番外編 恋人達との旅行 氷山雪原編②
氷姫、詩那、奏他と共にやって来た氷山雪原にあるスキー場。
昼間に到着し、午後にスキーを楽しんだ俺達…若干一名、とんでもない建造物を残していたが…。
夕方に切り上げた俺達は一泊二日で借りたコテージの二階にある宿泊施設に戻っていた。
『ふぅ。久し振りのスキーはなかなか楽しいもんだな。けど、んっ…結構疲れたぁ~。』
『ふふ。そうだね。私もくたくたぁ~。』
『んふぅ!。私。満足。楽しかった~。』
『ウチも、もう駄目~。』
各々が自分用に決めたベッドに座ったり、飛び込んだりしリラックスする。
普段使わない筋肉を使ったせいもあるが、デカすぎる雪の建造物の撤去作業という思わぬ大仕事で身体がダルい。
薄手の部屋着に着替え軽く汗も拭いたが、シャワーを浴びてサッパリしたいな。
『閃。』
『何だ?。氷姫。』
『ちょ、ちょっと!?。氷姫先輩。胸!胸!。』
近付いて来る氷姫。
座ったまま足を引き摺ってアザラシのように接近して来たせいで、只でさえ、はだけていた薄手のローブは少しずつ下がり下着の着けていない胸が露になった。てか、俺達しか居ないから氷姫のだらけモードが発動してる…。
それにいち早く気が付いた詩那が急いで氷姫の衣服の乱れを直した。
『もう!。氷姫先輩はだらしなさ過ぎるし。』
『あはは…いつもは智鳴ちゃんや水鏡さんに直して貰ってるしね。』
『うん。助かる。』
『はぁ...もっと、身だしなみに気を付けようよ。女の子なんだからさ。』
『問題ない。閃が私の身体に誘惑されるなら。閃。カモン。』
『カモンじゃない。てか、何か用事で呼んだんだろ?。』
『うん。閃に聞きたいことがあったの。』
『何だ?。』
『灯月達に聞いたの。閃。前の旅行で皆と一緒にお風呂入ったって。』
『『っ!?。』』
『あ、ああ。入った、というか、入らされたと言うか…騙されて…いや、内緒にされて気づけば一緒に入っていたと言うか。まぁ、入ったな。』
『私も入りたい。ここ。露天風呂あるよ。』
『え、ええ…。』
チラリと詩那と奏他の様子を窺うと、目を輝かせている詩那と顔を赤くして俯きながらも俺をチラチラ見ている奏他がいた。
『灯月達の時も言ったんだが、今回は旅行を楽しむのが目的だ。だから、あの時も俺は女の姿で入った。もし今回も入るなら女の姿で入るからな。』
『むぅ。何で?。男の姿が良い。』
『コクコク。』
『………///。』
『駄目だ。……………その。』
素直に自分の気持ちを伝える。
折角の旅行。彼女達の誘惑に負けて台無しにしたくない。
『気持ちを抑えられなくなっちまうから。』
『そう。閃。私にメロメロ?。』
『当たり前だ。大切な恋人だし。魅力的過ぎんだよ!。お前らは!。』
『むふふぅ。』
『せ、先輩。ウチも?。ウチにもメロメロ?。』
『ああ。決まってんだろ!。詩那にも。奏他にも。俺はメロメロだって!。』
『あぅ…閃君…嬉しいよぉ…。』
『先輩ぃ~。ウチも好きです!。』
『あ。まぁ…そう言うことだ。その…我慢出来なくなったら…大変だからな。』
急に恥ずかしくなってきた。
何を赤裸々に語ってんだか…。
『うん。じゃあ。お風呂。行こ。』
氷姫に手を引かれ浴場まで連行される。
反対の手は奏他に掴まれ、背中を詩那に押されながら。
大浴場というには少し狭いが、十人程度なら余裕の広さがある浴場だった。
大きな湯船が一つ。
その置くにある扉から露天風呂に行けるようだ。
『せ、閃君。その…先に行って待ってるね。』
『先輩。早く脱いでよ。』
『ふふ。閃。遅い。』
自分の身体にタイルを巻いた奏他は急いで脱衣所から出ていった。
同じく身体にタイルを巻いた詩那。前だけタオルで隠れそれ以外が完全に丸見えの氷姫がドアを開けて待ってくれている。
俺は急いで女の姿になり、服を脱ぎ、タイルを持って浴場へと入る。
髪を洗い、身体を洗い終え、露天風呂へ。
雪国の冷たく肌に痛い風が全身の熱を奪う。
『寒っ!?。』
『ひゃあ。風が冷たいねっ!?。』
『先輩。早く入ろう!。』
俺達は急いでお湯に浸かる。
全身が少し熱いくらいのお湯に包まれた。
頭が冷たく身体が温かい。丁度良い独特な心地よさに溜め息が漏れる。
『閃君。気持ちいいね。』
『ああ。極楽だな。はふぅ~。』
『ふふ。先輩。オジサンみたい。』
石壁を背に足を伸ばして座る。
両隣には奏他と詩那が移動してきた。
『ねぇ。奏他。お湯にタオルを浸けるのはマナー違反なんだよ?。』
『え?。だ、だって…その。は…恥ずかしい…の…詩那は恥ずかしくないの?。』
『恥ずかしくないって言えば嘘になるよ?。でも先輩にならウチの全部を見て欲しいから。』
『うっ…詩那…くっつきすぎだ。』
腕の抱きつく詩那。
その柔らかな感触が半身に寄せられる。
『えへへ。先輩~。柔らかい~。』
『それはお前だ。』
『くぅ~。大胆。けど、どこか羨ましい。どうすれば………うっ、せ、閃君!。』
『うおっ。ど、どうした?。奏他?。いきなり叫んで!?。』
『その…あうあう…あの…私の身体も堪能して!。』
身体に巻いていたタオルを取り、ありのままを晒しながら詩那と同じように抱きついてきた。
『前にも言ったけど、奏他も十分に魅力的だよ。』
『えへへ。そうかな?。けど、閃君の周りは魅力的な娘ばっかりだから…ね。やっぱり自分と比べちゃうよ。』
『比べるとかしないよ。奏他には奏他の魅力があるんだから。自信持てよ。俺はありのままの奏他が好きだよ。』
『~~~。私もぉ~。閃君がぁ~。好きぃ~。』
俺の胸に顔を埋める奏他。
『はぁ…閃君の胸柔らかい…形も綺麗で…美味しそう…。』
『おい!?。あんまり胸に…って、美味しそう!?。』
『はむっ!。』
『きゃうっ!?。そ、そんなとこ…舐めんな…。』
急に胸に感じる感触が全身を痺れさせた。
奏他は甘えモードのまま胸にしゃぶりついてるし…。
『あぅ…ちょっと。待て、奏他。離れろ。』
『あん。閃君…どうしてぇ…。』
『そ、そんなとこ…いや、胸を舐めるな!。』
『は~い。』
再び、腕に抱きつく奏他の頭を撫でながら詩那を見る。
『先輩…。色っぽい…。ズルい!。』
『え?。ズルいって?。』
『うぅ………可愛さも、綺麗さも、美人さも、胸も、お尻も身長も負けてる…それに色っぽさまで…ウチなんか…先輩に釣り合わないよぉ~。うわあああああぁぁぁぁぁん!?。』
『え、ええ…。』
ガチ泣き!?。
『詩那も落ち着けって。奏他にも言ったが、詩那には詩那の魅力的なところがちゃんとあるんだ。俺は詩那のことも好きだからな。』
『どんなとこが好き?。』
それ、今聞くの?。
はぁ…仕方がない。じゃあ、少し本気で俺の気持ちを伝えるか。
『奏他。ちょっとごめんな。』
『うん~。』
『なぁ、詩那。』
『え?。あ、はい。って。急に何で男性の姿に?。』
『ちょっと来い。』
『きゃっ!?。』
男の姿に戻り、詩那を引き寄せる。
抱きしめる形になり、鼻がくっつく距離で見つめ合う。
視線が重なり、赤い顔と潤んだ瞳で俺を見る詩那。
『詩那はとっても素直なところが可愛いと思っている。いつも皆の為に何かしているところも。照れた時や困った時に目が回ったようにテンパるところも。何よりも真っ直ぐで純粋なところが好きだ。俺は君の全てが愛おしい。だから、俺と自分を比べる必要はない。』
『あぅ…せ、先輩…。う…。』
『安心したか?。』
『う、うん。ウチも…先輩のこと…好き…。』
心からの言葉を伝えただけなんだが…。
立ち直るの早いな。
『あの…ね。先輩?。』
『何だ?。』
『先輩が求めてくれるんなら…ここでも………良いよ?。』
詩那の視線が俺の下半身へ…正確には、とある一点に熱い視線が...おっと。
『これは失礼。』
慌てて女の姿へと変える。
正直、男のままなら我慢できなかったな。
『あっ…。』
『残念そうにするでない。今日はそういうことは無しだ。まぁ、帰ったらな。』
『うん。分かった。』
『閃君~。私もね~。』
『ああ、奏他もな。まずはこの旅行を良い思い出にしような。』
『『うん。』』
良い雰囲気の中、再びのんびりと足を伸ばそうとした時。
勢い良く露天風呂と浴場を繋ぐドアが開いた。
『閃!。私も!。帰ったら抱いてね!。』
もの凄い勢いとジャンプ力で全裸の氷姫が飛び込んで来た。
今の話を聞いていたようで高いテンションのまま全身に冷気を纏い湯船に…。って、冷気!?。
待て!?。氷姫!?。お前が飛び込んだら…。
バシャアアアアアン!!!。
『わっ!?。』
『きゃあああああぁぁぁぁぁ!?。』
『にゃわあああああぁぁぁぁぁ!?。』
高く上がる水飛沫が瞬時に凍り、瞬く間に湯船の水が固体へと変化する。
足元まで広がった氷は意図も容易く露天風呂を氷の世界へと変えてしまった。
『はぁ…はぁ…はぁ…。死ぬかと思った。』
『うぅ…身体が痛いよぉ…。冷たいよぉ…。寒いよぉ…。』
『ごめん。閃が求めてくれてる気がして。テンション上がった。』
『はぁ…まぁ。全員が無事で良かったよ。』
氷属性って、強いなぁ。
ゲームでも強キャラ多いしなぁ。
などと考えながら奏他と詩那を包むように炎の翼を展開。
体力と、身体の熱を回復させる。
『風呂場でのイチャイチャは駄目だったな。部屋に戻ろう。』
寝間着に着替え、部屋に移動する。
トボトボと歩く俺達。しかし、氷姫は俯いたまま後ろを歩いていた。
さっきのこと気にしてんのか?。
『じゃあ、閃君は部屋で待っててね。』
『うん。晩御飯の用意してくるね。』
『ああ、けど良いのか?。手伝わなくて?。』
『うん。大丈夫。氷姫さんと一緒に待ってて。』
『おう。行こうぜ。氷姫。』
『ま、待って!。』
氷姫の声が廊下に響く。
普段、淡々と話す氷姫とは思えない。声に感情が乗っていた。
『わ、私も…晩御飯。作る。』
『え?。けどお前。』
料理出来ないだろ?。
てか、家事全般。自分の着替えすらまともに出来ないのは周知の事実。そんな氷姫が必死になって。
てか、雪像の城や今の露天風呂の件で俺達に迷惑かけたって考えてんのか?。
気にしなくて良いのに。
『が、頑張る。』
『そ、そうか?。二人は良いか?。』
『うん。大丈夫だよ。お鍋の予定だから野菜やお肉を切ったりするだけだから。』
『味付けも、シンプルにするつもりだから氷姫さんにも出来るよ。』
『うん。二人共。ありがとう。私。頑張る!。』
身体の前で腕を上げる氷姫。
やる気は十分。まぁ。二人に任せておけば大丈夫かな?。
『分かった。部屋で待ってるよ。』
俺は三人と別れ部屋へ戻る。
その途中、中庭へと出られるドアを見つける。
『おお。寒いな。』
雪は降っていない。
空気が澄んでいるせいか、満天の星空が見える。
積もった雪の囲まれた真っ白な山々は、うっすらと明るい。
『んっ…。』
身体を伸ばす。
やっぱ、旅行と言ったらその場所の空気を堪能するのが醍醐味だよな。
胸いっぱいに空気を吸い。ゆっくりと吐く。
『はぁ…。寒っ…。』
やっぱ、寒さには適わず部屋へと戻った。
『はぁ…あったけぇ~。』
コタツに入りヌクヌクと暖を取っていた。
テーブルの上にはガスコンロを用意し三人を待つ。
『お、お待たせ、先輩…。』
『お、美味しいの…完成だよ。』
『……………。』
ぐつぐつと煮えた鍋を持った詩那。
ぐったりと項垂れる氷姫を運ぶ奏他が戻ってきた。
『ど、どうしたんだ?。氷姫は?。』
『ひえええええぇぇぇぇぇん!。せえええええぇぇぇぇぇん!。』
『は?。おい!?。どうした!?。』
金色の瞳を涙で潤ませた氷姫が抱きついてくる。
こんなに表情を歪ませて泣いてるコイツは久しぶりに見たな。
『あはは…それがね。先輩。氷姫先輩。どうしてだか、感情が高まると身体から冷気出ちゃうみたいで…。』
鍋をコンロに乗せながら事の顛末を教えてくれる。
『包丁も上手く扱えなくて、切った食材はそのまま凍っちゃうし、肉団子もこねればこねる程固まっちゃうしで…。』
『役に立てなかったあああああぁぁぁぁぁ。』
『ああ…そういうことか。』
普段、家事とかを率先してやってくれる人が身近にいるせいで氷姫自体がやらなくても済んでたしな。
それに、着替えも部屋の片付けも智鳴がやってしまうし、最近は水鏡さんも氷姫を気にかけてくれていたな。
元々、自分から何かをすることに臆病なところがある氷姫だ。過去の出来事を考えれば仕方がないが氷姫自らが何かをしようと行動して失敗したんだ。
本人にしたらショックかもしれないが、確実に成長の一歩は歩み出せたと思う。
『氷姫。』
『閃…。ごめんなさい…。私…。何も出来ないの…。ぐずっ…。』
『大丈夫だ。今までやる機会がなかっただけさ。今までやってなかったことが急に上手く出来るわけないだろ?。』
『………ぅん。』
『帰ったら少しずつ練習すれば良いだけだ。だから泣くな。』
『閃…教えてくれる?。』
『勿論。俺だけじゃねぇ。灯月や智鳴、睦美。それに、奏他や詩那だってな。先生はいっぱいいるんだ。だから、少しずつ頑張れ。』
『ぅん。頑張る。』
俺の膝を枕にして横になる氷姫。
両隣に座る奏他と詩那。この配置で用意された鍋を食べる。
醤油味をベースにしたシンプルな味付け。
白菜やネギなどの野菜の自然な甘さに、サッパリとした和風出汁の風味が口の中に広がる。
しっかりと味のついたお肉は柔らかく、じっくり煮込んだみたいに口の中で形を崩す。
お腹にも、味覚にも優しい味だ。
『閃君…その、あ~ん。』
『あ~ん。』
『もぐもぐ。もぐもぐ。』
『美味しい?。』
『ああ。旨い。この短時間で凄いな。』
『えへへ。実は下準備だけは済ませてたんだぁ。』
『そうなのか?。』
『うん。やっぱり閃君には美味しいモノを食べて貰いたかったからね。』
『ありがとうな。そんなことまでしてくれてたなんて知らなかったぞ。』
『ふふ。』
『先輩。今度はこっちね。あ~ん。』
『あ~ん。』
『もぐもぐ。うん。肉も旨い。』
『でしょ!。』
交互に口の中に食べ物が運ばれてくる。
てか、二人が全然食べてない。
『閃。あ~ん。』
『おう。あ~ん。』
氷姫の開いた口に箸で食べ物を運ぶ。
すると、冷ましたとはいえホカホカだった具材はガリガリと音を立てながら咀嚼された。
『閃君。私もあ~ん。して欲しい。』
『先輩。ウチも。あ~ん。』
そうだな。食べさせて貰ってばかりより、こういうのの方が良いよな。
俺達は互いに食べさせ合いながら鍋を完食した。
そして、鍋を食べ終わり食器の片付けも終わった俺達は部屋で寛ぎ、微睡んでいた。
『ねぇ。閃君。このまま寝るのも勿体ないし、カラオケしない?。』
『カラオケ?。』
『そ。この部屋のテレビ、カラオケ機能が付いてるんだって、で、これがカラオケ用のタッチパネル。曲数も最新のモノが取り入れられてるんだって。』
『おっ。良いな。カラオケ。数年振りだぞ。』
『私も。』
『じゃあ、決まりだね。詩那。照明暗くして。』
『おっけ。』
『お菓子や飲み物も用意しちゃうね。』
持ってきた大きな鞄の中から様々な菓子と人数分のグラス、そして、飲み物がテーブルの上に置かれる。
『氷姫さん。氷お願い。』
『うん。任せて。』
奏他の指示で氷を作りグラスに放る氷姫。
『ぅん。私。今。役に立った。えへへ。』
嬉しそうに笑う氷姫。
誰かの役に立つことの喜びを覚えたようだ。
『じゃあ、準備も出来たし!。最初は皆のテンションを上げる為に私がリズムに乗れる曲を歌うよ!。』
詩那が部屋の明かりを操作して薄暗くなる。
大きなモニターの画面が明るく部屋の中を照らし、奏他がタッチパネルを操作し曲を選ぶ。
最初に選ばれたのは奏他のアイドル時代の持ち曲であり、奏他が一番自信のある思い出の曲だった。
部屋中に流れ始める前奏。
今気がついたが、この部屋の壁防音になってるんだな。
こうして、深夜のカラオケ大会が始まったのだった。
次回の投稿は9日の木曜日を予定しています。