第324話 予想外の結末
赤毛と茶毛が混ざったような髪色。
小柄ながら鍛え抜かれた肉体。
その身に纏うエーテル量はこの場にいる他の神や神眷者を圧倒している。
前世では何度か手合わせをして貰った。
伝説のギルド、クロノ・フィリア。
そのメンバーで主に前衛で戦っていた連中、まぁ、簡単な話、白ぃのが手配書を作って警戒してた連中だ。ソイツ等に頼み込んで模擬戦を何度か行って貰った。
誰も彼も馬鹿げた強さを持っていた。
正直、全敗だった。今まで自分の力に自信を持っていたんだがな。悉く、粉砕された気分だった。
だが、俺も同じクロノ・フィリアとなって実力をつけた。死に物狂いで特訓し能力を自分のモノにした。
仲間になった。新たな家族に追い付くために。
そして、その度に模擬戦だ。
今思えば、嫌な顔しないで良く俺の我が儘に付き合ってくれたもんだ。
話が逸れた。
何度も戦っている内に、徐々に戦いになっていくことを実感できた。
最初は、為す術べなく倒されていた俺だが少しずつ戦闘になっていった。
そんな中で、俺は思った。いや、分からされたことがあった。
それは、クロノ・フィリアのメンバーの中で、あの三人にはどう転んでも勝つことは無理だと。強さの次元がそもそも違うと思った。
その三人は、閃の旦那。無凱の旦那。そして…。
『ねぇ。赤皇。助けが必要?。』
ソイツはゲーム時代には正式なクロノ・フィリアメンバーではなかったらしい。
クロノ・フィリアの所属になったのは俺達と同じ時。それまではソロで行動していたそうだ。
【極振界神】無華塁。
その純粋な瞳が俺を見る。
俺がこの人生…いや、一生強さを磨いても絶対に勝てないであろう相手の一人だ。
『あ、ああ。お前…どっから現れやがった?。』
俺には突然、目の前に出現したように見えた。
『さぁ。分からない。けど、今出ないと。きっと赤皇死んじゃうって。思ったの。だから。助けに来た。』
『そ、そうか。確かに有り難いわ。』
無華塁が出てこなければ確実に俺は絶刀に殺されていただろうしな。
『うん。赤皇。こっちと戦いたい。違う?。』
無華塁はゼディナハ達を指差し質問する。
確かにその通りだ。ゼディナハを倒す。アイツを殺したゼディナハを俺は絶対に許さねぇ。
『ああ。俺はソイツ等を倒す。』
『そう。じゃあ。頑張って。』
『っ!?。きゃぅ!?。』
無華塁が軽く腕を振った瞬間。絶刀を持っていた少女の身体が吹っ飛んだ。
『じゃあ。私の相手は。貴女ね。』
『なっ!?。ぐっ!?。』
目の前から消えた無華塁。
気づいた時には、マズカセイカーラに殴り掛かっていやがった。
おいおい。俺でも互角くらいの奴だったんだがな…拳だけで押してやがる…。
そのまま、王宮を破壊しながら屋上へと…外へと移動していった。
まぁ。でも…これで邪魔者は消えた訳だ。
神具。再起動。
【獄炎・纏鎧神気 マヴァグナ】
全身から再び放出される熱気。空気が焼け、空間が歪む。
『さぁ。続きだ。ゼディナハ。』
『はっ!。』
ゼディナハの背後にいた男が俺に斬り掛かる。
巨大な大剣。その刃を自在に操り更に刃を巨大化する。
『そんなんじゃ俺には通用しねぇよ!。』
『なっ!?。俺の剣が溶けやがった!?。どんだけ熱いんだよ!?。』
『下がりな。修!。これなら!。』
銀色の鎧を身に纏った女が突進してくる。
その手に握られた剣からエーテルが放出され攻撃範囲と威力を向上させた一撃が振り抜かれた。
『遅ぇ。』
『うそっ!?。って!?。私の鎧も溶けて!?。』
奴等のエーテルでは俺の神具が発する熱は防げないようだ。
『エネルギー充填完了。これで、消えて下さい。』
優男から放たれるエーテル砲撃。
今までの俺なら直撃を喰らえば一撃で倒されていたであろう威力。だが、今の俺は神具によって熱せられた纏う空気全てが鎧だ。
腕を突き出しエーテル砲を弾く。
軌道を変えた砲撃は鎧の女の方へと向かう。
『なっ!?。ちょっ!?。』
間一髪で砲撃を躱す女。
『ああ。駄目ですね。今の僕らでは倒せない。』
『ちょっと!。優!。今、私危なかったんだけど?。』
『そのようですね。残念です。』
『は?。何が残念なのよ?。もしかして喧嘩売ってる?。』
『いえいえ。そんなことは、ゼディナハさん。どうやら僕らでは彼を抑えることも無理そうです。逃げる方向での判断をお薦めしますが?。』
『仕方ねぇな。なぁ、赤皇。悪いが俺達は逃げさせて貰うぜ。』
『あん?。逃がすと思ってんのか?。』
『どうだろうな。』
俺はゼディナハに対し距離を詰める。
『ちっ!。』
『ゼディナハさん!。』
大剣の男が間に入る。
『邪魔だ!。どけっ!。』
振り下ろされる大剣に拳をぶつける。
その瞬間、大剣は熱したバターのように溶解し地面に落ちる。
『マスター!。』
いつの間にか絶刀を持つ少女、エレラエルレーラが刀を構えていた。
マズイ。離れた位置からの絶刀。
閃の旦那に聞いたことがある。あの刀は認識しているモノを絶つ。認識しさえすれば距離は関係ない。
つまり、あの位置からでも斬ることが可能。
『神技!。』
『エレラ!。』
俺は切り札の一つを切ることにした。
拳に熱気を集中させ纏ったエーテルと熱気を突き出す拳と共に一気に解き放つ。
拳を象った熱の波動が一直線に放たれた。
あの女が絶刀を抜くのが先か、俺の攻撃が命中するのが先か。ギリギリか?。
しかし、俺の目に飛び込んできた光景は想像とは別の結果だった。
『があああああぁぁぁぁぁ…ぅぐっ…。』
ゼディナハの野郎が身を挺してエレラエルレーラを庇いやがったんだ。
何故だ?。そんな奴だったか?。お前は?。
『ゼディナハさん!?。』
『ちょっ、と…何してるのよ?。』
『あらら。全身ドロドロですね…。』
『ま、マスター?。どうして…。』
『馬鹿が…相棒の身を守るのは当然じゃねぇか。けど、これは結構…ヤベェな。』
最期にエレラエルレーラの頭を撫でゼディナハの身体は光の粒子になって消滅した。
何だってんだ?。これは?。そんな簡単に死ぬような奴じゃねぇだろ?。
余りにも腑に落ちない終幕。敵の親玉が消えた今、これ以上の戦闘は無意味か。何せ、俺は目の前の奴等についてのことを何も知らねぇからな。
『赤皇。ごめん。力の加減間違えた。三人を守って。』
何処からともなく無華塁の声が聞こえた。
その瞬間。建物全体は大きく揺れ始める。
立つことすら困難な震度での揺れ、周囲の状況を確認する間も無く王宮の崩壊が始まった。
これ、無華塁の能力か!?。
いやいや、そんなことより、愛鈴達を!。
『掴まれ!。』
全力で愛鈴を抱える麗鐘、宝勲の元へ駆け。
三人を抱えて飛び降りる。
上空から落下中に見た景色は、広範囲に発生した地震によって崩壊する赤国が誇る王廷全体だった。
なんつう出鱈目な威力だよ…。
崩壊するだけじゃねぇ。地面が裂け、その亀裂に建物が落ちていく。
愛鈴の計らいで誰も居ないことだけが幸いだったな。こんな被害を受ければ全滅だぞ。
瓦礫の山の上に着地し抱えていた三人を下ろす。
『無事か?。』
『あ、ああ。無事だ。助かったぜ。兄さん。』
『ありがとうございます。私も…愛鈴様も傷一つありません。』
眠るように死んでいる愛鈴を見る。
涙の痕。辛かったんだな。
『良く頑張ったな。』
愛鈴の頬を撫でると、その身体がゆっくりと輝き始めやがて光となって天に召されていった。
『ちっ…。』
『赤皇。無事?。』
『あ、ああ。相変わらず出鱈目だな。』
俺の横に降り立つ無華塁。
身体には無数の小さな傷。
『はぁ…はぁ…はぁ…この異神野郎…。無茶苦茶な戦いをしやがって…。』
空中に停滞するマズカセイカーラ。
その身体は傷だらけで、肩で息をしながら無華塁を睨み付けていた。
『アイツ。強い。けど。何か弱くなってる。』
『は?。どういうことだ?。』
『分かんない。多分。本来ならもっと強い気がする。』
『何かの理由で力が抑制されてるってことか?。』
『うん。』
俺と互角に殴り合っていたんだがな。
まさか、あれで全力じゃなかったってことか?。
『まだ。続ける?。』
『ちっ…いや、やめだ。今の俺じゃあ、てめぇに敵わねぇ。それは認めてやる。だが、いつか俺の全力でお前を倒す。』
『うん。待ってる。その時は私も本気出す。』
『っ!?。………ははははは。そうか!。それは嬉しいねぇ!。手加減してあの強さかよ!。くくく。楽しみが増えたぜ。さて、どうやらゼディナハも消えちまったみたいだな。それに、お前等の援軍が到着のようだし俺はこの辺で戻るとするぜ。』
マズカセイカーラがとある方向を見る。
『ふふ。赤皇さん。お久し振りですね。ずっとお会いしたかったんですよ?。』
『どうやら戦闘中のようね。』
『いや、少し遅かったみたいだ。既に戦闘は終戦へと向かっているようだ。』
知果に、時雨に、威神か。
確か、智鳴と一緒に行動していたって聞いていたが?。
そして、もう一つの反応が急速に接近する。
『おう!。赤皇!。久し振りだな!。』
『うぅ…知らない人いっぱい。隠れる。』
『ああ。良かった。皆合流出来たんだね。それに無華塁ちゃんまで!。今まで何処にいたの!?。』
『赤皇…良かった…。』
『ふむ。赤国にいるクロノ・フィリア全員集合じゃな。』
基汐の旦那に、智鳴嬢、睦美嬢。何か知らない小さな奴もいるな。
それに…玖霧…。
『さて、どうする?。火車達よ?。この状況でまだやんのか?。』
身体を引き摺りながら俺達を睨んでいた火車に問う。
絶刀の少女、優男。大剣の男と鎧の女。
ゼディナハという頭がいなくなった今、奴等の戦う理由はない筈。何よりも数による戦力差が完全に上回った。
今の連中なら俺一人でもどうにかなるレベルだ。
『おい。エレラエルレーラ。ゼディナハは消えたんだ。俺は帰るぞ。』
『………そう。好きにして。』
『おう!。そうするぜ!。』
そう言ったマズカセイカーラは炎の壁が出現しその中へと入って行く。
『じゃあな。異神共。次会う時は全力で殺してやる!。』
そう言い残しマズカセイカーラは消えてしまった。
『皆。戻るよ。』
エレラエルレーラが俺達に背中を向ける。
『良いのかよ。このまま帰っても?。』
『うん。良い。マスターいないし。貴方達じゃあ、彼等に勝てない。から。』
絶刀を目の前の空間に向け抜き放つエレラエルレーラ。
空間は絶たれ、そこに歪みが発生し空間と空間を繋ぐ狭間が生まれる。
他の仲間達も絶刀の存在に気がつき動けないでいるようだ。
『じゃあね。異神。今度は負けないから。』
『絶対、殺してやる!。喰ってやるからなぁ!。』
『はぁ…結局、何も収穫なかったじゃねぇかよ。』
『それでは失礼しますね。皆さん。』
頭であるゼディナハを失ったにしては余りにも軽いノリで次々と空間の狭間に消える面々。
最後に残ったエレラエルレーラは落ちていたもう一本の絶刀を拾い上げ抱きしめる。
『………異神。マスターを殺したこと…いえ、マスターの死を私に見せたこと。絶対に許さないから。覚えておきなさい。次は必ず絶ち殺す。』
憎悪にも似た感情を秘めた瞳を俺達に向け、その言葉を最後にエレラエルレーラの姿も狭間へと消えてしまった。
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