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第345話 裏切り

 手のひらに小さなエーテルの【箱】を作り出した僕は安心の意思を込めて溜め息をついた。

 黄国に張り巡らせた支配空間で他の皆の様子を確認していたんだ。

 たった今、柚羽さん達と賢磨達が勝利したようだ。


『どうやら、柚羽さんは間に合ったみたいだね。僕が行っても良かったけど。そう易々とこの場を潜り抜けられそうにないしなぁ。』

『弱音か?。無凱?。しかし、厄介な相手、ということには同意するぞ。あれが我の支配空間を破壊した神具だな。』

『みたいだね。僕も何度か攻撃を仕掛けているんだけど全部無効化されているみたいだよ。手に持ってるだけでも効果を発揮するらしい。』


 僕とキシルティアの前に立つ男女。

 一人は多分、柚羽さん達が戦っている大罪神獣だろう。

 この周囲に雪を降らせているのも、彼女の持つ氷の結晶のような刃を持つ槍型の神具の能力か。

 あの異常なエーテル…あれもまた、異世界の神具なのか。

 代刃ちゃん、僕達の知らないところで結構な頻度で【接続門】を使ってたんだなぁ…。


 もう一人は神父服を来た青年か。

 手には硝子のような透明感のある剣。

 あれも、異世界の神具だろうね。 


『さて、君の風貌には見覚えがあるね。人族の地下都市…そこを根城に人型偽神の研究をしていた。イグハーレン君で間違いないかな?。』

『ほぉ。これは驚いた。出会った直後に空間を圧縮して攻撃してきた方にしては、対話をする気があるのですね。それに私のことを御存知とは…初対面の筈ですが?。はて、もしや貴方も あの場 にいたのでしょうか?。』

『勿論。それと、君のことは君と戦った人に聞いたんだよ。蛇の神獣を連れた神眷者と戦ったってね。』

『くっ…観測神…。』

『それと、僕が攻撃したことに気が付いてたんだね。どう見ても君がリーダーっぽいからさ。頭を最初に狙うのは当然だろう?。』

『有無を言わさず…に、ですか。容赦のない方だ。私の情報も手に入れているようですから嘘は通じないようですね。』

『どうやら、その手に持ってる神具のせいで僕達の攻撃は君に届かないようだからね。取り敢えず対話しようかと思ったまでさ。それが噂の異世界の神具…かな?。』

『そのことまで御存知ですか。ふむ。その隣の少女の助言でも受けたのでしょうか?。ねぇ、黄国の王、キシルティアさん?。』

『ああ。我の知識は既に伝え終わった。貴様の目的が妾を殺して【情報の拡散】を防ぐこと、だとしたらもう手遅れだぞ?。』


 これはキシルティアの策略だ。

 イグハーレンが世界の情報を何処まで把握しているのかを探る。

 単純に神眷者として僕達を排除するのが目的なのか、それとも、僕達の想像以上の情報を持っているかを知りための。


『そのようですね。ふふ。どうやら此方の反応を見て探りを入れようとしているようですが…ふふ。やはり、貴女の持つ【前世の知識】というのは厄介ですね。この繰り返しの世界の中で極少数の存在だけが知っている知識。それを武器にされると情報戦の時点で勝負になりませんしね。異世界の神具…そのことも前世の知識で知ったことでしょう?。』

『『っ!?。』貴様が何故そのことを知っている!?。』


 驚くキシルティア。

 僕も驚いた。

 【前世の知識】のことも、繰り返しの世界のことも知っている?。

 そして、キシルティアが数少ない転生の記憶を保持している

 世界自体が繰り返していることを知っているのはキシルティア自身と彼女からそのことを聞いた僕達。他には何柱かの神だけだろう。

 それを神眷者であり、この世界の住人である彼が何故知っているのか。

 神との契約の時に聞いた?。

 いや、閃君と接敵した際にはその様なことに触れるような会話はしていなかった。そんな素振りもしていなかった。

 神眷者の中に真実に辿り着いた者がいる?。

 それか…神が何処かで介入しているのか?。


『ん?。世界が終焉と再生を繰り返しているということでしょうか?。それは勿論有識者に聞いたからですよ?。』

『嘘は言っていない…ようだね。誰に聞いたのかな?。』

『ふむ。そんなことを疑問に思うとは…では、逆に質問しましょう。何故、そのことを知っていることに驚いているのですか?。単純に世界の真実を知った。…だから、何だと言うのです?。』

『我が知りたいのは、世界の真実を知った上で何故、我々と…いや、異界の神と敵対し戦っているということだ。真実を知ったのなら、我等と手を結び、共に終焉へと向かう未来を救おうとは考えないのか?。』

『それこそ理解し難い質問だ。我等、神眷者は神によって貴殿方と敵対することを宿命付けられ創造された存在ですよ?。ええ。私もかつてはリスティナ様に見も心も捧げていました。創造神である彼女こそが紛うことなき唯一の神…そう信じていた。ですが、実際は彼女は複数いる最高神の一柱でしかない。勿論、私に力を授けて頂いたハールレン様もそう。この命を与えて下さったことには間違いありませんが、絶対的な存在はその遥か高みに存在していた。』

『絶対神か?。』

『ええ。そうです。私は今、絶対神様を崇拝している。故に絶対神様が貴殿方と敵対する運命を私に課したのならば私はその為に、私の用いる全てを使ってその任を全うしましょう。』

『………その先にあるのが滅びだとしてもか?。』

『ええ。元より私は神眷者ですので。自身の意思など最初からありません。世界が滅びようが再生しようが、全力を持って神の意思に従うのみですから。』


 彼は何処まで知っているのか。

 口振りからして絶対神の存在は確実に理解している。

 絶対神がこのリスティールを舞台に何を行っているのかも。

 僕達よりも情報を持っているのかもしれないな。


『他の神眷者もそのことを知っているのかい?。』

『………それはどうでしょうね。私は互いの利害が一致した相手と行動をしています。しかし、それはあくまでも協力関係。他の方々が何の意思の下に行動しているかまでは分かりかねますね。』

『では、貴様は敵で決定なのだな。』


 キシルティアが支配領域を展開する。

 エーテルに包まれた空間はキシルティアの意思のまま、世界とは切り離され内部のルールを自由に改編できる。


『消えろ。』


 手を握ると、イグハーレンがいる周囲の空間が歪む。空間そのものが圧縮されて中心に向け収束していく。

 まるで僕の能力のようだ。


『無駄です。この神具が有る限り貴女方の能力は私には効きません。』


 手に持つ剣を素早く振り上げた瞬間。

 キシルティアの支配した空間が何の抵抗も無く切り裂かれた。


『ちっ。またか。あの神具…空間を支配する能力の天敵だぞ。』

『みたいだね。僕の能力もさっきからイグハーレンに届いていない。』

『ふふ。そうですよ。貴方…無凱さんと言いましたか?。先程から隙を窺っては私の周囲の空間を支配下に置こうとしていますね?。ですが、それも無駄なこと。リスティナ様より頂いたこの神具【シセカナシキノツサメ】はこの神具以外の全てのエーテルを切ることが出来る。それが空間だろうと神具だろうと関係なくね。』


 閃君の絶刀と似たような効果か。

 違うとすれば、あの剣は切った能力を無効化するだけ、全てを【絶】ってしまう絶刀とは似て非なるものか。

 

『貴殿方のことはリスティナ様より聞いております。【虚空間神】無凱。仮想世界での【無限神】ガズィラム様との戦い。拝見させて頂きました。素晴らしく恐ろしい能力をお持ちですね。この剣が無ければ勝負は既に決していたことでしょう。』

『リスティナねぇ。この世界のリスティナは青国の王だと噂に聞いたんだよね。それで、君は青国を裏切ったって噂も聞いたんだけど。違ったにかな?。』


 情報の出所は閃君の仲間になった八雲ちゃん。

 彼女は元々、青国を裏切ったイグハーレンを連れ戻しに行動していた。

 しかし、未だにリスティナとの繋がりがあるということは、どうやら裏切り自体が何かの口実だったのかな?。

 他国を欺く為か。同じ神眷者を騙す為か。

 僕達にとっては彼の行為は大した問題になり得ないことを考えるとそのどちらかだろうけど。


『成程。この世界のリスティナは仮想世界の情報を手にしているのかい?。』

『ええ。ふふ。良いことを教えましょうか。貴方方が仮想世界からこのリスティールへの侵略を開始した際、その最初の出現場所は今の青国だったのです。』

『っ!?。』


 最初の出現場所?。

 侵略の開始って、僕等がエンパシス・ウィザメントをプレイし始めた時ということだよね。

 プレイヤーがゲーム内に最初にログインすることになったのは巨大な建物の下。周囲には大草原が広がっていて遠くの方に山々が並んでいたのを覚えている。何度も見た光景だ。

 怪しい点といえば、あの巨大な建物か。

 あれは侵入可能エリアが指定されていて中を隅々まで観察することが出来なかった。


『あの…建造物…は…。』

『そうです。リスティールに我等の神が降り立つ前に使用していた宇宙航行戦艦。それを彼等は侵略の拠点に使用したのです。』


 あれが、神々の移動戦艦だったのか。


『あれから長い時を経て、あの大草原は今や海の中。そこを広げ、海上に浮かぶ国にしたのがリスティナ様であり、今の青国なのですよ。』

『つまり、その始まりの建造物の中に…。』

『お気づきですか?。ふふ。今は無き、貴殿方の故郷が眠っていますよ。実物ではない。情報というデータとしてね。』

『……………。データ…か。それを利用して君達は僕達の情報を得たのか。』

『ふふ。ええ。貴方の情報も既に得ていますよ無凱さん。能力も、人間関係も。全てね。』

『…そして、その情報を基に君達は行動している…と。で?。その神具もリスティナが仮想世界の情報を読み取り創造したってところかな?。』

『ええ。ご明察です。【時空間神】が仮想世界で使用した複数の神具、その複製に成功しています。』

『伊達に創造神ではないか…。』


 里亜ちゃんや初音ちゃん。

 豊華さんや賢磨が戦っていた大罪神獣も使っていたようだし、目に前の二人も所有している。

 いったい幾つの神具を創造したんだ。


『しかし、良いのかい?。それだけの情報を僕達に教えてしまって。』

『ええ。問題ありません。私はリスティナ様の命令に従っているだけに過ぎませんので。』

『リスティナの?。』

『ええ。最も、私が貴方に語ったことなど全体の僅かでしかありません。貴方に知られたところで問題はない情報です。それに、私は絶対神へ忠誠を近い、絶対神の意思に従うことを決めています。ですが、それはあくまで私の意思。他の神や神眷者の考えとは異なります。貴方に今まで話したのもリスティナ様の命令なので彼女が何を考えているのかは分かりかねます。』


 リスティナとイグハーレンは目指している場所も目的も違うということか。

 いや、この二人に限らず他の神眷者も別の目的で…。

 巫女だったキシルティアが自らの意思で行動し僕達に接触したように。


『さて、話も終わりでしょう。それでは、この場での侵略を開始させて頂きましょうか。貴方方と二人を排除出来れば、此方側が圧倒的に有利な状況になるでしょうしね。』

『そうかい。なら。もう良いね。』


 空間と空間を繋げ、イグハーレンの眼前に跳躍する。

 あの神具のせいで虚空間を直接彼にぶつけられない。なら、間近で発動させ至近距離から強化した肉体で物理的に攻撃を仕掛ければ。


『ああ。言い忘れました。』

『っ!?。』

『私、自身の目的は貴方達と戦うことではありません。大罪神獣の実戦投入の実験とリスティナ様の命を伝えに来ただけですので。なので、貴方の相手は別の方にお願いしています。』

『悪ぃな。無凱さん。アンタの相手は俺だ。』

『なっ!?。ぐっ!?。』


 横からの不意打ちを咄嗟に腕で防ぐ。

 エーテルで強化された腕に走る衝撃と痛み。

 この打撃、僕のエーテルを抜けてきた。


『無凱!。無事か!。』

『ああ。大丈夫。キシルティア。…はぁ。しかし、まさか君がそちら側につくなんてね。煌真君。』

『ああ。すまねぇな。今の俺はアンタの敵だ。』


 同じクロノ・フィリアの仲間であり、家族。

 【武闘軍神】煌真(コウマ)


『一度。アンタと全力でやり合ってみたかった。だからよ。手加減すんじゃねぇぞ!。』


 クロノ・フィリアで肉弾戦最強の軍神が立ちはだかる。


ーーー


ーーー柚羽ーーー


 体内を巡るエーテルを背中から一気に放出し空を飛ぶ。そのエーテルは翼のように羽ばたき飛行速度を上昇させる。


『早く。早く。無凱さんの元へ。』

『ううん。それはダメだ。柚羽。お前はわらわに付き合え。』

『え?。なっ!?。』


 いきなり目の前に出現する空間の歪み。

 全力で飛行していた私は止まることも方向を変えることも出来ずに空間の歪みに飛び込んでしまった。


『あぐっ!?。』


 そのまま別の空間に投げ出されバランスを崩した。

 地面を転がって、勢いを失った私の身体は静かに停止する。


『悪いな!。柚羽!。お前に用があってな!。わらわの世界に招待したぞ!。』

『うっ…ス、スヴィナさん?。どうして?。』


 周囲を確認すると、そこは…虹色に輝く鉱石に囲まれた見知らぬ世界だった。

次回の投稿は24日の木曜日を予定しています。

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