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第340話 超弩級巨大空中浮遊砲撃要塞 バヴァグスディカ・マクリファ

ーーー豊華ーーー


 ウチの指先にエーテルが収束する。

 輝きを増し、小石くらいの大きさに圧縮したエーテルを弾丸にして放つ。


『小手調べだ。』

『はぁ…俺、言いましたよね?。抵抗しないでと、剰え反撃してくるとは。実に不快で面倒臭い。』


 放たれたエーテルの魔弾は奴の周りを蛇みたいにうねる神具に阻まれた。

 縦横無尽に動く尖端に三十センチくらいの刃がついたロープ。

 たったそれだけの弱そうな見た目のクセにロープ部分の強度が尋常ではないくらいに硬く。反応も速い。

 ウチの砲撃も賢磨の打撃も簡単に防がれる。

 おまけに尖端の刃は貫通する効果があるみたいで、地面も壁も関係なく貫いてくる。

 

『これならどうだ!。』


 魔弾を連射。その数、十八。

 それらを器用にロープがくねり、尖端の刃が貫いた。

 あの貫通はエーテルも物体も関係なく何でも貫くんだ。


『じっとしていて下さい。一瞬で終わりますので。』

『ぐっ!?。』


 迫る尖端の刃。

 魔弾で迎撃するも真正面からでは容易く貫かれ、ロープ自体の防御力も加わり神具の突進を止められない。


『豊華さん!。』


 紙一重で回避を試みるも僅かに腹部を掠め、神具の勢いに押され地面を転がった。

 そして、瞬時に方向を変え襲い掛かって来る刃に対し賢磨が重力の塊を叩きつける。

 真上からの負荷に対し神具は勢いを殺され地面に深々と埋まった。


『すまん。賢磨。助かった。』

『いえ。それより油断しないで下さいね。あの神具、見た目の単純さに惑わされると痛い目を見ます。想像以上に厄介ですよ。』

『あれが、異世界の神具か…あれで十分の一の性能とか頭が痛くなるな。』

『ええ。本来の性能が知りたいですね。』


 神具から距離を取り賢磨と二人で構える。


『はぁ…嫌ですね。抵抗しないで下さいよ。痛みなく一撃で始末できるように急所を狙っているのですから。』


 男が頭を押さえながら悪態をつく。

 しかし、声が小さ過ぎて何を言っているのか今一聞き取り難い。


 男は自身のことを【怠惰の大罪神獣】ヴェフェルニスと名乗った。

 大罪神獣。かつて、仮想世界で敵だった時のクティナが使役していた使い魔。

 神獣中でも特に強力で、本来の力は閃が契約している五行守護神獣達に匹敵する。


 奴が本当に大罪神獣だとすると、奴の他にもあと六体同格の奴等がいるってことだ。

 

『さて、どうする賢磨。ウチの魔弾が全然効かないぞ?。』

『そうみたいだね。あの神具。思った以上に厄介だ。』


 賢磨も攻略法を模索している最中みたいだ。

 ふむ。ちょっと試してみるか。


『賢磨。奴の防御力を調べる。ウチの最大火力をぶつけるから準備の間、時間稼ぎ頼む。』

『うん。了解。任せて。』


 ウチは全身のエーテルを高め始める。

 内に秘めたエーテル。体内を巡るエーテル。身体に纏うエーテル。

 その全てを一つにし、一気に放出する。


『はぁ。何かを企んでいるようですが、そんな隙だらけでは狙い打ちに出来ますよ?。神具!。【グリューダル】起きなさい。』


 地面深くに埋まった筈の神具、グリューダルがそのまま地面の中を回転しドリルのように地中を這いずり回る。


『何でもありか!?。あの神具!?。』


 不規則にうねりながらウチに迫るグリューダル。その速度と鋭さ。今のウチには避ける余裕はない。

 だから、ウチの全てを賢磨に託したんだ。


『悪いけど。その神具は届かないよ。』

『は?。何してるのですか?。何で…グリューダルを素手で掴めるのですか?。』


 高速で動き回るグリューダルのロープを素手で掴む賢磨。

 小さな重力界を身体の周囲に展開し、グリューダルの重さを0にしたのだ。


『ふふ。鍛えてますので。』

『理由になっていませんよ!。』


 アイツ…大きな声出せるじゃないか。

 声を荒げるヴェフェルニスがグリューダルを引き戻す。

 仕切り直し、とでも考えているのか。

 だが、ウチの準備も整った。


『賢磨!。退けろ!。』


 放出したエーテルを突き出した両手に集中。

 巨大なエーテルの魔弾を生成。渦を巻き、空気を震わせ、余波が稲妻の様に周囲に放射される。

 仮想世界では神具【十の円環】の切り札、第十の魔弾だったが、転生し【妖精神】となった今のウチは神具など無くとも当時と同等、いや、あれ以上の砲撃を放つことが出来るようになったのだ。


『くらえ!。声小さい野郎!。』

『うおおおおおぉぉぉぉぉ。』


 特大のエーテル砲撃。

 大気を震わせ、地面を抉る魔弾がヴェフェルニスを容易く呑み込み、後方の遥か彼方の地平線まで飛んでいった。

 

『しまった。壁を壊してしまった。キシルティアに怒られるかな?。』

『いえ、不可抗力でしょ。強敵を倒すのには仕方がないことでしたと報告しましょう。しかし、まぁ…。』

『ウチの全力を防ぐとはな…。』


 ウチと賢磨の視線が一点を見つめる。

 砲撃によって舞った土煙が晴れ、そこに何事もなかったかのように立つヴェフェルニスを睨んだ。

 全身にグリューダルを巻き、あの硬いロープ部分で砲撃を防いだようだ。

 それに、奴が使った別の能力もウチの砲撃を防ぎ切った要因なんだろうな。


『やれやれ。なんという攻撃ですか。あんなの防御するしかないじゃないですか?。面倒臭いのに、エーテルまで使わないと防げないじゃないですか?。はぁ…。こんなの連発されたら疲れるじゃないですか。』

『無傷か…。ウチ、ショックだぞ。』

『空間が支配されたね。これも君の力かい?。』

『はい。その通りです。はぁ…聞かないで下さいよ。見たら分かるじゃないですか?。まぁ…面倒臭いですが、教えてあげますから。教えたら大人しく死んで下さいね。』

『おお。教えてくれるのか?。死ぬのは嫌だが、お前優しいな。』

『死んで下さいって…まぁ…俺達、大罪神獣はそこの男の方のように空間を支配できます。その空間内では俺の理であります【怠惰】の効果が適用されるのです。』

『お前、面倒臭いと言いつつ話が好きなのではないか?。あと、声が小さくて聞き取りづらいぞ?。』

『ああ…まぁ…すみません。それで、俺の【怠惰】の空間内はあらゆる攻撃はやる気を失いその効力を弱体化させます。』

『つまり、君が空間を支配したことで豊華さんの放った魔弾の威力が落ちたと?。』

『はい。その程度の威力でしたらグリューダルを身体に纏えば簡単に防げますから。』

『ちっ。厄介だな。』

『それでは説明も終わりましたので死んで下さい。グリューダル。』


 再び放たれる神具。

 不規則に動く刃を躱しながら一定距離を保つ。


『くっ。やはり単発じゃ、奴に防がれるだけか。』

『豊華さん。なら、やることは一つじゃないかな?。』

『ああ。仕方ないな。あまり使いたくなかったんだがな。』

『む?。また、何かするつもりですね?。させませんよ!。グリューダル!。』

『悪いけど。邪魔はさせないよ。』

『また、貴方ですか?。いい加減しつこいですよ?。これならどうです?。』


 ヴェフェルニスの足下からもう一本のグリューダルが出現する。

 今度は尖端に錨が取り付けられた巨大なモノだ。

 それが、今までのモノと同じ速度でウチと賢磨に襲い掛かる。


『知っての通り。僕も空間を支配出来るので、悪いけど力比べをさせて貰うよ!。』


 賢磨がエーテルを広げ支配空間を創り出す。

 二つの支配された空間の衝突。

 反発し合う境界線が徐々に溶けて融合する。

 二つの異なる神の力が境界を境に混ざったことで互いの神力が有効となる異質な領域が誕生する。


『潰れて貰うよ!。』

『そうですか。ならば。怠惰に怠けなさい。』


 領域内に超重力を発生させる賢磨。

 対して、ヴェフェルニスはその効力を弱めることで軽減する。

 その空間の中で賢磨が接近戦に打って出る。

 

『はっ!。』

『くっ!?。ウザイですね。グリューダル!。』


 弱体化されても、身体に掛かる僅かな負荷に動きを鈍らせるヴェフェルニス。

 神具を使い賢磨の打撃を防ぐも何発かは、その身に受けてしまう。

 だが…。


『くそっ。打撃もか。』

『ええ。はい。そうです。打撃による攻撃も全てが弱まります。俺の身体に近付けば近付く程、その効力は早く強力に効いてくる。』

『攻撃の意思を持って行った行動に瞬時に反応している…か。威力も、速さも失われてしまう。』

『どうです?。貴方は俺に決定打は与えられないのですよ?。』

『ちっ。』


 懸命に拳と蹴りの連打を浴びせる賢磨だが、その打撃は奴にダメージを与えられない。

 速度も抑えられ、威力もない。そんな攻撃を軽く避け、片腕で防ぐ。

 厄介な空間だな。くそっ。奴の周りの重力すらも軽減させられている。


『こうなったら…。出すか。キシルティアに怒られるな。最悪、黄国の半分近くが消し飛ぶが…うん。後で謝るか!。』


 ウチはエーテルを更に高め始める。


『グリューダル。貫きなさい。』

『ぐっ!。速っ!。』

『かかりましたね!。』

『しまっ!?。』


 至近距離からの神具の一撃を紙一重で躱すも、続くもう一本の神具が賢磨の足に巻き付いた。

 尖端が錨のようになっている神具は賢磨の身動きを封じ地面に突き刺さり拘束した。


『これで逃げられませんね。では、さようなら。異界の神よ。』


 貫通力のある刃が賢磨へ放たれる。


『ぐっ!?。避けられないっ!?。』


 重力界を発動するも、あの尖端の刃は歪められた空間すらも貫き、支配した空間を破壊する。重力で勢いを軽くすることも重くして動きを遅くすることも出来なくなった賢磨。

 必死に踠くが、ロープ自体の強度が硬すぎて賢磨の力でもビクともしない。

 絶体絶命。

 この場にいる。誰もがそう思っただろう。

 ウチ以外は。


『ウチの旦那に何するんだあああぁぁぁ!。』


 遥か上空から矢のように放たれたエーテルの魔弾。

 閃光が走り、二人の支配空間すらも切り裂く威力で、賢磨を拘束している神具のロープを焼き切った。


『馬鹿な!?。何処から!?。いや、それよりも何という威力だ!?。俺のグリューダルが焼かれ…切られただと!?。っ!?。あれは…何だ!?。』


 切れない筈の神具が破壊されたことによる動揺。

 それを為した攻撃に驚愕するヴェフェルニスが気付く。

 突然出現したエーテルの気配に自然と視線と顔が上空を向く。


 そこには、巨大な…あまりにも巨大な建造物が上空に浮遊していた。


『神具起動だ!。これがウチの神具【超弩級巨大空中浮遊砲撃要塞 バヴァグスディカ・マクリファ】だ!。』


 広大な黄国の四分の一を覆う程の巨大な浮遊要塞。

 ありとあらゆる箇所に砲塔が備え付けられており、全方位へのエーテル砲撃を可能にしたド派手な神具だ。


『これは不味いですね…。』


 先の一撃。

 支配空間を容易く貫き、神具すらも破壊して見せた攻撃に流石のヴェフェルニスも焦りを見せる。


『賢磨!。下がれ!。くらえ!。ウチの全力!。防げるものなら!。防いでみろ!。』


 神具の砲塔が動き、全ての砲台がヴェフェルニスへ照準を合わせた。

 エーテルが収束し、ウチの動きに合わせて一斉に発射される。


『グリューダル!。』


 神具を操作したヴェフェルニスだったが、雨のように降り注ぐエーテルの砲撃に巻き込まれていく。

 広範囲に放射されるエーテル砲が地面や建物を問答無用で破壊し跡形もなく消し去り、絶え間ない砲撃にヴェフェルニスの姿が掻き消えた。


『砲撃終了。どうだ?。やったか?。』

『豊華さん。わざと…では、ないと思うけど、その発言は不用意にはしないようにね。』

『あ、そうだな。忘れてたぞ。フラグとかいうのになるって閃が言ってた気がする。』


 さて、奴は…どうなったか?。

 土煙で見えないが、あれだけの砲撃だ。

 仮に弱体化されたとて、そう防ぎ切れるものでもないだろう。


『豊華さん!。』

『わあぅ!?。』


 気付くと賢磨はウチを抱き抱えて跳躍していた。

 急に浮遊感を全身で感じ、視界が上空へと移動した。

 見下ろすとさっきまでウチが立っていた場所に大量の奴の神具が突き刺さっていた。

 二本だけじゃなかったのか?。

 更に跳躍したウチ達を追い掛けて伸びる神具の追撃。


『豊華さん!。迎撃頼むよ!。』

『任せろ!。神具!。』


 砲撃要塞はいついかなる時も、どんな角度でも砲撃出来る。

 ウチの視線を照準にすることも可能だ。

 しかも発射のラグは殆どない。ウチの意思一つで瞬時に砲撃する。


『貴様等!。下手に出てれば良い気になりやがって!。ぶっ殺してやる!。』

『おお!。おお!。大きな声を出せるじゃないか!。最初からそうしろ!。』


 神具。グリューダルの掃射。

 縦横無尽。まるで、空を飛ぶ鳥の群れが先頭の後に続いて移動するような一糸乱れぬ動きを彷彿とさせる。

 変幻自在の動きが空中を移動するウチと賢磨に迫ろうとしている。

 砲撃要塞からのエーテル砲で撃ち落とそうとするが、あの尖端の刃の【貫通】という能力が異常な精度を発揮してくる。

 砲撃の威力に関係なく尖端に触れるだけでエーテルが破壊されてしまうんだ。


『くっそ!。何なんだ!?。あの神具は!?。』

『【怠惰】の空間も彼の無敵性に拍車を掛けてる。僕の重力界も、豊華さんの砲撃も全てが弱体化されている。』

『っ!?。賢磨!。前!。前!。』

『えっ!?。あっ…これは…ヤバい。』

『駄目だ!。エーテル砲の威力も下げられて…ロープすら破壊できなくなってるぞ!。』


 空中にいるウチ等を完全に取り囲むように展開したロープ。

 

『ははは!。これで逃げ場はないぞ!。串刺しになれえええええぇぇぇぇぇ!。』

『駄目だ!。避けられん!。』

『豊華さん!。』


 ウチの身体を抱きしめた賢磨。

 視界を隠されたウチの身体は平衡感覚を失い右へ左へ。叩きつけられるような感覚に揺られた。

 そのまま地面に落ちたのだろう。

 ウチを抱く賢磨が支配空間を解除した。


『賢磨。無事か?。』

『いてて。随分と無茶苦茶な攻撃をしてくれたね。流石に無傷とはいかなかったよ。』

『賢磨!。血が!?。』


 賢磨の全身が刃による切り傷だらけだ。

 横腹など、完全に肉が抉れている。


『まぁね。暫くは動けなさそうだけど、大丈夫。これくらいなら死なない。ぐっ…鍛えているからね。………はぁ、それよりも豊華さんに傷一つ無くて安心したよ。』

『馬鹿たれ!。お前が傷付くとウチが辛いんだぞ!。もう、優の時のような悲しい気持ちにさせないでくれ…。』


 あんな…別れも、再会も…。

 もう、懲り懲りだ。


『豊華さん…分かった。じゃあ、もう傷付くことはしないよ。だから、二人で勝とう。』

『ああ。全力の全力だ!。』


 ウチと賢磨の最大の攻撃で奴を倒す。


ーーー


『ははは。どうだ…勝ったぞ。くそっ…面倒臭いのに…エーテルを想像以上に消費してしまった。………はは。だが、これで…異神も…。』


 グリューダルを引き寄せ、支配空間を解除したヴェフェルニス。


 豊華達を囲みロープ状の膜を作った。その中を大量の刃で貫いたのだ。

 逃げ場などない。手応えもあった。


『俺の勝利だ。』


 ヴェフェルニスは勝利を確信した。


『それは、ちと早い考えだぞ!。』

『は?。』


 上空から地面に叩きつけられた豊華が立ち上がる。

 もっと早くにヴェフェルニスは気付くべきだった。

 勝利を確信する前に上空に浮遊する要塞がまだ機動していることに。


『さぁ。大罪神獣!。これがウチの最後の攻撃だ!。防げるモノなら防いでみろ!。』


 手を掲げる豊華に呼応する要塞。

 各部から突き出た砲台が内側に収納され、堅固な鋼鉄の外壁が浮き彫りとなり、直径30km以上ある一つの 塊 に変形する。

 雲に覆われた薄暗い昼間の時刻。更に要塞の影によって夜と思わせるくらいに真っ暗になった。


『これは!?。何が!?。起きている!?。』

『行くよ。豊華さん!。』


 賢磨が再び、重力界を展開する。

 エーテルの放出により落下を始めた要塞に、賢磨が広げた重力界の荷重が加わり大質量の巨大な隕石のようにヴェフェルニスに向かって急速に落ちていった。

 もう、怠惰の弱体化など意味を為さない。

 効果を発動したところで到底防ぎ切れる威力を既に上回っている。

 

『うっ。怠惰!。グリューダル!。』


 その巨大さ故に避けられる隙間はない。

 想像を絶する大きな塊が重力加速で急速落下してくるのだ。

 ヴェフェルニスに残された行動は、全力で怠惰を発動し、グリューダルの防御力に身を委ねることしかなかった。


『ぐあああああぁぁぁぁぁ!!!。』


 戦いの場となった黄国の建物や壁を含め、要塞が墜落に押し潰された。周囲はその衝撃によって発生した暴風に吹き飛ばされた。

 

『はぁ、はぁ、流石にエーテルを使い切ったぞ。神具の維持も限界だな…。』


 神具が消え、全てが吹き飛び大きく陥没したクレーターと凸凹が激しい石と土の大地に立つ豊華。

 エーテルの過剰使用にふらつく彼女の身体を支える賢磨。

 二人の視線は解除された神具が墜落した跡地。

 ヴェフェルニスがいた場所に向けられた。


『…いないな。』


 そこにいた筈のヴェフェルニスの姿はない。

 遺体も、血痕もないが、神具のロープが這いずった跡が残っていた。

 途中、地中に消えているところを見るに神具で地面を掘って逃げたと、二人は結論付ける。


『逃げたみたいだね。あの一撃を受けてまだ生きてるのには驚いたけど。逃げたってことは、戦闘の継続が出来なくなったってことだ。一先ず、この場は僕達の勝利…かな。』

『ああ。多少手こずったが勝ったな!。ははは!。』


 倒れる豊華を支えながら賢磨はその場に座る。


『ウチは負けん。優にウチを思い出して貰うまではな。』

『そうですね。豊華さんを悲しませた罪深き少年にはお仕置きしないといけないね。』

『ああ。必ず、アイツの母になってやるんだ。』

『ふふ。じゃあ、僕は彼の父親ですね。』

『はは。だな。おめでとう。お父さん。』

『君もだよ。お母さん。』

『えへへ。良いな。この感じ。』


 その後、体力とエーテルが回復するまで暫くその場でいちゃつく二人なのであった。


ーーー


 エーテルを纏わせることで強度を向上させた小石。

 指で弾かれたそれは弾丸の如く速度で連射された。


『うふふ。可愛らしい攻撃ですこと。』


 しかし、弾丸と化した小石は彼女の操る布によって、あまりにも容易く防がれてしまう。

 布がエーテルを吸収し、勢いと威力もいなしてしまう。


『いやいや。小手調べ。だよ。君の実力を確認する為のね。』


 肩を竦める異熊。

 口に咥えた煙草から煙が上がる。


『あら?。そうでしたのね。では、私の実力は貴方の目にはどの様に映ったのかしら?。』

『随分と厄介…かな?。君の神具も、君の支配空間も。』


 レオタードのような露出度の高い服にコートを羽織り、ウサギの耳を生やした妖艶な少女。


『うふふ。でしょ?。私のこと。攻撃しづらいでしょ?。どう?。恋しちゃった?。』

『ふむ。恋とは違うね。男としての欲求が刺激される感覚かな?。君を女性として自分のモノにしたい気持ちが湧き上がってくるね。普通ではないくらいにね。』

『うふふ。でしょう?。私の空間では全ての生物は雄と雌でしかない。加えて私に向ける感情には性別すらも関係無いの。』

『そうなのかい?。漆芽も?。』

『はい。私も絶賛興奮中です。あの神獣に滅茶苦茶に迫られたいという欲求が強くなってます。』

『おお…これは予想以上にやりにくい..。』


 彼女の支配空間の中では性に対する欲求が異常に向上させられる。

 しかも彼女との距離が近付けば近付く程にその効果は増大する。

 ただ、欲求が強まるだけではない。

 彼女に対して戦いたくない、攻撃したくないという考えが感情と共に押し寄せ行動を鈍らせる。


『うふふ。改めて自己紹介するわね。【色欲の大罪神獣】サキュアムよ。私の【色欲】に支配された空間で甘~い時間を過ごしましょう。』


 桃色に歪められた空間が周囲の環境を侵食していった。

次回の投稿は6日の日曜日を予定しています。

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