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第319話 本当の目的

 紅陣が飛公環のお爺様の元に向かってから一週間と少し、未だに連絡が来ていない。

 帰還したとの報告もない。

 仙界渓谷の盤上にはエーテルの反応の一切が無く、既に誰もいないことが分かった。

 もしかしたら、お爺様を連れてきてくれているかもと淡い期待をしたのだが、紅陣らしきエーテルを確認できない。

 それに、武星天の者達の反応が急に消滅したのも気になる。

 突然、現れた大きな反応に対し彼等の反応は消失した。

 辛うじて確認できる二つの反応。…いや、三人か。恐らく、原初の種族に分類される龍華達だろう。

 彼女達の反応があるということは…他のメンバーは仙技によって貸し与えたエーテルを使い果たしたか…もしくは………いや、それよりも何故、彼女等が王廷を出て何もない荒野に移動しているのだ?。妾は、そんな命令は出してない。

 何処に向かっていたのか…。何をしようとしていたのか…。

 武星天の面々が妾や紅陣の命令以外で動くとは考えられん。

 何者かに騙され命令されたか…。

 ただ一つ確かなことは、武星天の面々は今現在、戦闘を行っている。大きな、謎のエーテル使いと相対し、劣勢となっていることだ。

 ただ事ではない。至急、華桜天に連絡し援軍に向かわせねば。


 妾の手の届かないところで何かが起きているのは確実だ。


『いったい…何が…。』


 どうする…。妾には何が出来る?。

 くっ…妾では圧倒的に経験が足りん…こういう時の最善策が思い浮かばない。


 いや、それどころではないな。

 自己嫌悪は後だ。早く楚不夜の所へ。

 武星天の者達を救わねば取り返しのつかないことになる。


 急ぎ、王の間を出ようとした。

 しかし、妾の思考とは別の思惑により足が止まった。止められた。


『ちょいっと、邪魔するぜ。』


 妾の王宮にまでやって来た男。

 黒国の王にして神眷者、ゼディナハ。

 赤皇を生け捕り、その対価として赤国での滞在と自由を許した。

 王が自ら単独で動くのも驚く話だが、一国の王が国を放置した状態というのも妾からすれば怪しからん。

 コヤツには自由を与えたが、王宮までの出入りを許可した覚えも、ましてや妾との面会の自由を与えた記憶はない。

 しかし、どうやってここまで侵入した?。

 今の今までコヤツの反応は天恵に反応していなかった。

 コヤツに声を掛けられた瞬間に、盤上にエーテルの反応が現れたのだ。


『キィィィッ!。』


 妾の背後で赤竜が警戒し鳴き声を上げている。

 油断ならんということか。

 分かっている。奴の能力も未知数。噂では神眷者の中で最強との声も上がっている。要注意だ。


『そう。警戒すんなって。早めに愛鈴ちゃんの耳に入れておこうと思った俺なりの気遣いなんだからよ。』

『………。何のことだ?。』


 緑国が落ちた。

 ゼディナハはそう言った。

 異神との戦いに敗れ、国ごと乗っ取られた…と。

 異神…つまり、赤皇やあの狐の少女の仲間。

 緑国は、あまり詳しくはないが…楚不夜や紅陣の話では、他国との関係や情報の共有を絶ち、神眷者同士の会合にも出席しなかったと聞いている。

 神眷者は確か二人。王と女王だったな。

 己の力への過信か、それとも傲慢か…。

 何にせよ、異神の力の前に力及ばなかったということか…。

 だが、それは赤国も同じ。神眷者の楚不夜と紅陣以外で異神に対抗できる出来る者はいない。

 先日の戦いを通じて身をもって知ることが出来た。

 更に赤国の現状を考えると…赤皇の力を借り緑国との繋がりが欲しいところではある。

 何よりも赤皇を仲間の元に帰してやりたい。

 それが妾の望みだ。

 異神は赤国との敵対の意思を示さなかった。

 そして、敵ではないと語っていた。

 先日の襲撃も妾達の力量と人柄を確認するのが目的だったと理解している。

 赤皇にも確認済みだ。

 ならば、赤国が今後、異神と敵対することはない。


『あい。分かった。その情報は確かに最優先に欲しかったモノだ。礼を言う。』

『ああ、でだ。本題はこれからなんだわ。』

『何だ?。』


 本題?。

 コヤツは何を企んでおる?。


『俺達はこれから異神に奪われた緑国を取り戻す為に力を蓄え、攻め込もうと考えている。』

『っ!?。それは…本当か?。』

『ああ。各地の仲間を呼び戻し一気に畳み掛ける。だが、まだ力が十分じゃない。だから、その前に緑国の地下にあるとされる人族の地下都市を攻め落とそうと思っててな。』

『人族の地下都市?。初耳だな。』

『元々は青国が人族を捕らえ人体実験するために造られた巨大な地下都市なんだがな。なんと、こっちも異神との戦いで奪われちまったみたいなんだ。まぁ、今は異神のいない人族だけの住む都市になってるみたいだからよ。攻め落とすのはそう難しいことじゃねぇ。』

『…そこを攻めることに何の意味がある?。』

『くく。俺の仲間には他の生物を糧に強くなる奴が何人かいてよ。数だけ多い人族は絶好の餌なんだわ。だから、異神と戦う前の栄養補給って訳よ。』


 悪趣味な。

 力を欲する為に他種族を犠牲にする気か。


『でよ、緑国を攻めるのに赤国の力も借りたくてな。こうして相談に来たわけよ。』

『そうか…納得した。確かに黒国だけでは異神との戦いは相当難攻することだろうな。』

『ああ。だから手を組もうぜ?。愛鈴ちゃんよぉ。』


 異神との戦い。

 赤皇達と出会う前の妾なら、ゼディナハの手を取っていたかもしれん。

 だが、妾はもう異神が敵ではないことを知っている。

 妾は…彼等とは…いや、赤皇の敵になりたくない。


『断る。』

『あれま?。どうしてよ?。』

『赤国は今、混沌の最中にある。異神との戦いで兵は疲弊し、幹部達も現在散り散りだ。破壊された門の修繕も滞っている。自国のことで精一杯なのだ。』


 こうしている間にも、何者かと戦っている武星天の面々が危険な状態なのだ。

 コヤツとの長話に付き合っている場合ではない。


『ふむ。成程ねぇ…。』

『納得。いかんか?。』

『いんや。そういうことなら仕方ねぇよ。世界っていうデッカイことより自分達の 今 を優先した。そういうことだろう?。』

『………近からず、遠からず。と言ったところだな。』

『おっけ。なら、もう何も言わねぇよ。赤国は異神との戦いを降りた。そうだろ?。』

『……………。ああ。奴等の強さは理解できた。先の戦いで身に染みて分からされたことだ。残念だが、妾達では力になれん。』


 話しは終わりだ。

 楚不夜の元に急がねば。

 ゼディナハに背を向け王の間の扉に手を掛けた瞬間。


『おっけ~。なら、もう良いわ。穏便に済ませたかったがな。赤国の王の…お前の意見が俺達に合わないなら、こんな国はいらねぇよな?。』

『うぐっ!?。』


 肩口から全身に伝わる激痛。

 右肩を見ると黒い刀の刃が背中から妾の体を貫いていた。

 引き抜かれる刀。妾は振り返るもそのまま扉に背を預け座り込んだ。

 見上げるゼディナハの手には漆黒の刃を持つ刀が妾の血を滴らせ怪しく輝いていた。


『何を…する?。』


 痛みには慣れている。

 多少驚きはしたが、この程度の傷は不死鳥の再生力で瞬時に癒える。


『………?。な、ぜ?。』


 だが、その傷が癒えることはなかった。

 痛みも引かず、血も流れ続けている。


『悪いな。お前の不死性を絶った。この刀で斬られたモノは文字通り絶たれちまうのさ。つまり、俺が認識したモノは消失しちまうのさ。それは概念であっても、理であってもな。』

『何だ、そのふざけた能力は…。いや、今はそんなことなど…どうでも良い。ゼディナハ…貴様の目的は何だ。赤国に何をしようとしている?。』


 どうする?。

 何とかこの場から逃げねば。

 楚不夜に連絡を…。


『はぁ。お前が俺の手を取って仲間になるんだったら、こんなことにはならなかったんだぜ?。俺達の…この世界の生物の目的は一つだ。異神をこの世界から排除し平和な世界を取り戻すってな。けど、お前は血迷った。あろうことか、異神と絆を深めやがった。なら、この世界の仲間にとって裏切りだよな?。だから、お前とお前の大事なモノを全て消し去ってやることに決めたのよ。ああ、消し去るっていうのは少し違うか。お前達の全てを俺達が作り替え利用してやるのさ。』

『ぐっ!。』


 妾は立ち上がり、逃げるために走り出した。


『何、逃げようとしてんだ?。』

『あぐっ!?。』


 足を斬られた!?。

 何で?。足を一部斬られただけなのに、下半身全部が動かない?。


『言っただろ?。俺が認識した全てを絶てるんだ。今、お前の下半身の感覚を絶った。これで逃げられねぇだろう?。』

『ぐっ…。』


 床を這って壁際まで移動する。

 奴に背を向けたままなのはマズイ…。


『キュウウウウウゥゥゥゥゥ!!!。』


 妾の危機に赤竜がゼディナハへと飛び掛かる。


『赤竜…神竜ねぇ…。確かコイツも契約者の傷を癒す力があったな。なら。』

『ま、まて!。やめろっ!。』

『きゃいぅ!?。』

『ほらよ。寝てな!。』


 赤竜に振り下ろされる刀。

 その一撃は赤竜の肉体を軽々と裂き、同時に妾との契約の繋がりが切断された。

 空中でバランスを崩した赤竜にゼディナハが回し蹴りをくらわし、吹き飛んだ赤竜が壁を破壊し沈んだ。


『貴様っ!。』

『おうおう!。子供は元気だねぇ!。表情が変われねぇのが不気味だけどな!。』

『うぐっ!?。あぐっ!?。あうっ!?。』


 刀の切っ先が妾の肉体を刺し続ける。

 その度に自分の中の何かが消えていくのを感じた。


『あ、う…はぁ…はぁ…はぁ…。』


 身体中の傷と痛み。

 再生しないまま痛みだけが妾の中で渦巻いていた。


『さて、俺がお前に接触したもう一つの理由がある。』

『はぁ…はぁ…。』


 声も出ない。ゼディナハを睨むことしか出来なかった。

 もう一つの理由?。


『おい。そろそろ良いぜ?。出てこい。火車。』

『あいよ。待ちくたびれたぜ。ゼディナハさん。』

『お…まえは…あか………おうの…ときの…?。』


 赤皇を捕らえた時、ゼディナハの仲間となった異界人。

 異常な筋肉の動きと太さ。全身を鎧のように包んでいる。

 一緒に行動していてもおかしくはないが、何故この場に?。


『コイツの能力は面白くてよ。喰らった相手の能力を自分のモノに出来るんだと。』

『へへへ。餓鬼だが女かぁ。やっと少し満足できそうだな。』


 喰った能力を自分のモノに…。それって…つまり…。妾を?。


『ははは。理解したか?。お前がコイツの餌ってことさ。巫女の力と不死鳥の力をコイツに与えたくてな。それが俺達がここに来た本当の目的さ。』

『うっ…。』


 火車という男は妾の胸ぐら掴み軽々と持ち上げた。


『それじゃあ、早速。』

『待て。まだだ。』

『は?。何だよ、ゼディナハさん。喰って良いから俺を呼んだんじゃねぇのかよ?。』

『はは。まぁ、待てって。何も知らねぇで死ぬのは流石に可哀想だろうよ。これでも十年ちょいしか生きてねぇんだ。疑問くらい解消してからでも遅くねぇって。』

『ははは。確かにそうかもな。』

『な…にを…言っている?。』


 楽しそうに妾を見るゼディナハ。

 身動きの取れない妾を嘲笑っている。


『さっきも言ったが、この火車の能力は他人の能力を喰らうことだ。喰うだけで能力が得られる。なかなか便利だと思わねぇか?。けどよ。得られるのと使いこなせるってぇのは別みたいでな。向き不向きがあるんだとよ。』

『だから…何だ?。』

『俺の目的はお前の巫女としての力をコイツに獲得させることだ。巫女の能力はお前が良く知ってんだろ?。』


 神の声を聞く。こと。

 妾が仙技で封印した、妾にとって呪われし苦痛だったものだ。


『そうだ。お前が捨てたもんさ。仙技でな。逆に言えば仙技があれば神の声のコントロールが出来るってことだと思わねぇか?。何もせずにコイツが神の声を聞いて壊れちまうのも馬鹿らしい。なら、仙技をコイツに覚えさせるのが手っ取り早い。そこで考えた。それならこの赤国で一番の仙技の使い手をコイツに喰わせちまおうってな。』


 一番の仙技の使い手…。

 そんなの決まってる。妾の頭の中に浮かぶ彼の顔。

 まって…それって…え?。冗談…だよね?。


『ふふ。その感じ。察したようだな。だが、その行き着いた答えは正解だ。嘘でも冗談でもねぇ。あの爺さんはコイツに喰わせた。』

『………あ、え…何…言って…?。』

『はは。もっと簡単に言ってやろうか?。あの爺さん。飛公環はコイツに喰われて死んだ。』


 お爺様が…死んだ?。

 死んだ?。死んだ?。死んだ?。

 何で?。コイツ等が喰った?。

 殺した?。殺した?。殺した?。殺した…。


『このおおおおおぉぉぉぉぉ!!!。』

『おっと!?。この餓鬼!?。急に暴れやがって!?。』

『お前等が!。私の!。お爺様をっ!!!。』

『はぁ…うぜぇ。なっ!。っと。』

『うぐあっ!。』


 身体を床に叩きつけられる。

 

『火車。うぜぇからそのまま押さえてろ。はぁ、まぁ、もう一個聞けって。』

『ぐっ…。』


 顔を無理矢理ゼディナハの方に向けられる。

 瞳に映るゼディナハの顔は、歪んでいた。


『その場にいた紅陣なんだけどよ。』

『っ!?。』

『あれから戻ってきてねぇだろ?。』

『ま…さか…。』

『くく。ああ、奴も死んだ。俺の部下に殺されたってよ。』

『紅…陣…も…。』


 私の…大切な…家族…。

 

『でも…まぁ仕方ねぇよな。アイツは異神と仲良く交流しやがった。仲間になってた。くく。立派な裏切りものなんだからなぁ。きちんと粛清しねぇとよ。』


 どうして、この人達は…私にこんな酷いことをするの?。


『なぁ、ゼディナハさん。もう良いだろう?。我慢できねぇって。』

『まぁ、もうちょい待て。今、コイツを喰ったところで完璧な巫女の力は得られねぇ。コイツは、巫女の力を内の奥に封じ込めてやがんだ。それを解き放ってからだ。』


 再び、刀を取り出すゼディナハ。


『やめて…来ないで…。』


 下半身は動かない。

 上半身は火車に押さえられてる。

 動けない。


『くく。どうやらこれからされることも察したな?。おうよ。その閉ざした蓋を取っ払ってやるよ。…くく、それにしても随分と心の奥深くに封じ込めたもんだな。さっき、小突いた際にお前のエーテルを絶ったんだがな。全然、封印が解けねぇのよ。ならよ?。封じ込めるのに使ってる仙技そのものを絶って使えなくしちまえば良いよな?。』

『やだ!?。やだ!?。来ないで!?。やめて!?。アレは嫌なの!?。もう!?。聞きたくない!?。』

『ほれよ。』


 私の体を貫く刀。

 その瞬間、私の中にある蓋が無理矢理に、強引に、抵抗も出来ずに外された。

 奥深くに封じ込めていたどす黒い意識の波が一気に押し寄せる。

 私の心を壊す。呪いの濁流。


 殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。


ーーー異神を殺せ。滅ぼせ。滅せよ。


『あっ…ぐっ…きゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…。』

次回の投稿は26日の木曜日を予定しています。

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