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第298話 赤国への進撃

 赤国の北側に位置する大門。

 そこは国の入り口であり、赤国を象徴する巨大な鉄製の門がある。

 そこを中心に侵入者を防ぐ背の高い砦が赤国全体を覆っており、門から続く長い、長い石造りの道は王が住む宮殿、王宮、王廷まで延びている。

 国の玄関だけあり、最も警備の質も量も多く高い、その場所には数刻前に一柱の異神が顕現した。


 顕現した異神は数多くの部下らしき狐の面を着けた者達を引き連れ、真っ直ぐに王廷まで突き進む。

 民家、商店、街路。それら全てを破壊しながら石造りの道と、応戦した兵達を数の暴力で蹂躙していった。


 赤く燃えるように靡く髪。

 他者を嘲笑うような鋭い眼光。何かを企んでいるかのように薄気味悪く嗤う口元。

 チャイナドレスと着物を合わせたような独特のデザインの赤い衣装に身を包み。両手には黒い鉄扇を握る、狐の耳と尻尾を持つ少女。


 クロノ・フィリア。

 【天炎狐神】。智鳴(チナリ)


 智鳴の周りは狐の面で顔を隠した者達で溢れかえっている。

 彼等は智鳴の能力で作られたエーテルによる分身。圧縮したエーテルの核を中心に、溢れたエーテルと炎で肉体を形作る傀儡。

 各々に智鳴としての意識を持ち、感情を含め視覚などの五感の共有。個別の意思で動く兵隊となっている。

 赤国に攻め入る際、威神、時雨、知果のお伴にと配ったのだが結局は必要がないと判断され、仕方なく赤国内を別々で散策、破壊行動を行っているのが現状だった。


『ふふ。王廷に侵入した皆々には必要無かったようですね。まぁ、良いでしょう。彼等の力は信じていますし、このまま赤国内を隈無く調べ尽くしてしまいましょうか。』


 彼女の周囲に数百といる分身。

 能力は本体である智鳴の十分の一程度。能力も制限されているが、赤国の一般兵相手ならば十分に戦える。数で圧倒するだけで済むのだから。


 智鳴以外の他の三人は王廷にある四方の門に直接攻め込んだ。

 智鳴だけが、一度赤国の外に出て、国の入り口から王廷までを態々手間を掛けて突き進んでいる。

 激しく。大きく被害を出しながら。

 赤国の目が智鳴へと向くように。


『ふふ。やっと現れましたか。』


 王廷へと続く門を破り、中に侵入した智鳴を待ち受けていたのは、侵入した彼女を囲うように一列に並び配置された銃を構える黒服達。その数は、数百を越え。列は、何重にも重なっている。

 中心には、着物姿の女性が立っている。

 赤国、華桜天が一人。麗鐘。


『貴女が異神ですね。ここから先へは通しません。お引き取りを。』

『ふふ。それは出来ません。私には私の目的がありますので。』

『目的?。お窺いしても?。』

『ええ。勿論。私の目的は赤国を滅ぼすこと。』

『っ!?。』

『散々、神共に言いくるめられたのでしょう?。異神はこの世界を侵略する存在だと。ふふ。本当はそんなの出任せでしかありませんが。ふふ。神の思惑の上でコロコロと転がされるのも癪ですからね。その嘘を真実に変えてあげようと思いまして。』


 智鳴の持つ鉄扇にエーテルが込められる。

 深紅に発光する鉄扇の先端から火の玉が複数作られ宙に浮かぶ。同時に周囲の気温が徐々に上がっていく。


『そんなこと、させるとでも?。』

『ふふ。ならば止めてみなさいな。精々滅ぼされないように頑張って下さいね。』


 その言葉が開戦の合図となった。

 麗鐘の号令と共に黒服たちが一斉に発砲。連射する。エーテルの無数の弾丸が智鳴という一人の標的に放たれた。


『エーテルの弾丸ですか。ですが、貴女は神眷者ではないでしょう。なのにエーテルを扱えるとは、どうやら噂は本当のようですね。』


 止まらない連射。

 エーテルの弾丸が智鳴の身体に命中。


『撃ち続けなさい!。回復も回避もさせてはなりません!。』


 智鳴を守ろうと狐の面を着けた傀儡達が集まるもエーテルの弾丸に悉く貫かれる結果となった。

 絶え間なく撃ち続けられるエーテル。

 エーテルが尽きた者は速やかに後方に移動し次の列の者と交代する。それを繰り返すことで隙の無い連続射撃を可能としていた。

 次第に土埃を巻き上げ智鳴が居た場所は何も見えなくなった。


『どうやら、ここまでのようですね。エーテルを使い果たした者。全員撤退しなさい。』


 麗鐘の言葉に黒服達が一斉にその場を離れていく。

 仙技の力でエーテルを肉体に溜めることが出来る技術。麗鐘はそれを黒服達全員に施した。

 それが彼女の能力であるのだが、彼女自身も愛鈴や楚不夜からエーテルを借り受けている身。

 今のエーテル弾の連射で智鳴を倒せていなかった場合、エーテルを失った黒服達を守る術は麗鐘にはない。

 再び、エーテルを共有させてくれるような時間を与えてくれる相手ではない。

 つまり、黒服達を足手まといにさせないため、早目の決断として撤退させたのだった。


 一人残った麗鐘が土埃の中を睨む。

 智鳴がそれ程の力を有しているのかを知らない麗鐘にとって今の攻撃が効いたのか。その判断が出来ないでいた。


『ふふ。酷いですね。私の傀儡達が全滅してしまいました。流石です。えっと…確か麗鐘さんと仰ったかしら?。』

『馬鹿な!?。』


 数百といた狐の面を着けた傀儡は智鳴の壁となって全滅。しかし、智鳴は全くの無傷でその場に立っていた。

 智鳴を取り囲むように発生したうねる炎がエーテルの弾丸から彼女を守ったのだった。


『どうして、私の名を?。』

『簡単なことです。』


 智鳴の掌には大小様々な大きさの炎の狐が出現する。


『この子達を赤国の至るところに放ち情報を集めました。この子達は弱い炎なので煙のように不可視も出来ますし、空気に溶け込んで気配を消すことも出来ます。この子達の見た、聞いた情報はタイムラグ無しで私に伝わるようになっていまして…ふふ。ここ数ヶ月間、貴女方の行動は全て筒抜けでしたよ?。生活も、戦いも、密会も…それと、夜の営みまでもね。』

『っ!?。』

『この赤国は私の掌の上にあるのと同義です。ふふ。さて、私自身は無傷のまま。貴女は一人となった訳ですが。どうしますか?。諦めるのでしたら苦痛なく眠るように焼き殺して差し上げますよ?。』

『そんなこと!。しません!。赤国のため!。愛鈴様のため!。』

『そうですか。では苦しんで死んで下さいな。『させねぇよ!。』ん?。』


 頭上から聞こえた男の声に咄嗟に反応し鉄扇を頭の上で構えた智鳴。

 同時に、鉄扇に走る衝撃。飛び散る火花の奥には、赤い刀身の刀を携え深編笠で顔を隠した男。華桜天、刀極星、宝勲がいた。


『っ!?。』


 刀の一撃を防いだ瞬間、間髪入れずに同じ軌道に全く同じ威力で走る斬撃。不意の一撃を肩に掠りながらも智鳴は体勢を立て直し宝勲から距離を取った。


『ああ。貴方でしたか。確か宝勲でしたね。ふふ。愛しの恋人のピンチに颯爽と現れた訳ですか。ふふ。深い愛情ですこと。』

『無事か?。麗鐘!。』

『ええ。大丈夫よ。宝勲。』

『あらら。無視ですか?。』

『援護を頼む。アイツは俺が。』

『ええ。任せて。』


 銃を構える麗鐘。

 智鳴に詰め寄る宝勲。


『よぉ。異神。随分と派手に攻めてきたじゃないか?。』

『あら?。お話をする気があるのですね?。ええ。そうですよ。派手に、ド派手に攻め落とさせて頂こうと考えています。』

『させると思うか?。』

『止められるとお思いで?。』


 刹那。

 エーテルにより強化された脚力で激しく地面を蹴った宝勲が智鳴へと距離を詰めた。

 同時に横薙の一刀。鋭い斬撃だったが、余裕の笑みを浮かべた智鳴は鉄扇で容易く防ぐ。

 しかし、追撃するように放たれる第二の刃が一刀目を防いだ鉄扇を弾いた。


『はっ!。』


 続いて、縦に振り下ろされる刀を後方に移動し躱す。


『逃がさん!。』


 攻め立てる宝勲。

 全ての斬撃が一刀目の後に直ぐ様同じ軌道で二刀目がやってくる。

 更には、隙を見て、且つ、宝勲の動きを阻害しない的確な麗鐘の射撃が智鳴の行動の邪魔をした。


『ウザいですね。』


 ギリギリのところで斬撃を見切り、紙一重で躱す。攻撃を防ぎながらも麗鐘への警戒を緩めない。

 単独でみれば、神眷者ですらない二人など、智鳴の敵ではないだろう。

 如何にエーテルを操れても、神具ですらない武装、借り物の力、神ではない者では智鳴を倒すことなど出来ない。

 しかし、互いの弱点を補い合い、智鳴の能力を封じる二人の連携が智鳴を攻めあぐねさせていた。


『はぁ…。はぁ…。はぁ…。』

『はぁ…。はぁ…。はぁ…。』

『ふふ。まだ、やりますか?。』


 数十分。数分。戦いの決着はつかずにいた。

 エーテルでの攻撃を続けていた麗鐘と宝勲。終始、智鳴を抑え込み長期戦へと移行したのだが、その全ての攻撃を智鳴は防ぎ切った。


『まだだ。行くぜ。麗鐘。』

『ええ。まだ。終われません!。仙技!。』


 麗鐘の空間が歪み周囲に出現するエーテルの銃。その数は数百を越え、先程までいた黒服達が持っていたモノを召喚した。

 その銃口は智鳴へと照準が合わせられ、その場にあるエーテルを銃身に収束させる。


『これは?。』

『俺達の切り札。行くぜ!。異神!。仙技!。』


 宝勲は手に持つ刀を天に掲げ回転させる。

 深紅の刀身が赤い軌跡を描き、エーテルを噴き出しながら円を形作る。


『成程。我々で言うところの神技ですか。良いでしょう。ですが、知りなさい。神の恩恵を受けれずにいる貴方達が如何に無力な存在なのかを。神具。発動!。』

『喰らいなさい!。【砲仙技法】!。【砲極星掃射】!。』


 砲極星、麗鐘の仙技。

 数百、数千と召喚したエーテルの銃による一斉射撃。彼女のエーテルが尽きるまで止むことのないエーテル砲撃。


『喰らいな!。【刀仙技法】!。【刀極星乱斬】!。』


 刀極星、宝勲の仙技。

 彼固有の能力である二撃目の斬撃。戦闘中に発生された全ての二撃目の斬撃の記憶を再現し一斉に発動させる。

 斬れば斬るほど斬撃の範囲は広がり逃げ場のない斬撃空間となる。


 二つの仙技を受けた智鳴の姿は爆発の中に消えた。


『はぁ…はぁ…。麗鐘。エーテルの残量は?。』

『はぁ…はぁ…。空っぽよ。』

『俺もだ。だが、手応えはあった。砲撃と斬撃に呑まれた。流石の異神でも…これなら…。』


 銃と刀で互いに身体を支え合う麗鐘と宝勲。

 エーテルが底を突き、本来の魔力でさえ意識の維持と疲労回復に回している。

 これ以上の戦闘は不可能に近かった。


『ふふ。お見事。神眷者でもない者に神具を使うとは思ってませんでした。仙技…でしたか?。成程。成程。種固有の能力をエーテルや魔力ではない別の力…確か、気…とか言っていましたか?。その気という力により強化する力。ふふ。実に面白いですね。』

『うそ…。』

『ちっ…化物が…。』


 智鳴の身体には複数の風穴が開き、四肢は切り刻まれ切断。全身が死んでもおかしくない程の重傷だった。

 しかし、智鳴は立っていた。身体の負傷による痛みも感じていないように、余裕の笑みを浮かべ冷静に麗鐘と宝勲が行った仙技を分析している。

 二人は冷静さを装いながらも内心で恐怖した。

 自分達では勝てない。そう感じ取ってしまったから。


『やれやれですね。ここまでこの肉体を傷付けるとは。』

『っ!?。』

『そんな…炎で傷が治ってく?。不死鳥じゃないのに?。』

『ええ。私は【炎天狐】です。不死鳥のように無尽蔵に治癒など出来ませんよ。これは神具の力です。』

『神具…。』

『さて、そろそろ反撃と行きましょうか。散々、私に攻撃したのです。平等に攻守交代。逃げるなんてしないで下さいね。』


 智鳴が麗鐘と宝勲に近付くために一歩を踏み出した途端の出来事。

 智鳴は足を止め、自身の周囲に炎を展開した。


『これは…煙?。』

『仙技。【煙斬】。』

『くっ!?。これは!?。』


 気付くと智鳴の周りを取り囲むように煙が包み込んでいた。

 その煙に触れた箇所、智鳴の腕が切り裂かれる。


『っ…。ふふ。やっと現れましたか。お待ちしてましたよ。神眷者。』

『ああ。此方もだ。お前達と戦うためにこの力を手にしたのだからな。なぁ?。異神。』

『ふふ。私の名前は智鳴です。異神などとひと括りで呼ばないで頂きたいですね。』

『そうか。それは失礼した。私は楚不夜だ。智鳴。私はお前を殺す。構わないな?。』

『ええ。勿論です。楚不夜。私も貴女を殺しますので、どうぞご自由に。』


 睨み合う智鳴と楚不夜。


『隠れていろ。麗鐘と宝勲。』


 楚不夜の言葉に二人は移動を始める。

 エーテル失った彼等がいては、楚不夜の邪魔になってしまう。

 それを理解している二人は十分に距離を取り戦いの行く末を見守ることにした。


『ふふ。お優しいですね。仲間を巻き込みたくないようで。』

『当然だ。私の部下だからな。』

『……………。悲しいですね。』

『ん?。何か言ったか?。』

『いいえ。何も。では、始めましょうか?。異神と神眷者。神々により争うことを宿命付けられた者同士の殺し合いを!。』

『ああ。始めるぞ。』

『『神具!。起動!。』』


 同時に展開される神具。


『【煙操煙管 モクァーレムト・ぺスパグタール】。』


 エーテルを纏う煙管から無尽蔵に発生する煙が楚不夜の周囲を包み込んでいく。

 煙の中には揺らぐ何かの金色の瞳が智鳴を見つめていた。


『【炎操神楽・舞狐炎扇 エルファペル・コエンムレア】!。』


 鉄扇から発生したエーテルによって生み出された原初の炎。炎は智鳴を中心に分かれ、背後に出現する炎の社。頭上に召喚された疑似太陽。狐の尻尾のようにうねる炎の帯を創造した。

 

 互いに戦闘準備を完了させ睨み合い構える。


『行くぞ。』

『ええ。どうぞ。』


 炎と煙。激しく衝突した二つのエーテル。

 辺り一帯を発生した水蒸気が覆い隠したのだった。


ーーー


 石造りの冷たい牢獄の中。

 壁に背を凭れ掛け、地上へと続く階段の入り口を見ながら物思いに耽っている赤皇。

 彼が考えていたのは、この場に連れてこられる前の出来事。

 転生し、火車と再会。その後に現れた謎の男との接敵時のことだった。 


ーーー


ーーー赤皇ーーー


 斬られた?。いつ?。あの距離で?。

 それに、あの刀は…閃の旦那の…絶刀?。


 十字に斬られた胸から大量の血が噴き出した。


『な…いつの…間に…。』


 急激に足にも力が入らなくなり、その場に倒れる身体。見ると、足の腱も斬られていた。


『ちっ!?。足もかよ?。』


 噂には聞いていたが、あれが認識したモノを絶ち斬るっていう能力か?。回避も防御も出来ねぇとか…ははは、閃の旦那と敵対しないで良かったぜ。


『動けねぇだろ?。ほぉら、これで二体目の異神狩り、完了だ。』


 ゼディナハとかいう男が絶刀を振り上げる。

 出血がひでぇ。ぐっ…視界が霞んできやがった。

 ゼディナハの二体目の異神という言葉に僅かに疑問を感じたが意識が薄れつつある今の俺にはそれどころじゃなかった。

 ちっ…訳も分からねぇ状況で俺は死ぬらしいな。せめてもう一度、玖霧や知果に会いたかったが…。


『ちっ!。ここまでかよ…。』


 諦めた俺は目を閉じ迫る刀に備えた。

 だが、目の前に突然別の気配を感じた後の鈍い金属音に再び目を開ける。


『は?。っ!?。おいおい。また、お前かよ?。黄国の時と良い。俺の邪魔をするんじゃねぇよ。』

『お、おめぇは…。』


 俺を庇うように絶刀の一撃を受け止めていた女。

 背中に【絶】と刻まれた羽織りを肩に掛けた黒い学生服を着た少女だ。

 長い黒髪、真紅の瞳。

 あのゼディナハの持つ絶刀を受け止めてやがる。


『無論だな。お前はその肉だるまの助っ人に来たのだろう?。ならば、此方に援軍が現れても不思議ではあるまい?。』


 援軍?。

 コイツは俺を助けに来たってことか?。


『てめぇ…何なんだ?。誰だよ!。』

『私か?。私はセツリナ。我が真の絶刀。貴様の存在ごと絶ち斬ってやろう。』


 セツリナ?。


『おいおい…マジか…。』


 あれは…絶刀?。

 セツリナが抜き放った黒い刀。あれは紛れもねぇ。閃の旦那が見せてくれた絶刀だった。

 何なんだ?。この女は?。


『赤皇。安心しろ、お前を絶刀で殺させはしない。』


 俺の名前を知っている?。


『はっ!。』

『ちっ!?。』


 絶刀同士が衝突し火花が飛び散った。

 速ぇ…。セツリナの動きに無駄がねぇ。一瞬でゼディナハの間合いに踏み込み絶刀で斬りかかる。


『刀の効果が発動しねぇ。やはり、信じがてぇが…やっぱり、てめぇの正体は…。』

『無論だ。私こそが絶刀。貴様の紛い物とは違う!。』

『ゼディナハさん!。』

『ちっ!?。来んじゃねぇぞ?。火車。てめぇじゃこの女に勝てねぇ。その場から一歩でも近付けば殺されるぞ!。』

『なっ!?。そんな馬鹿なことが!?。』


 ゼディナハの言葉が信じられなかったのか、火車が一歩を踏み出した。


『愚かだな。何故、あの様な馬鹿を仲間にしているのだ?。』


 一瞬の隙に刀を振るうセツリナ。

 瞬間、火車の太い腕が切断された。


『があああああぁぁぁぁぁ!?!?。』

『だから、言ったろうが!。てめぇは下がってろ。』

『ぐっ…ちくしょう…。いってぇ…な。』


 瞬時に再生する火車の腕。だが、セツリナはいつでも火車を殺せるようだ。

 寸でのところでゼディナハがセツリナの絶刀を防いでいるお陰で火車は生き残っているという状況なんだろう。


『鬱陶しいなぁ。』

『諦めろ。お前じゃ、私に勝てない。剣技でも、能力でも。』


 事実。

 ゼディナハの攻撃はセツリナによって防がれているが、彼女の攻撃に対してはゼディナハは防御しきれていない。僅かずつ、しかし、確実に肉体への攻撃が届いていた。


『だろうな。けど、それだけで勝てないと決めつけるのは早いんじゃねぇか?。』

『何?。』


 その言葉に警戒するセツリナ。

 だが、意識を警戒に向けた一瞬の隙。ゼディナハがセツリナを全力で押し退けた。

 エーテルによる強化された突進に、流石のセツリナもバランスを崩す。


『くっ!?。』

『ほぉら。守ってみろや。』


 ゼディナハの視線が俺に向く。

 ちっ…狙いは俺か…。だが、血を流しすぎた。身体が動かねぇ。絶刀の一撃だ。逃げることも。避けることも出来ないだろう。


『ぐっ…この!。』


 絶刀の確定斬撃をセツリナは防いだ。

 身体のバランスを崩し、前のめりになりながらも俺と絶刀との間に割って入った。


『お前の存在。恐らく、俺の絶刀が異神に対して放たれることへの抑止力だろ?。なら、絶刀を使わなければお前はどうなる?。』

『っ!?。気付かれた…か。』


 絶刀を鞘へと納めるゼディナハ。

 刀に纏ったエーテルは消える。


『ぐっ…。身体が…。』

『どうやら、正解だったみたいだな。しかし、厄介な存在だよ、お前は。これで俺の行動にも制限が掛かる。まぁ、刀を使わねぇだけだ。大した問題じゃねぇか。』


 セツリナの身体が薄くなっていく。

 徐々にそこにいる筈の存在すら希薄となって…。


『すまない。赤皇。最後まで助けられそうにない。何とか生き延びてくれ。』


 そう言い残し、セツリナの姿は消えてしまった。


『さて、これで邪魔者は消えたな。ふむ。どうするかねぇ。これ?。』

『ぐふっ!?。』


 倒れている俺へ蹴りが入れられる。

 抵抗できない俺はそのまま地面を転がった。


『なぁ。ゼディナハさん。コイツ喰って良いか?。コイツの能力が欲しい。』

『んー。どうすっかねぇ。それでも良いんだが…いや、赤国の巫女…。くく。そうだな。精々、利用させて貰おうか。』

『ゼディナハさん?。』

『おい。火車。コイツを喰うのは無しだ。連れてくから担げ。』

『はっ?。何だよ、急に?。』

『おもしれぇこと考えたのよ。安心しろよ。お前を今よりも強くしてやるからよ。』

『ん?。ああ…良く分からねぇが、あんたが言うなら従うわ。命拾いしたな赤皇。まぁ、精々、苦しみな。』

『うぐっ!?。』


 火車の拳が俺の身体にめり込んだ。


『て…めぇ…。』


 ゼディナハ。火車を睨みながら俺の意識は刈り取られた。


ーーー


 その後、俺は赤国。つまりは、愛鈴へと身柄を引き渡された。

 数々の拷問。尋問。という名の愛鈴との優しい会合を得て今に至る訳だが…。


 カツッ。カツッ。カツッ。

 誰かが階段を下りてきている?。

 だが、愛鈴じゃねぇな。足音から伝わる体重が愛鈴よりも重い。それと男でもねぇな。男よりも体重の移動が軽い。


 意識を現実に戻した俺。

 愛鈴以外にここに誰かが来るのは初めてだな。


『久し振りね。赤皇君。随分と悠々自適な生活を送ってるみたいじゃない?。』

『お前…智鳴嬢か?。ははは、久し振りだな?。』


 訪問者はまさかの仲間。

 クロノ・フィリアのメンバー。

 天炎狐の智鳴だった。


『どうして、ここが分かったんだ?。それと、それ、炎で作った分身だろ?。本体はどうした?。』

『ふふ。本当に元気そうで安心したわ。そうね。色々とお話したいところだけど…その前に、赤皇君に一つだけ質問…いえ、確認なのだけど。』

『おう。何でも聞いてくれ。と言っても俺に答えられることは少ねぇが…。』

『ふふ。簡単なことよ。ねぇ。赤皇君。』

『何だ?。』

『助けが必要?。それとも、いらない?。』


~~~~~


ーーー閃ーーー


 時刻は深夜。

 緑国を出航して二日目。


『君と~共に~歩む~。』


 深夜の海に奏他の歌声が響き渡る。


 アクリスの神具。

 【魔水極魚星 シルクルム・アクリム】の能力で召喚した空中を航行できる巨大な船。

 その甲板には、新たにチナトと同化を果たし神具を発現させた奏他と俺の二人がいた。

 奏他の神具。

 【地底神幕偶像舞台 リアティクル・ファマクスタージ】が展開されステージの上でキラキラと輝く汗を流しながら一生懸命に歌い、踊る奏他がいる。

 煌びやかに、激しく、美しく。俺は奏他の姿に時間も忘れて見惚れてしまった。


『はぁ…はぁ…はぁ…。ふふ。』


 歌が終わり。

 肩で息をしながらも嬉しそうな笑みを浮かべながら俺を見る奏他。決めのポーズとスポットライトに照らされる彼女は紛れもない俺の記憶にあるアイドルとしての奏他だった。


 奏他のソロライブ。

 そして、観客は俺一人。俺のために奏他が用意してくれた特別なステージだ。


『ど、どうかな?。閃君?。』

『ああ。何て言うか…感動した。前世じゃアイドルなんて興味なかったんだけどな。追いかけて応援したくなる気持ちが理解できた。この気持ちを前世でも知ってたら間違いなく奏他の追っかけになってたかも。』

『えへへ。そう言ってくれて嬉しいな。』


 同化の際。前世の記憶を取り戻した奏他。

 色々と記憶が混濁したようだが、今は落ち着いているようだ。


『確かに、流石ね。けど、少し足りないモノがあるわ!。』

『え?。チナト?。な。何が足りないのさ!?。』

『完璧だったろ?。ダンスも。歌も。』


 俺のエーテルを使い一時的な肉体を作り姿を現すチナト。


『甘いわ。ご主人様、奏他。足りないもの…それは、「エロさ」よっ!。』

『何でさ!?。』

『何でだよ!?。』

 

 エロさとか言ったら…。

 奏他を見る。

 チナトと同化したことでチナトの服装に変化した。

 つまり…簡単に言えば…バニーガールの衣装に…。

 色々と際どい姿になっている。

 どうやら、神具を展開すると強制的に服装が変わるようだ。


『十分…エロいだろ…あっ!?。』

『っ!?。』


 口に出すつもりは無かったんだが、うっかり。

 俺の言葉に、顔を赤くした奏他は胸元と股下を隠しその場にしゃがみ込んだ。


『閃君の…エッチ…。』

『ご、ごめん。』

『甘い過ぎるわ!。奏他!。ちょっと耳貸しなさい!。』

『え?。ちょっと、チナト!?。くすぐったい

!?。え?。』


 何やら、奏他に耳打ちしているチナト。


『えっ?。そうよ!。好きだよ!。え?。そうなの?。まぁ…喜んでくれるなら…。でも、恥ずかしくない?。』

『私は平気よ。ご主人様と二人きりだったらね。ということで私は消えるわ。後は頑張りなさい。』

『う、うん。分かった。』


 チナトは俺に近づき抱き付いて来る。


『ご主人様。失礼するわ。あの娘を大切にしてあげて。』

『ああ。けど、奏他と何を話したんだ?。』

『内緒よ。本人に聞いて。』


 そう言い残し俺の中へと消えていくチナト。

 当然、残される俺と奏他。


『チナトに何を言われたんだ?。』

『えっと…ね。この服には特殊な効果が施されてるらしくて…。』

『へぇ。どんな?。』

『あの…その…す、好きな人を…。』

『え?。』

『…思い浮かべながら、この衣服にエーテルを巡回させるって、そうすれば閃君の好きな服に変化するんだって。』

『俺の好きな?。』


 はて、どんな服だ?。

 恋人達が着る服なら何でも好きなんだが?。

 奏他の気持ちにだって気付いている。

 同化し契約している神獣と同じ状態となった奏他を好ましく思っているのも事実だ。

 アイドルとは別として、奏他なら何を着ても似合うだろうし。


『や、やってみるね。閃君。見てて。』

『ああ。』


 奏他の身体にエーテルが纏われる。

 魔力を操っていた時とは明らかに異なる変化。

 片翼はそのままに、しかし、その色は黄金に。

 チナトの特徴だった、兎の耳と尻尾。

 そして、バニースーツを改造したような扇情的な衣服だ。


 エーテルは輝きに変わり奏他の姿を包む。

 輝きで見えないが少し衣服が変化しているようだ。

 次第に輝きは静まり、変化した衣服の奏他の姿…が…。


『え?。あっ…。』

『ど、どう…か…な、ひっ!?。』


 変化後の奏他の姿。

 それは、バニーガールの衣装で隠れている部分と露出している部分が、本来と逆になっている衣服…。俗に言う逆バニーという衣服に…。

 奏他の綺麗な…いや、その…女の子の大事な部分が…上も下も...丸見えに…。

 チナト…お前って奴は…。後でお仕置きだ。


「うん!。ご主人様!。待ってるわ!。お仕置き!。」


 ええ…。まさかの逆効果!?。


『ぴゃああああああああああぁぁぁぁぁ!?!?!?。見ないでええええぇぇぇぇぇ!?!?!?。』


 深夜の海に奏他の悲鳴が響き渡った。

次回の投稿は13日の日曜日を予定しています。

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