第308話 紅陣
俺と紅陣。互いに神具を展開した。
紅陣の神具。
【鬼紋神痕・龍鎧闘気 オキジス・ドラグコード】
エーテルが龍の姿を象り、巨大な顎と牙で地面を抉りながら暴れまわる二頭の龍。雷にも似た閃光が空気を焦がし、エーテルの放出が龍の咆哮のように空間を揺らした。
紅陣の両手。
龍は各々に一体ずつの放たれ獲物である俺に対し襲い掛かって来た。
『らぁっ!。』
俺は神具の鎧を発動した。
【竜鬼神鎧帝甲 ラグゼル・ドラヴァゴストゥレザ】。
真紅の全身を覆う鎧。
額、両肩、両手のこう、腹、両膝、両足に埋め込まれた合計十個の竜の宝玉と胸の中心にある鬼の宝玉。
竜の宝玉は俺自身や周囲のエーテルを吸収し、ある一定以上蓄えられると輝き始める。
そして、胸にある鬼の宝玉は蓄えられたエーテルを増大させる効果がある。
また、鎧を通じエーテルを収束させ様々な形で放つことも、肉体の硬度と力を大幅に強化させることが出来る。
強化は輝く宝玉の数によって跳ね上がる。
元々の竜鬼という種族は、その余りある内在された魔力、エーテルに物を言わせ力のままに暴れ回ることを得意とする種族だ。
この鎧は、エーテルの制御と抑制を補助する役割がある。
全力で殴る。
物体を殴った感触が確かにあり、龍の姿を象ったただのエーテルの塊でないことを理解する。
実体があり、鱗が並ぶ胴体はかなりの硬度を持っているようだ。
俺の拳を受けても僅かにその部分が消し飛んだ程度、だが、またすぐに再生されてしまう。
『オラッ!。俺のことも忘れんじゃねぇぞ!。』
双頭の龍の波状攻撃の隙間から紅陣自ら突っ込んでくる。
紅陣の全身に彫り込まれた模様が輝きを増し、全ての打撃が異常なまでに強化されている。
突き出された拳を防御するも、防御した鎧に軽々とヒビが入り、腕ごと吹き飛ばされそうになる威力を必死に耐える。
『くっ…防御した腕が痺れる…。』
鎧越しなのに骨の芯まで衝撃が走る重い一撃の連打。
『オラッ!。連撃だ!。コラッ!。』
拳だけじゃない。
蹴りも、身体も、頭突きでさえ俺の鎧を破壊する威力を持っている。
このままじゃマズイ。どうにか距離を取らなければ。
宝玉の輝きはまだ三つ。
この程度の強化じゃ奴の攻撃を防ぎ切れない。
『オラオラオラ!。逃がさねぇぞ!。』
翼を広げ空中へと逃げようとするも、更なる連撃によって阻まれてしまい少しずつの僅かな上昇しか許されず、あろうことか、打撃の際に絶妙な体重の移動により紅陣自身も空中へついてくる。
『がはっ!?。』
『休む暇は与えねぇ!。』
嵐のような打撃の連打が俺の鎧…正確には胸のど真ん中に直撃。そして、至近距離から手のひらを俺の身体に押し付けてからの再び龍のエーテルが放たれ俺の身体にかぶりつく。
ゼロ距離からの龍の攻撃に回避出来ずに暴れまわる龍に噛みつかれた俺の身体は上空へと運ばれた。
強靭な顎の力で潰されそうになるのを必死に耐えながら右へ左へ、上下に振り回される。
しかも、更なる追撃が迫っていた。
『もう…一体!?。』
背後から大口を開けた二体目の龍が迫っていた。
一体目の龍に噛みつかれた状態の俺には防ぐ手段はなく、二体の龍の衝突による衝撃に巻き込まれた。
結果、高密度のエーテルが空中でぶつかり合い上空に稲妻が広がり、亀裂が入ったように空間を切り裂いた。
二体の龍の衝突は大きな爆発を引き起こし、天空に亀裂を走らせ衝撃と爆音で楕円形の歪みを作り出した。
その歪みは、やがて暴風と雷となって地表に降り注ぐ。
俺の身体は爆発に巻き込まれ呑まれてしまう。
『へへへ。どうよ!。俺の神具の威力はよ!。』
背中のリングに龍を戻し上空を見ながら笑う紅陣。
あれだけの攻撃を行ったのにも関わらず紅陣の操るエーテルに衰えはない。
『おいっ!。こんなもんじゃねぇだろ?。基汐さんよぉ!。こんなんじゃ、準備運動にもならねぇぞ?。……………くく。ああ、そうだろうな。』
空の異変に気づく紅陣。
俺は鎧の全身に埋め込まれた宝玉にエーテルを送る。
その数は全部で十。内、四つが光輝き始めた。
そして、輝きが胸にある一際大きな鬼の宝玉へと流れ込む。
増大されたエーテルが周囲に展開され、小さな球体が多数出現する。
『何をするのかは知らねぇが俺の神具からは逃れられねぇよ!。』
両手から放たれる双頭龍。
前後に分かれ俺を挟み込もうと迫るも…。
『今度は俺の番だ。』
宝玉に蓄積されたエーテルの解放。
多数に展開した球体を通し、全方位にエーテルの砲撃が拡散する。
迫っていた双頭の龍を蹴散らし、反射を繰り返した結果、全ての砲撃が紅陣へと向かう。
『はっ!?。マジか…よ!ぐっ!。』
俺の攻撃に驚きはしたようだが、あのリングから全身に纏っている黄金のエーテルが鎧の役割を担い砲撃が完全に防がれている。
今までの戦闘で考えられる紅陣の神具は、二つ。
一つは、身体に彫られた紋章。
恐らく、肉体を強化しエーテルを効率良く全身に巡らせる効果があるのだろう。
仙技で気の流れを感じ取ると、周囲の空間や接触した地面からもエーテルを取り込んでいるのが分かる。
驚異的な打撃の威力と尽きることのないエーテル循環。多分、気も同様な効果で運用しているみたいだ。
そして、もう一つ。
背中のリング。
彫られた模様から得られたエーテルを吸収し、黄金のエーテル…多分、体内で自分色に染めたエーテルを増大させて両腕に流すことで、両腕を発射口に龍の像を象ったエーテルを放出、自在に操るというもの。
纏うエーテルも鎧のような効果があり防御にも攻撃にも回され、紅陣の得意とする接近戦を効率良く行えるように補助している。
『だが、効かねぇな!。ほらっ!。もっと全力で来やがれってんだ!。異神さんよぉ!。』
『………強いな。君は。』
『ん?。ははは!。何だそれ?。敵を称賛してくんのか?。おもしれぇな!。お前!。』
背中のリングが回転を始める。
同時に、紅陣の纏う黄金のエーテルが暴れ出す。
『気が変わった。様子見と人柄の確認だけにしようと思ってたんだがな。お前の全力を見たくなった。』
これは!?。
両腕の龍が巨大化し上空高くに昇り巨大な口を開いた。
その口の中にエーテルが収束していく。
このエーテルの爆発的な高まり、神技か?。
『全力だ!。基汐!。お前も出し惜しみすんじゃねぇぞ!。』
神技に対抗するには神技を出すしかない。
仕方ないか…。まだ、全力には程遠いが…。
『分かった。受けて立とう。』
十ある宝玉の内、輝いているのは五つ。
神技の威力は半分程度ってところだが…やるしかない。
『宝玉。解放。』
宝玉の輝きが急激に増大し、鎧全体にエーテルが巡り始める。
やがて、胸の中心に埋め込まれた宝玉へと巡るエーテルは集められ圧縮。五つ分の宝玉が蓄えたエーテルが一つとなった。
『準備が出来たようだな。』
『ああ。全力だ!。』
双龍の口から放たれるレーザー。
物質を一瞬で溶かし、蒸発。消滅させる威力を秘めたエネルギーの放射。
それに対し、胸の宝玉に収束させたエーテルを一気に放つ極大の砲撃。
『『神技!。』』
解号の言葉と同時に発動する神技。
『【鬼竜神輝宝玉閃砲】!!!。』
『【双龍咆哮鬼光閃】!!!。』
二つの神技の衝突が渓谷を岩肌を消滅させた。
上流から流れる川を含めた全てが発生した爆発による衝撃と高熱風に蒸発した。
暫く拮抗した神技同士は、互いに打ち消し合い相殺。光の粒子となって輝きだけを残して消失する。
後に残ったのは、くっきりと大きく開いた巨大なクレーターと所々に転がるガラスの結晶と砂だけだった。
『互角か。はっ!。良いぜ!。なら、もう一発だ!。』
『なっ!?。』
全力の半分の威力と互角だったとはいえ、あれだけのエーテルの消失の後に紅陣は驚くべき行動に出る。
再び、龍を召喚し二発目の神技を発動しようとしていた。
『馬鹿な!?。神技の連続使用だと!?。』
そして、気付く。
紅陣の気、身に纏うエーテルに一切の減少を感じないことに。
神技を使用したのに全く衰えずに次の神技を扱えるなんて…。
どうする?。
相性が悪すぎる。俺の神技はさっきの一撃で蓄えたエーテルを使い果たしてしまった。
もう一度撃つには時間が掛かる。
『不思議か?。俺のエーテルが減っていないことが?。』
『ああ。』
『良いぜ。教えてやるよ。仙技の技巧の一つよ。』
仙技の…つまり、応用ってことか?。
『仙技が追い求める最終系の形は自然との融合だ。自然の中に溶け込み自然のエネルギーを体内に巡らせる。それによって蓄えられたエネルギーを自らの性質に合わせて使用すること。足りなくなれば、補充してやるださ。つまり、仙技を極めれば神眷者としての神の力を尽きることなく使い続けることが出来んのよ!。』
自然と一体化し無限のエネルギーを己のものとする技法。
『それを可能とするのは、何ものにも染められていないエーテル。純エーテルを扱えることになることなんだが、これがまた難しくてな。自然界からそれを探すにはかなりの集中力と、手繰り寄せる精神力が必要だ。そして、自らの身体の中に流れる極少の純エーテルのみをかき集め、外部から取り込んだ純エーテルと混ぜ合わせ漸く操れるようになる。その結果がこれさ!。神具の長時間展開が可能となり、神技の連続使用も問題ねぇ!。』
『ぐっ…。』
『覚悟しろよ!。神技!。』
集められたエーテルが再び放たれる。
その時、だった。
『馬鹿者があああああぁぁぁぁぁ!!!。』
『あがっ!?。』
『は?。お爺さん!?。』
突然、背後に現れた飛公環。お爺さんの持つ杖が紅陣の頭に勢い良く叩き付けられ鈍い音を響かせた。
いったい…何が?。
『弟子同士がマジ喧嘩するでないわ!。この馬鹿たれがあああああぁぁぁぁぁ!。何じゃこの悲惨な状況はあああああぁぁぁぁぁ!!!。自然を大切にせえええええぇぇぇぇぇ…。』
『じ、爺!?!?。』
こうして、俺と紅陣の戦いはお爺さんによって止められた。
ーーー
『あはははは!。やっぱそうだよな!。いやぁ、爺が悪い奴に仙技を教える訳がねぇと思ってたのよ!。』
『五月蝿いわ!。紅坊主!。相変わらず開いた口が塞がらない奴じゃな!。』
戦いの後、お爺さんの家に戻ってきた俺達。
紅陣に今までの俺達の経緯の説明をし終えると、途端に彼は笑い始め、何度目かも分からないお爺さんの拳骨が紅陣の頭に振り下ろされた。
『ははは。懐かしいぜ。この痛み!。元気そうだな爺!。安心したぜ!。』
『じゃかしいわ!。小童!。この飛公環。心配される程落ちぶれちゃおらん!。』
二人の様子を眺めている俺と紫音と玖霧の三人。
『元気な方ですね。えっと…紅陣さんでしたっけ?。』
『ああ。一応、俺達の敵…神眷者って呼ばれてる神と契約した奴等の一人なんだけどな…。』
『敵対の意思を感じませんね。』
戸惑う玖霧の言葉に同意する。
『お爺ちゃん。嬉しそう。』
『確かにな。』
何だろう。孫にでも会ったかのようなお爺さんの態度。
それだけで、二人の間の強い絆を感じる。
『おっと、すまねぇな。久し振りの再会だったからテンションが上がっちまった。』
お爺さんとの会話を止め、俺達に向き直る紅陣。
『じゃあ、改めて、紅陣だ。宜しくな。』
『基汐だ。』
『紫音。』
『玖霧です。』
『で、コイツも自己紹介だ。』
『?。』
『あ、何かいる?。』
紅陣の胸元で何かが動いている?。
何かが出てきたように見えたが姿が見えない。まるで、背景に溶け込んでいるみたいだ。
『俺の神獣だ。【隠竜子】。タツノオトシゴの神獣だ。』
すると。五センチくらいのタツノオトシゴが身体の色を変化させ姿を現した。まるで、自然に溶け込んでいた擬態のように、カメレオンみたいだ。
コクり。と、小さくお辞儀をする神獣。
『可愛い。』
『お、おいで~。』
すすす~と、空中を泳ぐ神獣が紫音と玖霧に近づいていく。
どうやら、警戒の色はないようだ。
自己紹介を済ませた俺は今後のことを紅陣に尋ねた。
敵対の意志がないとはいえ、俺達は敵同士なんだ。
紅陣の考えを聞きたい。
『あ?。戦わねぇ。戦わねぇ。お前らが悪い奴じゃねぇって分かったしな。それに赤国に喧嘩売ったりしねぇんだろ?。なら十分だ。何なら俺から姫に伝えてやるよ。コイツ等は敵じゃねぇってな。』
『有難いが…良いのか?。』
『ああ。構わねぇよ。もう一人、お前等の仲間と仲良しになっちまってるからな。ウチの姫さんは。今更敵だって言われても困るだろうよ。』
『俺達の仲間?。』
『ああ。名前は…確か…せ、せ、赤皇とか言ったか?。』
『赤皇は無事なのですか!?。』
赤皇の名前を聞いて紅陣に対し身を乗り出した玖霧。
あまりの勢いに紅陣も引き気味だ。
『あ、ああ。ウチの姫さんと仲良くやってるみたいだぜ?。俺達には内緒にしてるみたいだがバレバレさ。』
『赤皇が…良かった…。』
胸を押さえて涙を浮かべる玖霧。
赤皇の無事を知れて彼女はとても嬉しそうだった。
『他のお前達の仲間の連中も赤国に攻めてきたみたいなんだがな。あの布陣…攻め方…恐らく赤国を攻め落とすことが目的じゃねぇだろうからな。ははは。心配なんかしてねぇぜ。まぁ、俺の勘だがな。』
『他の仲間?。他にも赤国に俺達の仲間が…。』
『早く。合流したいね。基汐。』
『ああ。そうだな。』
赤国にいる仲間だけでも早く再会したいな。
『ははは。まぁ何だ。仲良くやろうや!。』
こうして、殆んどノリのようなテンションで俺達と紅陣は仲良くなったのだった。
ーーーその夜。
夜中に目覚めた俺は用を足しに縁側の廊下へと出た。
すると、庭の岩影から誰かの話す声が聞こえてきた。
この声は紅陣とお爺さんか?。
『愛鈴は元気にやっとるか?。』
『ああ。元気だ。不器用なりにな、色々と頑張ってるぜ。………たまには顔見せてやれよ。姫も喜ぶだろうぜ?。』
『今更か?。もうワシがあの娘にしてやれることはもうないじゃろうが…。』
『はっ…そうじゃねぇだろう。一緒にいればそれだけで良いこともあるんじゃねぇか?。役目を終えた爺さんにだってよ。』
『ふむ。』
『それにな。言ってなかったが赤国に蔓延ってた害虫共は今回の異神との戦いに巻き込まれたってことで全員始末した。』
『何じゃと?。』
『これで、爺さんの罪…いや、俺達にとっては罪じゃねぇな。アンタは姫を守るために行動した。先代の王と一緒に姫を害虫共から守った。先代は暗殺され、その罪を爺は着せられた。結果、この辺境に追いやられ今に至る。けど、もう良いんじゃないか?。』
『…そうか…。ワシの罪を知る者はいなくなったということかのぉ。』
『おうよ!。だから、今度王宮に降りてこいよ。歓迎するからよ!。』
『ふむ。考えておこう。』
二人の会話。
盗み聞くつもりはなかったけど、つい聞き入ってしまった。
『なぁ。紅陣。』
『ああ。何だ?。』
『愛鈴を守ってやってくれ。あの娘の傷は癒えてはおらん。深く沈めて蓋をしておるだけじゃ。何かの拍子で蓋が外れてしまえば今度こそあの娘の心は壊れてしまう。一度壊れた心を無理矢理修復した弊害じゃ、恐らく、もう一度壊れれば心が死んでしまうからのぉ。』
『当たり前なこと言うんじゃねぇよ。俺は…いや、アンタの教えを受けた赤国の連中全員が姫を守るために命を懸けてんだ。俺達は仲間であり家族だ。家族を守るのは当然だろうよ。』
『そうだな。』
『よっと。』
お爺さんから距離を取る背中を向ける紅陣。
『それによ。アンタもその家族の一員なんだ。そのこと忘れんな。爺。』
『……………。』
紅陣の後ろ姿を眺めていたお爺さん。
その姿が家の中に消えるまで、お爺さんは微動だにしなかった。
ーーー
紅陣が来て二日。
明日の早朝。
紅陣は王宮へと帰還する。
ここでの出来事を仲間達に伝える為に。
その日の深夜だった。
突然、紅陣の大声で目が覚めた。
『爺!。何処だ!。何処に隠れてやがる!。』
その声に飛び起きた俺達は紅陣と合流する。
『どうした?。紅陣?。』
『あ、ああ。基汐か。何か嫌な胸騒ぎがしてな。爺の部屋に行ったんだが…もぬけの殻でよ。家中探しても何処にも居やがらねぇんだ。』
『外かも?。』
『私も探します。』
『ああ。手分けをしよう。紫音。空から頼む。』
『うん。任せて。』
上空へと飛び上がる紫音。
『俺達も。』
『ああ。頼む。何か嫌な感じだ。』
『行きましょう。基汐さん。』
俺達はお爺さんを探し回った。
そんな俺達は…結果として最悪の場面に遭遇することになる。
暗がりのシルエット。二人の男。
『ああ?。何かぞろぞろと来やがったな?。ああ、思い出した。この爺さんと一緒に居た異神か…。』
『なっ!?。』
見覚えのない男。
しかし、俺を驚かせたのはそんなことではない。
漆黒の輝きを放つ刀身に身体を貫かれぶら下がっているお爺さんの姿。
力なくピクリとも動かないお爺さんからは絶えず血が流れ落ち地面に血溜まりを作っていた。
お爺さん…あれは、致命傷だ…もう…。
『そ、そんな…お爺ちゃん…。』
玖霧も息を呑む。
口元を両手で押さえ目を見開いている。
『爺………な、何してやがる…てめぇ。いや…何で、てめぇがここに居やがる!。ゼディナハ!。』
紅陣の悲痛な叫びが深夜の仙界渓谷に悲しく響く。
次回の投稿は17日の日曜日を予定しています。