第344話 百載無窮機関・生成累積神炉 シルクリティメル・エレグブザベルタ
自分達の攻撃が一切効かなかったルグリオンに柚羽の攻撃がヒットしたことに驚きを隠せない里亜と初音。
バランスを崩したルグリオンへ更に追い討ちを仕掛ける柚羽は、全身から圧縮したエーテルの噴出を行うことで推進力を獲得し、速さと攻撃力を向上させた連撃を繰り出した。
『うぐっ…。はぁ…はぁ…。効かねぇなぁ。そんなちゃちな攻撃じゃ、俺様は倒せねぇよ!。』
里亜と初音も疑問に思った。
圧倒的な手数で攻め立てている柚羽の攻撃に対しルグリオンのダメージが明らかに小さい。
一撃の威力は申し分ない筈なのに、蓄積されているダメージにルグリオンは余裕が窺える。
『また、無効化されたのでしょうか?。』
『分からない。けど、効いている攻撃もあるから…。』
二人は混乱する。
ルグリオンは里亜の神技さえも無傷で済ませたのだ。それが、ただの拳でダメージを負っていることも、無効化する攻撃が混ざっていることにも。
『成程。確信しました。貴方の支配空間の能力を。』
『ほぉ?。雑魚のクセに最強の俺の強さの分析か?。』
『ええ。そうです。貴方が無敵と謳う理由。貴方の支配空間の能力は【視認・認識・理解していない攻撃の無効化】ですね。』
『……………。』
『貴方は攻撃を受ける際、自分の視界に入るものにしか反応していなかった。いえ、する必要がなかったからです。 自分が知らない攻撃は効かない そういった確固たる自信の表れからの行動。何せ、自分が気付かなければ傷一つつかない攻撃ですから。』
里亜と初音が柚羽の言葉に反応する。
確かにルグリオンは目の前の攻撃にのみ反応していた。
里亜の神技の際も初音が注意を引き付けた故にルグリオンに直撃させた攻撃が無効化された。
音響の騎士達との戦闘も真っ向からの攻撃のみを迎撃していたし、ルグリオンが無効化した全ての攻撃にルグリオンは反応していなかった。
『くくく。あははははは!。ご名答だ。良く気がついたな。そうさ!。それが俺の【傲慢】が支配するルールだ!。雑魚には突破すら出来ねぇよ!。』
『ええ。寧ろ、隠し通せると考えていたことに驚きですよ。確かに強い能力です、最強と言う言葉も間違ってはいないでしょう。ですが、貴方自身の頭は最弱のようですね。』
『は?。舐めてんのか?。詳細が分かったからって、おいそれと攻略できる程柔な能力じゃねぇんだよ!。』
『いえ。簡単です。では、今から貴方をこの拳で殴らせて頂きます。』
『は?。いきなり何だ?。』
拳を掲げエーテルを集中させる柚羽。
『簡単なことです。これからする私の攻撃は宣言してから行います。では、早速。』
『ぐぶっ!?。』
柚羽の拳がルグリオンの顔面にめり込んだ。
『どうやら、私の攻撃は貴方が扱う影の防御力よりも一瞬上回っているようですね。』
『ぐっ!。こ、のぉ雌がぁ!。らっ!。ぶっ!?。』
再び、殴り掛かろうとしたルグリオンの横顔に柚子の蹴りが入る。
柚羽の行う全ての攻撃はエーテルの波動を噴射させることで加速され威力と速度が異常な程強化された攻撃。
その破壊力は、初音や里亜の神具の攻撃すらも防いだルグリオンの影を一撃で粉砕し本体であるルグリオンまで貫通させるだけの威力を備えている。
また噴出も絶妙なコントロールにより急激な方向転換、柚羽の身体の至る場所から放射出来ることによりあらゆる角度からの攻撃が可能となっている。
また、放出する出力を向上させたり、自らの身体に纏うことで攻撃力を更に上昇させることも出来る。
『この通り、私の【波動】の破壊力は貴方の影を容易く打ち破ります。もう一つ付け加えるなら、この波動を相手の身体に直接叩き込むことで体内外の全てに攻撃することも可能です。このように。』
大きな岩に向かって抜き手を放つ柚羽。
手が岩の中へと埋まり、同時にエーテルの波動が岩の外壁を駆け抜ける。
すると、内側と外側のエーテルが衝突したことで岩は粉々に粉砕された。
『これを貴方の身体に叩き込みます。これを受ければ貴方もただでは済まないでしょう。』
『何をペラペラと自分の能力を喋ってやがるんだ?。そんなことしたって、ごぶっ!?。ごぶっ!?。ぶふっ!?。がはっ!?。』
全ての打撃がルグリオンの視界に映る軌道で顔面へと打ち込まれる。
『な、何でだ!?。神具も使ってない雌の攻撃が影の防御も俺様のガードもぶち破って来やがる!?。』
数度の打撃に流石のルグリオンが膝をつく。
ダメージの蓄積が足に来たようだ。
『いいえ。私は神具を使用していますよ。』
『は?。』
『そうですね。一方的に貴方の神具や能力だけを知っているというのも不公平ですし、教えてあげましょうか。』
柚羽は自分の心臓、核のある胸に手を置く。
『私の神具は核と融合しています。神具【百載無窮機関・生成累積神炉 シルクリティメル・エレグブザベルタ】です。この核は通常の神よりも多くのエーテルを生成し無限に蓄積していきます。私はそれを身体のあらゆる部位から放出させることが出来る。故に。』
『このアマァッがあああああぁぁぁぁぁ!。』
ルグリオンの拳は柚羽の身体には届かない。
『無駄です。神具が起動している今、私が無意識で全身から放出し身に纏っているエーテルの鎧は貴方の攻撃では突破できません。』
『くっそおおおおおぉぉぉぉぉ!?。ぐばっ!?。』
『そして、エーテルによって破壊力と速度が増加された私の攻撃を貴方は防げない。』
柚羽の拳がルグリオンの腹部を捉えた。
衝撃と共に乱回転するエーテルの波動がルグリオンの身体を吹き飛ばした。
波動自体はルグリオンの支配空間によって威力を無効化されたが、拳の威力によりルグリオンは後方に後退させられた。
同時に、周囲の地面がエーテルの波動に抉られ、盛大に破壊された。
『く、くそがあああああぁぁぁぁぁ!!!。シャウロオオオオオオォォォォォウ!!!。』
螺旋回転する実体化させた影のエネルギー砲撃。
『ええ。それが貴方の最大の攻撃でしょう。ならば、私はそれを真正面から撃ち破るのみです。』
手を突き出し、両手からエーテルの波動を放出。
『私の本来の能力は【放出】です。故に内在するエーテルを 放つ ことこそが私の本当の力なのです。【波動砲撃】。』
乱回転する波動。
ルグリオンが放った影の砲撃よりも大きく、容易く取り込み、砲撃を放ったルグリオンごと波動の中に呑み込んだ。
『がっ!?。まだだ!。まだ!。俺は!。俺様は負けてねぇ!。何処だ!。女!。ぶっ殺してやっ!?。』
全身に大怪我を負ったルグリオンが勢い良く瓦礫の中から現れる。
『ええ。これで倒せるとは思っていません。私の波動の方が押し勝ったとはいえ、貴方の神具は決して弱くない。相殺は出来なくとも私の波動を弱体化させるだけの威力はあった。』
『こ…のっ!?。』
『なので、最後は確実に貴方を倒せる一撃を用意しました。』
ルグリオンの目の前に接近していた柚羽の拳には乱回転する波動が既に収束されていた。
『この波動の威力は既に貴方は理解していると思います。私の拳の威力も十分過ぎるくらいにその身に受けたでしょう?。なら、次の一撃の威力は容易に想像できることでしょう。』
『ひっ!?。ま、待て!。お、俺様の敗けだ!。だから許…『これで、終わりです。』ごぶあっ!?!?!?!?!?。』
柚羽の拳がルグリオンの顔面へめり込み、その身体を周辺の瓦礫ごと殴り飛ばした。
完全に顔面を捉えエーテルの波動がルグリオンの全身に走る。
影の防御も、支配空間も間に合わず無防備のまま柚羽の攻撃を受けたルグリオンは仰向けに倒れたまま気を失っていた。
『トドメです。気を失い支配空間も消失した今、次の一撃で終わらせます。』
『それはダメ~。』
『っ!?。貴女は?。神獣?。』
ルグリオンと柚羽の間に突如として現れた女性。
纏うエーテルから神眷者でも大罪神獣でもない、普通の神獣だということは理解できるが人型の姿へと変化していた。
『貴女は…誰かと同化していますね。その身体を形成しているのは本体となった神のエーテルでしょう?。』
『ええ。ご名答よ。【毒大蛇】の神獣。ペティルよ。悪いけど。彼は借り物でね。失うわけにはいかないの。だから回収させて貰うわ。』
『逃がすと思いますか?。』
『ふふ。勿論、そう簡単なことではないでしょうね。けど、貴女に一つ良いことを教えてあげる。』
『良いこと?。』
『ええ。貴女の仲間に響って娘いるでしょ?。』
『響?。』
突然のペティルの言葉に疑問を持つ柚羽。
何故、彼女の口から響の名前が?。
同じく響の名前に距離の離れた場所で事の成り行きを見守っていた初音と里亜も反応する。
『彼女ね。もう死んでいるわ。』
『は?。響が…死?。』
『黒国の王、ゼディナハに殺されちゃったのよ。そこに助けに来た【幻想界】の厄災共々ね。ふふ。じゃあね。』
ペティルの言葉に困惑と動揺で一瞬反応が遅れた柚羽達を尻目にルグリオンを無造作に掴んだ彼女の姿は紫色の煙に包まれ消えてしまった。
『柚羽…今の話…。』
『………今は…この戦いを終わらせましょう。話は…それから…無凱さん達にも報告をしましょう。』
『そ、そうだね。今は…うっ。』
まだエーテルが回復していない里亜と初音がその場に座り込む。
『二人は隠れて休んでいて下さい。私は先に他の方の援護に入ります。』
『ごめん。回復したらすぐに行くから。』
『私も。すぐに。』
『はい。では、二人共。また後で。』
初音と里亜と別れた柚羽。
脳内ではペティルの言葉が繰り返し再生され、生まれる不安と心配の感情を頭を振って無理矢理排除し、背中にエーテルの放出で発生した翼で空を飛んだ。
ーーー
ーーー青国ーーー
大量に蓄積されたエーテルがガラス張りの床の下に輝いていた。
七色の輝きが混ざり合い、渦巻きながら揺らいでいた。
『お母様。これは?。』
エーテリュアがリスティナが用意し、研究台の上に置いた宝石の数々を見て尋ねた。
色とりどりの輝き。纏うのは魔力。各々に違う性能を秘めていることは間違いない。
しかし、これまでの高純度の魔力を宿した宝石は珍しい。とても自然発生したものとは思えず、彼女はリスティナに問いを投げ掛けたのだ。
『ああ、これは転生者…異界人達の核だ。』
異界人。
仮想世界から転生し肉体を与えられた者達。
その身体は魔力、エーテルを体内で生成する器官を宿して転生する。
主に心臓と融合することで全身に魔力を巡らせる働きを持つ。
『この青国で転生した者達。あと各同盟国に転生した者達から抜き取ったモノだ。正直、異界人は戦力としては力不足でな。期待していた分、裏切られた気分なのだ。』
『魔力しか扱えないしね。』
『ああ、なら我々で有効活用するのが良いだろう?。白国も黒国にいた異界人を利用して大罪神獣を復活させたようだしな。』
『お母様が折角、異世界の神具を創造されたのに扱える者がいないのは寂しいですしね。』
『くく。奴等なら十二分に使いこなすだろうさ。そして、妾に必要なデータを提供してくれるだろうよ。』
『ふふ。使えそうな異世人の復元も成功しましたしね。』
『ああ。アレはゼディナハに預けたからな。精々、使い潰すまで酷使してもらおうではないか。』
『しかし、この核はどうするのですか?。既に我々が出来ることは、ほぼ終わらせてしまいましたが?。』
『なぁに。仮想世界にもう一つ面白い素体がいてな。妾の最高傑作であるお前の妹になるかもしれんぞ?。』
『あら?。妹ですか。ふふ。それは嬉しいですね。』
リスティナがエーテルを台に注ぎ始める。
予め、台に刻まれた刻印が輝き出す。
『さあ、早速、始めよう。』
とあるディスク型の機械を取り出し並べられた宝石の中心に置かれた。
すると、刻印から宝石へ輝きが増大し、各宝石の輝きが中心の機械へと流れていく。
仮想世界で収集したデータを保存することが出来るディスク型の機械。
今回のそれには、とある少女の一生が記録されている。
エーテルをトリガーに、宝石の魔力が吸い出されエーテルと融合する。
融合したエーテルは純エーテルへと濃度を高めディスクのデータへと流れ取り込んでいく。
ディスクは形を変化させ、円盤状の形は加工されたように整った宝石へと変わっていた。
そして、リスティナは用意していたエーテルによって象られた人型の肉体へ純エーテルを纏
う宝石を胸に、正確には心臓があるべき場所へ押し込んだ。
肉体と核が馴染む行程を経て、その場は眩いばかりの輝きに包まれる。
暫くすると輝きが弱まり、その場には床に尻餅をついた少女がいた。
『あれ?。私は…ここ…は、どこ?。』
少女は辺りを見渡し戸惑いながらも情報を得ようとしている。
『って、私っ裸!?。』
自身が全裸であることに気付きその場で身体を抱き抱え丸くなる。
『ふふ。どうやら、成功のようですね。お母様。身体に纏う純エーテル。私と同じ最高神に匹敵する存在ですよ。』
『ああ。成功だ。さて、我が娘よ。』
『む、娘?。あ、あの…貴女達は…だ、誰ですか?。それにここは?。』
困惑する少女にリスティナが衣服を創造し投げ渡す。
『まずはそれを着ろ。話はそれからだ。エーテリュア、手伝ってやれ。』
『は~い。』
エーテリュアが少女に近づく。
『っ…。』
警戒する少女に優しく微笑むエーテリュア。
『安心して。私達は貴女の敵ではないわ。傷つけることも、痛いこともしないわ。』
『貴女は…。』
『私はエーテリュア。貴女のお姉ちゃんよ。』
『お姉ちゃん?。けど、私は…独りっ子で…。』
困惑する少女を余所に着替えを済ませるエーテリュア。
そのまま少女を近くにあった椅子に誘導し、リスティナと共に対面に座る。
『さて、我が娘よ。貴様の名前を教えてくれるか?。』
『え?。あ、私は冴…来銀 冴と言います。』
『そうか。妾はリスティナ。この星、リスティールの神だ。』
『改めて、私はお母様の娘でエーテリュア。宜しくね。冴ちゃん。』
『神?。神様?。』
『くく。信じられんか?。なら、少し妾の力を見せてやろう。』
リスティナの手の中にエーテルが集中する。
そして、次の瞬間、その手には一枚の手紙が握られていた。
『っ!?。それって!?。どうして、それがここに!?。』
『くく。妾の力を持ってすれば造作もない。この手紙はかつてお前が閃に告白するために拵えた一筆だ。既に本物は消えたが、妾の力で復元してやった。くく。お前にとっては辛い記憶だろうがな。』
手紙を受け取った冴は中身を確認。
「昼休みに校舎裏の中庭で待っています。とても、大切なお話があります。」の文字。
自分でも恥ずかしくなるくらい♡マークが多い。
紛れもない自分の筆跡だった。
『……………。』
『さて、冴よ。お前の身に起きている現状を説明してやろう。エーテリュア。分かりやすく教えてやれ。』
『はい。お母様。』
エーテリュアは冴に仮想世界と現実世界のこと。
冴のいた仮想世界が消滅し、冴自身は死んでしまっていたこと。
そして、リスティナによって現実の世界に新たな命として蘇生させられたことを伝えた。
『この星はリスティールと言って、お母様。創造神 リスティナによって創造されたの。』
現在、リスティールは危機に陥っている。
それは、仮想世界から転生してきた一部の神々によって侵略されているという状況。
『エンパシス・ウィザメントってゲーム知ってる?。』
『え?。あ、はい。有名でしたから。私はやったことなかったけど。』
『じゃあ、そのゲームをプレイしていた人達が急にゲーム内の能力を使用できるようになったことは?。』
『それも知っています。あの人達が現れてから私の日常は壊されたんです。』
『そう。彼等の生き残り、正確には最も強かった者達が強力な力を身に付けて…それはもう神様と同等の力を手にして、仮想世界からこの世界に現れたの。』
『何の…為に?。』
『この世界を…今まで築き上げてきたお母様の世界を破壊して自分達の暮らしやすい楽園にするためよ。』
『っ!?。』
『妾達はその為に戦っている。だが、奴等は強い。正直な話し劣勢の状態が続いているのが現状だ。故に妾は冴…お前を娘として蘇生させた。新たな神の器を授けてな。』
『私の身体?。』
『ふふ。その身体には神の力が宿っているわ。貴女の心、思考、思想に順応して貴女が貴女らしくなれるように創造されているの。』
『む、難しい…です。』
『ふふ。簡単よ。貴女は神になったの。それでお願い。私達と共に異世界の神…通称、異神と戦って欲しいの。』
『戦う?。私が?。』
『ええ。お母様はその為に貴女を選び蘇生させた。貴女の力が必要だから。』
『けど、私にはそんな力…。今まで普通の女子高生だったのに…。』
『安心して良いわ。私とお母様が貴女を精一杯サポートするもの。』
『冴に用意した神具と呼ばれる武器だ。受け取れ。』
リスティナから渡される首輪。
中心に宝石が埋め込まれたチョーカーのようだ。
『これ。宝石?。綺麗…。』
『それをお前にやろう。名は【クラリアクゥポォト】だ。存分に使いこなして見せよ。』
躊躇いながら冴は首にチョーカーを着ける。
『ふふ。あとは、戦う動機かしらね。』
『先程、話した異神。その中で最も強大な存在の名前を教えてやろう。』
『ふふ。驚くわよ。』
『え?。私の知っている人なんですか?。』
『くく。ああ、その通りだ。異神の中で最も強く、我々が最も警戒しなければならない存在、それは【観測神】閃だ。』
『え………せ…ん?。その名前って…。』
『ええ。貴女の想像した通りよ。貴女が学生の時に告白して、フラれてしまった相手。』
『っ!?。』
『彼も酷いわよね。あんなに何日も考えて頑張って告白した貴女を断るなんてね。真剣に、何度も何度も手紙を書き直して、緊張で夜も寝られなくなっていたのにね。』
『か、彼を悪く言わないで!。』
『ふふ。まだ、彼が好きなの?。』
『そ、そんなの貴女に関係ない。』
『ふふ。確かにそうね。けど、貴女に関係のある彼のことを一つ教えてあげましょうか。』
『な、何を?。』
『ふふ。可愛い。気になるのね。良いわ。教えてあげる。あの人、貴女をフッたクセに今じゃ十人を越える恋人がいるのよ。ふふ。ハーレムね。貴女を捨てたのに別の女の子達に囲まれてイチャイチャしているの。』
『っ!?。』
『ふふ。驚いているわね。』
『………閃さんは…今、幸せなの?。』
『ふふ。どうかしらね~。なぁに?。彼の幸せの方が優先なの?。』
『……………。』
『じゃあ、もう一つ面白いことを教えてあげる。』
エーテリュアがとあるエーテルで具現化した立体映像を出現させた。
『っ!?。うそ…。』
冴が見た映像。そこに映っていたのは…。
『詩那さん…。兎針さん…。どうして、閃さんと?。』
そこには、閃と楽しそうに笑い合う詩那と兎針が映っていた。
まるで、閃を取り合っているように…それでいて嬉しそうに。
『そうよ。貴女の同級生。そして、彼の恋人達。ふふ。不公平よね。貴女は告白してフラれて、毎晩も涙で枕を濡らしたのにねぇ。あの娘達は彼の恋人になれて毎日が楽しそうよ?。』
『っ!?。』
『どう?。彼女達にも彼にも仕返ししたいと思わない?。』
『………。』
冴は映像とエーテリュアを交互に見つめる。
そして、暫くの間映像を眺め、静かに涙を流した。
その場に崩れ、啜り泣く。
『あらあら。可哀想に。どうする?。彼に会ってみる?。』
冴を抱きしめるエーテリュア。
『………。会う。けど、話すだけ…。閃さんにあって…。話す…。仕返しは…しない…。彼が選んだ幸せを…壊したくないから…。』
『あらあら。慎ましいこと。まぁ、良いわ。では、彼の元に案内しましょうか。』
『うん。お願い、します。』
エーテリュアに手を引かれ立ち上がる冴。
彼女は気がついていなかった。
冴の様子を見て不気味に笑みを溢すリスティナとエーテリュアの表情を。
まるで、獲物が罠に掛かったことを喜ぶ捕食者のような笑顔だった。
次回の投稿は20日の日曜日を予定しています。