第330話 質問
ようやく、黄国 イセラ・エシルローナへと辿り着いた僕、無凱は難なく黄国内に侵入した所でリスティナの姉と名乗る神 スヴィナちゃんと出会った。
どうやら、僕の行動は筒抜けだったらしく、スヴィナちゃんは僕を迎えに来たのだと言う。
何でも、この国の王。キシルティアちゃんが僕を呼んでいるという話で、彼女のいる場所まで黄国のちょっとした案内を含めて連れていって貰うこととなる。
黄国は一つの巨大な学園を中心とした国家。
スヴィナちゃんは、そこの校長先生。
そして、理事長室の中で待っていたのが、キシルティアちゃん。
どうやら、この国では理事長が王という立場らしい。
『ふふ。良くぞ来たな。どうだ?。我が国は?。』
『君は?。』
『ふふ。我はキシルティア。この黄国の理事長…いや、王だ。ふふ。久しいな無凱よ…いんや、初めまして、と言い変えた方が貴様の感覚には近いか?。なぁ?。無凱?。』
含みのある意味有り気な言葉を開口一番に発する少女、キシルティアちゃん。
幼さの残る外見だけど、彼女の纏うエーテルが僕を警戒させる。
理由は、この理事長室に入った瞬間に感じた彼女のエーテルの気配。
この室内は彼女に支配されているようだ。
迂闊な行動は彼女の未だ見ぬ能力のトリガーになりかねない。
表情からは僕との出会いに喜んでいるように思えるけど、その理由が僕には分からないし、彼女が何を企んでいるのかまでは読み取れない。
敵か味方か…ここは、僕も支配空間を広げて対抗して様子を見るか…。
『そう警戒するでない。エーテルが乱れているぞ?。』
気付かれたね。流石だ。
だけど、僕の警戒にも余裕を崩さないか。
仮にこの瞬間彼女が何かしらの能力を発動したとしても、僕の虚空間が彼女の動きと呼吸を封じる方が速い筈だ。
『ふふ。支配領域を広げたか?。我のエーテルへの対抗と牽制か。悪くないが、まだ質も精度も浅く温い。』パチンッ。
『っ!?。』
彼女が指を鳴らした瞬間、僕の支配空間が乱れた?。
いや、上書きされたんだ?。
くっ!。抵抗しなければ支配空間ごと呑み込まれ奪われる。
エーテルの出力を上げるしか…それにしても何て力だ。幼そうな容姿とは裏腹に圧倒的な実力の差を実感させられた。
『ほぉ。抗うか?。この規模で我の支配に抵抗するとはな。流石、【神人】であり【七大厄災】へと転生しただけはあるな。能力の規模と威力は歴代の貴様でも上位…ふふ。トップだな。やはり、此度は面白い。』
迫るような空間の圧迫が止まる。
嬉しそうに笑う彼女からの圧力は消えた。
『さて、茶番はこの辺にしておこうか。』
『はぁ…。』
今のが茶番ね。
抵抗しなければ今頃僕は彼女に殺されていただろう。
こんな存在までいるなんてね。
この世界は、まだまだ僕の知らないことばかりのようだね。
『して、無凱よ。我とゲームをしないか?。』
『ゲーム?。』
『ああ。貴様も元はゲーマーという部類の人種なのだろう?。エンパシス・ウィザメントでは高成績を残していたではないか?。』
ゲーマー。エンパシス・ウィザメント。
この転生後の世界、リスティールの住人である彼女が本来知り得ない単語が発せられる。
彼女は何処まで知って…何者何だ?。
『そこでだ。我も少し貴様と遊びたくてな。なぁに。時間も、準備も、取らせんさ。この場でのちょっとした余興とでも思ってくれ。我は退屈でな。結果の分からぬ戦いがしてみたい。』
『そのゲームで僕が負けたらどうなるんだい?。』
『ふふ。気になるか?。』
『勿論。』
『簡単さ。我が楽しい。それだけだ。』
『はい?。』
『疑問か?。本来ゲームは楽しいものだろう?。我が楽しめぬゲームなどやる価値はない。故に我が楽しめるゲームをする。いや、楽しませてみよ。』
『………。』
彼女…キシルティアちゃんの思考が全く読めないな…。
『分かった。それでルールは?。』
『なぁに。簡単だ。無凱…貴様には我に三度まで質問を許す。その質問に我は 嘘偽りなく 答えよう。』
『それで?。』
『その質問の内容次第で勝敗を決める。貴様の勝つ条件は質問で我を楽しませれるかどうかだ。つまらん、くだらん質問をすればそれまで、我が今後、貴様の質問に答えることは二度とない知れ。』
『もし、君が納得のいく質問を僕が出来ればどうなるんだい?。』
『そうさな。貴様が我を楽しませる質問が出来れば、ふふ。貴様の知りたいことを全て教えよう。【何でも】だ。貴様の想い人のことでも、この世界のことでもだ。』
『っ!?。何でも…君は…いったい何者…何だ?。』
『はぁ…無凱よ。ふふ。そう慌てるな。貴様が了承した瞬間、既にゲームは始まっている。ゲームのルール以外の問答は質問の一つ目とカウントするぞ?。ああ、それと、その様な思考の挟まぬ思いつきだけで中身のない質問で我をガッカリさせる気か?。』
『っ!?。』
その瞬間。キシルティアちゃんによって支配された部屋の空気が変化した。
今までに無かった明確な殺意。
僕の不用意な発言は…彼女の機嫌を害するだけか。
『すまない。今のは無しだ。ゲームのルールとしての最後の質問をしても良いかい?』
『ああ。構わんよ。』
『なら、僕の質問に対して君は、本当に嘘偽りなく答える。それで間違いないかい?。』
『愚問だ。当然ではないか?。我がここで嘘を言えばゲーム自体が破綻してしまう。よって、我の答えは全て真実だと言うことをここに誓おう。』
『分かった。次の質問を最初の問いにしたい。』
『ふふ。やっと真剣な顔になったな。そうでなくては面白くない。精々、知恵を思考を巡らせよ。三度の質問で我を楽しませて見せよ。』
これはゲーム何かじゃない…戦いだ。
彼女の放った殺気と、先程の圧。多分、この舌戦。僕が負ければ彼女は僕を殺す…だろう。
彼女は僕を試している。
彼女の意に反する質問をすれば…最悪、【死】の可能性すらあるってことだ。
『さぁ?。どうした?。長考か?。あまり、我を待たせるでない。』
『すぅ~、はぁ…。』
彼女への質問。
手っ取り早いのは、『君の知っている全てを教えて欲しい。』や『僕の知りたいことを教えて欲しい。』だ。
だが、それは彼女の望む質問ではない。
多分だけど、彼女の望む質問とは【三つの質問で如何に世界の真実へと辿り着ける】か【三つの質問で僕自身の知りたいことを如何に彼女から引き出すか】…か、だろう。
しかし、これも僕の予想でしかない。
それすらも三つの質問で探ってみろってことかな?。
彼女は間違いなく、この世界でも最高クラスの実力者だ。
話に聞く神眷者や、そこにいる神のスヴィナちゃんよりも、いや、今までに僕が出会った神を含めた全員より強いかもしれない。
もしかしたら…閃君よりも…。
そんな彼女に対し僕はどの様な質問をすれば良いのか。
いや、そもそも、このゲームは彼女の欲望、退屈を紛らわせる意味も含まれている。
退屈と言った彼女。しかし、同時に結果の分からぬ戦いとも言った。
つまり、今まで結果が分かっていたことしか彼女の周りでは起きていなかった。
そして、それが退屈に繋がっていた。
けど、この僕がする質問は彼女自身も分からない可能性が高い。
だからこそ、このゲームを持ち掛け自らの能力の外の可能性を楽しもうとしているんだ。
彼女は何処まで知っているのか…。
彼女と出会ってから…彼女は何と言った?。
思い出せ。ヒントは何処かにある筈。
…神人…厄災…想い人…。余興…退屈…。
…久しいな………初めまして、と言い変えた方が…。…我が楽しめるゲーム。…貴様の知りたいことを全て教えよう。…【何でも】。…思考の挟まぬ思いつきだけで中身のない質問。
『最初の質問だ。』
『ああ。聞かせよ。』
『 僕の知らない 君に関することを教えて欲しい。』
『…ほぉ…。』
僕の知らないキシルティアちゃんのこと。
憶測を混ぜれば彼女は僕のことを含めたクロノ・フィリアや神々のこと、前世での出来事やこの世界で転生してからの僕らの行動、その全てを知っている。
いや、きっと、この世界で起きていることも。
知っている。それ故に、退屈なのだ。
全てを知るということは結果も、これから起こる事象も知っていることとなる。
彼女程のエーテルの使い手だ。
起こる事象に対し備えることも、回避することも可能な筈。
だが…この仮説には疑問が残る。
結果を知っていたとして、何故彼女はこの様なゲームを持ち掛けた、かだ。
この質問に対する僕の答えも当然彼女は持ち合わせている筈なのに。
『ふむ。さて、面白い質問の仕方をしたな。』
考えるキシルティアちゃん。
彼女は 今 質問の答えを考えている?。
僕の仮説は間違いだったのか?。
現在、僕の知る彼女の知識は。
黄国の王であること。
肩書きが理事長であるのと。
空間支配系統の能力を持っていること。
これらが確定事項だ。
そして、これまでの度での情報収集と噂などを合わせると。
彼女は恐らく黄国の【巫女】。
神々の声をリスティールの住人の届けるメッセンジャー。
そして、黄国が七大国最強と言われる理由は彼女にあるのだろう。
そして、彼女は世界のあらゆることを知識として知っている。
だが、同時にこのゲームの質問の様に分からない事柄も存在する。
それくらいだ。
『ふふふ。無凱よ。中々に興味深いな?。貴様の辿り着いた予想と照らし合わせた差違の確認。今後の質問の方向性を見定めようとしているな?。更には我の答えに振り幅を設けることで我の人柄までも読み取ろうとしている。我の底を狙い撃ちしようということか?。ふふ。』
この短時間で僕の狙いがバレてしまった。
確かにキシルティアちゃんは質問に対し嘘偽りなく答えると言った。
しかし、答えるだけでどれだけの情報を提示するという話しは言っていない。
実際、答えが複数あった場合でも、何個の答えが返ってくるかは彼女次第なんだ。
だから、彼女の人柄を探る。
この質問に対し返ってきた答えで彼女が僕の敵なのか味方なのか、素直なのか意地悪なのかを見極めようとしているんだ。
『さて、では答えよう。無凱の得た情報通り、我は【巫女】…だった者だ。既にその力は捨て本来の在るべき場所へと変換した。よって、ここのいる我は神とは関係なく純粋に我の意思で行動している。』
腰掛けた椅子を蹴り後ろへと下がると壁際まで移動する。
『さて、もう一つ…いや、三つ…くれてやろうか。我の種族だが…我に種族はない。能力は【この身から発せられるエーテルによって支配領域を創り、領域内のみを対象に自らの意思のままに現実を歪める。】というもの。最後に、我には【世界の記憶】がある。以上だ。』
想像していたより教えてくれた。
けど、何だろう。嘘は言ってないけど核心には触れていない。上っ面だけだった気がするね。
『さぁ、二つ目の質問も期待しているぞ?。』
『そうだね。じゃあ………君はこの黄国で僕…【達】に何をさせたいのかな?。』
『………ふふ。達…とは、食えんな。無凱。本当に知りたい内容を真実と定義し、その上で我の目的を探ろうとしている。ここで我が否定しなければそれが真実。同時にこれからの行動までも模索し始めている。嘘偽りを言えぬ故の落とし穴か。まぁ良い。質問には答えてやろうか。』
椅子に深々と座り直し、足を組み替える。
笑みを浮かべながら肘を突き顎を支えた。
『無凱 達 には、この国を守る手助けをして欲しい。どうにも、我が国は他国からの印象が悪くてな。ふふ。他国の意見を無視し続けたのが要因ではあろうが、群がる虫けらなど我の眼中にはない。だが、いい加減、白国からの悪戯が鬱陶しく、目障りになってきたところだ。』
彼女の表情に変化はない。
僕の反応を楽しんでいるみたいだ。
今の答えも、きっと本心だろうけど、もっと何かしらの理由がある気がする。
しかも、これではっきりした。この国には僕の仲間が数人いることが確定した。
彼女も…頼む。いてくれ。
『さぁ、最後の質問をしろ。それでこのゲームは終わりとする。』
『そうだね。僕も大体聞きたいことは聞けたかな?。じゃあ、最後の質問だ。』
これは最初から決めていた。
僕の行動原理。ここに来た目的でもある。
『僕はこの国でここに来た目的を成し遂げられるかい?。』
黄華さん。
彼女を探すのが僕の最も優先することなんだ。
『……………。』
キシルティアちゃんを見ると先程までの余裕だった笑みは消えていた。
今までにないくらい真剣に考えているようだ。
『チッ。』
え?。舌打ち?。
『それは無理だ。ふふ。少し、遅かったな。』
『…それは、どういうことだい?。』
キシルティアちゃんの空気が変わった。
今までは現状を楽しむような雰囲気を醸し出していたが、今は、そう。言葉に…彼女本来の感情が乗っている…そんな気がする。
『確かに貴様の想い人である黄華はこの国で転生を果たした。我は貴様と同じようにこの部屋に呼び出し質問をした。ふふ。奴は見事我を楽しませ、我によりこの世界のルールを知ったわ。ふふ。中々に面白い女よなぁ。貴様が心底惚れるのも理解できる。』
『そうか…黄華さんはこの国に…。』
僕の予想は間違っていなかった。
『だが、もう奴はこの国にはいない。』
『っ!?。それは…何故かな?。』
いない?。何があったのか?。
話を聞く限りキシルティアちゃんとは友好的な関係を築けていたみたいだけど。
『我の意思で国外追放した。どうにも奴に惚れた男がいてな。どうしても黄華を嫁にしたいということでくれてやったわ。くく。勿論、我は貴様がこの国へ向かっていることも、その理由を知った上でしてやったぞ?。くく。どうだ?。悔しいか?。貴様の惚れた女は別の男の腕の中だ。今頃は………。』
無意識だった。
強引に彼女の支配されている空間を上書きし短距離で転移。彼女の目の前に移動し全力で彼女を殴り付けた。
彼女の顔面を掠めた僕の拳は後ろの壁を抉り衝撃で粉々に粉砕した。
『……………。』
『……………。』
暫く睨み合う僕とキシルティアちゃん。
静寂が二人の間を包む。
『ゲームは終わりだな。ルール通り、貴様は我を楽しませた。よって、貴様の知りたいことを教えてやる。』
僅かに乱れた衣服を直し立ち上がる彼女。
彼女は何を考えているんだ?。
激情に任せて殴ってしまったけど、それを見た彼女は何かに吹っ切れたようにも見える。
『だが、しかし…貴様も長旅で疲れていることだろう?。深い話は…そうさな。明日、時間と場を作ってやる。今日のところは休むが良い。おい。スヴィナ。いつまで寝ている?。起きよ。』
『んあ?。お?。終わったのか…って、おいおい。壁が無くなってるぞ?。』
いつの間にか、寝ていたスヴィナちゃんが飛び起きる。
『気にするな。戯れただけよ。それでスヴィナ。無凱を用意した部屋に連れていけ。客人だ。黄国の最高のもてなしをくれてやれ。』
『おお~。任せろ!。行くぞ!。無凱。』
『キシルティアちゃん。』
『………ゆっくり休め。』
彼女の真意が分からない。
敢えて僕を怒らせるような発言をしたようにも感じた。
『ほれ!。ボサッとするな!。無凱!。キシルティアはこれから少し泣くんだ!。お前がいたら泣けんだろ!。』
『え?。』
『スヴィナ!。黙れ!。殺すぞ?。』
『おおぅ!?。ご、ごめん。口滑った。それじゃあ、行くぞ~。』
慌てたスヴィナちゃんに腕を引かれた僕は半場強制的に退室させられた。
キシルティアちゃんが泣く?。
何でだ?。今のやりとりで?。
最初から最後まで今一要領を得ないまま、黄国の王との最初の会合は終わりを向かえたのだった。
ーーー
ーーーキシルティアーーー
『行ったか…。』
無凱の破壊した壁。
そこから外の様子を窺う。
陽が沈みかけ橙色の輝きに我が国全土が染まっている。
ロマンチック…とでも言うべきか。
いや、独りで佇んでいるのだ。寂しいだけか。
『無凱…。』
貴様は変わらんな…。
何処までも…いつまでも…黄華一筋で…。
気付けば我は泣いている。
嗚咽などせん。
我は王。強い意思の表情のまま…ただ、涙を流すだけ。
感情を表に出すなど三流のすることだ。
『まぁ、良い。我は我だ。王として傲慢であり、残虐であり、我儘だ。無凱、覚悟せよ。此度の我はこのチャンス逃しはせん。』
ーーー
ーーー無凱ーーー
スヴィナちゃんに案内された豪華な個室。
案内された部屋には多くの女性が待っていて身の回りの世話を全てやってくれた。
食事も一級のシェフが作ったようなコース料理がこれでもかと運ばれてきた。見た目は美しく味は絶品。
遠慮する僕を抑え、女性達が食べさせてくれるのには困った。
僕はただ座っているだけ。
一口サイズに切られた料理は女性の手によって口に運ばれ、飲み物までも口元まで持ってきてくれてストローで飲む。
ただ食べて舌鼓を打つだけだった。
食事を終えると、浴場まで案内され服を脱がされた時は驚いた。
頭も体も何もかもを洗われ、頭皮マッサージや全身揉みほぐしなどなど至れり尽くせりな時間が流れていった。
途中から僕の思考は完全に停止し、されるがままになってたな~。
そして、五人くらいは簡単に入りそうな豪華すぎるベッドで僕は眠りにつこうとしている。
芸術的な模様が施された天井を眺めながら今日の出来事を頭の中で思い返していた。
そんな時間の中だった。
急速にエーテルが動き、仰向けに眠る僕の上に別の重さを感じた。
『こんな時間にどうしたのかな?。キシルティアちゃん?。』
僕の上に股がるキシルティアちゃん。
ほぼ薄布一枚に下着姿の彼女が僕を見下ろしていた。
『ふふ。どうだ?。無凱?。黄国の歓迎は?。沢山の女に囲まれ幸せを感じたか?。』
『そうだね。至れり尽くせりだったよ。』
『そうか。なら良い。』
満足そうに笑う彼女。
『それで?。こんな時間にうら若き女性が男のいる部屋に何の用かな?。それに、そんな扇情的な格好で?。』
『ふふ。つれないではないか?。一国の王が自慢の身体を貴様に晒しているのだ。もっと、らしい物言いがあるだろう?。』
僕の腕を掴み、手の平を自分の胸に押し当てる彼女。
『んっ…。』
手の平から溢れる大きさの柔らかい感触が広がった。
『そうだね。とっても綺麗だ。』
『ふふ。そうか。良い答えだ。』
そのまま彼女は、胸から頭。顔、頬、首、肩、腹、太股へと自らの身体を僕に確かめさせるように僕の腕を動かしていく。
『なぁ。無凱。』
全身を触らせた後、再び胸に手を持っていき身を乗り出して顔を近付ける彼女。
整った彼女の顔が目と鼻の先にあり、その大きく曇り無く輝く瞳が真っ直ぐに僕を見つめていた。
『これだけしたのだ。我がここに来た理由を言葉にさせるなど無粋なことはせんよな?。』
『……………何が目的だい?。』
『はぁ…。ふふ。意地悪よなぁ。貴様は。我の言葉で伝えねば本心を読み取れんか?。ならば仕方がない。』
強引に唇を重ねてくる。
『無凱。我を抱け。この身体。今宵は貴様の好きにすることを許そう。』
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