第328話 内緒に契約
突然、俺と紫音の前に現れた謎の少女。
フードを深々と被った黄色い髪の少女。
俺の叫んだ声に驚いたのか少女の姿が消えた…。消えたのだが、依然として身体の温もりはそこにある。
姿が消えただけ…ふむ。もしかして…。
『ねぇ。君は紅陣と契約していた神獣かい?。』
『っ!?。』
【隠竜子】。
紅陣の契約した神獣で 姿を消す 能力を有していた。紅陣の危機を知らせれくれた後、完全に消息不明だったんだけど。
俺の質問はどうやら合っていたようで、隠れていた姿が現れ首をコクコクと縦に振る。
『今まで何処に居たんだ?。契約者だった紅陣が死んで君も消えてしまったのかと思っていたんだけど?。』
『あ、あ、あのね…ず、ず、ずっと…ご、ご主人…さ、まの近くに………いたよ?。そ、そ、その…ごめんなさい…。』
泣きそうな…いや、もう泣いてるな。
フードで顔を隠しながら眼を固く閉じたまま涙を流していた。
『落ち着いてくれ。ゆっくりで良いから何があったのか教えてくれ。』
【隠竜子】の頭をできるだけ優しく撫でる。
『あ、あのね…。』
彼女は、辿々しく。ゆっくりと。順序立てて説明を始めた。
彼女の話を要約すると、紅陣が殺され俺達と合流した後、自身の能力が不安定になり姿が消えたままになってしまったのだという。
恐らく、紅陣が限界を越えた状態で行動したことで足りないエーテルが彼と契約していた神獣である【隠竜子】から流れてしまった為に自らの生命活動に関わるエーテルが著しく不足したことが原因なんだと。
姿は消えても意識がハッキリした状態だった。
契約者である紅陣が死んでしまった為に行き場を失い途方に暮れ仕方がなく俺にくっついていたらしい。
『ここまではあってるかい?。』
『コクコク。コクコク。』
凄い勢いで首を振ってる…。
それで、彼女が謝ってきた理由だが。
どうやら、いつまで経ってもエーテルが回復せずに姿が消えたままだった。
少しずつ焦り始めた彼女は、俺と契約することにしたらしい。
『え?。契約したのか?。俺と?。』
『コクコク。』
『契約って…何したの?。』
『っ!?。……………。』
俺の質問に顔を赤くして俯く【隠竜子】。
え?。本当に何したの?。
『あ、あ、あの…ね…。そ、その…。ご主人様の…体液と…わ、わわわわわたしの体液…交換…。っ…。』
『体液の交換!?。』
俺よりも紫音が先に驚きの声を上げた。
『具体的には何をしたんだ?。』
『……………ぶちゅっ………って…。』
『ぶちゅっ!?。き、キスしたの!?。基汐と!?。』
『は………はぃ…。』
そんなんで契約って出来るもんなの?。
『はぃ。お、互いの…粘液の交換…。その際に………エーテルの交換も…同時に………です。』
『つまり。基汐の口の中に舌を?。』
『っ………はぃ…ぺろぺろ…って。ごめんなさい。』
全然気が付かなかった。
『あ、あの…わ、わたしの…能力………本気なら………姿も…気配も…全部…消せる…ので…。』
マジか。凄いな。今まで気配すら感じなかった訳だ。一応、移動の際も仙技の特訓と実戦を合わせて気配を探りながら行動していたんだけど。一切この子の気配は感じなかったな。
流石、神獣と言ったところか?。能力の性能が高い。
『えへへ。はぃ。ご主人様。ありがとう。ございます。』
嬉しそうに笑う【隠竜子】。
てか、さっきから不思議に思っていたんだが。
『もしかして俺の心の声聞いてる?。』
『っ!?。はぃ。そ、その…契約…したから、わ、私…今、ご主人様と一体化してて…。この身体もご主人様のエーテルで実体化してて…。』
『へぇ。もっと詳しく契約について教えて貰える?。』
『コクコク。』
えっと…纏めると。
神獣との契約は、同化に近く。自らの魂と神獣の魂が一つになることを言うらしい。
契約にも段階があり、彼女と紅陣との間にあったのは最も簡単な契約。
互いのエーテルのみを共有した状態であり、契約者が神獣の能力を扱うことができる。
紅陣と彼女との間ではこの契約のみが行われていた。
『紅陣様…私の能力…卑怯者みたいで好きじゃないって言ってて………使ってくれなかったの。』
確かに、姿を消すなんて能力は紅陣の性格的に嫌いそうだな。
真っ正面からのぶつかり合いが好きだった紅陣だ。姿を消して不意打ちするような戦いをするとは考えづらい。
『最後に…ザレクって人から…逃げるのに…使ってくれたの…最後にお礼言われて…お別れも言われて…。ぐずっ…。ずびっ…。』
俺の所に助けを求めに来た時か。
『それからずっと俺と一緒に居たんだ?。』
『はぃ。勝手に…契約して…ごめんなさい…。でも…怖くて…心細くて…。』
『そうか。』
契約した影響なのか彼女の心が伝わってくる。
不安と寂しさ。が、渦巻いているような。
『た、魂が繋がっちゃったから…もう…離れられない…けど…。ごめんなさい…。』
最上級の神獣契約。
神獣との魂の融合。思考や感情、能力までもが一つとなり、契約した神獣の肉体は契約者の肉体に溶け込む。失った肉体の代わりとして契約者のエーテルで造り出した偽りの肉体で行動することが出来る。
『君はそれで良いの?。』
『うん。ご主人様。紅陣の為に怒ってくれた。私…う、嬉しかったから…。』
『そうか…。そう言えば君の名前は?。』
『え?。あ…その…名前…無い。紅陣、名付け…し、してくれなかった…から。その…ご主人様…が、つ、つけて…ほ、欲しい、な?。』
『君の名前を?。』
『コクコク。コクコク。コクコク。』
そうだな…急に言われてもなぁ…。
えっと…。どうするか…。う…ん…。
『レクシノア。』
『レクシノア?。』
『うん。思い付きだけど。どう?。』
『うん。ご主人様につけて貰った名前。嬉しい。よ。』
『そうか。俺は君が後悔がないなら問題ないよ。これから宜しくな。レクシノア。』
『はい。レクシノア。ご主人様の為に誠心誠意ご奉仕…する。よ?。』
『むぅ…基汐。』
『ん?。何だ?。紫音?。』
『私も。ご奉仕。する。』
『え?。』
『まずは。ちゅーする!。もう!。我慢しない!。』
『ちょっ!?。待てって!?。落ちてる!。落ちてる!。落下してる!?。』
『きゃあああああぁぁぁぁぁ…。』
紫音が暴走し、狭い神具の中で暴れたせいで、コントロールが乱れそのまま急降下。回転しながら墜落してしまった。
幸い。この神具は隕石をモデルに創造されている為、落下し地面と衝突した際の衝撃は軽微であった。
中に乗っていた俺達は回転によって入り乱れ気づいた時には揉みくちゃになっていた。
何か、このパターンに覚えがあるのは気のせいだろうか?。
『いてて…。どうなった?。』
仰向けに倒れた俺。
あれ?。身体が動かない。
それに、腕に何やら柔らかな感触が?。
『きゃん!?。あ…あの…ご、ご、ごごごごごしゅじんしゃま…あの……そ、そういうのは…いやじゃ…ない…けど………二人っきりの…ときが…良い…よ?。』
『あっ!?。すまん!?。って…動かねぇ…。』
『あ…わ、たしの、身体が邪魔だね…。うぅ…んん~。うぅ~。動けない…よ?。』
『ふふ。ついに。チャンス到来。基汐。覚悟して。』
仰向けの俺に跨がった紫音が俺を見下ろしていた。
その瞳は、罠にかかった獲物を狙う捕食者のように…決してうら若き少女がしてはいけない表情で妖しい笑みを浮かべていた。
しまった。これが狙いか!。
最初に気付くべきだった。この神具は紫音のだ。単純な乗り物だと思って油断した。
この内側の空間。この狭い場所は紫音の支配空間だ。
身体の自由を奪っているのも紫音の仕業か。
『基汐が。悪いの。私をいつまでも。恋人に。してくれないから。もう。実力行使。するから。んっ!。』
『んっ!?。』
思いっきり強引なキスをされる。
自由を奪われた身体では抵抗すら出来ずに紫音の為すがままに唇を蹂躙された。
何度も唇を押し当てられ、吸われ、舐められ、仕舞いには舌まで入れて来やがった。
てか、舌も動かねぇ…。
こんな狭い空間で相手の自由を奪う。この能力意味あるのか!?。
『はぁ…はぁ…はぁ…。満足。どう?。基汐。私無しじゃ生きていけない?。』
『いや、まぁ、仲間だからな。別れようとは思わないけど。恋人には出来ないかなぁ。俺は光歌一筋だし。』
『えぇ~。不服。キスまでしたのに!。気持ちくなかった?。』
『それ聞く?。まぁ、気持ち良かったけどなぁ…強引過ぎてなぁ…。てか、そんなに顔真っ赤にするくらいならやらなきゃ良いのに…。』
『だって………基汐としたかったし…。初めては基汐が良かったの…。ねぇ、基汐。私のこと。嫌い?。』
俺の胸に顔を埋めて上目遣いで俺を眺めている紫音。その瞳には涙が溜まっていた。
があああぁぁぁ!!!。何だこの可愛い生き物は!?。
『はぁ…。これだけ好意を向けられて嫌いなわけないだろう?。寧ろ、好きだからこそ困ってるんだ。』
『あっ…。えへへ。うん。うん。』
いつの間にか自由になった腕で紫音の身体を抱き寄せ、そのまま頭を撫でた。
『……………。』
『ご、主人様…。わ、私も…して、欲しい…よ?。』
『ああ。』
両脇に美少女二人を抱えて頭を撫でる。
光歌………どうすりゃ良いんだ。この状況…。
『ふふ。ご主人様と紫音様…皆、仲…良いね。』
『うん。基汐。私の最愛の人。こればっかりはレクシノアにも譲らない!。』
『うぅ。私の…ご主人様…。だよ?。』
いつの間にか俺はこんなにもモテモテになってしまった。
無下に突き放すのも謀られるし、既に仲間になってしまったからなぁ~。
仲良くやっていきたいんだがなぁ…。
そんなこんなで、朝陽が昇り周辺が明るくなった頃。
俺達は外に出た。
『基汐。ここ。何か臭い。』
『ご主人様。何かが焼けた臭い。するよ?。』
『ん?。本当だ。それに何だ?。ここは?。』
不時着した場所。
森に囲まれた集落みたいだが、木製の建物は焼け落ち、周囲には何かが焦げた臭いが充満していた。
何だろう?。ここは?。
『紫音。俺のポケットの中に。』
『うん。』
神具を消し、小さくなった紫音が俺の胸元のポケットの中に入る。
『ご主人様。私も。良い…ですか?。』
『ん?。どういうことだ?。』
『ん~~~。』ポンッ。
『おお?。小さくなった。』
レクシノアは紫音と同じ、手のひらサイズに小さくなる。
『は、はい。その…この身体…ご主人様のエーテルで作られてるから…大きさも調節出来る…よ。』
『へぇ。便利だな。』
レクシノアも紫音とは反対側のポケット中に入った。
これで、二人に危険が及ぶことも少なくなり、三人で警戒しながら探索出来る。
『さて、色々と調べてみるか?。』
俺は歩を進め周囲の探索を始める。
生き物の気配はない。
家屋の並び、生活感の痕跡からかなりの人口がいたのは確かだ。
恐らく…村、だったのだろう。
中心と思われる場所には石で出来た柱があり、その中心には謎に輝く宝石が埋め込まれていた。
俺が触れると輝きは強くなり、エーテル反応しているのだと分かる。
無事な建物が幾つか残っており、その中を調べる。
襖を開いたその先、神社にある本殿のような造り、そして、床に転がる木製の…。
『木彫りの人形?。』
人形にが【人神】と彫られている。
『基汐。この中だけ臭い。しないね。』
『あ…本当だ。それに…。』
エーテルの残留を感じる。
ここで誰かがエーテルによる能力を使用した?。
埃の溜まりくらいから数週間放置されていることが分かる。
つまり、数週間前に誰か…神に連なる者が…。
『こんなに強く残ってる。ここで能力使った人…相当強い。』
『はい………とても、強い気配が…残ってる…よ。今まで、出会った…誰よりも…だよ?。』
確かに…だが、俺はこの気配を知っている。
どこか懐かしさすら感じるエーテルの残留。
このエーテルの持ち主は…俺の仲間にして家族…。
そして、最も頼りになる親友。
『閃か?。』
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