第301話 神具な二人
ーーー時空の狭間 時空牢ーーー
満天の星空のように輝くエーテルの龍脈。
星の中枢を見渡せる次元の狭間に用意された空間。
絶対神によって意図的に創造された、現在の世界の中心であるリスティールにとって余りにも強大な規格外の存在を一時的に幽閉する場所。
『くそっ…また、救えなかった…。』
元いた空間に戻ってきた少女。
暗い宇宙に星空が輝く片隅の小部屋。
黒く長い髪。真紅の瞳。黒いセーラー服と【絶】の文字が刻まれた羽織りを肩に掛けた少女。
その正体は、閃の神具である絶刀。
名を【時刻ノ絶刀】と呼ばれていた。
肉体を手にした今の彼女はセツリナと名乗っていた。
セツリナが強く握った拳で床を殴り付ける。
この場所に幽閉されたのは、閃が転生したのとほぼ同時。
『赤皇、無事だと良いが。思い通りに顕現できないこの身体が憎い。』
『お帰り~。随分と早かったわね~。』
そんなセツリナを迎えるクロロ。
クロロ・ア・トキシル。
燕を時間神に覚醒させたことで絶対神によって幽閉された彼女は、この時空の狭間でリスティールの様子を観察していた。
いや、それしかすることがなかったのだった。
『ふぅ~。ふっ。ふぅ~。ふっ。それにしても今回は早かったわね。三十分も経ってないじゃない?。ふぅ~。んっ。んっ。ふぅ~。』
『ああ、黒の王は私がリスティールに顕現する条件を導き出した。もう奴が条件を踏むことはないだろう。』
『はぁ~。ふっ。はぁ~。ふっ。それにしても厄介な条件よね。【リスティールで自分以外の絶刀がクロノ・フィリアに属する者に向けられた場合、絶刀に対する抑止力として顕現出来る】だっけ?。んっ…。んんーーー。はぁ…。ふぅ…。』
『ああ、それも二撃目の直後だ。鞘から解き放たれた絶刀が再び納刀されるまでの間という限定的な条件でな。』
『あらら。じゃあ、一撃は喰らっちゃうじゃない?。んーー。んーー。んーー。』
『ああ。今回も赤皇は一撃を受けてしまっていた。故に、即死………一撃で殺されてしまうと私は仲間を助けることが出来ない。くっ…絶対神…許せん。』
『アンタはまだ良いじゃない。ふぅ…。はぁ…。ふぅ…。はぁ…。条件つきでもリスティールに降りられるんだから。私なんて、ご主人様に呼ばれない限り向こう側に行けないんだから。ふっ。ふっ。ふっ。ふっ。ふっ。』
『むっ…確かに、お前に比べると私はまだ恵まれている方か?。すまなかった。お前の気持ちも考えずに愚痴を溢してしまった。』
『別に良いわ。はぁ…。お互いに待つことにしましょう。私達が【ご主人様に会える】その時まで。』
『ああ、そうだな。それよりもお前は先程から何をやっいるんだ?。』
クロロは合掌した状態で腕を伸ばしたり、スクワットをしたり、つま先立ちして縦に伸びをしたり、腕立て伏せをしたりと先程から忙しなく動いている。
不思議に思ったセツリナが尋ねた。
『何って。柔軟ストレッチよ?。お腹や腰回りを引き締めて美しく。大胸筋を鍛えてバストアップ。骨盤の歪みを整えて引き締め持ち上げて理想のヒップの形を手に入れるわ!。』
『何故。わざわざその様なことを?。私の目から見ての感想だがお前の身体は凄く女性らしく綺麗だと思うが?。ふむ、美しいと言い替えた方が良いか。』
『ふふ。ありがと。けどね。私よりもスタイルの良いアンタに言われても嬉しさ半減なんだけど?。』
『むっ?。そうか?。私など特に何もしていないが?。ここにいる間もひたすらに刀を振り続けていた。』
『ねぇ?。喧嘩売ってます?。何もしてないでその綺麗さとか?。ズルくない?。』
詰め寄るクロロ。
『む…意識したことはなかったのだが…。私の見た目はお前が羨む程のモノなのか?。』
『その通りよ!。何よこの大きな胸は!。』
『なっ!?。ななな何をする!?。』
セツリナの胸を鷲掴みにするクロロ。
彼女の手のひらには収まりきらない柔らかな胸が指の隙間から溢れ形を変えた。
『それにこの形の良い引き締まったお尻。』
『んぎゃあああぁぁぁ!!!。揉むな!。掴むな!。』
後ろに手を回し両手でセツリナのお尻を掴み揉み持ち上げるクロロ。
その瞳には殺気が込められ、逃げようとするセツリナを押し倒した。
『きゃうっ!?。』
『あら?。いつもはガサツなアンタも可愛い声が出せるじゃない?。』
セツリナに覆い被さるクロロ。
セツリナの腰の上に跨がり、彼女の両手を手で掴み顔を覗き込む。
『ああ~。もうっ!。ムカつくくらい可愛い顔ね。』
『いや、お前も十分に可愛いと思うんだが…しかし、お前は何がしたいんだ?。そもそもの話しだが…。』
『何よ?。』
『私達はご主人様の神具だ。』
『ええ。そうね。その通りよ。』
『私達の外見は完成された肉体だ。本来は神具でしかない私達はご主人様のイメージよって肉体を与えられている。つまり、運動などで外見が変化することはない。』
『っ!?。そ、そうだったわ…。そうよね…。忘れてたわ…。うぅ…ご主人様ぁ…。』
セツリナの胸の上で泣き始めるクロロ。
『しかしな。で、あればだ。私達のこの姿は、ご主人様の趣向が反映されているのではないか?。』
『はっ!?。つまり?。』
『お前のその姿も、ご主人様の理想とする女性としての好きな姿ということではないだろうか?。』
『そう思う?。』
『ああ。可能性は高いと思う。』
『~~~~~。セツリナ~。貴女良い娘ね~。』
『お、おい!。やめろ!。』
今度はセツリナの胸に顔を埋めるクロロであった。
『はぁ~。そうよね。ご主人様は私の姿を好きに決まっているわ~。』
『はぁ…やっと解放された。』
セツリナから離れ、その場でクルクルと回り全身で喜びを表現するクロロ。
溜め息をして起き上がるセツリナ。
『ふふ。自信がついたわ。これでいつでもご主人様の夜のお相手が出来るわ~。はぁ~。早くお会いしたい。抱いて貰いたい。あわよくば肉体の関係を…ああ~。子供の名前は何にしようかしら?。』
『肉体の関係?。お前はご主人様と戦いたいのか?。それに、戦うと子供ができるのか?。』
『はい?。』
『え?。』
『ん?。人の姿を手に入れたのよ?。愛しいご主人様に抱いて欲しいと思うのは自然なことじゃない?。それに、男と女ですもの。例え、本質は神具のこの肉体でも人の身体であることには変わらないじゃない?。なら、子供だって作れちゃうんじゃないのかしら?。』
『まぁ、確かに抱きしめて欲しいな。頭も撫でてくれると更に嬉しい。しかし、それだけで子供が作れるものなのか?。口づけをするわけではないのだろう?。』
『ん?。』
『え?。』
『ねぇ、セツリナ。』
『何だ?。クロロ?。』
『貴女は子供がどうできるのか知っている?。』
『勿論だ。口づけをした男女の元にコウノトリがやってきて男女襲い血液を奪う。血液を奪い取ったコウノトリは身体の中で血液が合成し、コウノトリが生んだ卵の中から男女の遺伝子が融合した子供が作られ生まれるのだろう?。』
『それ、本当にコウノトリなの?。化物じゃない。』
『ち、違うのか?。では…子供とは…。』
『違うわよ!。てか、嫌よそんなの!。ロマンも何もないじゃない!。はぁ…ちょっと耳を貸しなさい。』
『む?。ふむ。』
ゴニョゴニョ。ゴニョゴニョ。
『ふえ?。はえ?。』
ごにょごにょ。ごにょごにょ。
『なっ!?。うへ?。そ、そそそそんなことを…男女で!?。』
クロロからの話を聞き終えたセツリナ。
顔を真っ赤にし俯いたまま口をパクパクさせ頭からは蒸気が噴き出していた。
『は、ハレンチだぁ…。』
『ハレンチとは聞き捨てならないわね。』
『だが、その様な行為は…私には…。無理だぁ…。』
『セツリナ。』
涙目のセツリナの肩を掴み真っ直ぐとその瞳を見つめるクロロ。
『想像してみなさい。』
『想像?。』
『目を閉じてご主人様を思い浮かべなさい。』
『ん?。うん。』
素直に目を閉じるセツリナ。
『想像した?。』
『うん。』
『ご主人様の太く筋肉質で逞しい腕が自分の背中に回され強引に引き寄せられる。』
『きゃう!?。それは照れるよぉ…。』
『そして、両手で抱きしめられて顔を見つめられる。恥ずかしくて顔と目を逸らそうとする貴女。けど、ご主人様は貴女の顎に優しく手を添えて、強引に顔を自分へと向ける。』
『はうはう。』
『真剣な瞳のご主人様は徐々にその顔を貴女に近づけて、優しくその唇に自分の唇を…。』
『はぅやぁ~。』
想像は妄想に変化。キャパシティを越えた結果、足の力が抜けその場に崩れるように座るセツリナ。
その身体を押し、再び重なるクロロ。
『そして、ご主人様は貴女を優しく押し倒すわ。柔らかなベッドの上でもう一度貴女の唇を奪う。』
『あぅあぅ…あぅあぅ。』
『そして、貴女はご主人様に制服に手を添えられゆっくりと脱がされて…。』
『~~~~~ガクッ。』
『ふっ。他愛ない。』
限界を迎え気を失ったセツリナ。
何処か満足気なクロロだった。
『ところで、今更なんだが。何故、お前は下着姿なのだ?。』
目を覚まし落ち着いたセツリナがクロロに問う。
本当に今更なこと。
セツリナがこの場に戻ってきた時から今までクロロは下着姿だった。
見ると、いつも身に付けているクロロの黒いドレスは干されていた。
『アンタね。リスティールに行く前に自分が何をしていたのか忘れたのかしら?。』
『ん?。確か、紅茶を飲んでいて…あっ。すまない。理解した。』
『そうよ。急に消えるモノだから手に持っていた紅茶は空を舞い私に直撃よ。お陰で自慢のドレスはこの有り様。』
条件が満たされれば強制的に転移が発動するセツリナ。全てはリスティールで起きている出来事次第なのだった。
『ふぅ。それにしても、今回の世界線は不思議ね。今までのどの世界とも似ているのに少しずつ違う。まるで、今までの世界が一つになろうとしているみたい。』
リスティールを眺めながら呟くクロロ。
その表情は真剣だった。
『今までの積み重ねられた世界を知るのはお前と絶対神だけだ。そのお前が不思議に思うこと。確かに普通ではないな。』
『緑国はご主人様の活躍によって新たな姿に生まれ変わった。次は赤国のようだけど。黒の動きが怪しい。未だに大きな動きを見せていない白と黄色が不気味ね。』
『お前の話では白が一番の厄介な存在なのだろう?。』
『ええ。ご主人様が神と接触する世界線では必ず最後に白国が立ちはだかるの。何重にも罠をはり、何年も準備をしてきた白国がね。けど、今のところその兆候はない。』
『お前でも知らない。経験の外。それが今回の世界線ということか。』
『ええ。私の予測が追い付かない程のね。絶対神の奴が期待するのも理解できてしまうわ。』
『これから…どうなるのだろうな。クロノ・フィリアは………ご主人様は…。』
『残念だけど、今の私達に出来るのはこの場所でリスティールを見守ることだけよ。ご主人様に呼ばれる その時 までね。』
『く…口惜しいな。ご主人様と共に歩みたいのに見ているだけしか出来んとはな。』
『ええ。そうね。ふふ。クロノが羨ましいわ。』
未来の見えない暗闇で、不穏な未来を案じる二人であった。
次回の投稿は24日の木曜日を予定しています。