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第307話 睦美と智鳴

 もぐもぐ。あぐあぐ。もぐもぐ。ごっくん。


『はぁ~。久し振りの睦美ちゃんの手料理美味しいよぉ~。』


 テーブルに並べられたワシの料理を嬉しそうに頬張る智鳴。

 余程、腹が空いていたのか料理は次々と彼女の口の中に運ばれ瞬く間に空になった皿が積み重なっていく。

 その様子を見守るワシ。

 そして、フェリティス。母様。父様。


『ふぅ。お腹いっぱいだよ。ご馳走さま。ありがと~睦美ちゃん。』

『あ、ああ。随分と食べたな…。』

『睦美ちゃんのお友達凄いわね。』

『その細い身体の何処に入って行ったのだろうね…驚いたよ。』


 母様と父様が智鳴の食いっぷりに若干引いておるぞ。

 現在、テーブルを囲んでいるワシ等。

 智鳴と対面するようにワシ。ワシの膝の上にフェリティス。

 両隣に母様と父様が座っている状態じゃ。


『落ち着いたか?。』

『うん。ごめんね。ご馳走になっちゃって。力使いすぎちゃって。それに、転生してから…まともなもの食べてなかったの。合流した仲間達もあまり料理が得意じゃなくて。』

『仲間…か…。』


 敵に取り囲まれ絶体絶命のところ、智鳴によって救われた。

 智鳴の乱入のお陰で黒牙達は撤退を決めたようじゃ。正直、助かったのぉ。


~~~~~


『げほっ。げほっ。皆さん無事ですか?。』

『え、ええ。何とか…。ボロボロだけど…。』

『こっちも…無事だ…。くそっ。滅茶苦茶だ。こんな広範囲を焼き尽くす攻撃をしてくるなんてな。異神の奴…。』


 優、彗、修の三人は全身に火傷や切り傷を残し服は焦げてボロボロな状態じゃった。

 しかし、致命傷は負っておらなかった。

 ワシはその姿を見て安堵した。死んでいなかった。それだけが嬉しかった。

 奴等は、前世の記憶を持っているようじゃ。

 じゃが、その記憶は真実とは別のモノに書き換えられてしまっている。

 彼等の中でワシは憎き敵という認識。じゃが…あの共に過ごした日々は今もワシの中にある。


『くっ…異神の増援だと?。聞いていない。どうする?。エレラエルレーラ?。』

『私は撤退を推奨。これだけの規模の攻撃を持つ異神が加わっては此方も被害が出る可能性があるから。あと、再び厄災が発現する可能性がある。そうなってしまうと、私は【私】を使わざる得ない。そうすれば確実にオリジナルの絶刀が現れる。その場合、必ず誰か死ぬことになる。』

『……………。ちっ。任務失敗か。』


 三人と合流する黒牙とエレラエルレーラ。


『睦美ちゃん!。良かったよ~。無事で~。』

『わっぷ!?。』


 久し振りの再会。

 抱きつかれ、顔が胸に埋もれる。

 

『わあああああぁぁぁぁぁ~~~~~ん。会いたかったよ~~~~~。』


 嬉しさに更に腕に力が入る。

 灯月や代刃程でないにしろ、それなりに ある 智鳴の胸が押し付けられ呼吸が…。


『ぎぶ…ぎぶ…ぶぶぶ…。』

『あっ…。睦美ちゃん?。』


 全身の力が抜け視界が真っ白に…。って、こんなことをしている場合ではない!。


『これ!。智鳴!。離れんか!。戦闘中じゃ!。』

『あっ…そうだったね。忘れてたよ。』

『おいおい…。』


 智鳴と共に黒牙達へと向き直る。


『新たな異神か…。』

『初めまして、異神。貴女は、狐の神のようね。』


 黒牙とエレラエルレーラが前に出る。


『うん。そうだよ。貴女達…が睦美ちゃんを酷い目に遭わせた私達の敵であってる?。』

『そうね。私達は貴女達の敵。その認識で間違いないわ。』

『そうなんだ。なら、倒しちゃっても良いよね?。』


 智鳴がいつの間にか取り出した黒い鉄扇を頭上に掲げると再び先程の炎の塊が出現する。


『マジかよ…。あれを連発出来るのか…。』

『ヤバイわね…。』


 これ程の力を…。


『ねぇ。一つお願いがあるのだけど。』


 しかし、エレラエルレーラは智鳴の力を前に冷静に話し掛けてくる。


『何?。』

『この場は、私達を逃がしてくれないかしら?。』

『ん?。どういうこと?。敵なんだよね?。』

『ええ。そうよ。けど、お互いに万全な状態ではないでしょ?。貴女がその攻撃を仕掛ければ私も全力で応対しなければならなくなる。そうなれば、この中の何人かは確実に死ぬわ。私達かもしれない、貴女達二人のどちらかかもしれない。そんなギャンブルみたいな戦いをこの場でする気はないのでしょ?。』

『………貴女は誰?。神眷者じゃないよね?。神獣でもない。………誰かの神具?。そんな気がする。』

『あら?。勘が鋭いのね。正解よ。私は貴方の知っている絶刀の複製体。』

『絶刀…閃ちゃんの…神具…。』


 現状を理解した智鳴が顔をしかめる。

 どうやら、彼女のヤバさが分かったようじゃ。


『その代わり、逃がしてくれれば、【この場にいる不死鳥】は諦めるわ。手軽に手に入れようと思ったのだけど、どうやら他の方法よりも茨の道だったみたいだから。』

『………良いよ。けど、次会った時は手加減しないからね。』

『ええ。私達もそのつもりよ。じゃあね。』


 炎を消す智鳴。

 その様子を確認したエレラエルレーラは空間を切り裂き歪みの穴を開いた。


『さようなら。また会いましょう。異界の神。』

『ちっ…。次はお前達を討ち滅ぼす。』

『それではお姉さん方。またお会いしましょう。』

『………次は殺す。』

『ええ。覚えてなさい!。私達の恨みを!。』


 次々に空間の穴に入っていく面々。


『彗…。修…。』

『ああ。あの最後の二人…見覚えがあると思ったら。やっぱり彗ちゃんと修君なんだね。』

『ああ。どうやら、転生していたらしい。じゃが、ワシの…ワシ等と共に過ごした時の記憶は失われてしまったようじゃ。いや、それよりも酷い。別の記憶を植え付けられているみたいなのじゃ。』

『それは…いったい誰が?。』

『分からん。二人の前にいた青年も二人と同じことをされたようじゃ。豊華の話をしていたからのぉ…。奴等は仮想世界でワシ等が使っていた神具を扱っておった。』

『えっ!?。それって…何が起きているの?。』

『分からんよ。そんなこと。じゃが、敵であることは事実のようじゃ。はは。複雑じゃな。共に過去を過ごした者達に恨まれ妬まれ、あまつさえ殺意を向けられるとはな…。』

『睦美ちゃん…。あのね!。あっ!?。』

『智鳴?。』


 急に倒れる智鳴。


『どうした!?。大丈夫か?。』

『睦美ちゃん…。』

『ああ。どうした。何処か具合が悪いのか?。』

『えへへ。お腹空いちゃった。』

『はえ?。』


~~~~~


『ごめんね。全力で走ってきて、即座に戦闘だったでしょ?。それにいきなり切り札の連続使用だし。流石に限界だったの…。』

『全力で…。ワシの為にか?。』

『うん。勿論だよ。胸騒ぎは止まらなかったからね。心配だったの。けど、うん。無事で本当に良かったよ。睦美ちゃん。』


 嬉しそうに、そして、心の底から安心したように笑顔を向ける智鳴。

 変わらんな。コヤツは…。真っ直ぐで、全力で、不器用で、優しい。


『ワシを迎えに来るのは、いつもお前のような気がするな。仮想世界の時も、今回も。』

『えへへ。でしょ?。家族なんだから当然だよ!。』

『そうか…。ん?。』


 その時。

 不意に腕に力が加えられた。

 見ると、膝の上のフェリティスが智鳴を見ながら警戒をしている?。いや、単なる人見知りか。無理もない。来客などワシ以外に敵しか来ていない。フェリティスにとって外の者達は皆危険な存在という認識なのじゃろうな。


『お姉ちゃん…。この人、お姉ちゃんのこと家族って言った。』

『ああ。そうじゃな。同じ釜の飯を食らった仲じゃ。もっと言えば同じ男性を好きになり、同じ恋人となった同士じゃな。』

『っ!?。やめてよ~。そんな紹介の仕方~。照れちゃうよ~。』

『お姉ちゃんと同じ人…。お姉ちゃんが話してくれたお兄ちゃん?。』

『ああ。そうじゃ。ほれ、ちょっと甘えてみぃ。』


 ワシは膝の上のフェリティスを床に下ろし背中を押して智鳴の方に向かわせた。


『………。』

『初めまして。智鳴です。宜しくね。フェリティス君。』

『は、はじめまして…ふぇ…フェリティスです…。よ…ろしく。おねがいします…。』


 震える身体。震える声で挨拶を交わすフェリティス。


『ねぇ。睦美ちゃん。この子は睦美ちゃんの弟さんなの?。』

『ああ。そうじゃ。大事な大事な弟で家族じゃ。』

『そうなんだ。なら、私とも家族で弟だね。』

『え!?。何で?。』


 驚くフェリティス。


『だって、私も睦美ちゃんと家族だもん。じゃあ、睦美ちゃんの弟のフェリティスちゃんも私の弟だよ。ねぇ。ほら、お姉ちゃんって言って。』

『え!?。え?。えと…。』


 困惑の表情でワシを見るフェリティス。

 はぁ…仕方がないのぉ。


『呼んでやれ。フェリティス。』

『あ…う、うん。あの…えっと…ち、智鳴…お姉ちゃん…。』

『ん~~~~~。可愛いいいいいぃぃぃぃぃ~~~~~。宜しくね!。フェリティス君~!。』

『わぶっ!?。』


 再会の時のワシと同じように抱きつかれるフェリティス。

 そして、同じように胸に埋もれる。


『うぶぶぶ…。』


 苦しそうに、踠くフェリティス。


『はぁ…。智鳴。そろそろ解放してやれ。フェリティスが窒息してしまうぞ。』

『あっ!?。ごめんね!。つい…。』


 智鳴の抱きつき癖も変わっとらんなぁ。


『ううん。大丈夫…お姉ちゃんより柔らかくてビックリしただけ。』


 イラッ...。


『フェリティス…。私との約束。お忘れですか?。』

『ひっ!?。はうっ!?。わ、忘れてないよ。お姉ちゃん…。もう…言わないよぉ…。』

『なら、良いのです。駄目ですよ。女性の胸に対し感想を述べては…。』

『は、はい…ごめんなさい。』


 ワシだって柔らかいもん。


『こほん。じゃあ。私達も改めて自己紹介ね。初めまして、智鳴さん。私はフェリス。睦美ちゃんの母です。』

『僕はフェネスだ。睦美ちゃんの父親だね。』

『あ、はい!。初めまして、智鳴です!。』


 深々と、勢い良く頭を下げる智鳴。

 母様と父様には既に今回の襲撃のことを話してある。

 二人とも不安な顔をしていた。何とかしなくては…。


『あれ?。フェリティス君のご両親はお二人じゃないんですか?。』

『フェリティスは私の姉夫婦の子なの。今は隣の家で待機してもらっているわ。』

『あ、そうなんですね。理解です。』

 

 先程のワシの態度に怯えたフェリティスは智鳴の服を掴み後ろに隠れておる。


『フェリティス君。可愛いね~。』


 フェリティスを持ち上げて膝に乗せる智鳴。


『智鳴お姉ちゃんも凄く綺麗。』

『え?。そ、そうかなぁ~。えへへ。』


 どうやらフェリティスと打ち解けてくれたようじゃな。


『さて、話を戻すか。智鳴の現状を教えてくれんか?。』

『うん。良いよ。えっとね。』


 智鳴からの会話でこの赤国で何が起きているのかを知ることが出来た。

 まず、仲間の情報。

 智鳴は今、知果、時雨、威神と行動している。

 能力で赤国の内部事情を調べ戦いを仕掛けた。

 目的は、赤国で戦う者達の人となりや思い、繋がり、真意を確かめること。

 何の為に戦い。何を為そうとしているのか。

 

 そして、その先にある目的として、ワシ等、仮想世界からの転生者達に明確な敵意を持っている者を探し、炙り出すことがある。


 どうやら、赤国は一人の絶対的な王に対し皆の心が一つになっているようじゃ。

 大切な王の為に命を投げ出す覚悟を持って戦う者達。それが赤国の戦士達の意思だったようじゃ。

 智鳴の説明を聞く限り、赤国は敵ではない。

 いや、敵ではなくなったと言った方が正解か。

 現在、赤皇は赤国に捕らえられている。

 しかし、赤国の王と接触し互いのことを知ったからこそ、赤国はワシ等に対して考えを改めたそうじゃ。

 じゃが、あくまでも互いが敵ではないと認識した程度の関係性。

 特に赤国側からすればワシ等は未知の存在であろう。

 慎重になるのも、手探り状態なのも仕方がないこと。

 絆を深めるまでには至っていない。


 赤皇の行動がこれからの赤国との関係に大きな影響を与えることじゃろうな。


 そして、真の敵は王の近くにいる神。

 マズカセイカーラと名乗るリスティナの姉妹。其奴が敵であることに間違いないらしい。

 そして、今回襲撃してきた奴等。黒牙達。

 情報では黒国に属しているらしいが、黒国は明確に敵なのじゃろうか?。

 黒牙の独断か。はたまた、国全体が敵なのか。

 彼等に関しての情報は智鳴でも集められていないという。


『そう言えば、基汐には会ったのか?。』

『ううん。分身と接触はしたけどね。今は地図でいうと、王宮を挟んでこの谷の反対側。仙人達が住む仙界渓谷って場所にいるみたい。途中で私の狐さんが見失っちゃって、基汐君達のその後は分からないけど。』

『そうか…。ん?。達?。』

『うん。基汐君はね。今、女の子と一緒に行動してるの。』

『女の子…ワシの知っている奴か?。』

『うん。名前くらいは聞いたことあるんじゃないかな?。元【紫雲影蛇】の紫音って娘。』

『紫音…。確かに聞き覚えが…。しかし、何故じゃ?。あのギルドとは敵同士だった筈じゃが?。』

『それが、この世界では仲間みたい。』

『そうなのか?。』

『何でもトゥリシエラちゃんにこの世界のことを私達に伝える役目を与えられたんだって。仮想世界での記憶も取り戻して、神具も扱えるようになって。』

『トゥリシエラか…。』

 

 自分の胸に手を当てる。


『いや、そうだ。トゥリシエラの記憶にあるな。そうか。リスティナの計らい。奴等を伝言役に…。』

『こんなところかな?。睦美ちゃんのことを聞いてもいい?。』

『ああ。と、言っても大した長い話ではないがな。』


 ワシはこの世界に転生してからのことを包み隠さず話した。

 トゥリシエラと同化したことも。それにより能力を取り戻したことも。

 二度の襲撃があったことも。敵の狙いは十中八九、不死鳥から得られる羽や灰じゃ。


『そっかぁ~。不死鳥の羽とか灰は貴重品だもんね。狙う人達がいても不思議じゃないか。』

『ああ。ワシは家族を守るために残った。基汐と別れてな。じゃが…。』


 今回の襲撃。

 正直、ワシ一人では殺られていた。

 自分の無力さが苦しい。悔しい。


『私は睦美ちゃんを迎えに来たの。敵が明確になった今は仲間達が散り散りになっている場合じゃないから。』

『じゃが…ワシには…。』


 守らなければいけない家族がいる。


『なら、一緒に行こうよ。私達と一緒の方が安全だしね。私が皆を運んであげる。全部が終わったら、またここに戻れば良いでしょ?。』

『確かに…な。』


 その方法しか思いつかないのも事実じゃが。


『母様。父様。どう思う?。』

『私は大丈夫よ。ちょっとした旅行だと思えばへっちゃらよ!。』

『そうだね。智鳴ちゃん達には迷惑を掛けてしまうけど。ここに残っても睦美ちゃんの負担になってしまう。なら、ついていくよ。』

『姉さん達には私達から説明するわね。』

『僕達は準備が出来ればいつ出発しても構わない。睦美ちゃん達で計画を立ててくれるかい?。』

『ああ。任せてくれ!。母様。父様!。』


 すんなりと受け入れてくれて助かる。

 あとは伯母様と伯父様の説得。そして旅の準備を始めるだけじゃ。


 そして、三日後。


『じゃあ、呼ぶよ~。えい!。』

『わっ!?。おっきい、狐さんだね。』

『凄いわね。もふもふ。』

『はは。フェリティス。気をつけてね。』


 智鳴が神具を振るうと五体の狐が召喚される。

 その大きさは背中に二人は乗れるくらいじゃ。

 楽しそうに狐によじ登るフェリティスと、柔らかい毛に顔を埋める伯母様。


『さぁ、行くよ。ちょっと長い旅になるけど我慢してね。』


 この谷にいることが危険であることを説明すると、伯母様と伯父様もワシ等と一緒に行くことに賛成してくれた。

 フェリティスと別れずに済んだことに胸を撫で下ろす。

 恐らく、これから戦いが始まる。

 いち早く、フェリティス達が安全に過ごせる場所を確保せねばなるまい。


『お姉ちゃんと一緒。』

『ああ。ずっとな。』


 フェリティスも。母様も。父様も。伯母様も伯父様もワシが全員守ってみせる。

 今度は負けん。絶対にじゃ。


 そう決意を固めて狐の背に乗った。

 フェリティスを抱きしめる形で手綱に手を掛ける。


 智鳴を先頭に。ワシとフェリティス。

 母様と父様。伯父様と伯母様。

 最後の一匹に荷物を乗せる。


『さぁ、出発~。』

『出発~。』


 智鳴とフェリティスの掛け声でワシ等は赤国の中心へと走り出した。


ーーー


ーーー基汐ーーー


『らあっ!。』


 右の拳。上段。狙いは俺の顔面。

 速い!。

 だが、分かる。

 視覚で追うな。感じろ。

 奴の身体から発せられる殺気。

 空気の動き。エーテルの流れ。気配を…感じ取る。

 それらを読み取り、その先にある奴の虚像を感知。僅かに見える奴の動作の先に合わせて身体を傾ける。

 結果、攻撃を紙一重で躱すことに成功。

 そこに視覚からの情報を上乗せすることで動作の狭間にある隙を見つけることが出来る。


『また避けやがった!?。』

『次は俺の番だ!。』


 狙いは、がら空きのボディ。

 エーテルを込めた拳を放つ。


『はっ!。見えてんだよ!。』

『ぐっ!?。』


 俺の攻撃も紙一重で躱された。

 同じような動き。恐らく、同じ方法で。


『まだまだ行くぜ!。』


 拳と蹴りの連打。

 俺も負けじと反撃に移る。

 互いの攻撃…いや、気配の読み合い。

 お互いの全ての攻撃が紙一重で躱され続ける気の読み取り合戦。

 一つ一つの攻撃が全力の一撃。当たれば問答無用で身体が破壊される威力を秘める。

 しかし、仙技により無駄が省かれた接戦。端から見ればダンスでも踊っているような、流れる水のような、美しさすら感じる舞のように互いの技量は拮抗していた。


『ちっ…。埒が明かねぇ。』


 先に攻撃を止めた男。紅陣。

 殺気を身体の奥へと押し込み、俺から距離を取る。


『基汐。お前、その仙技、ここで習ったのか?。それとも最初から?。』

『ここで、飛公環のお爺さんに教えて貰った。』

『っ。ああ。あの爺にか。しかし、習い始めてそこまでの日数は経っていないよな?。』

『ああ。一週間くらいかな。』

『ははは。一週間で俺と互角の技量かよ!。面白ぇな。』


 何が面白いのか、大袈裟に高笑いをする紅陣。


『はぁ…。爺が認めたなら…お前等はそう…なんだろうが、此方にも神眷者としての立場と役割があってな。引けねぇんだわ。』

『これは…。』


 紅陣の周囲にエーテルが集まっていく。

 それらは、彼自身から放たれたエーテルと合わさり混ざり融合していく。

 この感じ…神具の発動か!?。


『はあああああぁぁぁぁぁ…。』


 やがて、エーテルが彼の身体の中に再び吸収された。

 そして…変化が起きる。

 全身の肌に歪な模様が浮かび上がり、同時に、背中にエーテルが輪のような物体を創造する。

 背後のリングから溢れたエーテルは彼の両腕に流れ龍の姿を象ったエネルギーを作り出した。


『待たせたな。これが、俺の神具。【鬼紋神痕・龍鎧闘気 オキジス・ドラグコード】だ!。』


 赤国で戦った群叢以上のエーテル。

 破壊的なエーテルが彼の周囲を雷のように迸る度に地面に亀裂が入っていく。

 

『お前も出せよ。持ってんだろ?。まさか、神具も使わずに俺に勝とうなんて思ってないよな?。』

『いや、思ってないさ。ただ、実際本気で戦うのは転生してから始めてだから。自分の全力がどんなものかを知れるいい機会だと喜んでいたところさ。』

『へぇ…じゃあ、見せてみろよ。お前の全力をよ!。』

『ああ。君となら本気でやれそうだ!。』


 神具…発動…。

 竜鬼の持つ膨大なエーテルで身を包む。

 全てを破壊し消し飛ばす力。溢れんばかりのエネルギーを効率良く解放する制御装置。

 自らの全力に耐えられる強固な鎧。

 それが、俺の神具。


『神具。【竜鬼神鎧帝甲 ラグゼル・ドラヴァゴストゥレザ】。』  


 鬼の角を持つ龍を模した深紅の鎧。

 かつて、仮想世界で神具だった宝玉を全身の至る箇所に埋め込んだ竜鬼の力を遺憾無く発揮できる新たな神具だ。


『はっ!。すげぇじゃねぇか!。期待以上だぜ!。』

 

ーーー天候すら変化させる異常なエーテルの波動。

 空が黒い暗雲に包まれ、黄金の雷が地表へと降り注ぎ地面を亀裂を走らせる中、竜鬼の神がその巨大な翼を翻し顕現する。

次回の投稿は14日の木曜日を予定しています。

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