第31話 聖愛の戸惑い
あれ~?。何ですか?この状況は!?
私は聖愛。
黒曜宝我の最高戦力、三隠六影の1人。
目を覚ました私は物凄く混乱していました。
私の最後の記憶は一隠六影に襲われている黒璃ちゃんを暗君と一緒に庇い、逃がした。
けど、流石に人数差には対抗できず時間稼ぎしか務まりませんでした。
そのまま気を失って気が付いたのが今さっき。
周囲の状況を確認。
先ずは場所。
床…コンクリート。
天井…コンクリート。
壁…1面以外コンクリート。
壁…1面のみ鉄格子。
明らかな牢獄。けど鉄格子が人の形で曲がってる!。
出入り自由!。何ですかそれは?。
私の胸元には黒璃ちゃんが大切にしていたパンダのぬいぐるみ、パンタさん。柔らかい…。
私の近くに体育座りである一点を見つめる暗君。
あっ。良かった。暗君も無事だったんですね?。
何よりも…私を一番混乱させているのが目の前にいる2人。
私からでは座っている後ろ姿しか見えませんが…男性がこの牢獄の中心に居ます。
そして…
『矢志路君、何かして欲しいことある?。私何でもしてあげるよ?だって私、矢志路君のモノだもんね。』
『………。』
『矢志路君、ご飯食べる?私何でも作れるよ?あっ。血の方が良いかな?恥ずかしいけど…私ので良ければいつでもどうぞ。だって、矢志路君のモノだからね。』
『………。』
『私、裁縫だって出来るから服でも作ってあげようか?矢志路君に似合うの作るよ?えへへ。実はこの前の服もぉ私の手作りだったんだぁ。』
『………。』
『……………………………………。何ですか?これ?』
満面の笑みで男性の周囲をくるくる回っている黒璃ちゃん?らしき人。
あの独りだと泣いてしまう。か弱い少女のイメージしかないのに…。
もう完全に惚れちゃってますよね?。
だって、もう目がハートマークになってますよ?
だって、彼は何にも反応してないのに。
だって、さっきから黒璃ちゃんしか喋ってないのに。
だって、今まで見たことがないくらい幸せそうな表情で笑ってますし。
もう1人の男性に身も心も捧げた女そのもの。
言ってはなんですが…あれはもうメスの顔ですし…。
『あ、あの~?黒璃ちゃん?。』
『え!?』
声を掛けづらい雰囲気でしたが意を決して話し掛ける。
『あ…聖愛…聖愛!目が覚めたの!!!。』
『わっ!?』
私に気付いた瞬間、飛び込んでくる黒璃ちゃん。
『ごめんなさい!ごめんなさい!聖愛が私のこと心配してくれてたことに気が付かなくて!ごめんなさい!うわぁああああん。』
『あっ…。』
いつも、心がいっぱいいっぱいで泣いていた黒璃ちゃん。
辛そうで見てられなくて…支えてあげたくて…。
陰ながら他のメンバーとの関係の緩和材として動いてきた。
辛くてもギルドの為に動いている貴女を助けたかった…。
『私の方こそ…今まで、助けてあげられなくて…ごめんね…。』
気付けば私も泣いていた。
『ううん。聖愛は助けてくれてたのに…私が気付かなかったの!自分の殻に閉じ籠って周りを見ようとしなかったから!。』
『黒璃…ちゃん…。』
『聖…愛…。』
互いを強く強く抱き締め合い。私たちは暫く泣いていた。
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『黒璃ちゃん。お伺いしたいのですが?。』
『なぁに?。』
暫くして落ち着いた私は状況を確認するために質問することにした。
『私たちが気絶した後のことが知りたいのです。今生きているということは何かがあったのでしょう?。』
『うん。聖愛と暗君が助けてくれた後、私は追い掛けてきた墓屍と禍面と苦蜘蛛に捕まっちゃったの。』
『…そうでしたか。』
私たちは他の4人を抑えるのに精一杯で…最後は詩那さんの能力に巻き込まれて気絶してしまいました。
『その後は矢志路君が助けてくれたんだ。』
『矢志路君?』
黒璃ちゃんが中央にいる男性を見る。
その視線は完全に、うっとりとしたモノになっていて恋する乙女まっしぐら状態です。
私は矢志路という方を見る。
すると、彼もこちらを横目で見ており目が合った。
ドクンッ!?
『えっ!?』
彼の目を見た瞬間、心臓の鼓動が激しく鳴った。
『えへへ。矢志路君格好良いでしょぉー。』
『えっ…ええ。』
彼…黒賀さんに似てますね。
『矢志路君はクロノフィリアなんだよ。』
『ああ、貴女が会いに行っていたのは彼だったのですね。クロノフィリア…。』
『うん。色んなお話したんだぁ。』
『………なるほど。彼はどうして動かないで物思いに耽っているように呆けているのですか?』
『ああ。それはね。私たちを助ける為に昼間なのに無理をして駆け付けてくれたからエネルギーが切れたんだって。』
『昼間?エネルギー?。』
『矢志路君の種族は呪血夜行神族っていう吸血鬼の種族なんだって。だから、いっぱい戦って血を使いすぎたから省エネモードって言ってた。』
『ああ。そうでしたか。』
『私の血あげるよって言ってるのに、『自分を大事にしろ。貧血で倒れるぞ。』って飲んでくれないんだぁー。』
あの暗い表情の黒璃ちゃんを殻の外に出してくれたのは彼でしたか。
私は立ち上がり矢志路さんの正面に行く。
ぼーっと此方を眺めている彼。
顔は黒賀さんに似ていますが雰囲気は別ですね。
何を考えているのか分かりませんし。目の下に大きなクマができてます。
『お前も、良く頑張ったな。』
『えっ!?。』
彼のことを見つめていたら、急に話し掛けてきた。
『黒璃の記憶で確認した。恋人が殺された後、落ち込みはしていたようだが、それでも黒璃の為に奮闘していた。俺が見た記憶では断片的な姿しか見えなかったが、それだけでも容易に想像が出来る。まぁ、当の本人には気付かれていなかったようだが。』
『………。』
黒賀さんが殺された…あの日。
私は、絶望した。
ゲーム時代から一緒に行動していたし、こんな世界になってからも2人で頑張ってきた。
私や彼の考え方は他のギルドメンバーとは違っていたけど何とかやってきていた。
そんな彼が殺された。
何が起こったのか正直理解までに時間がかかった。
でも、それ以上に彼の亡骸を抱きながら真っ赤になって立ち尽くしていた黒璃ちゃんを見て、この娘は私が守らなければいけないと思った。
ですが、黒璃ちゃんは、それから自分自身を守るために狂気を演じ始め私の声が届かなくなってしまった…。
私はなんとか彼女の支えになろうと努力しましたが、結果は…。
『あれ?。』
気付けば私は泣いていた。
『辛い思いをした自分を抑え付けた結果だ。お前、自分のことより黒璃の方だけを見て優先していただろう?結局、お前も 孤独 だったってことだ。』
『…孤独…。』
『だが、もう大丈夫だろう?』
『聖愛…ごめんなさい。』
『黒璃ちゃーーーーーーーーん!』
黒璃ちゃんのことを言えないくらい私は泣きました。
今まで溜め込んでいたモノを全て吐き出すように。
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『それで?黒曜宝我はどうなったのですか?』
『え…とねぇ。無くなっちゃった。』
『は?』
『跡形も無くなって今は血の池地獄…。』
『一隠六影は?』
『皆、死んじゃった。』
『もしかして…全部彼が?。』
『うん。』
『………。』
ええ。何がどうしてどうなったのですかーーー!?。
『矢志路君…圧倒的だったの。』
『流石、伝説のクロノフィリアということですか。それで、そんな状態なのですね。』
まったく動かない矢志路さん。
正直、彼が強いのか今の状態じゃよくわからなかった。
『あっ!そうだ!ねぇねぇ。聖愛も暗君も矢志路君と契約すれば良いんじゃない?』
『ん?契約ですか?いったいどういう?』
『矢志路君は吸血鬼だもん血を吸って貰うんだよ!。』
『え?』
『そうすれば、矢志路君も元気になれるでしょ?良い考えじゃん!。』
『え?いや、流石にそれは…。契約すると具体的にはどうなってしまうのでしょう?。吸血鬼になってしまうとか?』
『矢志路君に絶対服従。』
『はい?』
『矢志路君の命令に逆らえなくなるみたいだよ?。』
『………。貴女はされたのですか?。』
『うん。それで矢志路君は守ってくれたんだ。』
私は矢志路さんの目の前まで行く。
『あの娘に変なことしてないですよね?』
『………。』
『なんとか言って下さい。』
『はぁ。黒璃。血を貰うぞ?。』
『うん。良いよ。』
ととと。っと黒璃ちゃんが矢志路さんのところまで駆け寄ると髪をどかし首筋を差し出した。
『…あ…。』
何か…エッチですね…。
血を吸われている黒璃ちゃんの表情が年齢にそぐわない色気が表れています。
『ったく、あんまり黒璃に負担掛けさせたく無かったのによぉ。』
えええ。何か顔つきやら体格やら髪の色やら全部変わっちゃったんですけど?目の下のクマはどこに消えたんですか?
何が起きてるんですか?。
あと、この異常な魔力はいったい!?
『すまんな。黒璃。』
『私は良いの。矢志路君のモノだもん!。』
『ふっ。』
矢志路さんは笑うと私を見る。
『さて、女。俺を起こしたんだ。責任はとって貰うぞ?。』
『…せ、責任ですか?』
圧倒的な存在感に腰が抜けて動けません。
矢志路さんが顔を近付けてくる。
先程の怠惰な顔も好ましいでしたが、今のお顔は…素敵すぎます…。
『お前に選択肢をやる。』
『選択肢?』
『俺に血を吸わせ眷属となるか。このまま何もせずに終わるかだ。』
『…眷属になるとどうなるのですか?。』
『お前の願いを叶えてやる代わりに俺の女になる。』
『!?!?』
え?矢志路さんの女?それってつまり…。
『ぐ、具体的には?』
『俺が望む時に血を飲ませろ。それだけで良い。』
『え?それだけですか?。』
『ああ、だが契約すると俺の命令に逆らえなくなるがな。』
『…。それは…困ります…ね。』
『ねぇねぇ。矢志路君。』
『ああ?なんだ黒璃?。』
何やら矢志路さんに耳打ちする黒璃ちゃん。
意地悪っ子の笑みを浮かべてこっちを見ています。
『はぁ?それやれってか?。』
『うん。良い考えでしょ?。』
『ちっ。めんどくせぇな。』
矢志路さんが近付けてくる。
そして、私を抱き抱えた。
ここここここれってお姫様抱っこだぁぁ。
そのまま壁際まで運ばれ優しく下ろされる。
これって…。
ドンッ!と壁を殴る音が顔のすぐ横でしました。
ビクッと跳ねた私の身体を反対の手で抱き顔を近付けてきます。
近い 近い 近い 近い 近い
『聖愛…。』
ゾクッ!?
優しい声で名前を囁かれ背中がゾクゾクしています。
『こっちを見ろ。』
顎を抑えられ無理やり矢志路さんの方を向けられ視界いっぱいに矢志路さんの格好いい顔がぁぁぁぁあああああ。
『俺の、女になれ。』
『は…はい…。』
こうして私は…堕ちました。
軽い女で…ごめんなさい。
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私は端骨。
緑龍絶栄 八龍樹皇が1人 研究機関代表。
私が今いる場所は緑龍絶栄のギルド本拠地。
緑龍絶栄が統治するエリアの中心には巨大な 世界樹 と呼ばれる途轍もなく大きな大木が聳え立っている。
その中に緑龍絶栄の本拠地がある。
そして、今この場には最高戦力である八龍樹皇が全員揃っていた。
『皆、良く集まってくれました。』
緑龍絶栄 ギルドマスター 美緑様。
年端も行かない容姿には似つかわしくない異常な程の魔力を有している。事実、この巨大な世界樹を含め、その周辺に生い茂る全ての森が美緑様が能力で作られたモノなのだ。
『………。』
美緑様の護衛役。
兼 緑龍絶栄の最高戦力 八龍樹皇リーダー。
美緑様の実兄 律夏。
コイツは常に美緑様の斜め後に立っている。
『気にすんなよ。姫さん。俺等はいつでも命令には従うからよ。』
後ろ髪を束ねた、爽やかな笑顔で気楽に話す青年。
八龍樹皇が1人 獏豊。
『えぇ。その通りです。私たちは美緑ちゃんの為ならどんな状況でも駆け付けますよ。』
着物を着た落ち着いた雰囲気の女。
八龍樹皇が1人 砂羅。
『我等の忠誠は美緑様の為に。(いつ見ても美緑ちゃん可愛いなぁ。抱き締めたいなぁ。)』
軍服を着た。心の声が駄々漏れの女。
八龍樹皇が1人 空苗
『でもなぁ。珍しいよなぁ。全員に声が掛かるなんて?。』
着物姿のナヨナヨした男。
八龍樹皇が1人 多言。
『そうですね、何かあったのでしょうか?急に全員召集とは…。』
刀を持つ袴姿の女。
八龍樹皇が1人 累紅。
『端骨が何かしたのではないかな?なぁ、端骨?』
袈裟を着た。細目の男。
八龍樹皇が1人 徳是苦。
『私は…。』
『端骨。貴方は話すことを禁じます。』
『っ!?。』
美緑様が私の言葉を遮る。
『先ずは、皆さんにお話しなければならないことがあります。傾聴願います。』
その言葉に八龍樹皇全員が姿勢を正す。
『今日、忙しいアナタ方を集めたのは ある報告 をする為です。』
『………。』
私は覚悟を決めた。
『そこにいる端骨は、ギルドのルールを破り貴重な我がギルドの戦力を無断で動かした…そして…犠牲にしたのです。』
『………。』
『破ったルールとは?』
『クロノフィリアへの接触。』
『マジかぁ。』
『お前…。』
『では、動かした戦力は端骨の所有する部隊…。』
『はい…。第2軍2から6小隊です。』
『………。』
私はもう詰んでいるようだ。
空気が重い。
『端骨。』
『は、はい。』
『貴方はギルドのルールを破り、戦力を…仲間を無駄に犠牲にしました。よって、貴方はギルドから追放。研究施設に残されたデータを一切触ること無く出ていきなさい。この緑龍絶栄の支配エリアに今後二度と入ることを禁じます。』
『!!!!!!!』
『で、ですが!私はギルドの為を…。』
『端骨。』
『っ!』
『わかりました。…美緑様。今までありがとう…ございました。』
私はそのままギルドを出て行った。
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『くそっ!くそっ!くそっ!私は純粋に研究がしたかっただけ!犠牲にしたのも役に立たない雑魚ばかり!ギルドに損害も無ければ戦力低下も無い…。』
端骨は世界樹から離れた小川の辺りで大きな石を踏みつけ苛立ちを叫んでいた。
『あの小娘っ!完全に私怨で私を追放しやがって!』
治まらない怒り。もう一度石を蹴ろうとした。
…その時、
『ねぇねぇ。ちょっと良いかな?』
『はっ?』
端骨に声を掛けるツインテールの少女。
『誰だ。貴様は?』
『えーと、神様?かな?』
『はっ?』
『もう、私のことはどうでも良いんだよ!それよりさぁ。面白いモノ見せてあげるよ。』
『何?え?おっ!おぉぉぉおおおおおおお!』
『にしし。面白いでしょ。』
『何故、この世界にこれが!?。』
『私が 神様 だからだよ。』
『確かに、貴女は神かもしれない…な。』
『私たちに協力してくれたらもっと楽しいことを見せてあげるよ?』
『…どうか私をお使い下さい。』
『にしし。一緒に楽しもうね!。』
神が少しづつ動き出す。
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『戻りましたぁ。』
『お帰り。雪姫。』
『ただいまぁ。白蓮様ぁ。』
『どうだったかな?予定通り、黒璃は黒曜宝我の方々に殺されたかい?彼女は僕に明確な敵意を持っていたからね。正直邪魔だったんだ。』
『それがぁ…。』
『おや?何かあったかな?。』
『黒曜宝我のぉ。ギルドそのものがぁ…無くなっちゃいましたぁ…。』
『え?ギルドそのものって?。』
『ギルド会館内にいた1000人近くのメンバーぁ、とぉ、幹部たちぃ全員死亡で~すぅ。』
『………。』
『因みにぃ。黒璃ちゃんはぁ生きてますぅ。』
『…どうしてそうなったのかな?。』
『青の所に捕まってるぅ方のせいですねぇ。』
『あー。あの黒璃が興味を惹かれてた…。』
『そうですぅ。1人でギルド1つ消しちゃいましたぁ。』
『了解。報告ありがとう。休んで良いよ。』
『はいぃ。それではぁ。』
『………クロノフィリア……。』