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第325話 赤国 戦いを終えて

ーーー愛鈴ーーー


 暗い。

 真っ暗な水の中を漂っている…そんな感覚だった。

 身体が軽い。ずっと感じていた気だるさや、頭の痛さが無くなってる。


 あれ?。私…どうしたんだっけ?。


 えっと…ああ。そうだ。

 私…死んだんだ。

 ゼディナハの刀で胸を貫かれて…。あれ?。けど、私の今の状態は?。


 ゆらり、ゆらりと流れのままに視界は進んでいく。

 意識はあるのに、身体が動かない。

 ううん。違う。身体が…ないんだ。

 私という意識はハッキリとしているのに、それ以外の全てが私から離れてしまった。そんな感覚。


 ここ。何処なんだろう?。私は…。何処に向かっているのかな?。

 

 周囲を確認すると暗くて広い空間の中を数え切れないくらい大量の光が漂っていた。

 ううん。違う。漂っているんじゃない。

 あの中心に向かって流れてるんだ。

 様々な方向から光がある一点に向かって動いている。

 中心にある大きな輝きを放つ巨大な球体。


 あれ、エーテル?。ううん。きっと、そうじゃない。エーテルよりももっと強くて大きなエネルギー。多分、エーテルはアレから発生したモノなんだ。


 私もあの輝きに向かっているみたい。

 自分の意思とは関係なく吸い込まれていくようにゆっくりと円を描きながら近づいている。


 何となく分かる。

 この無数の小さな光は元々 命 だった輝きだ。私達で言うところの魂。それがきっと肉体を失って………死んだ魂が元々あった場所に帰ってるんだ。


『あれは、星の核だ。リスティールのな。』


 え?。

 突然の男性の声に驚いた。

 見ると、私を見ている知らない男の人が私の横に立っていた。


『星を創造するには、まず核を創る。そこから大地や海、空や大気を創っていく。言葉では容易いが実際にその様な身業を行えるのは神の中でも一握り、最高神に分類される神の頂点しかいない。』


 あ、あの~?。


『ん?。お前が疑問に思っていたから答えたのだが違ったか?。』


 え?。いえ、確かに疑問に思いましたが…その、貴方は何方ですか?。


『俺か?。俺は神からの言葉を地上の者達に伝える伝令役…に、近い存在だ。ああ。俺の言う神というのは絶対神のことだ。名前くらいは聞いたことがあるだろう?。』


 絶対神…。はい。この 世界 を創造した神の頂点です。伝承ですが私の国にも語り継がれています。


『ああ。そうだ。…ああ。あの核から溢れ出ているのがエーテルだ。自然界から発生する最も強いエネルギー。そして、エーテルは神々が扱う力でもある。リスティールに住む生物達は、エーテルを肉体に取り込み自身が扱える量を肉体で薄め各々の能力を行使している。それが魔力と呼ばれるモノだ。』


 え?。な、成程?。


『ふむ。疑問に思っていなかったか?。』


 あ。いえ…確かに疑問に思いました。

 教えて頂きありがとうございます。

 それで…あの…貴方は何故私に?。


『言っただろう。俺はメッセンジャーだ。神の言葉をお前に伝えに来た。』


 神の言葉?。私に?。


『ああ。では、伝えるぞ。巫女としての勤めご苦労だった。感謝する。長きに渡り、辛い時間を過ごしたであろう。今後の生。幸せに生きよ。………だそうだ。』


 え?。どういうことですか?。

 巫女としての勤め?。今後の生?。


『混乱しているな。なぁに、簡単なことだ。お前には二つの選択肢がある。一つはこのまま輪廻の流れに従いあの核の中へと帰還する。そして、リスティールにて新たな命としての生を受ける。もう一つは、お前がお前自身のまま第二の生を与えられ生き返ることだ。勿論、巫女としてではなく、【愛鈴】という存在としての生を全うする。さぁ、好きな方を選ぶが良い。』


 私は…生き返られるのですか?。


『ああ。お前がそれを望むのならな。』


 その、楚不夜や紅陣も?。


『いや、彼等は生き返らない。彼等は神の遣いとして神眷者となった者達だ。神眷者の魂は世界の境界を隔てる門を開ける 鍵 としての役割を担っている。故に巫女とは少し扱いが異なり、生き返ることは出来ない。…言うなれば、お前は今、巫女の特権を受けている状況だ。』


 そう…ですか。巫女…だったから、私は生き返ることが出来るのですね。


『その通りだ。ふむ。背中を押すようだが、あの神眷者二人と約束をしたのだろう?。幸せになると。ならば、お前は二人の分も生きなければならないのではないか?。二人がお前に望んだ未来を叶える為に。』


 はい。その通り…です。

 二人は最期まで私に笑ってくれていた。

 自分の死が間近に迫っているのにも関わらず、私のことを第一に考えてくれていた。


 瞳から流れる涙が止まらない。

 肉体はない筈なのに視界が歪む。


『ならば、新たな生を謳歌する他ないだろう?。』


 はい。私は生きます。生きて幸せになって…あの二人に立派になった私を………見て貰うんです。


『決まりだな。ああ。もう一つ確認だ。暫くの間、彼女を借りるぞ。』


 きゅぅ!。


 あっ…赤竜?。

 赤竜が私の方へと飛んで、小さく鳴いて彼の元へと移動する。


『事が終われば、彼女はお前の元に帰るだろう。それまでは彼女の力が必要なのでな。』


 貴女はそれで良いの?。 

 きゅぅ!。

 頷くように縦に首を振る赤竜。

 そう。貴女のしたいように。

 きゅっ!。


『では、俺の役目は次で終わりだ。愛鈴。お前に新たな肉体を与え蘇生させる。二度目の生。悔いの残らぬよう全力で精一杯生きよ。彼等の分もな。』


 はい。色々とありがとうございました。


『ではな。もう会うことはないだろうがな。』


 貴方の名前は?。


『ふむ。それはまだ無い。やがて俺自身が俺になった時、神から与えられることとなっている。』


 ?。


『俺のことなど…どうでも良い。早く行け。』


 はい。本当にありがとうございます。それでは。


 私は眼を閉じた。

 すると、自然と身体に変化が訪れる。

 熱い。全身が熱い。少しずつ、肉体を取り戻しているみたいに、感覚が、五感が甦ってくる。


 やがて…私の身体は…。


 轟音と共に空中に投げ出された。

 眼を開けると遥か上空から落下している状況。


『え?。どうして?。いえ、そんな場合じゃない!。翼を…。』


 ゼディナハに絶たれた不死鳥の力。

 あの時は翼も失ったけど、今の私は…。

 背中の感覚に意識を集中すると炎の翼が天空に広がった。

 輝く火の粉を撒き散らし、力強く羽ばたいた。

 

『やった!。飛べた!。』


 翼を広げたことで落下の速度は遅くなり自らの意思で飛行することが可能になった。

 

『王宮に戻らないと!。』


 必死に羽ばたき王宮へと向かう。

 皆は無事なのか。赤国は?。戦いはどうなったのか?。

 心配事は無限にある。

 だから、急いだ。必死に。速度を上げた。


『見えた。』


 王宮があった場所には何もなかった。

 多くの瓦礫が地面に広がっているのを見ると戦いの影響で王宮はおろか王廷そのものが破壊されてしまったみたい。

 そんな中、複数の人影が見えた。

 その中の一人。私が一番会いたかった人を見つけた。同時に心臓が大きく高鳴り。

 次の瞬間。私は無意識に叫び。翼を畳んで急降下していた。


『赤皇~~~~~~~~~~!!!!!。』

『え?。は?。愛鈴?。』


 彼の胸に勢い良く飛び込み、そのままの勢いで彼と地面に沈んでいった。


ーーー


ーーー基汐ーーー


 敵は撤退し、この場には赤国の戦力と俺達だけが残った。


『それにしても懐かしい顔触れだな。』


 赤皇が俺達を見渡しながら笑う。

 確かにそうだ。

 現在、この場にいるメンバーは。

 異神、クロノ・フィリア側が。


 俺、紫音、睦美、智鳴、玖霧。

 知果、時雨、威神。

 赤皇。無華塁。


 そして、赤国側が。


 麗鐘、宝勲。

 狐畔、龍華、鬼姫

 柘榴、群叢、塊陸、獅炎、心螺、珠厳。


 群叢、塊陸、獅炎は元々、ギルド 赤蘭煌王の幹部、つまり、赤皇の仲間達だった連中だ。

 玖霧も知果もいる。今、この場には赤蘭の殆どのメンバーが揃っている。

 人族だった燕は恐らくゼディナハの言っていた人族の住む場所にいるのだろう。

 早く、再会させてやりたいな。


『基汐さん。久し振りだ。元気そうで良かった。』

『おう。威神もな。転生して更に強くなったんじゃないか?。纏ってるエーテルが凄いぞ。』

『ええ、力を使いこなすために特訓を続けた。だが、基汐さんにはまだ届かないみたいだ。これからも精進せねば。』

『ああ。お互いにな。敵は強い。今のままじゃ厳しいかもしれない。』


 威神もそれを感じ取っているのか、握り拳を作り眺めている。


『智鳴さん。睦美さん。どうやら合流できたようね。』

『うん。玖霧ちゃんとも再会出来たし、全部とまではいかなかったけど…だいたい作戦通りだったよ。』

『久しいな。時雨。元気そうでなによりじゃ。』

『そうね。ふふ。こうしてまた再会できる時が来るなんて…死んだと思ったら生き返って良く分からない土地で目覚めた。そんな何も無かった頃では感じられなかったけど。仲間との再会がこんなに嬉しいなんてね。』

『うんうん。今はまだ私達だけだけど、これからもっと頑張ってクロノ・フィリアの皆と再会しようね!。』

『ええ。私達の行動次第ね。』

『ああ。早く…会いたいのぉ…。』


 時雨との再会を喜び会う睦美と智鳴。


『それで、この小さな娘は?。』


 無華塁が俺の胸ポケットの中にいる指差す。


『っ!?。だ、誰?。』

『無華塁。貴女は?。』

『………紫音。』

『紫音?。………ああ。聞いたことある。紫雲の。私達の。仲間?。』

『っ!?。ぅ…ぅん。基汐~。』

『わりぃな。無華塁。コイツは物凄い人見知りなんだ。俺にこの世界のことを色々と教えてくれた恩人で、今は俺達の仲間…『で、基汐の二番目の女だ。』って、何でだよ!?。』


 無華塁に背を向けたまま俺の言葉に挿し込み高らかに宣言する紫音に思わず突っ込みを入れてしまった。

 

『ほぉ。基汐もハーレムルート。突入?。』

『してない。』

『そうなの?。後ろの二人からも。視線。感じるけど?。』

『え?。』


 振り替えると龍華と鬼姫がチラチラと俺達の様子を窺っていた。

 興味深く、視線をいったり来たりしている。


『………俺は光歌を裏切れない。光歌を愛しているからな。』

『理解した。この状況。なら。ねぇ。紫音。』

『え!?。な、何?。』


 紫音に手招きする無華塁。

 俺の顔を不安げに見つめながら、交互に無華塁の顔をチラ見する。


『大丈夫。無華塁も俺の仲間で家族だ。』

『うん。』


 ポケットから出て無華塁の元へと飛んでいく紫音。


『こそこそこそ。』

『え?。』

『こそこそこそ。』

『そうなの?。』

『うん。だから。外堀を。こそこそ。』

『だ、大丈夫かな?。』

『うん。死ぬのは基汐だから。』

『そうかぁ~。うん。分かった。ありがとう。えっ…と、無華塁…さん?。』

『無華塁で良い。』

『うん。無華塁。これから。宜しく。』

『うん。紫音。頑張って。』


 口笛を吹きながら戻ってくる紫音。

 そのままポケットの中へと入っていった。

 途中、何か不穏な単語が聞こえたが…。うん。どうやら、俺は死ぬらしい。


『群叢、塊陸、獅炎か。懐かしい顔だな。だが、何て言うか…変わったな。良く分からねぇが、一本の芯みてぇなのが表情から分かる。成長したみてぇだな。』


 再会を喜んでいる俺達の横で赤皇がかつての仲間達に声を掛けていた。


『基汐さん達から話を聞いた。アンタが赤皇。前世で俺等の頭だった奴なんだろ?。』

『ああ。そうだった。色々あってな。俺はギルドを抜けちまったから。まぁ、長年一緒に行動してたダチみてぇな関係さ。そこの玖霧と、こっちの知果もな。』

『ああ。それも聞いた。記憶がないから実感はないがな。何となくお前達の顔に見覚えがあるんだよな。』

『きっと記憶の底には残っているのかもしれないな。』

『かもな。その内思い出せるだろうさ。きっとな。一応、これだけはハッキリさせとくぜ。』

『ん?。』


 全員の前で赤皇が玖霧と知華へ手招きをする。

 首を傾げながら赤皇へと近付く二人。


『え?。な、何よ。』

『赤皇さん?。』

『おいおい。久し振りの再会に冷てぇじゃねぇか?。もっと、色々とあるだろ?。』

『はぁ...確かにそうね。まぁ…アンタが元気そうで良かったわ。…その…安心した、わ。』

『私もです。赤皇さんも、玖霧ちゃんも。また再会出来て本当に嬉しい…。』

『ああ。じゃあ、再会の証を貰うぞ。』

『え?。んっ!?。』

『なっ!?。』

『きゃあああああぁぁぁぁぁ!?。大胆だね!?。』

『はわわ…。』


 全員が見守る中。赤皇が玖霧の唇を奪う。


『ちょっ…いきな…んっ!?。』


 強引に乱暴に。それでいて繊細に。

 僅かに抵抗する玖霧の口内を力付くで侵略し、互いの舌が絡み合う。

 数分間のディープなキスが続き、互いの唇が離れた瞬間、玖霧の身体が崩れ落ちた。


『あ、赤皇さん…その…いきなりどうしちゃったんですかあああああ!?。っ!?。んん!?。』


 そして、動揺する知果の唇も赤皇により蹂躙され数分後には腰の抜けた二人を両腕で抱き締めた赤皇が満足そうに笑っていた。


『コイツ等は俺の女だ。例え、お前達でも渡さねぇからな。覚えとけよ?。』

『あ…あ、はい。覚えときます。』


 呆気にとられた面々の中。

 虚ろな眼差しの玖霧と知果だけが幸せそうに虚空を見つめて失神していたのだった。

 はぁ…赤皇も強引…というか、我が道を往く的なところは変わってないなぁ。


『基汐。』

『ん?。何だ。』

『ん...。』

『え?。』


 普通のサイズに戻った紫音が眼を閉じ唇を突き出す。


『私も強引なの希望。ちゅ~して。』

『しないよ。』

『ん~っ!!!。』

『しません。』

『むぅ。基汐のいけず。』


 そんなこと言われても恋人でもない相手にそんなこと出来ないって。


『むぅ。良いもん。基汐なんか。』


 再び小さくなった紫音はゆっくりと俺の顔の横まで浮遊する。


『ちゅっ!。好き!。』


 実に短く小さすぎる唇を押し当てた紫音がそのまま胸のポケットの中へと入っていった。


『ひひひ。モテるのぉ。基汐。』

『……………。』

『じゃが、キチンと応えてやるんじゃぞ?。』

『分かってるって。』

『何かハラハラしちゃったね。』


 俺達のやり取りに場の空気が和んだ。

 すると、赤皇が話を切り出した。


『一応、何がこの場で起きたか整理するか。基汐の旦那や威神達もこれまでの経緯を教えてくれ。』


 俺達は各々にこの赤国で転生してからの出来事を話し合い纏めていく。

 出会いと再会。敵との遭遇。失ったもの。戦いの流れと結果。敵の全貌。などなど。

 この場に集まるまでの出来事が各々の口から語られ時系列ごとに纏められていく。

 復活した玖霧がこういうことが得意なので、途中からは彼女主体に話が進められていった。


『そうか。楚不夜も………愛鈴様も、飛公環様もお亡くなりに…。』

『あの…ゼディナハって奴…は死んだんだったか?。なら、火車って奴とザレクって奴…絶対許さねぇ…今度会ったら絶対殺してやる…。』

『はぁ…熱くなるのは良いが。妾達の無力さは証明されただろう?。今のままでは再会しても殺されるのがオチだ。』

『くっ…じゃあ、どうすんだよ…。俺達は…赤国は…。』


 赤国のことは正直、絶望的な状態だと思う。

 忠義を示していた王を失い、最高幹部であり、神眷者だった最高戦力を失ったのだ。

 既に国としての形は失われてしまっている。


『愛鈴…。』


 どうやら、赤皇にとっても大切な存在だったようだ。

 強く握った拳から血が滴っている。

 全員が暗い雰囲気に包まれる中、赤皇がいち早く気がついた。


『これは?。』


 玖霧と知果から離れ上空を見つめる。

 赤皇の行動に全員の視線が空に向く。

 そこには、燃える炎の翼を広げ一直線に赤皇に向かって飛んでくる一人の少女。

 一切、減速すること無く赤皇へ突進した。

 赤皇と少女が地面に沈む…が、少女に怪我はなく赤皇が自身の身一つで少女を衝撃から守ったのだった。


『うがっ!?。』

『赤皇!。私ね!。生き返ったの!。』

『愛…鈴?。』

『ええ!。私!。愛鈴よ!。』

『生きてんのか?。』

『うん!。生きてるよ!。会いたかった。ずっとお礼を言いたかったの!。本当に…ありがとう!。』

『はは…何が何だかわかんねぇけど。お前が生きていてくれて嬉しいな。』


 愛鈴と呼ばれた少女の頭を撫でる赤皇。

 嬉しそうにそれを受け入れる愛鈴。

 そして、次の瞬間。


『姫っ!。』


 麗鐘。宝勲。狐畔。龍華。鬼姫。

 柘榴。群叢。塊陸。獅炎。心螺。珠厳。

 赤国の戦士達全員が愛鈴に向かって飛び付いていた。

 揉みくちゃにされながらも嬉しそうに全員へ笑顔を向ける愛鈴。

 その笑顔を見た面々が、一斉に驚き、そして…全員が泣いたのだった。


ーーー


 愛鈴を先頭に俺達は場所を移動した。

 移動の最中、愛鈴は自身の身に起きた不思議な体験を口にした。

 星の核とそれに流れるエーテルの輝く不思議な場所で、謎の男に出会い。

 巫女としての力と引き換えに蘇生された。


 謎の男か。

 俺達の知らないことが、きっとまだ色々とあるんだろうな。


 俺達は崩壊から免れた建物の一室に移動し今後の事について話し始める。


『この度は、赤国の為に戦ってくれて本当にありがとうございます。異神の方々。感謝します。』


 深々と頭を下げる愛鈴。

 彼女の後ろに並ぶ赤国の戦士達も同時に頭を下げた。


『それで、貴方方はこれからどうするのですか?。』


 恐る恐ると言った感じで赤皇を見る愛鈴。

 どうやら、彼女は赤皇をとても信頼しているようだ。

 赤国の王がこんな少女だったとは思わなかったけど、さっきの他のメンバーの反応と態度からして余程慕われているんだろう。


『俺等はここに残るぜ。復興の手伝いもしてやりてぇしな。それに今他の国に襲われたら一溜りもねぇ。戦える奴がいた方がお前達も安心だろう?。』

『そ、そうか!。それは心強い申し出だね。助かります!。』

『お前達も良いよな?。』


 嬉しそうに身を乗り出す愛鈴。

 赤皇が玖霧と知果に顔を向ける。


『ええ、構わないわ。ふふ。愛鈴ちゃんとは少しお話しないといけないようだしね。』

『ふふ。ええ、その通りね。玖霧ちゃん。たっぷり可愛がってあげるわ。』


 玖霧と知果が怪しい笑みを浮かべながら愛鈴を見つめる。


『っ!?。そ、その…宜しくお願い……します…。ふぇ~ん。赤皇~。』


 怯える愛鈴が赤皇に近づきその身体の陰に隠れた。


『基汐の旦那達はどうすんだ?。』


 怯えた愛鈴の代わりに赤皇が俺達に問う。


『さっき、少し話したんだけど。ここで戦力を極端に裂くのは得策じゃないと思う。だから、時雨と威神はここに残って貰う。』

『ええ。私達は赤国の護衛に回るわ。敵の全貌が掴めてない以上、この国を離れるのは危険だから。』

『俺も異論はない。復興を急ぐなら俺の力は適任だろう。』

『基汐君。私も残るよ。』

『ああ。智鳴もな。お前達が居れば安心だ。』


 いつまたゼディナハの仲間達が襲ってくるか分からないしな。


『私。出掛ける。』

『無華塁?。』

『何処に行くんだ?。』

『分かんない。けど。あっちの方に私行った方が良い気がする。』


 無華塁の勘か。

 今までも何度かあったが、無華塁の勘は智鳴とは別の方向に良く当たるからな。本人にしか分からない直感が働いているのかもしれない。


『その方角は…紫国ですね。彼処は地上は湿地帯で地下には永遠と続く迷宮がある国です。』

『迷宮か。』


 愛鈴が説明してくれた。


『一人で大丈夫なのか?。』


 無華塁なら心配ないだろう。

 ここにいる誰よりも強いしな…。


『うん。問題ない。』

『そ、そうか。』


 ここまでハッキリ言われたら心配する必要はない…かな?。


『基汐様方はどうされますか?。』

『俺はゼディナハ達が言ってた人族が住む地下都市へ向かおうと思う。』

『私も。』

『人族の地下都市…。確かに言っていましたね。そこに向かうと。それに、緑国が異神の手に落ちたとも。』

『ああ。俺達の転生には各々の種族が関係しているらしい。俺の仲間にも人族がいたからな。もしかしたら、ゼディナハの仲間達と交戦するかもしれない。』


 人族。もしかしたら…閃に会えるかもしれない。閃は俺達の切り札だ。合流さえ出来れば、俺達の戦力は確実に跳ね上がる。

 それに閃のことだ。もしかしたら、俺の想像の遥か上へ強くなってるかもしれない。

 何よりも、あの絶刀を持っていた少女。確か…エレラエルレーラ。

 あの少女は恐らく…閃にしか止められない。

 

『基汐。私も行く。』

『ああ。問題ないよ。』


 人見知りの紫音を置いていったら泣いてしまうかもしれないしな。


『睦美はどうする?。』

『ん?。ワシか?。そうじゃな。フェリティス達の安全を確保せねばならんし、残るぞ。』

『そうか。人族の住んでる場所だからな。もしかしたら閃と再会出来るかもしれないと思ったんだが…。』

『…だ、んな…さま…に?。』

『おっ!?。おい…睦美?。』


 閃との再会を口にした瞬間。

 睦美の頬を伝う涙。


『え?。あれ?。私…何で泣いて?。』

『もうっ。睦美ちゃんは。』


 自分でも泣いていることに驚いている睦美を優しく抱きしめる智鳴。

 睦美にとって閃は恋人であると同時に心の支えなんだろう。

 転生してからは必死に守る側だったが、睦美にとっての安らぎはやっぱり閃と一緒にいる時間。閃との再会が頭に過った瞬間、張っていた心の糸が一瞬緩んだことでの涙だった。

 それに、智鳴もだ。

 自分だって閃と再会したいだろうに、自分の気持ちを抑え睦美に寄り添っている。

 自分に自信がないだけで、智鳴は誰よりも面倒見の良いお姉さん的な存在なんだ。


『基汐君。閃ちゃんに会ったら伝えて。睦美ちゃんの為にも早く会いたいって。勿論、私もね。』

『ああ。絶対連れて来るよ。引っ張ってでもな。』


 人族の住む場所に、閃…居てくれよ。


『基汐様。これを。』

『ん?。これは?。』


 龍華から渡された小さな機械。


『これは、青国が開発し各国へ配った転移装置です。』

『転移装置?。青国?。』

『それを起動すると設定した同系の機械との間に空間を繋げ瞬時に転移することが可能です。青国は故障などを考え各国に二つずつ配りました。それはその内の一つです。』


 俺の質問に応える愛鈴。


『これをどうすれば良いんだ?。』

『ゼディナハが言っていました。緑国が異神の手に落ちたと。つまり、緑国は今、貴方方の仲間が支配している状況と言うことです。そこで、人族の地下都市の件が終わりましたら緑国へと向かって欲しいのです。』

『成程。俺達の味方となった国同士で同盟を結ぶってことだね。』

『はい。現在、赤国内に設置されている転移装置は機能を停止させています。ゼディナハ…黒国が敵である以上、他国も信頼出来ませんから。設定としてその機械は赤国の機械のみと繋がっている状態です。』

『これを緑国に設置して互いを行き来できるようにするってことか。』

『はい。ご明察です。』

『けど、緑国にもあるんだろ?。何で今直接使わないんだ?。』

『それは…緑国には無いからです。』

『無いの?。』

『はい。緑国の王、セルレンは他国や他の神眷者を一切信用していなかったのです。機械の受け取りにも現れなかった程に。異神に対する驚異を知っても自国の力だけで乗り切ろうとしていたようです。』

『ああ。そういうことか。』


 余程強力な力を手に入れたのか。

 それとも、ただの自信家か…。

 どっちにしろ、その王は俺達の仲間の誰かが倒したんだ。

 緑国には誰がいるのか。再会が楽しみだ。


『なので、その機械を緑国へ届けて下さい。そうすれば即時、此方の国と繋がれます。』

『了解。任された。』

『人族の地下都市へのおおよその場所を示した地図と緑国への地図をお渡しします。ですが、私達でもその場所の正確な位置は分かりません。』

『いや、これだけ絞り込めてれば自力で探すさ。』


 転移装置と地図を懐に仕舞う。


『さて、話しは一先ず終わりにしましょう。』

『そうだな。今日は久し振りに疲れた。』


 戦いを終えた安堵感に全員の顔に疲労が見え隠れしている。

 その後、俺達は用意された個室で休息する。

 明日からは色々なことを始めないといけないから。


ーーー


ーーーとある崖の上ーーー


ーーー無凱ーーー


 幾つもの山を越え、ここらで最も高い山岳から見下ろす景色。

 豊かな自然、森の中に囲まれた巨大な都市。

 山と森に囲まれているせいで外部との接触を少なくしているような都市の造り。

 まるで、ゲーム時代の黄華さんが造った黄華扇桜の街並みのようだ。


『ここが…黄国か…。』

次回の投稿は2日の日曜日を予定しています。

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