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第320話 龍鬼顕現

ーーー狐畔ーーー


 エーテル同士が激しく衝突する気配を感じる。

 あれ?。私…何してたんだっけ?。

 えっと…ああ。そうだ。

 紅陣に扮した男。白国の神眷者のザレクが私達の前に現れた。

 外見は紅陣に似せていたけれど、仕草や癖、長年共に過ごしてきた仲間なら僅かに分かる行動の違いから私達はすぐに偽者であることに気付いた。

 そして、全員で王廷から彼を引き離し取り囲んだ。

 そこまでは良かった。

 最悪戦闘になり、愛鈴様を巻き込むことは避けられたのだから。

 だけど、全員で彼の正体を見破り、ザレクとしての姿を現した彼の実力は想像以上のモノだった。

 何をされたのかも理解できなかった。

 攻撃を仕掛けた筈の私達は自らの攻撃によって自身にダメージを負っていくのだ。

 反射、ではない。ザレクに攻撃が命中した瞬間、自分の身体の全く同じ箇所に本来ザレクが負う筈だった傷が刻まれる。

 何度攻撃しても結果は変わらない。

 何度も、何度も、何度も。ザレクは無傷のまま私達だけが傷を負っていく現象。

 明らかに異常。

 ザレクも神眷者。恐らく神具を使っていることは間違いない。けれど、そこまでだった。

 あろうことか、ザレクは私達の技や武装すらコピーして扱いだしたのだ。

 既に自身の攻撃で深傷を負った私達に堪えられるものではない。

 結局、私は敗北し気を失った。


『うっ…。』

『おっ…起きたな。狐畔。』

『あまり動かない方が良いですよ。エーテルによって肉体は回復に向かってるとはいえ、傷が深すぎます。暫くまともに動くことは出来ないでしょう。』


 私の横に座る龍華と鬼姫。

 二人とも全身傷だらけだ。

 龍華は翼も尻尾も失くなってる。自慢にしてた爪も剥がれて…。

 鬼姫に至っては両腕が失くなってしまっている。

 二人とも私が気を失っている間も戦い続けてたんだ。


『す、すみません。私…お役に立てず…。』


 周囲を見渡すと私と同じく気を失っている柘榴、群叢、塊陸、獅炎、心螺、珠厳の武星天の仲間達が横たわっていた。

 見ると全員が重症。けど、まだ生きている。

 良かった…皆…。


 そうだ。あの男。ザレクはどうしたの?。

 私達は今、どういう状況なの?。


『あ、れは!?。』


 私は周囲を確認した。

 すると、激しく衝突を繰り返すエーテルの波動を感じた。

 気を失っている間に感じていたものだ。


『私達を襲ったザレクです。』


 衝突する二つの影。

 確かに一つはザレクだ。圧倒的なまでのエーテル。それが空間全体を支配している。

 あの歪みが彼の神具なのか?。


『では…ザレクは誰と戦っているのですか?。』

『あの方は基汐様。妾達を助けてくれた異神だ。』

『異神!?。基汐………えっ?。様っ!?。』


 普段、愛鈴様以外には決して様づけなどしない龍華が様づけ?。いえ、それよりも龍華の異神を見る瞳が完全に熱を帯びている!?。

 頬も朱色に染まって、いつもなら腕組して偉そうにふんぞり返ってるのに今は胸の前で両手を握り祈りのポーズ!?。

 完全に恋する乙女のそれじゃないですか!?。


『あ、あの…鬼姫?。龍華の様子が…。』

『はぁ…格好いい…お姿…。基汐様ぁ~。』


 お前もかい!?。

 どうしちゃったの!?。二人共!?。

 異神は敵。信用ならない。とか。

 目的は何なんだ!?。味方なのか敵なのか。とか。

 数時間前まで結構怪しんでたよね?。

 何で二人してうっとりしてるの!?。


『えっ…とぉ…。』


 改めて、異神と神眷者の戦いに目をやる。

 あの赤い鎧が異神…凄いエーテル。エーテルの総量なら紅陣や楚不夜よりも、あのザレクよりも上だ。いや、もっとだ。赤国に進攻し私達と戦った異神よりも…強い。

 高速で動く赤い鎧。拳や蹴り、尻尾や翼などでザレクを攻め立てる。

 あの…ザレクを…圧倒してる…。

 流石に会話や表情までは確認できないけど、薄気味悪いザレクの仮面下半分が砕かれ素顔の一部が見えている。

 異神の怒涛の攻めに防御と回避を繰り返す防戦一方。


 あの異神が纏っているエーテル…。

 鬼?。龍?。いえ、両方…つまり、紅陣と同じ龍鬼の種族。

 ああ。成程。私達、原初の種族のように個体数が極端に少ない種族の雌は強い同種の雄に強く惹かれる。

 子孫を残すための生物的な本能なので自制が効きにくい。


 だから、一目惚れに近い形であの異神に惚れてしまったのかな?。

 あの警戒心の強い二人が完全に安心しきっている。

 あの異神は私達の味方…なのか?。


ーーー


ーーー基汐ーーー


 赤国の戦士達から離れ、怪しいピエロの仮面を着けた男の前に降り立った。

 奇術師を思わせる風貌。その仮面の下からは得体の知れない何かを感じる。


『お前か?。彼等を痛め付けたのは?。』

『ククク。ええ。そうです。そういう貴方様は異神のようですが?。』

『ああ。そうだ。龍鬼神の基汐だ。』

『おやおや。これはご丁寧に。私奴はザレクと申します。以後お見知りおきを。』

『何故、彼等を殺そうとした?。』

『ククク。簡単です。彼等は用済みですから。後に邪魔になりそうな者を排除するのは当然では?。』

『用済み…か。紅陣を殺ったのも同じ理由か?。』

『ククク。おやおや。そのこともご存知でしたか。はて?。何処から情報が漏れたのか?。』

『紅陣の神獣が教えてくれたよ。紅陣に何があったのかも。この場所のことも。』

『そうですか。そうですか。余りにも気配が希薄なせいで見落としてしまったようですね。こほん。はい。そうです。彼は神眷者である立場で在りながら敵である貴殿方、異神と絆を深めた。友となり本来の役目を放棄した。ならば、私達神眷者の敵と同義です。よって粛清しました。』


 胸の奥で何か…黒い何かが渦巻いている。


『お前は確か白国の神眷者だと聞いたが…。』

『はい。その通りです。』

『ゼディナハ…あの男とも知り合いか?。』

『ええ。同じ神眷者でありますので、彼とは利害が一致しましたのでね。情報の共有程度ですが互いの利のため利用し合う関係です。』

『そうか…分かった。』

『っ!?。ぐっ!?。』


 俺の中で渦巻いているものの正体が理解できた。

 全力で地面を蹴り、ザレクの眼前に接近。

 エーテルを込めた拳で顎を打ち抜く。


『ぐっ…。ク…ククク。お、速い…ですね…。接近されるまで気が付きませんでしたよ?。』


 良く言う。

 拳が当たる直前、殴られる方向に首と半身を捻って直撃を避けた。

 今の動作だけでも、ザレクがただ飄々とした愚者ではないということが分かった。

 紅陣が殺られたのも理解できる。

 彼は強い。…だが。


『今までの俺は周りの皆に追い付くので必死だったんだ。』

『はて?。何のお話ですか?。』

『何でも簡単にこなせてしまう天才の親友。そんな親友に負けず劣らずの頭脳を持つ恋人。そんな恋人に一目置かれる幼馴染み達。平凡な俺は努力することで、やっとしがみついていたって感じさ。』


 閃、光歌、灯月に智鳴や氷姫。

 クロノ・フィリアの仲間達は凄い人達ばかりだ。

 そんな仲間達に追い付くため、俺は努力した。努力し…続けた。

 仲間達の俺に対する評価は冷静で皆のまとめ役。閃達にはそういう印象を持たれていただろう。

 閃達が感情に任せて突っ込んでも、俺が止める役だった。

 

『何を言っているのですか?。貴方は?。』

『いや、周りが感情的になると自分が冷静になれる時があるだろう?。まぁ、気付いたらそれが普通になってたんだ。はぁ…俺はそんな柄じゃないんだけどな。』

『ん?。エーテルが?。』


 俺の種族は龍鬼だ。

 その本質は怒れるまま、本能のままに生まれ持った高密度のエーテルを解放して暴れまわる。

 エンパシス・ウィザメントのゲームシステムは俺の本質を読み取ったんだろう。


『最近、ずっと胸の辺りがムカムカしてたんだよな。知らない場所、知らない世界に放り込まれ、仲間達とは離れ離れ。勝手に異神とか言われて敵対されて、親しくなった恩師も友人も殺された。なぁ?。』

『っ!?。』

『お前は俺の友を殺したんだよな?。なら、この俺の感情をぶつけても文句は言えねぇよな?。』

『これは!?。周囲のエーテルが、くっ、私奴の支配した空間すらも巻き込むのか!?。』


 これは、鬱憤だ。

 心の中に抑えていた怒りや恨み。

 転生してから…いや、世界が侵食され日常が破壊されてから、ずっと俺の中で蓄積され渦巻いていた感情だ。

 俺の中のエーテルはそれを汲み取り、俺の…龍鬼の神の力となって顕現する。


 俺の身体を中心に収束したエーテルが爆発し広範囲にある全てを吹き飛ばした。


ーーー


 ザレクは小さく舌打ちをする。

 轟く雷鳴にも似た轟音を響かせながら突進してくる深紅の鎧。

 エーテルが生み出す嵐のような乱風すらも置き去りにする翼の羽ばたきによる高速飛行で走る稲妻の中を突き進む。 

 拳や蹴り、尻尾による単純な攻撃を繰り返すだけなのにも関わらず、その一撃一撃が必殺の威力を秘めているのだ。

 攻撃の度に空気は揺れ、地面は抉れ、突風が巻き上がる。


『くっ…まるで、嵐そのものと戦っている気分ですね。』


 基汐の鎧に埋め込まれた宝玉の全てが輝きを強め、何度も点滅を繰り返す。

 宝玉が周囲のエーテルと基汐自身のエーテルを吸収し基汐の肉体強化へと変換。

 エーテルを使い果たした宝玉が仙技の応用で瞬時に吸収を再開するため、暴走にも似た絶え間ない連続攻撃を可能としている。


『ぐばっ!?。』


 基汐の拳がザレクの腹を打ち抜いた。

 

『ぐっ。』


 続く、拳の連打を紙一重で躱すもその風圧すらも衝撃波となってザレクの肉体を切り裂いた。


『いやはや…これは参りましたね…。まさか私奴の催眠空間の影響を受けない者がいるとは…。』


 純粋な怒り。

 思考よりも先に行動する者に対しザレクの神具は機能しない。

 ザレクの種族では身体能力で龍鬼である基汐に遠く及ばない。故に回避にも限界が訪れた。


『ぐぼっ!?。』


 ザレクの顔面にめり込む基汐の拳。

 砕ける仮面。

 仰け反るザレクの身体に追撃を加えようとした。その時だった。


『ちっ…図に乗ってんじゃねぇぞ!。小僧おおおおおぉぉぉぉぉ!。神具、展開!。』


 基汐が突き出した拳が空を切る。

 そして、腕の鎧が砕け散った。

次回の投稿は16日の木曜日を予定しています。

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