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第297話 兎針の気持ち

ーーー閃ーーー


ーーー緑国 国内 迷いの森ーーー


 夜営、野宿二日目。

 今日は兎針が俺の話し相手になってくれるようだ。

 詩那の時と同じで一度シャワーを浴びに影の中に入ってから、暫くして桶とタオルを持って戻ってきた。


『なぁ。兎針?。』

『はい。すぅ~。はぁ~。すぅ~。はぁ~。』

『早く、背中を拭いてくれないか?。てか、今日も結構歩いて汗をかいたんだ。そんなに匂いを嗅がないでくれ。何なら自分でやるし。』

『お気になさらず~。私がしますぅ~。はぁ~。』

『いや、気にするって。てか、嗅ぎながら喋るな…。』


 それから兎針が俺の背中を拭いてくれるまで五分程匂いを嗅がれた。

 兎針は匂いフェチってヤツなのか?。確かにこれまでも何度か嗅がれたような記憶が…。


『どうだ?。流石に男の膝枕は痛くないか?。』

『いえ。問題ありません。寧ろ...ふふ。閃さんの匂いに包まれているみたいで幸せです。』

『はは…何だよ、それ。』


 兎針は俺に聞いてきた。


「昨夜は、詩那とどの様な話をしたのですか?。どの様なやり取りを行いましたか?。」


 昨夜の出来事。詩那との過去話。

 やっぱり、親友のことが気になるのか?。

 俺は詳しい内容は省き、過去に出会っていたこと、詩那がこれからの目的を見つけたことを話した。

 そして、彼女に膝枕をして貰ったことを。


 その結果が、今の状況だ。


『頭を撫でて欲しいです。詩那にされたように。』

『わ、分かった。』


 俺の膝枕で横たわる兎針。

 その顔は常に俺を見つめる。俺は詩那にされたことを思い出しながら出来るだけ優しく兎針の頭を撫でた。

 兎針の甘い匂いと、さらさらと触り心地の良い髪の感触を感じながら。


『閃さん。』

『何だ?。』


 眼を細め気持ち良さそうに撫でられていた兎針。堪能してくれているようで何よりだ。

 暫くすると、兎針は俺の顔を見て真剣な表情で話し掛けてきた。


『詩那に聞きました。今の詩那は閃さんにとって神獣と契約したのと同じような関係なのだと。互いの繋がりを強く感じ、思考や感情がある程度共有されているのですよね?。』

『ああ。聞いたのか。そうだ。流石に深い部分までは伝わって来ないが表面的に相手が感じている感覚が理解できるって感じだな。』

『………羨ましいですね。』


 俺を見上げる兎針の手が頬に沿えられる。

 少しだけ、ひんやりとした柔らかい兎針の手。

 因みに、今の詩那は………寝ているな。


『詩那から話は聞いていると思いますが、私とも前世で出会っているのですよ?。』

『ああ。思い出したよ。ごめんな。忘れてて。兎針はずっと覚えていてくれていたんだろう?。』

『ええ。閃さんは有名人でしたから。現実でも、ゲームでも…。クロノ・フィリアと白聖連団との抗争の際、本音では戦いたくなかったんです。閃さんがいることを知っていたから。』

『そうか…。』


 大きな兎針の瞳。

 決して逸らさない彼女の眼を俺は見つめ返す。

 

『ふふ。ですが、あの戦いがあったからこその今、この瞬間があるのも事実です。結果論ですが、後悔はありません。』

『俺もだ。こうして兎針と仲間になれた。俺は嬉しい。』

『ふふ。私も、嬉しいです。』


 互いに微笑み合う。


『それはそうと、兎針は膝枕をされるのが好きなのか?。』

『はい。そうですよ。けど、するのも好きです。特に親しい間の方にするのと、されるのは。………まぁ…ですが、閃さんにしないのは、他に理由があるのですが…。』

『理由?。』

『………聞きたいですか?。』

『まぁ…言いたくないなら言わなくても大丈夫だ。詮索する気もないけど。』

『………比べられたくないんです。』

『比べる?。』

『はい。その…昨夜は詩那に膝枕をして貰ったと聞きました。』

『ああ。したいって頑なでな。俺も甘えちまった。』

『この状態になって詩那の顔は見えましたか?。』

『え?。』


 顔を?。

 この状態って膝枕された状態ってことだよな。

 そりゃあ、見上げたら詩那の顔が…。


『………見えなかったな。』


 胸で…。


『私がするとはっきり見えます。ええ。それはもう障害物などありませんから。はっきりと。』


 何気無く。本当に無意識で兎針の胸に視線が向いてしまった。

 確かに控え目な膨らみだが、決して無い訳ではない。

 俺にはちゃんと魅力的に見えるんだがな。


『気にすることないだろう?。』

『そうですか?。私は少しばかりコンプレックスです。詩那もですが、閃さんの女性の姿。私よりも圧倒的に大きくて形が良くて…見る度に女としての自信が傷つけられます。』


 そ、そんなになのか…。


『閃さんは、私の胸…どうですか?。』


 何か昨夜も似たようなやり取りをしたような…。


『俺には魅力的に見える。胸だけじゃないぞ?。兎針という一人の女の子がだ。だから、自信を持ってくれ。』

『っ………閃さん。』

『おっと!?。』


 兎針が俺の身体に抱きついてくる。


『あの…ですね。閃さん。』

『あ、ああ?。』

『詩那は好きになった人にとことん尽くすタイプです。』

『ああ。それは何となく分かるな。』

『私は、とことん甘えたくなるタイプです。ずっとくっついていたい。抱きしめられたいと考えてしまうタイプですので。すぅ~。はぁ~。なでなでされたくなってしまいます。』

『そうか…。って、また匂い嗅いでるし…。』


 抱きついてくる兎針の頭を撫でる。


『閃さん…。私は貴方のお役に立てていますか?。』

『ん?。変なことを聞くな?。当たり前だろ?。今だって、蝶達を使って周囲を警戒してくれているだろ?。俺は兎針のそういう何気無い気配りが好きだぞ?。』

『っ…私には詩那のような貴方との強い繋がりはありません。目的も夢伽さんと儀童さんに仮想世界でのことを謝りたい。それだけです。それだけでした。ですが、今は違います。貴方と共に歩みたい。貴方の役に立ちたい。貴方と並び立てる存在になりたい。貴方ともっと繋がりたい。…貴方と共に過ごす内に惹かれ、その様な感情が芽生えてしまいました。』

『………ああ。』

『詩那は貴方と繋がりを得たのですよね?。それは切れるモノなのですか?。』

『いや、主人と神獣との契約は魂の強い繋がりだ。互いに肉体が消滅しようがその繋がりの根本は切れない。仮想世界で死んだ俺と神獣達の繋がりが転生しても僅かに残っていたみたいにな。俺と詩那もそんな感じだ。もう切れることのない永遠の契約だ。』

『そうですか。恋心からくる嫉妬なのでしょうね。この私の内に湧き上がる感情は。友達に…とても大切な親友を羨ましく思ってしまった。そんな自分が嫌になります。』

『………確かに、詩那は俺と繋がった。俺達は死なない限り共に生きることになるだろう。こうなってしまった以上…いや、それは言い訳だな。…俺は一人の男として詩那の気持ちに応えたいと考えている。』

『っ!?。そう…ですか。…彼女の想いが報われて良かったです。』

『まぁ…俺が詩那に嫌われたらそれまでだけどな。そうなったら詩那には地獄だろうし。嫌いな相手と永遠に生きなければならないからな。』

『詩那は一途ですよ。貴方が変わらない限り嫌うことはないと思います。』

『だろうな。』

『閃さんは詩那を好きなのですよね?。』

『ああ。嘘じゃないよ。それは表面上だけの感情じゃない。俺は俺としてお前達に惹かれているんだ。これだけ、共に過ごして、何度も戦った。それに皆が俺に好意を抱いてくれているのも理解している。その気持ちに応えてやりたいと、思ってるんだ。』

『お前…達?。』

『ああ。達だ。当然、兎針。お前も入ってる。』

『っ…。』

『だけど、今はまだ。そういう関係になるわけにはいかない。前も理由は言ったがな。俺には大切な人達がいる。恋人達だ。』

『理解しています。』

『ありがとう。兎針。』

『はい。』


 再び膝の上に頭を乗せる兎針と目が合う。


『いつか、必ず。兎針に俺の気持ちを伝える。その時まで、待っていてくれな。』

『……………はい。』


 両手で顔を隠す兎針。


『兎針?。』

『見ないで下さい。閃さん。嬉しくて…私、今、顔が少し赤いと思います…恥ずかしいので…。今だけは…。』

『ははは…。』


 足もバタバタ。身体をくねくねする兎針。

 普段と違う彼女の姿に思わず笑ってしまう。


『あっ…。』

『ん?。どうした?。』


 急に動きが止まる兎針。


『閃さん。これは確信ではありません。私の女としての勘ですが、お聞きになりますか?。』

『あ、ああ。教えてくれ。』

『どうやら、私の友人…のロリ巨乳が閃さんの仲間の誰かと接触し親しくなったようです。』

『は?。え?。何で分かるんだ?。てか、友人?。ロリ巨乳?。』


 突然、何を言い出すんだこの娘は…。


『勘です。ですが、私の友人…正確には元同じギルドのメンバーに紫音という少女がいます。私よりも年下で人見知りの娘なのですが。』


 同じギルドってことは、【紫雲影蛇】ってことだよな。

 その仲間の一人。紫音か。聞いたことはある名前だ。


『ああ。その娘がどうしたんだ?。』

『はい。彼女がたった今、私の胸と自分の胸を比較した感覚を覚えました。』

『はい?。』

『話した通り、紫音は背が低く幼い外見なのに胸が大きいので良く私と比較するです。…忌々しい…忌々しいことですが…。ああ。苛立たしい。』


 あっ…本音だ…。

 てか、散々言われたのか?。

 この場にいない奴の言葉を直感で感じ取れるとか…。


『紫音は私と同じ理由で動いている筈です。』

『リスティナのメッセージを俺達に…クロノ・フィリアのメンバーに伝える役目だな?。』

『はい。しかし、彼女は極度の人見知りです。そんな彼女が私の名前を出し、且つ、む、胸の話をする程の親しくなった方がいるということです!。そして、それは恐らく男性…彼女は一度気に入った相手には忠誠心のある犬のように懐いてしまうので…。』

『そうか…確定ではないが、良い情報だな。俺の仲間が兎針の仲間と合流出来たんだ。早く俺も再会したい。』

『もうっ…折角っ、幸せな気分なのに水を差しやがって…。許せん。再会した時は覚えてろよ…紫音っ!。』

『兎針…言葉、言葉…。』

『はっ!?。ご、ごめんなさい。私ったら…。はしたない言葉使いを…。』


 先程とは違う理由で両手で顔を隠す兎針。

 兎針が素を出せるくらい親しい友人がいたことに嬉しくなってしまう。


『気にしなくて良いよ。それより、早く友人に会えると良いな。』

『………はい。ふふ。閃さん~。』

『はは。本当に甘えん坊だな。』


 膝に顔を埋める兎針の頭を撫でる。


『けどな。これは全員に言っていることなんだが…。』

『はい?。』

『俺には恋人が沢山いる。俺と恋人になっても普通の恋人が行うような関係にはなれないんだぞ?。それでも、兎針は…良いのか?。』

『閃さん。』

『ん?。』


 膝から頭を退け、起き上がる兎針。


『閃さんは、普通の恋人では経験できない体験を沢山させてくれるのですよね?。』


 座る俺を覗き込む兎針。

 その表情は、照れてるような、嬉しそうな、恍惚としているような。

 状況を面白がっている無邪気さを感じさせる子供のような顔の兎針だった。


『ああ。お前達を退屈させないさ。俺は最高神だからな。』

『ふふ。期待していますねっ。せんぱいっ。』


 蝶の羽を広げる兎針。

 同時に鱗粉が宙を舞った。

 彼女の周囲には警戒用に放っていた蝶達が集まり羽ばたいている。

 月明かりに照らされた兎針の姿は、紫色の髪を靡かせながら、キラキラと輝いていた。


 その美しくも綺麗な姿に、正直…眼を奪われた。

次回の投稿は10日の木曜日を予定しています。

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