表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
340/423

第317話 ザレクの目的

 武星天の戦士達の前に紅陣の姿に扮して現れた白国に所属する神眷者。

 ザレク。

 彼の変装を見破った戦士達との戦いが始まった。


 戦い…とはいえ、ザレクによる一方的な暴力が振るわれただけだったのだが…。


『くっ…。まだ…。うっ。意識の残ってる者は…いる…か?。』


 地面に伏した状態で声を上げた龍華。

 全身に焼け焦げた跡を残し、爪は十指の全てが剥がれ、自慢の翼は焼け落ちていた。

 並みの種族だったならば死んでいる程の傷だ。

 しかし、地上に生息している全ての生物の中で最高の生命力を持つ龍種である彼女は辛うじて生き延びていたのであった。


 起きた事象。

 自身のエーテルを最大に引き出した砲撃。

 それをザレクは跳ね返した。

 跳ね返されたエーテル砲の直撃を受けた後に、全く同じ砲撃を繰り出したザレクによって龍華は瀕死の重傷を負う。


 しかし、戦場となった場所はザレクの神具【摩訶不思議催眠空間 パレラル・アマハ】によって創造された仮想空間。

 いち早くその事を見破った龍華は幻覚を見破り自身の負傷が錯覚であったことに気が付いた。

 だが…。


「【幻想反転】。」


 その言葉により発現した神技によって仮想空間で負った傷が現実のモノとして龍華を含め赤国の戦士達の身体に刻まれたのだった。

 全員が、全身から出血しその場に崩れた。


『わ、たしは…まだ、戦えますよ。』


 比較的軽傷だった鬼姫が立ち上がる。

 龍種に次いで生命力の高い種族である鬼種故に余力を残すことが出来たのだろう。

 龍種と鬼種はエーテルを体内で発生させられる古い種族だ。

 その為に、エーテルによる自己治癒力も高く速い。

 だが、そんな鬼姫も利き腕を斬り落とされ布を巻いて出血を強引に止めている状態だ。


『おやおや。ククク。まだ立ち上がれる方がいるのですね。これは驚きました。他の方々はもう死に体ですのにねぇ~。』


 周囲を見渡すザレク。

 その視線は気を失い倒れている赤国の面々、柘榴、群叢、塊陸、獅炎、心螺、狐畔、珠厳へと流された。

 彼等の大量の血で地面は赤く染まり大きな池をつくる。

 全員が自身の技を跳ね返された上に、ザレクに真似され重傷を負った。


『貴方の…目的は何なのですか?。何故、白国の神眷者様が赤国に…我々に対し攻撃を仕掛けてくるのです?。貴方は…神眷者は、この星に住む全ての生き物達の希望です。なのに、何故、その刃が私達に向けられるのでしょうか?。』


 鬼姫の叫びにザレクは薄気味悪く笑みを浮かべて答える。


『ククク。簡単な話ですよ。神眷者がこの星の守護者というのはこの世界に住む方々を騙す建前です。』

『え?。』

『何を言っている?。』


 その言葉に龍華も反応を示す。


『ククク。神眷者にとってはこの星などどうでも良いのですよ。異神と戦い勝利した後の報酬に比べればね。』

『報酬?。』

『さっきから、どういうことだ!?。』


 ゆっくりとフラフラな状態で立ち上がる龍華が足を引き摺りながら鬼姫の横に並ぶ。


『我々は、無償で神々と契約したわけではありません。神々は我々、神眷者に神と戦う宿命を課せた。ですが、神々は我々にそれに見合う対価を用意して下さったのです!。』

『それは…。何ですか?。』

『異神を最も多く殺した神眷者には、その者を創造神とした世界が一つ与えられる。自らの望むままに創造しルールを決められる真っ白な世界を!。どうです?。素晴らしいでしょう?。』

『だが、それを与えられるのは一人なのだろう?。』

『ええ。そうです。ククク。故に他の神眷者も邪魔な存在な訳ですよ。』

『知らない…そんなこと紅陣様や楚不夜様は何も仰有っていませんでした。』

『ええ。そうでしょうね。彼等には輝かしい報酬とは別に手離せなかったモノがあったようです。新たな世界を求めずに今ある幸せを求めた。我々は彼等を、愚か者と称しています。』

『愚か者…だと?。』

『紅陣様は愛鈴様を選んだのです!。彼女の幸せを…。それは決して愚かしい考えではありません!。』

『そうでしょうね。美談という形でしたら素晴らしいです。他者の幸せを求めた先にある自らの幸せ。幸福の共有とでも言いましょうか?。ですが、それは一知的生命に与えられたエンディングですよ?。神という存在に半身を委ねた神眷者が求める終着ではありません!。有り得ません!。ククク。たかが、下等種ごときが同じ尺度で語らないで頂きましょうか?。』

『………そんなこと、妾が知ったことではないわ!。だが、貴様…先程、紅陣に化けておったな?。』

『ええ。そうですね。ククク。』

『本物の紅陣はどうした?。』


 武星天の拠点に来た時点で紅陣はザレクが変装していたことになる。

 本物の紅陣が何処にいるのか、龍華達は知らない。


『ククク。先程申した通り、彼は愚か者で御座いますからね。あろうことか、敵であり始末する対象である異神と友となり絆を深めた。愚か者であると同時に裏切り者です。よって、私奴がこの手で粛清させて頂きました。ククク。』

『くっ…やはりか…。』

『そ…んな…。紅陣様…。』


 明かされた事実を突きつけられ狼狽する二人。

 二人もまた愛鈴と紅陣に救われた過去を持つ故に動揺を隠しきれない。

 例え、それが予想していたことであっても。


『鬼姫。まだ動けるか?。』

『はい。行けます。』

『おやおや、実力差は明確に証明した筈ですが、まだ諦めていないのですね?。』

『当たり前だ。紅陣も最期まで戦ったのだろう?。アヤツの性格なら想像するのは容易だ。なら、妾が諦める訳にはいかん。』

『例え、勝てないと理解していても逃げるわけにはいきません。』


 体内で生成したエーテルを爆発的に高め肉体の限界を強制的に向上させる。

 既に深傷を負った身体に更なる負荷がかかり、至るところに裂傷を生じさせた。

 

『らっ!。』


 地面を爆発させる程の踏み込み。

 一歩でザレクとの距離を縮めた龍華。


『おお。お速い。ですが、はぁ、つまらないですね。エーテルを垂れ流すだけの雑さ。技術の一端すら拝めないとは…残念ですね。』

『っ!?。あぐっ!?。』


 龍華の突進を完全に見切ったザレクは、僅かに上体を反らすことで突進をいなす。

 交差する時の隙を見逃さず龍華の背中に拳を振り下ろした。


『ぐあっ…。』


 地面に叩きつけられる龍華。

 更に追い打ちで、その背中を踏みつけられた。


『このまま、背骨をへし折ってしまいましょうか?。』

『あぐあっ…あっ!?。ぐっ…!?。ま…だだ、妾には尻尾がある!。』


 勢い良くスイングされた龍華の龍の尻尾がザレクへ放たれるも…。


『ああ。忘れていました。爪や翼だけではありませんでしたね。その尻尾、切断しておきましょう。』

『っ!?。ぎゃあああああぁぁぁぁぁ!?!?。』


 ザレクが指を鳴らすと同時に根元から切断される尻尾。

 地面を転がる尻尾に痛みを堪えながら視線を向けると鬼姫が信じられないものを見るような動揺した視線を泳がせていた。

 鬼姫の持つ包丁のような形をした大剣には、龍華の血液が付着し滴っていた。


『え?。何で?。私が龍華ちゃんの尻尾を斬って?。私は…あの男を斬ったのに?。』

『ククク。摩訶不思議な体験でしたでしょう?。いったい、いつの間に私奴にその刃を突き立てる幻覚を見せられていたのでしょうねぇ~。ククク。ククク。』

『今のが…幻覚…私は確かに貴方を斬って…。』

『そう思わされていただけですよ?。ククク。貴女が此方の龍華さんと共に私奴と対峙した時点で貴女は催眠に掛けられていた。随分と長い戦いだったでしょ?。ですが、現実の世界では数秒。龍華さんが私奴に突進し地面に這いつくばる僅かな時間しか経過していないのですよ。』


 ザレクが龍華の首を掴み持ち上げる。


『は…なせ。』

『ククク。まだ元気のようで。ですが、それは出来ない相談ですよ。』

『うぐっ!?。』


 龍華の腹にザレクの拳がめり込む。


『龍華ちゃん!。』

『ああ。そうでした。鬼姫さん。貴女は随分とヤンチャだったと噂で聞いていますよ?。今は丸くなったようですが、昔の貴女は眼に映る全てを憎み、出会う者全てを、その大剣で切り刻んでいたそうではないですか?。』

『っ!?。昔の話です…。』

『そのようですね。どうやら、どなたかに救いの手を差し伸べられたようで…ククク。ですが、私奴はとても臆病なのですよ。貴女にいつ斬りかかられるのか常々恐怖と戦っているのです。なので、もう一本の腕も切り落としてしまいましょうか?。【幻想反転】』

『っ!?。ぎっぅ…。』

『お忘れですか?。貴女は仮想空間の中で腕を負傷しました。ククク。まさか、腕を失っても口で大剣を咥えて振り回してくるとは思っていませんでしたが…。ククク。』


 両方の腕を失った鬼姫がその場に膝をつく。


『さて、では終わりといきましょうか。安心して下さい。貴女方の遺体は丁重に扱い効率的に活用致しますので。』

『何を…言っている?。』

『ククク。冥土の土産…とでも言いましょうか。良いでしょう。簡潔にお教えしましょう。我が白国には他者の肉体から能力を引き出し他者に移し替える技術があるのですよ。その身体が生まれつき持つ能力であろうと、生きている期間に培われた技術であろうとね。つまり、貴女方の肉体からありとあらゆる情報を根こそぎ奪い、我々の力とする。それが今回の襲撃の本当の目的です。』

『そ…んな、馬鹿な…。』

『ククク。疑うのも無理はありませんが、事実ですよ?。既に異神の一人を確保し実験は成功しています。』

『っ!?。』

『さて、長話もなんですので、残念ですが終わりにしましょうか。私奴。こう見えて多忙なのですよ。ククク。』

『ふふ。』


 龍華の不適な笑みに、心臓を貫こうとしていたザレクの動きが止まる。


『ああ。惜しい。もう少しで貴様を巻き添えに出来たのにな。』

『何のことでしょう?。』

『惚けるな。貴様程の男が気づいてないわけないだろう?。なぁ、鬼姫?。』

『ええ、龍華ちゃん!。』

『何?。いつの間に?。』


 首を掴むザレクの腕を逆に掴み逃げられなくする龍華と、両足でザレクの足に絡まり動きを封じる鬼姫。


『これは…油断しましたか?。』

『ああ。今、勝ちを確信しただろう?。そういう時が一番危険なんだぞ?。そして、この状態なら貴様は避けられない!。』


 龍華の体内を巡るエーテルが急激に収束し圧縮されていく。

 渦巻くように、荒々しく、激しく鳴動を繰り返す。


『これは!?。まさか、貴女は!?。』

『ああ。どうせ死ぬなら貴様ごとだ!。』


 龍華の身体からエーテルが漏れ出し全身が輝き始める。真紅の稲妻が周囲に迸ると、エーテルのよって周囲が蒸発を始めた。


『くっ!?。離しなさい!。』

『嫌です!。絶対に離さない!。』


 鬼姫もまたエーテルを爆発的に高め強化された両足でザレクを締め上げ身動きを封じる。

 同時に龍華と同じく内に巡るエーテルを暴走させた。


『ククク。自爆とは…これまた美しくない最期ですね。』

『笑っていられるのも今のうちだ。エーテルに気を込めた。貴様の仮想空間など簡単に消し飛ばす。』

『言った筈です。絶対に離さないと。決して逃がしません!。』


 仮面で見えないがザレクの瞳が揺らいだ。

 頬に伝う汗が静かに落ちる。


『紅陣の仇だ。』

『覚悟して下さい!。』

『っ!?。』


 巨大なエーテルの波紋が空気を揺らす。

 自然界から発生するエーテルすらも巻き込み自らの身体に吸収、体内でエーテルと気を混ぜ合わせ圧縮、肉体を爆発の媒体に変え一気に解放、炸裂させる。

 命と引き換えに起こす大爆発。

 それが、ザレクを倒すことの出来る唯一の手段とし、切り札に龍華と鬼姫は選んだのだった。 


『ちっ。めんどくせぇことしやがって。』


 爆発直前。

 今の今まで飄々としていたザレクの口調が変わったのを龍華と鬼姫が聞いた。

 ピエロのような仮面を外し、素顔を露にした瞬間、周囲に解き放たれた殺気に二人は戦慄し理解する。

 この男は、自分達が命をとして発動した決死の一撃から逃れる手段を持っている。

 いや、今までの戦いは、この男の力の一端でしかなかったのだと。


『っ!?。』


 先に気が付いたのはザレクだった。

 殺気は一瞬で消え、頭上に反応する。


『『っ!?。』』


 遅れて反応した龍華と鬼姫。

 何かが高速で襲来し、ザレクを含む三人を巻き込んで地面と衝突した。

 高々く上がる土煙からいち早く脱出したザレクは目の前に現れた存在に対し睨み付ける。


『…………はぁ。やれやれ。これは驚いた。まさか私奴の警戒網を速度のみで強引に突破してくるとは…つくづく異神というのは規格外ですねぇ。ククク。』


 仮面をつけ直した、ザレクは溜め息をした。


『…けほっ。けほっ。けほっ。』

『うぅ…。今のは…いったい…。』


 現状の把握が出来ていない龍華と鬼姫が困惑する。

 自身の状態。

 誰かの腕に抱き寄せられている。


『無事か?。』


 真紅の鎧は竜と鬼の特徴を顕す。


『え?。あ…はい。』

『あ…なた様は?。』


 顔の鎧を解除し二人を安心させるように微笑む男が名を告げた。


『俺は基汐。君達を助けに来た。』

次回の投稿は19日の木曜日を予定しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ