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第305話 睦美 VS 黒牙

 赤と黒の輝きが線となり、遥か上空に光の絵を描く。

 時に交差し、時に衝突し、時に弾ける。

 二つの輝きの衝突によって空には花火のように炎の花が咲いて乱れ散っていた。


 【不死鳥神】睦美。

 【八咫烏神】黒牙。

 

 両者の空中戦は今、拮抗していた。

 互いの実力を探りながらの戦い。戦闘は未だに序奏の段階だった。


 黒牙の漆黒の翼から繰り出されるエーテルによって硬質化された羽の弾丸に対し、神具【極炎生命輪 フェニキシル・ソル・フェフィア】の大小様々なリングを空中に展開した睦美。

 炎の弾丸を広域に連射し、黒羽を撃ち落としていく。


『はっ!。』


 黒羽に紛れ距離を詰める黒牙。

 手にする黒い棒状の武器を振り回す。


『なんの!。』


 リングを巧みに使用し黒牙の武器を防ぐ睦美。

 数度の打ち合いの中で黒牙の持つ黒い棒が神具であることを理解した睦美は警戒を強める。

 そして、自身を中心に神具を起動。

 リング内に存在する生物の 魂 を燃やす炎の壁を広範囲に発動した。


『これは?。っ!?。身体が燃える?。』

『そうじゃ。ワシの神具は魂を燃やす。生物である以上、この神具から逃れる術はないぞ!。』


 指先、爪先から発生した炎が身体全体に燃え広がる。


『成程。聞いていてた通りだ。あの女…何処まで知っているのだ…。』

『あの女?。』

『ふっ。この場に俺がいる理由だ。とある女に助言を貰ってな。ここにいる異神には俺が有効だと語っていた。確かに。この能力が相手であれば、火車程度では太刀打ち出来まいよ。』

『火車だと!?。奴もこの世界にいるのか?。』


 睦美にとって思い出したくない相手。

 仮想世界で端骨と共に自分と瀬愛を拐った相手の名だ。そこから端骨によって地獄のような実験をされた。睦美にとっての心の傷だった。

 

『ああ。奴は仮想世界で赤皇と戦い、奴の神具を受けた。お前なら知っているだろう?。奴の神具に喰われた者は獄炎界へと送られる。つまり、この世界の赤国の遥か地下にある火山地帯だ。』

『っ!?。そういうことか、奴は転生ではなく直接転送させられこの世界にいるのだな。』

『くく。ああ。その通りだ。だが、今の奴ではお前には勝てないだろうな。その神具の能力であれば火車の化物じみた再生能力を持ってしても意味を為さない。』


 魂を燃やす。

 如何に肉体が再生しても魂が燃え尽きれば、その生命は死を迎える。

 

『じゃが、何故、お主は耐えているのじゃ?。』

『簡単なことだ。同種の能力で相殺しているだけだ。』

『っ!?。』


 黒牙の身体から放出されるエーテルが黒牙の神としての在り方と反応し黒い炎をその身に纏う。

 睦美の炎を掻き消し、漆黒の炎が燃え盛る。


『しかし、相殺するのがやっとか…。流石はクロノ・フィリアメンバーの神具だ。厄介なことこの上ない。』

『良く言う。余裕が見えすぎじゃ。』

『くくく。そうかい。なら、少し本気を出すとしよう。神具。起動。』


 黒い棒を眼前に構え、そこに巻き付いていた布と鎖を解く。

 布は形を変え棒の先端から伸び鎌の刃へ、鎖は柄の先端から伸び、その先には鳥類の爪に似た刃が取り付けられていた。

 同時に頭上には、どす黒く嫌悪感すら感じる禍々しいオーラを放つ巨大な漆黒の太陽が出現した。


『見せよう。我が神具【純黒翼・覇炎死葬光 カリュラメザ・ディべテェモース】を。』

『黒い…太陽…。』


 何よりも眼を引く漆黒の疑似太陽。

 睦美が一目見た瞬間に疑似太陽の異常性に気が付く。

 

『さぁ、再開だ。どちらの炎が上か試してみよう。』


 疑似太陽に周囲のエーテルが吸収される。

 そして、黒い炎が鎌へと集まり、攻撃力を高めた。

 黒牙が上昇し上空からの急降下。鎌を振り下ろし睦美へと攻撃を仕掛ける。


『くっ!。』


 神具のリングを複数個、腕に装着し炎の放出をコントロールすることで炎の剣を作り出し迎撃する。


 剣と鎌の激突。

 空中戦特有の縦横無尽の動きでの戦闘が再び開始される。

 

『随分と器用に動くではないか?。それが元ギルドマスターの力か?。』


 自身の高速飛行も相俟り振り回される鎌の刃が的確に睦美の身体を襲う。

 その斬撃を紙一重で躱し、僅かな隙から剣で攻撃を仕掛ける。


『伊達にクロノ・フィリアの前衛ではないわ!。』

『そうか。ならば、これならどうだ。』

『っ!?。』


 鎌を翳すと脈動を開始する疑似太陽。

 爆発にも似た炎の放出により、細かく散った炎が舞い散る羽のように睦美へと降り注ぐ。


『この炎の羽は?。』


 空中にいる睦美を囲うように舞う羽の炎。


『この攻撃は避けられるか?。』


 羽の炎は形を変え、各々が鎌の刃へと変化。

 全方向から鎌の刃が襲う。


『ぐあっ!?。』


 全身を斬り裂く刃に睦美が体勢を崩した。

 炎の翼も破壊され空中から落下する。


『追撃する。』

『っ!?。』


 鎌の一撃を咄嗟に腕でガードする。

 防いだ腕は無惨にも切断され空を舞う。


『無駄に終わったな。』

『うぐっ…。』


 黒牙に蹴られた睦美が地面に叩きつけられる。


『さぁ。終わりだ。』


 胸を踏みつけられる睦美が苦悶の表情を浮かべた。


『腕が動かん…これは…霊体への直接攻撃か?。』


 切断された腕は不死鳥の能力で再生した。

 しかし、再生した腕が睦美の意思で動くことはなかった。

 まるで糸の切れた人形のように垂れ下がる腕に睦美は黒牙を睨む。


『ああ。貴様と同じく魂、霊体に直接干渉し攻撃するのが俺の能力だ。』

『くっ…同じにするでないわ。貴様…どれだけの命を奪った?。』


 睦美の能力は他者の魂、霊体を燃やし対象の命を奪うことが出来る。

 そして、黒牙の能力も同様、他者の魂を燃やすこと出来る。

 しかし、その本質は違う。

 黒牙の漆黒の太陽。

 あれは生命を燃やした炎を集束させたもの。

 つまり燃やされた魂の牢獄だ。

 そして、大きさ。数十メートルもある太陽を形成するには数え切れない量の生命の魂を集める必要がある。

 他者の魂を燃やすことで発生するエネルギーを使用して攻撃する。それが黒牙の能力の主となる部分だった。


『くくく。気づいたか?。良いだろう。冥土の土産に教えてやる。この世界にも人間の種族がいる。数だけ多い無能な種族。それが一般認識だな。』

『人間…。』


 その言葉に閃の姿を脳裏に浮かべる睦美。


『人族と呼ばれている奴等は、他国から奴隷として扱われ売買されているんだとさ。』

『………。』

『くくく。面白い話を教えてやるよ。青国は人族を研究の為の実験動物にし、白国は奴等を大量虐殺して楽しんでいるんだとさ。えげつないだろ?。この世界の奴等もよ?。』

『っ!?。まさか、貴様。』

『くくく。魂は無駄なく回収させて貰った。見ろよ?。あの憎悪や怒り、悲しみなどの負の感情がせめぎ合って埋め尽くされ蠢いてる俺の神具を。』


 黒い炎が揺らぐ疑似太陽。

 それは多くの命を犠牲にした最悪の神具だった。

 黒牙の心中を表現する禍々しさを映し出す。


『さて、戯言は終わりだ。貴様の魂を切り刻み、あの太陽の一部にしてくれる。』

『そんな自由を許すと思うか!。』

『っ!?。ぐっ!?。』


 倒れる自身の真下にリングを出現させリングの中へと落ちる睦美。

 同時に背後に展開したリングへと転移し黒牙を蹴り飛ばす。


『ぐっ…今のは驚いた。そのリング。転移機能まで備えているのか。』

『驚いたか?。面白いじゃろ?。ほぉれ。ついでじゃ。あの醜い太陽を破壊してやる!。神技!。』


 複数のリングを前方に集めエーテルを集中する。

 狙いを疑似太陽に定め砲撃の構えをとる。


『神技か。良いだろう。ならば此方も。神技!。』


 疑似太陽の活動が活性化し、自転する速度が加速していく。

 徐々に中心のコアが現れ、その中心に高密度のエーテルが込められた炎が一点に集まっていった。


『【神翼輪・魂転炎葬砲】!。』

『【黒陽呪炎砲牙葬】!。』


 互いの炎を収束した砲撃。

 真紅の炎と漆黒の炎。互いの切り札が衝突した。

次回の投稿は7日の木曜日を予定しています。

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