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第35話 氷の姫

 まだ世界がこんな形になる前の話。


 私の父親はよく母親に暴力を振るっていた。


 朝は朝食に文句をつけて暴力。

 昼はわざわざ家まで帰ってきて暴力。

 夜は会社でのストレスの捌け口で暴力。

 休日はパチンコに負けて暴力。

 酒を飲めば暴力。


 母親は私が中学の時に死んだ。

 遺体は父親が庭に深く埋めた。

 深く。深く。深く。

 埋めてる姿を私は何も言わずに眺めてた。

 次は自分かな。

 そんなことを考えながら。


 次の日から、予想通り、父親の暴力の矛先は私に向いた。


 朝は学校に行く前に暴力。

 夜はお酒を飲みながら暴力。


 世間体を気にしてか服で隠れない場所には暴力を振るわない。

 よく殴られたのはお腹と背中。

 学校にも行かせた。行かされた。

 

 着替えの時はトイレを使った。

 プールの授業は休んだ。


 そんな日々がずっと続いていた。


 元々、私は感情を表に出すのが苦手だった。

 学校でも滅多に話さない。

 ずっと趣味の読書をしていた。


 そして、高校生になり…実の父親に襲われた。

 いつかは、この日が来ると思って覚悟はしていた。

 だから、辛くなかった。


ーーー


 私が小学校の高学年の時に 閃 という男の子が転校してきた。

 別に私には関係ない。そう思って読書を続けていた。

 でも、何故か閃は私に話しかけてきた。

 正直、鬱陶しかった。

 何度も、何度も、話しかけてきて…色んな携帯ゲームを勧められた。

 ゲームはしたことなかったけど。

 ゲームを貸してくれて楽しそうに操作を説明する彼が眩しかった。

 この人は私に無いものを持っているんだなぁ。となんとなく考えているうちに…私は…閃に少し興味が湧いた。


 高校生になった。

 そんなある日、彼に誘われて、とあるネットゲームを勧められた。

 私の家はゲームも無いし、遊べる空間も無いと言ったらネットカフェに誘われた。

 お金が無いって言ったらお小遣いあるからと言って私の分も払ってくれた。

 お金が無い時は彼の家に連れていってくれた。


 ゲームの名前は、

 エンパシスウィザメント

 ゲームの世界に入れるゲームと彼は言っていた。

 よく分からなかったけど、私はゲームを起動した。

 その瞬間…私の世界は広がった。

 私はゲームに夢中になった。

 彼と一緒に居るのが楽しくなった。


 ある日、彼は妹を紹介してくれた。

 ある日、彼は幼馴染みの女の子を紹介してくれた。

 ある日、彼は幼馴染みの男の子を紹介してくれた。

 ある日、彼は幼馴染みの男の子の友達の女の子を紹介してくれた。

 ある日、彼は自分の母親を紹介してくれた。


 私は知り合いが増えた。

 そして、皆でゲームをした。

 楽しい。楽しい。楽しい。


 朝は学校に行く前に暴力。

 昼は閃達と一緒に学校。

 夕方は閃達と一緒にゲーム。

 夜はお酒を飲みながら暴力。

 深夜に襲われる。


 そんな毎日が続いた。


 閃が居たから耐えられた。

 閃が私の世界を広げてくれた。


 私は閃を好きになっていた。


 ある日、私は油断した。


 閃に身体を見られたのだ。


 痣や切り傷、火傷の痕を…。


 私はその場から逃げた。


 閃に嫌われた。そう思った。


 傷をクラスの子に見られたと父親に報告した。


 父親は、その場で私を押し倒した。

 閃の顔が頭にチラついた。

 私は初めて抵抗した。

 抵抗して。抵抗して。抵抗した。

 苛立ちを抑えられなくなった父親は初めて私の顔を殴ろうと拳を振り上げた。

 けれど、拳が振り落とされることはなく。

 父親が吹っ飛んだ。


 状況が飲み込めなかったけど、目の前に立つ男子…閃が拳を赤く染めて私の父親を睨んでいた。


『大丈夫か?氷姫?』

『…うん。閃…。』


 この日、初めて私は泣いた。


 周りを見ると閃だけじゃなかった。

 父を取り押さえている閃の幼馴染みの男子。

 心配そうに私に抱き付いて泣いている閃の幼馴染みの女子。

 閃に渡された上着を半裸になっている私に着させてくれる閃の妹。

 携帯端末で電話している閃の幼馴染みの男子の友達の女子。


 その後、父親は警察へ連れていかれた。


 色々なことを大人の人に聞かれたけど、私は何も応えず自分の傷だらけの身体を見せた。

 そして、母親が埋められている場所を指差した。


 私はその後、閃の母親の計らいで閃の家に連れていかれ一緒に住むこととなった。


ーーーーーーーーーーーーーーーー


 そんな…ある日…。

 

 昨日の夜はギルドの皆で裏ボスを倒しゲームをクリアして眠りについた。


『きゃーーーーーーーーーーーーーーー。』


 早朝に響き渡った閃の妹、灯月の声に私は目が覚めた。

 あの娘が悲鳴を上げるなんてとても珍しい。


『灯月!どうした!何があ…。』


 閃も驚いて灯月の部屋に駆け込んだみたいだ。


 私は頭に着いていた機械を外し立ち上がる。

 何か、あったのかな?。


『きゃーーーーーーーーーーーーーーー。』


 今度は別の女の子の悲鳴。

 この声は幼馴染みで隣の家に住んでいる智鳴だ。

 あの娘は、よく悲鳴を上げてるから驚きはしないけど早朝からは珍しい。

 心配だし、急がないと。

 私は立ち上がり部屋の扉を開けようとした時。

 不意に目に入る鏡に映った自分の姿。


『え?。』


 私は驚いた。


 白い…。白い…。白い…。真っ白だ…。


 正直、私は自分の傷だらけの身体が好きじゃなかった。

 こんな身体でも閃はきっと悪くは言わない。

 でも、私は閃が好き。

 閃になら全てを捧げても良い。

 けど…こんな身体じゃ…。


『これ…ゲームの?。』


 鏡に写った自分自身に驚愕した。


『あっ…私の…身体…。』


 白い髪…。白い肌…。白い着物…。白い…。

 そして、金色の瞳。

 ゲームで使っていたアバターの特徴だ。

 種族は、白霊氷雪神族。

 閃に聞いたら、かなりのレア種族らしい。

 女性プレイヤーしか選ばれず。

 女性限定の種族では最高のレアリティで一番の人気だと言っていた。

 その特徴が身体に現れていたのだ。


 そして、一番、私を驚かせたのは…。


『傷が…無くなってる…。』


 お腹も…。胸も…。背中も…。

 全ての傷が…無い。無い!。

 綺麗な白…。


『あっ…。あぁぁぁぁぁぁぁぁ…。』


 私は自分の身体を抱き締めて崩れ落ちた。


 嬉しい。嬉しい。嬉しい。嬉しい。嬉しい。


 嬉しいよぉ。


 涙が止まらない。


 あっ…。私…。閃に…。


 私は閃に救われた。

 心も身体も救われた。

 私の全ては閃のモノ。


『閃…私…。』


 世界がゲームに侵食されたことで世界はめちゃめちゃになってしまったけど…。


 私は…嬉しかった。


 私は、閃の元に走った。

 自分の作品を読んで下さっている方々。

 ブックマークに登録していただいた方々。

 ありがとうございます。

 今後とも良ければ読んでくれると嬉しいです。

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