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第310話 ゼディナハの絶刀

 お爺さん…。


 月に似た衛星の輝きを背にした黒い男。

 盗賊を連想させる外見。腕には包帯。ボロボロのコート。

 全体的なみすぼらしさはあれど、その本質に目を向ければ嫌でも理解できてしまう。

 この男は強い。

 紅陣やお爺さん。この世界にも強い人達は多くいる。けど、目の前の男の肌で感じる危険度は、今まであった誰をも凌駕する。

 

 お爺さんは動かない。

 胸を刀で貫かれたままぶら下がっている。

 ポタポタとゆっくりと滴るお爺さんの血液が足元に小さな水溜まりを作っていた。

 仙技を用いて確認するも、もうお爺さんから生命の気配を感じない。既に絶命しているんだ。


 何てことを…。


 男には傷一つない。

 そのことからお爺さんは一方的に殺られたんだろう。

 仙技を極め、気配を読み身体を自在に操れるお爺さんを一方的に倒したのか…あの男は…。

 いや、それもアレが本物ならば可能なことだろう。


『何で…。』


 男の手に握られている刀。

 それを見て俺は息を呑んだ。

 何故、あの男が閃の…絶刀を持っているんだ?。

 あれは、危険すぎるぞ。

 振り抜いた時、認識したモノを絶ち斬る刀。

 認識さえしていれば世界の全てを切断出来る最強の神具だ。

 その危険性故に所有者の閃も最後の切り札にし本当に危機が迫った時にしか使わなかったくらいだ。


『そ、そんな…お爺ちゃん…。』


 息を呑み、口元を両手で押さえ目を見開いている玖霧。

 彼女もお爺さんの命が既に尽きていることに気付いたのだろう。

 その瞳からは涙が流れ落ちる。

 無理もない。この世界に転生してからずっと共に過ごして来たんだ。

 右も左も分からなかった玖霧に生活の場を与えてくれた恩人なのだから。


『爺………な、何してやがる…てめぇ。いや…何で、てめぇがここに居やがる!。ゼディナハ!。』


 紅陣が怒りの叫びを上げた。

 唇の端を噛み締め血が滲んでいる。


『ああ。紅陣か?。何で神眷者のお前が異神と一緒に行動してんだ?。』

『そんなことはどうでも良い!。どうして爺さんを殺した!。』


 ゼディナハ。

 紅陣は男のことをそう呼んだ。

 紅陣が神眷者であることを知っている。

 この男も神眷者?。


『ああ。どうせなら仲間に欲しかったんだがな。断られちまってよ。仕方なく殺した。』

『っ!?。仕方なく…だぁ!?。』

『まぁ、そう怒んなって。俺の目的の為に爺さんの力が必要だったんだ。仲間になろうが、ならなかろうが結果は変わらなかった。俺の行動もな。』

『てめぇ。何を言ってやがる…質問にはちゃんと応えやがれ!。』

『くくく。なぁに。すぐに分かるさ。なぁ、火車?。』


 ゼディナハが隣にいる男に声を掛ける。

 そうなのだ。何故、アイツがここにいるんだ?。

 忘れる訳もない。

 仮想世界で俺の土手腹を殴りやがった男。

 元ギルド【赤蘭煌王】の幹部。火車。


『ああ。久し振りだな。玖霧。また会えて嬉しいぜ?。』

『………火車。また、アンタの顔を見ることになるなんてね。もしかして、私のストーカー?。』

『ああ。それも良いなぁ。俺はお前が欲しいからな。お前が嫌がっても俺のモノにしてやろうと考えていたところだ。』

『気持ち悪いわね。』

『キキキ。その目は赤皇と変わらねぇな。ああ。思い出すぜ。アイツをボコボコにした時の感触をよ~。』

『赤皇?。アンタ、赤皇に何したのよ!。』

『あん?。決まってんだろ?。アイツはムカつくからな。俺の気が済むまで殴りまくってやったのよ。楽しかったぜ。意識もねぇ。抵抗もしねぇ、アイツを一方的に痛め付けるのわよぉ。両手足の骨をグシャグシャに砕いて、血反吐吐くまで殴ってやったぜ。』

『っ!。アンタ…よくも赤皇を…。』

『おいおい。これでも感謝して欲しいくらいだぜ?。ゼディナハさんの命令で殺すのだけは止めてやったんだからよ。』

『ああ。あの男には赤国との交渉材料になってもらった。暫く、俺がこの国で自由に動けるようにな。』


 赤皇が捕らえられた原因はコイツ等の仕業だったのか…。


『おい。そんなことはどうでも良い。その爺さんは俺に…俺達にとって親同然の人だったんだ。それを…こんな…くっ、てめぇ等、無事で帰れると思うなよ?。』

『ん?。確かにそうだな。目的は達したが、ただで帰るのはつまんねぇな。えーっと。よっと。』


 身体を貫かれていたお爺さんが絶刀から解放され地面に横たわる。

 そして、ゼディナハは数歩移動し手頃な岩の上に腰掛けた。


『おい。火車。』

『あいよ。』


 お爺さんの遺体を軽々と持ち上げる。

 前世の記憶のまま、火車の身体は膨張した筋肉が鎧のように覆っていた。

 血液の動きなのか、所々脈動し赤黒く輝いて見える。


『てめぇ。爺に何しやがる!?。』


 お爺さんを持ち上げる火車。


『喰え。火車。』

『は?。おい…何を…てめぇ…やめろおおおおおぉぉぉぉぉ!?!?!?。』


 なっ!?。

 ゼディナハが発した、その言葉の瞬間。

 お爺さんの身体は火車の口の中へと放り込まれた。

 蛇のように大きく裂けた顎が軽々と一人一人を放る光景は異常な恐怖心を俺に与えた。

 バギッボギュメギュ………。耳を覆いたくなる咀嚼音が深夜の静寂の中で虚しく鳴り響く。


 人が人を喰らう。

 その異常な光景に動くことが出来ない俺達。


『はぁ…。マジィな。骨と皮だけの爺はよ。やっぱ肉付きの良い女じゃねぇと満足できねえわ。へへへ。生きたまま食べれれば悲鳴も聞けて一石二鳥なんだがなぁ~。』


 含みのある気持ち悪い視線を玖霧へと向ける火車。

 その火車を睨み付ける玖霧は拳を握り締めた。


『へへへ。成程ねぇ~。これが仙技ってヤツねぇ~。気ってのだったか?。そこら辺から気配みたいなのを感じるなぁ。』

『どうやら、成功したようだな。本当に便利な身体をしてやがる。』

『どういうことだ?。どうしてソイツの身体から急に気が溢れてやがる?。』

『ははは。おもしれぇだろ?。コイツは肉体強化しか能が無ぇ奴でよ。元が空っぽだからって喰った奴の性能を自身の能力にすることが出来るんだと。』

『っ!?。…爺の仙技を奪ったってことか?。』

『まぁな。色々と便利だろ?。仲間に扱える奴がいれば今後役に立つと思ってよ。爺さんに接触した訳よ。でだ、おい。火車。』

『あん?。』

『そこの三人の相手をしてやれ。仙技ってのが戦闘でどれだけ使えるか試してみろ。俺に見せろ。』

『………あいよ。』ニヤリ。


 岩の上に座るゼディナハが寛ぎながら頬杖をついていた。


『ふざけんな。てめぇが爺を殺したんじゃねぇか!。余裕見せてねぇで俺に殺されやがれ!。』

『紅陣!?。』


 ゼディナハに向かって飛び掛かる紅陣。

 

『【鬼紋神痕・龍鎧闘気 オキジス・ドラグコード】!。死ねや!。ゼディナハ!。』

『はぁ…馬鹿が。お前、それでも部下を持つ組織のリーダーか?。激情に囚われやがって。俺との力の差も分かんねぇか?。』


 マズイ。

 ゼディナハが絶刀に手を添えた。


『紅陣!。』


 このままじゃ紅陣が死ぬ。

 反射的に神具の鎧を纏った俺は紅陣を追う。


『はぁ…紅陣。てめぇは、つまらねぇ。だからさ。』

『っ!?。』

『死ね。』


 振り抜かれた絶刀。

 認識したモノを絶つ刀。ゼディナハが認識してしまえば、その対象が絶刀から逃れるのは不可能。

 だが、絶ち斬る瞬間にその認識を上書きできれば…。


『はっ?。何だ。てめぇ?。急に横から!?。』


 空中で紅陣を押さえ身体をゼディナハと紅陣の間に割って入る。


『あぐっ…。』

『うっ…。』

『あ…やべぇ。認識ズレた…。』


 庇った紅陣と共に地面に落ちる。


『基汐さん!?。』


 玖霧の叫びは聞こえてる。


『ぐあっ…はぁ…はぁ…はぁ…。』

『紅陣!?。』


 紅陣は胸から腹にかけてを斬られていた。

 だが、生きてる。間に合った。

 俺が割って入らなければ、恐らく、紅陣の身体は切断されていただろう…。


『ぐっ…。』


 どうやら本物の絶刀みたいだな。

 俺の竜の鎧ごと腕を斬り落とすなんてな…。

 

『基汐さん…腕が…。』


 地面に転がる俺の腕から神具が剥がれエーテルへと戻る。

 ぐっ…失った箇所からの出血を仙技の応用で止める。けど、痛いな。痛みも和らげないと…。

 しかし、最悪は状況だ。


『うぐっ…。』


 紅陣は至急手当てが必要。傷が深すぎる。

 辛うじて命を繋いだという状態。戦闘は無理だ。

 俺も片腕を失った。これじゃあ、ゼディナハと火車の二人相手は荷が重い。いや、火車の戦力も分からない現状だと不可能だ。

 何よりも、絶刀を持つゼディナハにはどう足掻いても勝てない…。


『はぁ…。異神に使っちまったな…。おい。火車。』

『おう。ゼディナハさん。もう…良いよな。』

『ああ。やれ。俺の助けは期待するなよ。全力で暴れてやれ。』


 ヤバい。来る!。


『ははあぁ!。』


 その巨体とは思えない速さで距離を詰める火車。

 その身体が山のように夜の明かりを包み隠し俺と紅陣の頭上に瞬間移動する。


『まずは、てめぇ等を殺す。そして、その後で玖霧を楽しむ!。』


 振りかぶられる火車の拳。

 異常に膨張した筋肉。その腕が更に太く、巨大化する。

 俺達の身体が隠れるくらい大きな拳が迫ってくる。


『紅陣!。くっ!?。』

『うっ…。俺の…ことなんて…見捨てて逃げろ…基汐…。』

『ぐっ…そんなこと、出来るかよ!。』


 紅陣は傷が深くて動けない。

 拳が迫る中、紅陣を背負って逃げる時間はない。

 急速に高めたエーテルを鎧の宝玉へと集中させる。それにより、鎧の硬度を高め紅陣を守るように防御を…。


『はっ!。そんなんじゃ俺の拳は防げねぇよ!。地面ごと押し潰してやるぜぶべあっ!?。』

『な!?。』


 突然、黄金の何かが衝突し真横に吹き飛ぶ火車。

 何が起きたのかも分からず地面を転がっていく。


『基汐さん。下がって。紅陣さんの手当てを…。私が火車の相手をします。』


 黄金の棒を構える玖霧。

 どうやら、あの棒を飛ばしたようだ。


『火車。いい加減その顔は見飽きたわ。そろそろ決着をつけましょうか?。』

『くっ…玖霧…痛ぇじゃねぇか…。』

『神具…。』


 何かしらの文字が刻まれた黄金の棒。

 それが、玖霧の周囲を取り囲むように複数本展開された。


『【黄金封神仙杖 センクレラ・シルティム】!。』

次回の投稿は24日の日曜日を予定しています。

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