第339話 白国からの刺客
客室で再会した僕達は、再び出会えたことを喜び合い、互いの情報交換を行っていた。
長いテーブル。各々に用意された椅子に腰掛け会話を続ける。
この場にいるのは。
僕、無凱。柚羽さん。
初音ちゃん。里亜ちゃん。
豊華さん。賢磨。
そして、異熊君と漆芽ちゃん。
話し合う僕等を遠巻きに眺めるキシルティアとスヴィナ。
そんな構図だ。
『皆はキシルティアから、この世界のこと。僕等の身に起きていることを聞いた。それで良いかい?。』
『はい。私達はエンパシス・ウィザメントで与えられた種族の神になった。キシルティアさんの手助けもあってエーテルの扱い。神具の発現。神としての最低限の力は扱えるようになりました。』
僕の質問に答える柚羽さん。
『そして、僕等はこの世界の住人の中から神によって選ばれた存在、神眷者と戦うことを強いられた。』
追随し、賢磨が答える。
『うん。僕はこの世界で語られる 七つの厄災 として転生したんだ。一つの生物ではなく、この世界で発生する現象としてね。つまり、他に六人が僕のような転生方法だと考えているんだけど?。』
『ああ。それなら一人は僕だね。僕は豊華さんがピンチになった時に自我が芽生えたんだ。それまでは空間内の重力を変化させる厄災【重力界】と呼ばれる現象だったらしいよ。』
『賢磨もだったのか。なら、ほぼ確定かな。厄災は僕等の仲間の転生先。厄災の噂を辿れば仲間に会える。』
『既に僕や無凱のように一つの神となって実体している可能性もあるね。』
『ああ。そうだね。因みにだけど神具は発現したかい?。』
『いや、どうやら僕のような厄災だった者に神具は創れないらしい。代わりにエーテルを広げた支配空間内に厄災と同じ現象を発現させることが出来るようになった。』
『ああ。それも同じだね。なら決まりかな。』
『それが厄災となった神の在り方なんだろう。』
僕の【虚空界】のような支配空間を創れる神。それが厄災と呼ばれている神なんだろうね。
『世界の終焉のことも聞いたのかい?。』
『おお。聞いたぞ。どうやら大変なことになるらしいな。ウチも聞いて驚いたぞ。』
『僕達の敵は神ではない。のかも、しれないね。仮想世界で僕達と戦った神々は何か目的があって行動していたように見えた。もしかしたら、終焉から世界を守るために僕達を仮想世界から、この世界に転生させたんじゃないかと僕は思うよ。』
『うん。僕も賢磨の意見と同じ考えだよ。だけど、神眷者の存在や、この世界の住人達へ伝わっている僕達、異界の神の情報に納得がいかない。何故、わざわざ敵対するように仕向けているのか。』
『そうしなければいけない理由がある…と。』
『キシルティアはその理由を知っているかい?。』
彼女なら僕達の疑問に答えられるかもしれない。
『我も自信を持って答えられんが、恐らく、完全に覚醒した【観測神】をこの世界で顕現させる為ではないかと考えている。』
『観測神…。閃君の覚醒の為…か。』
『そうだ。完全なる最高神として覚醒した観測神は、あの絶対神と並ぶ存在だ。絶対神が策謀するのも分かる。ダークマターという驚異に対抗できる唯一の存在だろうからな。』
『つまり、このリスティールは閃さんを覚醒させる為に神が用意した舞台ということでしょうか?。』
『それもあるだろうが、貴様達を最高神へと覚醒を促す場でもあるだろうな。』
『どういうことですか?。』
『ダークマターが現象として発現した場合、世界は崩壊する。しかし、その前に前兆となる出来事が各地で起き始めるのだ。』
『前兆?。それはどんなだ?。』
『我の記憶では前兆は様々だ。生きるモノが急に理性を失くし暴走を始めたり、ある種が絶滅…いや、忽然と消えたこともあったな。』
『もしかしてその前兆を止めるために?。』
『そうだ。最高神が増えればそれだけ世界が安定する。崩壊への前兆も、僅かな変化にも気付き事前に対応出来るかもしれんからな。』
『その前兆はいつから?。』
『これも疎らだが…遅くても一年後、いや、一年以内には崩壊が始まるだろう。』
『なら、前兆はその前、つまり現在から考えていつ起きても可笑しくない状況だということか。』
『もしかしたら、もう何処かで始まっているのかもしれません。』
『そうだな。無凱。』
キシルティアが僕を見る。
『何だい?。』
『白国が攻めてくるのは今から一週間以内の何処かだ。それを解決した後、至急、紫国へ迎え。』
『勿論、紫国には向かうけど。急ぐ理由は?。』
『念のためだ。まだ早急だとは思うが、ダークマターによる異変が最初に発現するのはいつも紫国なのだ。』
『っ!?。』
『我が黄華を送った理由の一つはそれなのだ。黄華は神人だ。ここにいる者の誰よりも最高神に近い。故に戦力として黄華を紫国に送ったのだ。ダークマターの異変も早期ならばそこまでの大事にならずに対処できるだろうからな。』
『こら!。そういうことは昨日の夜の内に言ってくれよ!。』
『すまん。我も舞い上がっていたのだ。話す順番は思考していたのだが…このことが抜けていた。』
これは、ますます急がないといけなくなったな。
黄華さん…無事でいてくれ。
『なぁ。なぁ。あの紫国の王子が置いていった装置で転移が出来るんじゃないのか?。』
『ああ。あれか?。使うことはないだろうと倉庫に放り投げたな。確かにアレならば紫国に直接飛ぶことが出来るだろうが…最悪敵のど真ん中だぞ?。』
『無凱ならば問題ないだろう?。無凱はここにいる誰よりも強いぞ!。ししし!。力を失っているとはいえ、わらわよりも上だ!。因みにわらわはこの中で四番目に強いぞぉ~。』
『二人して何の話だい?。』
かってに二人で盛り上がるキシルティアとスヴィナ。
『ああ。それがな。少し前に紫国の王子が来たことは話しただろう?。』
『うん。黄華さんを拐っていった奴だね。』
『うぅ…怒るな…。無凱…殺気を消してくれ。』
『おっと…失礼。』
『それでな。ソイツが青国から各国に支給された転移装置を持ってきたのだ。同じ装置同士がエーテルで歪めた空間で繋がり互いに行き来できるようになるっていう道具なんだ。』
『そんなものが?。』
『本来、あの紫国の王子はそれを我に届けることが目的だったのだ。そこで黄華に出会い…いきなり求婚してきたという訳だ。』
『黄華さんに…求婚?。』
『無凱。いちいち殺気立つな。話が進まないよ。』
『っ。ああ…ごめん。賢磨。』
『ふふ。だが、気持ちは分かる。僕も豊華さんの身に同じことがあれば紫国を地図から消していた自信があるよ。』
『おお!。賢磨!。嬉しいぞ!。ウチも!。同じ気持ちだ!。』
『あ、ははは…。厄災だった賢磨さんが言うと洒落にならないですね…。』
『さて、話を戻すが、その装置は現在電源を切っている。各国と繋がったということは奇襲も可能だということだからな。特に白国には我の黄国が貴様達と繋がりを持っていることが知られている。白国が早々と攻めてこないのもそれが原因だな。危うくて、あんな機械安心して使えん。』
確かにそうだ。
便利過ぎる機械だが、その反面敵に渡ると厄介な面が多い。
青国は何故そんなものを各国に?。
いくら異界の神との戦いに備える為だとしても危険過ぎるだろう。
いや、寧ろ潰し合わせるのが目的か?。
今はリスティールに住む者同士が力を合わせなければならないのにな…終焉のことを知らないのが原因だろうけど、これが神の考えた筋書きなんだろうね。
それだけ、最高神の力を頼りにしているのか…。僕達の覚醒を…。
『ふぅ…。話を変えようか。』
冷静さを取り戻す為に話題を変える。
『異熊君は神獣に記憶を取り戻して貰ったと言っていたけど、漆芽ちゃんはどう何だい?。』
『私はキシルティアさんに、思い出させて貰ったよ。エーテルで頭の中グルグルで、私は全部思い出したの。』
『キシルティアはそんなことも出来るのかい?。』
『まぁな。乱れたエーテルを整え奥底に沈む記憶を引っ張り出すような感じか。コツがあるが感覚の問題でな伝えるのは難しいな。』
『エーテルの扱い方か。僕ももっと練習しないとなぁ。』
『無凱ならコツさえ見つければ出来るだろうさ。』
時間があればね。
『さて、じゃあ次は僕のこれまでのことを教えておこうかな。』
僕は目覚めてから黄国に辿り着くまでの出来事を皆に共有する。
『成程。閃君や燕ちゃんにも出会ったんだね。』
『ははは。相変わらずモテモテなのだな!。アイツは!。』
『だね。かつて敵だった彼女達と力を合わせて戦っていたよ。地下都市で別れてからは、閃君達は緑国へ。僕は黄国へと旅立ったんだ。』
『ふむ。そのハーレムの中に兎針がいたのか…あの気難しい娘が…ふふ。言い傾向だな。』
感慨深く目尻を指で押さえる異熊君。
兎針ちゃんが閃君と一緒にいることに感動してる?。
『奏他ちゃんもですか。』
『奏他。無事だったんだ。良かった。』
『はい。奏他、あまり表面には出しませんが結構警戒心の強い娘だったので…。』
『何でも一人でかかえこもうとする。良くないよね。』
里亜ちゃんと漆芽ちゃんが奏他ちゃんの心配をしている。
ああ、この二人とは仮想世界で同じ白聖に所属していたんだったね。
かつての仲間が元気にやっている。
それだけで嬉しいよね。
『っ!?。無凱。』
『ん?。どうしたの?。キシルティア?。』
『ん?。おお!?。これ!?。マズイかも?。キシルティア。聞いてたより多いぞ!?。』
和やかな雰囲気は一変。
キシルティアとスヴィナが何かに気付き、警戒心を強めている。
その表情から敵が来たことは明確。しかし、何か二人の予想とは違ったことが起きているようだ。
二人の緊迫した雰囲気を感じ取った面々の表情が強張り部屋全体に緊張が走る。
『敵が来た。我の支配領域に干渉してきている。いや、馬鹿な破壊されただと!?。』
『しかも別のエーテルが支配領域を広げてきた。』
窓の外を見ると雪が降り始めていた。
雪?。何で?。さっきまで晴天で暖かい陽気だったのに、いつの間にか薄暗い雲に覆われている?。
『くっ。攻めて来たことに関しては予想通りだが、純エーテルの気配を複数感じるな。』
『そこまでは聞いていた通りだね。キシルティアの予想外のことが起きたんだろ?。』
『ああ。敵の数。領域に干渉して来ている奴を含めて反応が七つ。そのどれもが純エーテルを有している。』
『七人の敵か。』
『わらわも感じた。実際にこの国に殴り込んできているのは五つ。急がねば生徒達に被害が出るぞ。』
『スヴィナ。至急生徒達の避難を急げ、一人も殺させるな!。』
『了解だぞ!。任せろ!。』
キシルティアの指示に飛び出していくスヴィナ。
『まさか、もう白国が攻めてきたのかい?。』
『ああ。こんなにも早く動くとは我の記憶と一致せん。無凱。………皆、黄国に力を貸してくれんか?。』
キシルティアの言葉に全員が立ち上がる。
『当たり前だ!。お前にもこの国にも世話になったからな!。ウチも全力で力を貸すぞ!。』
『豊華さんがやる気だからね。僕も精一杯頑張ろうか。』
『任せて下さい。キシルティアさん。』
『私達もこの国を守りたい気持ちは一緒です。』
『さて、我々も行こうか。』
『うん。異熊。一緒に戦うよ。』
『行きましょう。無凱さん。』
『ああ。そういうことだ。キシルティア。僕達は黄国を守るよ。』
全員が同じ意思のもとに行動を開始する。
僕達の助力にキシルティアは笑顔を向けた。
『ああ。頼む。感謝するぞ。どういう手段で我の支配領域破壊したのかは知らんが恐らく他者のエーテルから創られたモノを破壊する能力を持つ奴がいる。気を付けてくれ。』
こうして僕達は敵の迎撃へと向かった。
黄国を…キシルティアの国を守るために。
~~~~~
『さぁ。始めましょうか。神具。起動。【シセカナシキノツサメ】。』
イグハーレンの手に握られた薄い水色の刀身を持つ刀。
神具の名が告げられ、その内に秘められた純エーテルが刀身へと流れ始めた。
刀身の輝きが増し、同時に刀身が左右から分離し変形、左右交互に伸びる別の六つの刃が出現する。
七支刀。かつて際具として用いられていた神を降ろす刀。
しかし、神具として形を与えられ解き放たれたその能力は…。
【刀を突き刺した地点からの一定空間内にある全ての神の能力、神具の能力を解除、本来のエーテルへと強制的に回帰させる。】
つまり、黄国を覆うように展開されていたキシルティアの支配領域すらも強制的に解除された。
『さぁ。もう一つ、おまけも加えましょうか。グリナリサさん。宜しく。』
『は~い。この【強欲の大罪神獣】グリナリサが、この国のエーテルを奪っちゃうわね。神具を起動~。【エグゼクトブライデール】。』
雪の結晶の形を模した刃を持つ槍が天高く掲げられる。
晴天だった空は分厚く暗い雲に覆われる。
照りつけていた陽射しも遮られ周囲を薄暗さと不気味な静寂が包み。次第にしんしんと雪が降り始める。
『さぁ。開戦です。黄国を滅ぼしましょう。』
~~~~~
壊れた壁。
崩壊した建物。
瓦礫が敷き詰められた地面が足場を覆う。
『きゃあああああぁぁぁぁぁ!?。』
逃げ遅れた生徒達が黒い影に襲われていた。
影は実体化し狼の姿を象り、その鋭い牙と爪で生徒達へ飛び掛かる。
『ははは。弱ぇ!。弱ぇ!。これが七大国で最強と言われる黄国か?。戦える奴が一人もいねぇじゃねぇか!。』
逆立つような髪。
鋭い眼光に野性味に溢れた雰囲気の男。
足下から影が泥のように舞い上がり次々に狼となって飛び出していく。
『初音!。』
『任せて!。神具!。』
初音の持つ笛が鳴り響き、音が弾丸となって狼達へ降り注ぐ。
弾丸を受けた狼達は短い悲鳴を上げ次々と霧散し影へと戻っていった。
『はっ!。やっと来やがったか!。異神!。』
『貴方は?。誰ですか?。何故、この国を襲うのです?。』
里亜が男に問うと、男は間が抜けたような表情を浮かべ質問をした里亜を嘲笑う。
『くくく。おいおい。そんなこと今さら聞くなよ。俺がこの国を滅ぼしに来てることなんざ既に承知してることだろうが?。』
『ええ。そうですね。ですが、敵ではない可能性に賭けてみたのです。私達は無益な戦いは望んでいません。出来ることならこのままお帰り頂けないでしょうか?。』
『くく。それは無理な相談だ。俺達はテメェ等を殺る気満々だ。だからよぉ。とっととくたばりやがれ!。』
『そうですか。なら仕方がありませんね。』
里亜が神具を起動し支配空間を広げる。
『あ?。これは?。』
『潰れなさい!。』
男目掛けて周囲の瓦礫が男に向かって放たれる。瓦礫一つ一つがエーテルによって硬化し、音速を越える速さで発射された。
無防備で抵抗すらしなかった男は放たれた瓦礫に押し潰される。
『手応えが…ない?。』
巻き上がる土煙。
しかし、男の纏うエーテルに変化はない。
『はぁ。期待した俺が馬鹿だったな。いや、最強である俺が強すぎるだけか?。まぁ、強者と言われる連中なんて所詮こんなもんか。』
『そんな…傷一つないなんて…。』
『流石にこの程度では倒せませんか…。』
土煙の中から現れた男。
当然のように無傷であった。
『ああ。そうだな。雑魚とはいえ最強の俺様が手を下すんだ。自分を殺す最強の男の名くらい教えといてやるわ。はっ!。耳の穴かっぽじってよぉ~く聞きやがれ!。雑魚どもが!。』
威圧的な意味なのか男の身体からエーテルが周囲に放出される。
『【傲慢の大罪神獣】ルグリオン!。テメェ等を殺す雄の名だ!。この最強の名!。死ぬまで忘れんじゃねぇぞ!。』
~~~~~
『初めまして。【怠惰の大罪神獣】ヴェフェルニス。宜しくお願いします。』
長身の猫背。殺る気のない表情と声色。
生気が希薄で何を考えているのか分からない。
そんな男を取り囲むように長いロープがうねりを上げ尖端に取り付けられた鋭い刃が二人を襲う。
『なっ!。危ないではないか!。まだ話している途中に!。不意打ちにも程があるだろうが!。』
『豊華さん。前に出過ぎだよ。もう少し下がって。』
『ぐっ。しかしな。アイツ、声が小さすぎて何を喋っているのか聞き取りづらいぞ。』
豊華と賢磨が刃を紙一重で躱し距離を取る。
『貴方方を殺すように命令されました。どうか、抵抗せずに。俺の手を煩わせないようにお願いします。面倒なので。はぁ。早く死んで下さい。』
『だから!。聞こえんって!。声が小さいクセに無駄に長いっ!。』
苛立つ豊華の声が虚しく響いた。
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