルが尽きた貴方と違い、私の切り札は貴方の吸収したエーテルに私のエーテルを僅かに上乗せして返しただけ。なので、私自身のエーテルは然程減ってはいません。』


 体外、体内に残るエーテルが搾り取られていくのを感じる。

 くっ…この布に捕まると身体の自由も奪われるのか…。付け加え、その強度は私の石よりも固いときた。

 私では彼女に勝てませんか…。


『では、私の役目を終了としましょうか。』

『ええ。そうですね。貴方はこのまま私に殺されるのですから。』

『ふふ。いやいや。そうじゃないですよ?。』

『はい?。どういうことでしょう?。』

『言ったでしょう?。 詰み だと。私の役割はあくまでも時間稼ぎです。それは何故か。彼女の神具が発動してしまえば勝負が決まるからです。そして、私の役目…時間稼ぎは終わった。なので、既に敗北しているのですよ…と。』

『何を言っぐぼっ!?。な、な、に…が?。』


 彼女の身体を囲うように守っていた布を貫通し、彼女の背後から黒い腕が伸び、その胸を貫いた。

 そして、貫通した胸から伸びる黒い手には彼女の心臓、神獣の核が握られていた。

 彼女の視界には胸から飛び出た自身の核が見えていることでしょう。

 その表情が見る見る絶望の色を強めていく。


『神具【略奪ノ腕 ヴァンデリーグ・デグスレン】。君の全部を、貰います。』


 漆芽の背中から伸びる黒い腕。

 これは、漆芽から聞いた話。

 彼女は仮想世界で【略奪の神】アイシスに肉体や精神を乗っ取られて死んだ。

 その影響か、転生した今、種族に変化があったのだという。

 彼女の種族は【略奪偽神】。

 その性質は略奪の神の力の一端を扱うことが出来るようだ。

 つまり、他人から 奪う こと。

 しかし、肉体がまだ神の力に馴染んでいないようでその力を行使するのに幾つかの条件があり時間も掛かるらしい。


 それが、私が時間稼ぎに回った理由だ。


『頂きます。【略奪・吸収】。』

『っ!?ま、待って、っ!?。ぎゃああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ………。』


 サキュアムの核を握り潰した黒い腕は、潰れた核から溢れ出たエーテルを吸収し、本体の漆芽へと送る。

 同時にサキュアムは即死。

 その肉体もエーテルに変え、彼女の全てを腕は吸収し尽くした。彼女の持つ異世界の神具でさえも。


『ご馳走様でした。』


 腕を消すと、彼女の身体に変化が訪れる。


『うん。使えます。これ。』


 輝き出した漆芽の身体は急激に成長し、まるでサキュアムのような異性を惹き付けるスタイルへと変貌を遂げた。


『………ふむ。これは…驚きました…。』

『どう?。異熊。この私の大人になった身体。好きになりましたか?。この神獣の頭の中、エッチなことでいっぱいです。色んなこと学びました。ちょっと。私。興奮中です。』


 近付いてくる漆芽は、サキュアムから得た知識、能力、神獣としての性質、支配空間、神具の全てを使い誘惑して来ているようだ。

 性格まで変わっていませんか?。


『勿論好きです。ですが、私は漆芽が好きなんです。貴女がどんな姿でも関係ありませんよ。今までの姿でも、これから成長した姿でも。』

『うん。ありがとうございます。私もどんな姿の異熊でも好きです!。大好きです!。』


 元の姿に戻る漆芽。

 神具の布【シル・ク・ヴェール】を出現させ転がっていた私の腕を取る。


『キシルティアに頼んで治してもらいましょう。』

『そうですね。この腕では戦闘は愚か普通の生活すらも困難ですから。』

『ふふ。その腕じゃ私の身体を堪能できませんしね。』

『………やはり、性格まで略奪したのですね…。』

『…こんな私…嫌ですか?。』

『いいえ。大好きです。』

『えへへ。嬉しい…です。』


 まさか、この年齢でラブコメのような青春的なやり取りを行うとは…転生前ならば考えられませんでしたね。

 

『さて...。では、行きましょうか。』

『大丈夫ですか?。腕も失い、かなりエーテルを消費していますが?。』

『ええ。全力は厳しいでしょうが、もう一度くらいなら巨神を出現させるくらいは残っていますよ。』

『あまり無理はしないで下さいね。代わりに私が頑張りますから!。』

『いいえ。漆芽だけに頼りはしませんよ。共に支え合い戦いましょう。大丈夫。私達の新しい仲間…いえ、友人達は強いですから。』

『はい。そうですね。もう二人ではありません。強い…あの、クロノ・フィリアの方々が仲間なんですからね。』


 頷き、彼女の手を取る。

 新たな友の力になるために私達は未だ続く戦場へと向かった。

次回の投稿は27日の日曜日を予定しています。

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