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第333話 趣味

 案内されて連れてこられたメリクリアの自室。

 乙女チックなデザインは彼女に今まで感じていたイメージとは掛け離れていたけれど、妙に僕の趣味に合うんだよね。

 可愛くて、キラキラしてて。ピンク色で。

 それに、部屋の奥に並ぶ宝石のように輝いているのは僕の心を踊らせるコスプレ衣装の数々。

 色々と脳内に浮かんでいた疑問はそれらの前には一瞬で消え去り、僕達はお互いにコスプレ衣装を身に纏い、互いに写真を撮り続けた。

 

『うは~。良いね!。良いね!。代刃!。凄くエッチだよ!。ポーズも!。ポーズもとって!。うひゃあ!。良いね!。凄く良いね!。ねぇ!。ねぇ!。こっちも着てみて!。こっちも!。こっちも!。』

『こ、こうかな?。どう?。』

『そうそう!。えへへ。代刃は可愛いから何でも似合っちゃうね。』

『えへへ。そ、そうかなぁ~。じゃあ、次はメリクリアね!。』


 様々な衣装。様々なポーズ。様々なキャラクターになりきって僕達は撮影会を繰り返した。


 それから数時間。

 時が経つのも忘れて楽しんだ撮影会も一段落。

 

『紅茶で良い?。』

『うん。ありがとう。はしゃぎ過ぎて喉渇いちゃったよ。』

『だね。楽しかった~。やっぱり僕と代刃は趣味が合うね。好きなものも一緒だし。嬉しいなぁ。』


 用意された紅茶を口に含んだ。

 仄かな甘さと、心地よい苦味が口の中を潤した。


『じゃあ、落ち着いたしお話しようか。』


 テーブルの向かい側の椅子に座ったメリクリアが自分用に用意した紅茶を一口飲み話を切り出した。

 僕は頷いて彼女が話し始めるのを待った。

 これでやっと絶対神が言っていたことが分かるのかな?。


『じゃあさ!。代刃と閃君の話を聞かせてよ!。』

『はえ?。』

『僕、ずっと興味あったんだ。代刃と閃君は恋人同士なんでしょ?。二人の時はどんなことをして、どんなお喋りをしてるのかなぁって。あっ!。二人の馴れ初めとかも聞きたいな!。どんな風に出会ったの?。どんな風なお付き合いをしたの?。』

『え?。いきなり!?。この世界のことを教えてくれるんじゃないの?。』


 てっきりそれが、これから話される内容かと思ってたのに。


『勿論だよ。けど、気になってたからさ。代刃に会ったら一番最初に聞こうと思ってたんだぁ。えへへ。楽しみだったのぉ。』


 うぅ…メリクリアから凄いワクワク感を感じる。

 これ、話さないと絶対次の話しに入らないヤツだよね?。


『はぁ…うん。分かった。じゃあ、教えてあげるね。』


 僕は閃と初めて出会った時のことを話す。


『僕はね。ずっと自分に自信が持てなかったんだ。…ああ、それは今もだけどね。あの頃に比べたら少しは克服出来たと思うんだよね。引っ込み思案で、根暗で、そんな僕を見かねた友達が誘ってくれたゲームがあって…ああ、メリクリアは知ってるよね。それがエンパシス・ウィザメント。』

『うん。勿論だよ。』

『最初は乗り気じゃなかったんだ。ただ、友達とは遊びたいとは思ってたの。僕、学園じゃ友達居なかったから。まぁ、その友達と言っても小学生の低学年までしか一緒じゃなかったけどね。何かと気に掛けてくれてね。春瀬って娘なんだけど。たまに連絡くれてて、その娘に誘われて始めたんだ。』


 いつまでも、自信のないままじゃ駄目なことも自覚してた。少しでも自分を変えたくて、日常の中に変化を求めたんだ。

 それに、もっと友達が欲しかったから。

 学園での僕は友達と呼べる存在はいなかった。

 独りでいる方が気が楽だし、騒がしいのが苦手だったから。

 休み時間はずっと携帯端末をいじったり読書で過ごしてた。

 思い出という思い出はなかったなぁ。

 前髪を上げると皆が僕の方を見てくる視線が堪えられなくて前髪で目元を隠すようにもなって、ますます友達が出来なかった。

 別に虐められてた訳じゃない。きっと、他の人からすれば近付き難かったんだと思う。


『そうなの?。こんなに可愛いのに。』

『…そ、そうかな?。閃も良く言ってくれるんだ。僕…それが嬉しくて…。』


 僕の前髪を上げるメリクリアが覗き込む。

 メリクリアも十分に可愛い。


『それで?。閃君とはどうやって出会ったの?。』

『春瀬に連れられてね。クロノ・フィリアのギルドに向かったんだ。そこで何人かのメンバーに出会って挨拶したの。けど、その時に閃は居なかったんだ。』


 無凱さん。仁さん。白に。睦美に。春瀬。

 その時、あの場にいたメンバーだ。

 

「この娘かい?。クロノ・フィリアに加入希望って言ってたのは?。」

「ええ。無凱さん。私の親友ですわ。とっても素直な良い娘ですわよ。」

「よ、宜しくお願いします。」

「はい。宜しくお願いします。私は睦美と申します。此方は白です。」

「宜しくッス。えっと…。」

「あっ。し、代刃です。」

「宜しくッス!。代刃ッチ!。」

「ッチ?。」

「ああ。白の癖ッス。くんくん。何かくんくん。代刃ッチから恋愛の匂いがするッス。」

「え?。れ、恋愛!?。そんなこと…したことないよぉ~。」

「なら、これからッスね。白の恋愛嗅覚は良く当たるッス。」

「ええ…。」

「こらこら白ちゃん。新入りちゃんを困らせちゃ駄目だよ。初めまして、代刃ちゃん。僕は仁。このクロノ・フィリアの副リーダーだよ。それでこっちのだらしないのがリーダーの無凱だ。」

「宜しくね~。」

「は、はい。宜しくお願いします。」

「ところで、代刃ちゃんの種族は何だい?。人の姿と変わらないように見えるけど?。」

「あっ。僕は【時空間族】です。色んなモノを空間から取り出せたり入れたり出来るの。」

「わおっ。代刃ッチ。僕っ娘ッスね!。可愛いッス!。」

「はぅ…ご、ごめんなさい…。」

「え?。何で謝るんッスか?。白、何か悪いこと言っちゃったッスか?。」

「え?。あ、そんなこと…ないよ…。」

「代刃は自尊心が低いのですわ。本人も気にしていることです。ここに入って少しでもこの性格を克服して貰おうと思ったのですわ!。」

「成程ね~。知らない環境で知らない人の中に入れて…随分と荒療法だね~。種族も珍しい…というかレア中のレアだし、僕は問題ないよ。仁はどうだい?。」

「うん。僕もだ。代刃ちゃん。歓迎するよ。ようこそクロノ・フィリアへ。」


 これが僕がクロノ・フィリアに入った時の話。


「今は居ないけど他にも何人かメンバーが居るんだ。もう少しで帰ってくると思うけど。」

「ん?。ああ。噂をすれば。」


 扉が開いた瞬間。

 数人の男女が入ってきた。

 基汐と光歌。

 智鳴、氷姫、灯月…そして、閃。

 灯月達と話していて僕の存在にまだ気が付いていない閃。

 僕は閃を一目見た瞬間に………。


「ッ!?。」

「代刃?。」

「消えたッス?。」

「おお。速い。これは即戦力かも。」


 能力を使って短距離転移していた。

 何これ!?。胸がドクンッて。高鳴って。苦しい?。

 どうしちゃったの僕?。

 あの真ん中の男の子…一瞬で脳内に記憶された顔…姿。

 顔が熱くなる。全身が火照る。

 これって…僕。胸が…痛いくらいドキドキしてる?。

 一目見ただけで?。これって…もしかして…。


 僕の趣味は恋愛小説や恋愛漫画を読むこと。

 その物語の主人公であるヒロインに自分を重ねて妄想するのが好きなんだ。


 そんな僕が何度もイメージした感覚。

 ヒロインが胸を押さえて踞って顔を赤らめて…って、まんま今の僕じゃないか!。


「じゃあ、これって…。」

「恋ッスね!。代刃ッチ!。閃先輩に一目惚れしたッスよ!。」

「わっ!?。え?。えっと…白…だっけ?。」

「そうッス。」

「探しましたわ。急に居なくなるなんて。それにしても貴女が閃さんに一目惚れとは…なかなか苦難な道に片足を突っ込みましたわね。」

「一目惚れ…。僕が?。あの男の子に?。」

「聞いてないッス。」

「そのようね。では、私達の方で代刃の紹介を。」

「ま、ままままま待って!。春瀬!。」

「ど、どうしたんッスか?。」

「慌てすぎですわ。」

「あ…ご、ごめん。あ、のね。ぼ、僕から…自己紹介するよ。だから、それまでは彼に言わないで…。」


 今、彼の前に出て挨拶できる気がしない。

 心臓バクバクだし。緊張で足が震えているし。

 ああ…目眩もしてきた。


「はぁ…分かりましたわ。取り敢えず、新規加入の方がいます。自己紹介は後程。ということにしておきますわ。」

「ししし。恋ッスね~。白も何だかドキドキしてきたッス。代刃ッチ可愛いッス。」

「無凱さん達にもその様に伝えておきますので。とっとと心を固めて覚悟を決めて来なさい。」

「う、うん。が、頑張る。」


 そうして、その日。僕はログアウトした。

 それから、一週間…。


「代刃。いい加減にしなさい。いつまで逃げ回ってるのですか!。」

「あれから一週間ッス。閃先輩も困惑してたッス。本当に新しい仲間がいるんだよな?。って、疑問に思ってたッス!。」

「う、うん…。けど…彼の前まで行くと…うわあああああぁぁぁぁぁん…。」


 自分でもコントロール出来ない身体。

 腰が引けて、足が震えて、動けなくなってしまう。そんな状態で…一週間…。


「どうしましょうか?。これではギルドの活動に支障が出るかもしれませんわ。」

「んー。難しいッス。無凱さん達はゆっくり慣れれば良いと言ってくれてはいたんッスけど。ギルドの活動が遅れるようなら…。」

「うぅ…どうしたら良いのかなぁ…。あの男の子…閃…君を見ると…頭に中グルグルで…僕…どうしたら…。」

「思ったより重症ね…。」


 他の人達に迷惑が掛かったちゃうし…やっぱり、僕…ギルドに入るの…止めようかな…。


「ぐすっ。ごめんね。春瀬。折角、誘ってくれたけど…僕…。」

「お話は聞かせて頂きました。」

「え?。だ、誰?。」


 突然、背後に現れた天使。

 白と黒の翼を持ったメイド服の少女。

 凄く美人で可愛い娘だなぁ…。


「灯月さんですか。もしかして私達のこと気が付いていましたか?。」

「勿論です。そちらの方ですよね?。新しく加入されたメンバーは。………っ。へぇ…成程。ふふ。これは…これは…。」


 僕の顔を見て何か納得したように頷く灯月と呼ばれた少女。

 悪戯っ子のように笑うその顔は面妖で、背筋に冷たい何かが流れた気がした。


「な、何?。」

「ふふ。理解しました。白ちゃんが言っていた恋の匂いとは彼女のことだったのですね?。」

「正解ッス。先輩に一目惚れしちゃったみたいッス。」

「ふふ。そうですか。それは仕方がありませんね。」

「彼女は代刃と申します。見ての通り内気で引っ込み思案が酷く、惚れてしまった殿方への挨拶も儘ならない状態で既に一週間ですわ。」

「白達も色々と試行錯誤したッスが…手詰まりッス。」

「そうですか。ふむ。では、私にお任せ下さいませ。ふふ。にぃ様。ハーレム計画に欲しかった人材ですね。くふふ。」

「え?。何て言ったの?。」


 この娘の笑み…怖いんだけど?。


「あら?。何か妙案が?。」

「はい。一週間程頂ければ。」

「分かりましたわ。では、無凱さん方には私の方から伝えておきますので。」


~~~~~


 それから一週間。


「よっ!。お前が閃か?。俺が新しくクロノ・フィリアに入った代刃ってんだ!。宜しくな!。」

「ああ!。今まで顔を見せなかった仲間ってのはお前だったのか!。待ってたぜ代刃!。随分と元気そうな奴じゃねぇか!。ははは!。こっちこそ宜しくな!。」


 早速、意気投合し肩を組む閃と代刃の様子を遠くから眺める三人。

 代刃の姿は何処からどう見ても男性の姿へと変化していた。

 閃の持つ【女性化】のスキルと対を成すスキル【男性化】をこの一週間で習得し戻ってきた。

 男の姿に変化すると性格も変わるらしく、閃とはすぐに仲良くなった。


「あ…あの、灯月さん、本当にあれで良かったのでしょうか?。何故か、私の思い描いた結果とは真逆の方向に突き進んでいるような…。」

「問題ありません。まずは距離を縮める。クロノ・フィリアに入ることすら出来ないままでは彼女の成長は見込めない。あれがその切っ掛けです。彼女がにぃ様に本当の自分をさらけ出せたその時には、もう立派な女性ですよ。」

「代刃ッチ嬉しそうッス。それにイケメンが二人…眩しいッス。」

「はぁ…私は不安ですわ。あの娘…男の姿であることを隠れ蓑にして成長しないのではないかと…。」

「その時は、私が動きますよ。ふふ。にぃ様に相応しくない相手にはご退場頂きますので。ねぇ。代刃さん?。」

「灯月先輩…怖いッス…。」


 春瀬の視線の先には閃と楽しそうに笑い合う代刃の姿が。


「ふふ。けど。そうですね。気長に見守りましょうか。あの娘が成長できるように。」


~~~~~


『これが始まりかな。結局、僕は成長できなくて灯月に怒られちゃったけどね。』

『ふふ。そんなことがあったんだね!。面白いなぁ。僕の知らない色んなことを聞くのがね。じゃあさ!。じゃあさ!。閃君と恋人同士になった後のことを教えてよ!。デートっていうのをしたんでしょ?。』

『デートかぁ…ちょっと恥ずかしいね。』

『ええ。お願い。聞きたいよぉ!。』

『むぅ…そこまで言われたら…まぁ良いよ。』


 そして僕はメリクリアに閃との思い出を話し始めた。


ーーー


ーーー


ーーーとある日の代刃の出来事ーーー


『あ、あの~。どうして僕は捕まってるの?。』

『抵抗しない方が良いわよ?。』

『ああ、お前に拒否権はない。大人しくウチ等に従え。』

『う、うん。』


 廊下を歩いていたら突然、何故か光歌と豊華に捕らえられて、何故か両手を頭の上で組まされ、何故か背中に神具を突き付けられて、何故か連れてこられた光歌の部屋の前。

 何が何だか分からないままここまで来たけど、いったい何が起こるの?。


『さぁ。代刃。入りなさい。』

『う、うん…。』


 僕は背中を押されて光歌の部屋の中へ。


『ここへ座れ。』

『あ、はい…。』


 そのままドレッサーの前の椅子へ座らされる。


『あ、あの~。これから何が始まるの?。てか、僕は何でここに連れて来られたの?。』

『ふふ。そろそろ教えて上げるわ。まず、貴女がここに連れて来られた理由は閃が逃げたからよ。』

『え?。閃が?。』


 逃げた?。ますます意味が分からないよ。


『折角、新しい衣装や化粧品を用意したのにな。何処を探しても閃が見つからない。アイツ。身の危険を察して逃げたんだ。相変わらず鋭い勘だ。』


 衣装や化粧品?。

 光歌が歩いて行ったその先にある大きなクローゼットを開けた。

 ズラリと並ぶ………コスプレ衣装…。

 そ、そうか~。光歌と豊華の組み合わせ。二人の趣味を考えたら、もっと早く気が付くべきだったよ。

 もしかして…いや、もしかしなくても僕はこれから着せ替え人形にされちゃう訳か~。


『けど。どうして僕なの?。』

『あら?。察しが良いわね。自分のおかれているに気が付いたようね。』

『答えは簡単だ。代刃がうってつけの美人さんだからだ。』

『え?。僕…美人なの?。』


 そんなことないよ。

 根暗だし。コミュ障だじ。あがり症だし。

 前髪で顔隠してるし、恥ずかしがり屋だし。


『安心しなさい。貴女にも悪い話じゃない筈よ。』

『そうだぞ。新たな自分を発見できるかもしれん!。』

『ええ…何か不安…。』

『大人しくウチ等のされるがままになりなさい。そうすれば…そうね。閃に頼んで代刃のお願いを何でも一つ聞いて貰うようにするわ。』

『っ!。何でも!。お願いを…閃が?。』

『ええ。約束して上げる。今回逃げた分、アイツは約束を破ったわ。その分を払って貰うだけだから奴は逃げられないわ。』

『くくく。ああ、その通りだ。今度は逃がさんぞ!。』


 二人とも怖いよ…。


『うん。分かった。僕は何をすれば良いの?。』

『ふふ。良いわね。素直で。』

『痛いのは嫌だよ?。』

『安心しなさい。そんなことしないわ。じゃあ、まずはこれを。』

『わっ!?。急に何?。』


 いきなり目隠しされちゃった。

 真っ暗で何も見えないよ。


『じゃあ、着替えるわよ。代刃。立ち上がって。』

『う、うん。』

『脱がすぞ。』


 僕の着ていた服がどんどん脱がされてく。

 恥ずかしい…。あっという間に下着姿にされちゃった。


『貴女…もう少し可愛らしいの着けなさいよ。もしかして…スポブラしか持ってないの?。』

『う、うん。動きやすいから…可愛いの似合わないし…動くと揺れて痛くて…。』

『それはウチに喧嘩を売ったわね。』

『え?。そんなうきゃっ!?。ちょっと!?。光歌!?。胸揉まないでよ!?。』

『くっそ!。デカイわね!。許せないわ!。もげろ!。もげろ!。分けろ!。』

『うわあああああぁぁぁぁぁん。そんなこと出来ないよ~。』


 そんなこんなで色々な箇所をまさぐられた僕は倒れていた。

 全身の力が入らないまま、二人のされるがままに着替えさせられる。


『よし、出来たぞ。』

『わおっ!。やっぱり似合ってるじゃない。』

『良いか?。代刃。今から目隠しを取るがまだ目を開くなよ?。』

『う、うん。』

『じゃあ、化粧ね。』


 僕の顔にお化粧が施されていく。

 

『睫毛が長いな。それに鼻立ちも整っていて。肌も綺麗だ。モチモチでスベスベで。化粧ノリが良い。』

『貴女、普段から化粧してないわよね?。』

『う、うん。滅多にしないかな。』

『………それであの普段の可愛さか。何か殺意沸いてきたわ。』

『な、何でだよ!?。』

『しかも無自覚か!。ウチも光歌と同じだ!。苛立って来た!。』

『豊華もそんなにしてないじゃない!。』

『ふむ。バレたか…。』

『はぁ。はい、終わったわ。立ち上がって。ゆっくり目を開けてよ。』

『う、うん。』


 目を開けると部屋の明かりが視界を奪う。

 慣れてくると次第に鏡に映る自分の姿がハッキリと見えてきた。

 そこには…キラキラのお姫様がいた。


『………え?。これ…僕?。』


 普段の僕ではない美しい少女が鏡の中にいる。

 綺麗で白い肌に、大きな瞳、高い鼻立ち。赤く塗られた唇と結われた髪。

 そして、僕が大好きだった漫画の主人公が着ていたドレス。

 

『僕…漫画の主人公になっちゃった…。』

『ふふ。どう?。貴女の好きなキャラクターになった感想は?。』

『うん!。凄いね!。感動した!。』


 くるくると鏡の前で回る。

 後ろも完璧に作り込まれていて…凄い!。凄い!。


『後ろのリボンのところがウチが最も拘った部分だ。漫画を完全再現してしまうとリボンの主張が激しくなってしまってな。ドレスの迫力が薄まってしまう。そうならないギリギリの大きさを見定め且つリボン自体が全体のアクセントになるように調整したのだ!。ははは!。』

『小道具も用意したわ。これ、そのキャラが持っていた扇子とコンパクトよ。これも作るのに苦労したわ。』

『わあっ!?。本物みたい!?。凄すぎるよ!。』


 興奮が治まらない。

 僕の視線は何度もドレスと鏡を行き来する。

 漫画で見たポーズを再現したり、動きを思い出しながら実践してみたり。


『どう?。悪い話じゃなかったでしょ?。』

『うん!。最高だよ!。光歌!。豊華!。ありがとう!。凄く嬉しい!。』

『おお。そこまで喜んでくれるとは、ウチも嬉しくなるな。』

『ええ、いやいやの閃より何倍も良いわ。』


 凄いなぁ。

 えへへ。可愛い衣装だなぁ~。

 これが僕?。本当の漫画の主人公みたい。

 えへへ。嬉しいよぉ。


『ねぇ。代刃。あれを見なさい。』

『え?。何?。』


 光歌の指差す方を見ると壁一面に僕の好きなアニメや漫画のキャラクターの衣装がズラリと飾られていた。


『え?。え?。凄い!。あのキャラのも!。あの衣装まであるの!?。』

『どう?。ウチ達の手に掛かれば貴女の望むどんなキャラクターにでもなれるのよ?。』

『僕の…好きな…どんなキャラにも?。』

『ええ、そうよ。どうする?。私達の言う通りにすればここにある衣装は着放題よ。』

『ごくり。』

『これからもウチ達の着せ替え人形になることを誓いなさい。そうすれば貴女の要望を全て叶えて上げるわ。どんなキャラクターにも変身させてあげるわ!。』

『ほ、本当?。』

『ええ!。クオリティは約束するわ!。』

『✕✕✕✕や✕✕✕も?。』

『ええ。勿論よ。戦う変身ヒロインにもなれちゃうわ。』

『✕✕✕や✕✕✕も?。』

『ええ。オーケーよ。国民的アニメのあのキャラにだってしてあげる。』

『✕✕✕✕や✕✕✕✕✕も?。』

『ええ…って、日曜日朝から離れなさいよ!。てか、変身ヒーローじゃ顔見えないじゃない!。』

『えへ、えへへ。嬉しいなぁ。うん。光歌と豊華の力で僕を変身させてよ!。僕喜んでやるよ!。』

『ふふ。決まりだな!。』

『…計画通り。』ニヤリ。 


 この経緯があり、今日この時から僕の趣味がコスプレになったのだった。

次回の投稿は6日の木曜日を予定しています。

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