第296話 異神の進撃
赤国。南門。
その場には、たった一柱の異神が赤国の兵達と戦闘を繰り広げていた。
女武者のような風貌。右手に持つ刀が振り抜かれる度に兵士達がその場に倒れていった。
『異神めがあああああぁぁぁぁぁ!!!。』
『覚悟おおおおおぉぉぉぉぉ!!!。』
『遅い。』
斬り掛かる二人の兵士。
その刀を紙一重で躱し、神速の一刀が兵士の後頭部を強打した。
『峰打ちよ。そのまま気を失ってなさい。』
倒れている兵士達は全員気絶しているだけ。
数十、数百といた兵士達は、ついには片手で数えられる程度まで数が減らされてしまった。
たった。一柱の異神によって。
『キリがないわね。』
溜め息をする異神。
同時に頭上に持ち上げた刀が甲高い金属音を響かせた。
『っ!?。今のを防ぐか…。奇襲は無駄なようだ。』
『あら?。貴方も転生していたのね。確か…心螺だったかしら?。ソロで活動していたそうだけど、転生して赤国の兵隊になっているなんてね。』
『っ!?。私の過去を知っているのか?。』
『ええ。けど、聞き齧った程度よ?。直接会ったのは始めてかしらね。まぁ、ゲーム時代を含めれば別だけど…。』
『そうか。安心した。親しい間柄の者を斬るのは忍びないのでな。異神の女。無断で王が住むこの場に入り込んだ罪。我が刀で裁いてやろう。』
刀を鞘に納め居合の構えをとる心螺。
『静極星、心螺。お相手する。』
『居合…ね。噂通りね。それに名乗りと…良いわ。此方も名乗ってあげる。クロノ・フィリア。【戦武軍神】。時雨よ。宜しく。』
時雨も納刀し構える。
『行くわよ。』
『行くぞ。』
互いの神速の踏む込み。
一瞬で双方の間合いに侵入し刀を抜き放つ。
鞘走りと移動速度によって加速した刀同士が衝突。短い金属音と火花を周囲には散りばめ交錯。互いに背を向け静止した。
『やるわね…。互角だなんて。』
『………。』
心螺の内心は複雑だった。
自身が最も得意とする抜刀術。相手は異神。手加減などしていない。全力でエーテルを込め、全霊で放った。
それを互角で切り抜けた異神の少女。
流石は異神と喜ぶべきか、自分と引き分け尚も余裕を見せる異神に恐怖すべきか。
『そろそろ。様子見は止めたら?。後ろの二人も出て来なさいよ。こっちは元々、全員を相手するつもりなんだからさ。』
『っ!?。気付いていたのか?。』
『ええ。勿論。此方の力を少しでも見定めようとしていたようだけど。収穫はあったかしら?。』
心螺の後方。物陰から姿を現す二名。
天極星 狐畔。
老極星 珠厳。
『気配は消していた筈だけど?。』
『我々の存在に気付くとは…侮れんな。』
『異神に常識は通じないみたいね。』
『心して行くぞ。愛鈴様のため。愛鈴様のお言葉忘れるな。』
『ええ。勿論よ。やっと心の内を見せれくれるようになったのだもの。この戦いが終わったら皆でゆっくり過ごしたいわ。』
『ふふ。悪くない提案だ。兵達よ!。倒れている者達を担ぎ、この場より至急離れよ。決してこの場に近づくな!。』
珠厳の言葉に兵達が、一斉に動く。
気絶している兵達の様子を窺う。誰一人として死んではいない。
攻めてきているのは異神。しかし、明確な敵意は感じられない。
狐畔と珠厳は目の前の異神に不気味さを感じつつも、ゆっくりと心螺へと近づいていく。
『気を付けろ。噂以上だ。紅陣や楚不夜様よりも上の力と考えて間違いない。』
『ええ。でしょうね。貴方と剣技で引き分けたのですもの。しかも、彼女はまだ神具を使用していない。』
『様子見…などとは言ってられんな。動き、エーテル、技量。どれを取っても我々よりも上だ。全力で挑め。』
『無論だ。抜刀術で引き分けた以上、形振り構っていられない。』
『了解よ。けど、危なくなったら逃げるわよ。全力でね。』
『ああ。生き残るぞ。』
再び居合の構えをとる心螺。
刀に込めるエーテルの量が跳ね上がる。
狐畔は、長い棒を取り出し回転させる。
彼女も武器にエーテルを込め戦闘態勢をとる。
珠厳は全身にエーテルを纏い始めた。
静かながら力強い。深い海底のように暗く、重いエーテルがゆっくりと全身を流れていく。
同時に全身の筋肉が膨れ、年老いた見た目は目に見えて若返った。
『異神。改めて名乗らせて頂く!。赤国。武星天が一人。静極星、心螺。』
『同じく。天極星、狐畔。』
『老極星、珠厳。』
『全力で相手をさせて頂く!。』
構える三人。
『良いわよ。なら、此方も本気で行くわ。神具を使ってあげる。何処まで抗えるか見せて貰うわ。神具、起動!。』
時雨の手にしていた刀はその形を変え野球ボールくらいの球体に変化した。
全員が眼を覆い隠す程の閃光が周囲を照らす。
次に三人が瞳を開けた時、目の前の光景に絶句することとなった。
時雨が狐の仮面達を連れていなかった理由を理解したからだ。
『そう言うことか。彼女にはお供は最初からいらなかったようだな。我々の予想など容易く裏切ってくる。』
『ええ。まさか、こんな神具まであるなんてね。清不夜様や紅陣の神具とは全然違うみたい…。』
『これは…。厳しいですね。』
彼等の前にはエーテルが人型を象った兵士達で溢れ返っていた。
剣や刀を携えた歩兵、槍兵、弓兵、騎兵。
更には暗殺者と思われるエーテルが物陰より三人を窺っていた。その他にも様々な役割がありそうな様相のエーテルが後方に待機している。何処からともなくリズムを刻む音楽や開戦を知らせる笛の音までも聞こえる。
各々が数十から数百の軍隊として顕現し整列しながら歪んだ空間から出現した。
極めつけは、時雨の背後に召喚された彼女を模したエーテル体。彼女の動きと連動しているのだろう。同じ動作を行っている。
その大きさは三十メートル以上。物理的な干渉が可能性なのか、僅かに動いただけで発生した風圧と衝撃で周囲の建物が崩壊した。
『この異神…一柱で一国と渡り合える…いや、攻め落とせる力を持っているぞ…。』
覚悟を決め構えた三人は全身から冷たい汗が噴き出るのを感じた。
『神具。【軍神・戦嵐破陣 アジュチェエン・グリュデスバリエ】!。』
顕現した戦の神が戦場を広げる。
ーーー
赤国。西門。
最初に爆破され異神の侵入を許してしまった場所。
『さて、負傷した兵は後退させたが…ふむ。真紅の角…黄金の瞳…無尽蔵のエーテルで肉体を強化か…キキよ。アレはどうやら鬼のようだが?。同じ鬼としてどの程度のモノだ?。いや、まぁ…聞かなくとも分かるが…。』
古極星 龍華。
古の龍の末裔。本人も数千年を生きる伝説級の種族。
故に普段の態度、言動は傲慢そのもの。
しかし、そんな彼女も目の前の相手が異神となれば話は変わる。僅かに内で生まれる不安に小さな繋がりを求めて隣にいる仲間に語り掛けたくもなる。
『ええ。間違いなく鬼種ですね。ええ…信じられないくらいに強力な力を有しているようですが…。ふふ。それに…随分と好戦的な方のようですね。』
死極星 鬼姫。
嘗て、殺戮の限りを尽くし赤国に単騎で攻め入り他種族に恐れられた鬼族の姫。
初代赤国の王の時代に討伐されるも、その強さを理由に赤国の戦力として加入することになった。
龍華を含め鬼姫、そして狐畔は、存在そのものが星から発生した限り無く根源に近い種族であり、生まれながらにエーテルを扱うことが出来る。しかし、神ではない為、神具を扱うことが出来ない。
『そうか…どうするかのぉ。』
『俺が先に行こう。俺は一度別の異神と戦った経験がある。見た目も性質も大部分が違うようだが、力を見極めるなら俺が相手するのが丁度良いだろう。』
爆極星 群叢。
数刻前。基汐と戦った爆発を操る力を持つ異界人。
『あらら?。お一人で来るのですか?。私は全員が相手でも構いませんよ~。』
嬉しそうに。楽しそうに。愉快に両手を広げて高らかに笑う異神。
内に秘めるエーテルを隠しもせず、沸き上がる力を全面に押し出していた。
余りにも基汐との違いに戸惑いながらも異神に近付いていく群叢。
『最初に聞いておく。君の…君達の目的は何だ?。何故、この国に攻め込んだ?。』
『あらら?。おかしなことを聞くのですね?。あはは。そんなこと分かりきっていることではありませんか?。異神はこの世界の神に唆された住人にとって畏怖する存在なのでしょう?。世界を滅ぼす存在。ええ。ならば、あはは。本当に滅ぼしちゃおうと思いましてね!。』
『なっ!?。』
『ふふ。その最初の標的を赤国にしただけのことです。あはははは。』
基汐を直接見た群叢は驚いた。
基汐はむしろ戦いを避けているようにも見えた。
同じ異神でもここまで思想が違うのかと。
『あらら?。ふふ。ふふふ。お早いこと。もう始められたのね~。威神に時雨。こんな早期に神具まで発動させてるなんて。どうやら、赤国の戦士も捨てたモノではないようですか…。ふふ。』
笑顔を群叢、龍華、鬼姫に視線を向ける異神。
しかし、その瞳は笑ってはいない。鋭い眼差しと殺気を含んだ眼力に三人は気圧される。
『ふふ。では、私も二人に見習って全力で参りましょうか。神具。発動。』
『っ!?。来るぞ。』
『『っ!?。』』
身構える三人。
眼前の異神から放たれるエーテルが空気を焦がした。
『こ、これは…。』
『異神とは…本当に妾の常識外のようだのぉ…。』
『………。』
圧縮されたエーテルの核。核を守る立方体の核壁。時折、回転しエーテルの輝きが光の帯となって持ち主である異神に降り注ぐ。
更にその周囲を取り囲むように浮遊する十を軽く越える大小様々な白と黒の球体。
『神具【鬼光立体神聖幕 クラミリティム】。』
展開された神具に感情が高まる異神が名乗りをあげる。
『クロノ・フィリア。【狂乱鬼神】知果!。私と楽しく遊びましょう!。あはははは!!!。』
ーーー
時は少し前に遡る。
ーーー閃ーーー
ーーー緑国 国内 迷いの森ーーー
【影入り部屋】に入れない俺の為、夜、野宿の際、女の子達が交代制で俺の話し相手になってくれることとなった。
その一日目。最初に俺の相手をしてくれたのは詩那だった。
順番はどうやらジャンケンでもして決めたようだ。
食事を全員で済ませた後、皆は影の中に入った。
暫くすると桶にお湯とタオルを入れたシャワーあがりの詩那が戻ってくる。
『せ、先輩の身体…ふ、拭いてあげる!。』
顔を真っ赤にして視線を逸らしながら言う詩那。
『いや、自分で『駄目!。』…あ、はい。』
物凄い剣幕と周囲に放電を振り撒く詩那に気圧された。
『じゃ、じゃあ、お願いしようかな?。』
『う、うん。綺麗にしてあげるね!。』
終始照れながら、それでいて嬉しそうに俺の背中を拭いてくれる詩那。
その尻尾はくねくねと揺れ、時折、青く放電を繰り返していた。
ラディガルの能力がそのまま宿っているのだろう。何処か懐かしさを感じた。
てか、詩那。色々と危ないな…。下手したら森が火事になるぞ?。
『どう?。先輩。ウチの膝枕。』
『ああ、柔らかくて良い感じだ。けど、疲れないか?。』
『全然。ウチは嬉しいよ!。えへへ。』
身体を拭き終わり、着替えを済ませた後、詩那が膝枕を申し出た。
別に良いと言ったんだが、詩那は頑なに譲らなかった。
まぁ、ここまで嬉しそうにされたらな…断る理由もないし…。
『先輩の髪。さらさらだね。けど、ちょっと癖っ毛だ。えへへ。ずっと、こうしていたい~。』
詩那がゆっくりとした手つきで俺の頭を撫でる。
声も穏やかで優しい。
だが、ふむ。デカイな…。
横になる俺。頭の下には詩那の柔らかい太股。顔の横に当たるこれまた柔らかい可愛らしいお腹。耳の近くで聞こえる声。頭に感じる手の感触。俺の手を撫でる尻尾。鼻には詩那の甘い匂いが広がる。
全身が詩那に包まれているような感覚。
その感覚に拍車を掛けているのは…。
『あれ?。どうしたの?。先輩?。眠くなっちゃった?。』
『いんや。まだだよ。ただな…。』
俺の視界は詩那の大きな胸が埋め尽くしていた。触れるか触れないかの位置で詩那が動く度に揺れ、僅かな隙間から詩那が覗く。
『あのね。先輩…。ウチの胸どう?。』
『どう…って?。』
『先輩の…女の子の姿の先輩より小さいけど、それなりに大きいよ。その…どう?。好き?。触りたい?。』
どういう質問なんだよ…それ…何て言ったら正解なんだ?。下手なこと言ったらセクハラだろ…。
『…俺も男だからな。嫌いじゃない。』
『っ!?。そっか…そっか…。うん。嬉しいなぁ…。』
忙しく動く尻尾に腕を撫でられくすぐったい。
『……………。』
『……………。』
無言な時間が過ぎていく。
その間も、詩那の俺を撫でる手と尻尾は止まらなかった。
沈黙。だが、居心地は悪い感じはしない。
むしろ、心地良いくらいだ。
『ねぇ。先輩。』
『ん?。』
小さな深呼吸と共に話し始める詩那。
『ラディガルのことゴメンね。ウチが弱かったから…。』
『そのことか。気にするなって言っただろ?。それにラディガルも納得してる。俺の中に戻っただけだ。だから、お前が謝ることも、悔やむこともないさ。』
『うん。ラディガルのお陰でウチ、先輩と強く繋がったのを感じるよ。先輩の感情も少しだけ流れてくるの。ふふ。今ね。先輩。ウチと一緒で凄くリラックスしてくれてる。』
『まぁな。』
ラディガルと同化したことで、俺と詩那は主人と使い魔のような繋がりを得た。互いの間をエーテルが繋がり行き交う。思考や感情が何となく理解できる状態だ。
『先輩。』
『ん?。』
『前に言ったんだけど。ウチ。ラディガルと同化して前世の記憶が戻ったんだ。』
『みたいだな。どうだった?。前世の自分は?。戸惑うことも多いと思うが…。』
『うん。ちょっと混乱しちゃった。ウチ…今思うと馬鹿みたいな行動ばっかりしてた。』
『………。』
『後悔しても遅いけどね。死んじゃったし。だけどね。良い思い出も沢山あったんだよ。』
『そっか…。』
『ねぇ。覚えてる?。ウチね。前世でちゃんと先輩の後輩だったんだよ。同じ学校でね。』
『そうなのか?。』
『ははは。やっぱり覚えてないかぁ~。先輩と会話も少しだけしたんだ。』
『マジか?。いつ?。』
『あのね。先輩の妹さんが先輩を呼んでた時に教室まで先輩を呼びに行ったんだ。その時に兎針も一緒だったんだよ。それに、その日の放課後ね。雨が降ってて、傘忘れて帰れなかったウチ達に先輩は傘を貸してくれたんだ。』
妹…灯月…傘…。
ああ。そういえば、そんなこともあった気がする。
『そうだった。思い出した。ああ。あの後輩の女子が詩那か…。』
『う、うん?。思い出してくれたの?。』
『ああ、ん?。じゃあ、地下で捕まってた娘も…。』
『あ…それも…。ははは…それはあんまり思い出して欲しくないかな…。ウチ、酷い格好だったし。』
『そうか…俺は結構な回数、詩那と会ってたんだな。』
『うん。先輩はいつもウチを助けてくれたんだ。先輩にとっては人助けをしている数人の中の一人だったかもしれないけどね。』
正直、今の今まで忘れてたな。
この世界に転生して結構経つのに…。そんな俺に、この娘は好意まで向けてくれてたのか…。
『じゃあ、兎針とも会ってたんだな…。二人には悪いことをした。覚えてたらもっと…。』
『そんなことないよ。ウチだって記憶が戻るまで兎針に酷いことしちゃってたし…。』
兎針は記憶を取り戻しても尚、詩那に本当の関係を打ち明けなかった。
自分だけが知っている。失ってしまった詩那の記憶で彼女が苦しむのを見たくなかったからと言っていた。
『もっと、俺達は互いのことを知らないといけないな。』
『うん。そうだね。ねぇ。先輩?。』
『何だ?。』
『ウチね。妹がいるの。紗恩っていうんだけどね。あの娘はウチとは違ってしっかり者で、色々してくれたのに、ウチ…あの娘とちゃんとした別れ方をしなかったの…。』
『紗恩?。』
何処かで聞いた名前だな。
もしかして…。
『その妹もプレイヤーか?。』
『うん。あの娘は【青法詩典】の幹部だったから。』
『ああ。青嵐のところの。聞いたことあるわけだ。』
『あの娘もレベル120だったから、多分、この世界の何処かに転生してると思うの。だから、ウチは妹と再会したい。』
『ちゃんと目的が見つかったんだな。』
『うん。先輩と。皆のお陰だよ。転生して、先輩に助けられて、守られて…ウチ、何にも無かったから。』
『それは…。』
記憶がなかったからだ。
そう、言おうとした。
『記憶が無かったことを言い訳にしたくないの。それに…ウチは夢伽達みたいに意思も強くないから。仮想世界でゲームの時の能力が反映された二年間…死ぬまで。ウチはずっと足が地面についてないところで足掻いてただけだった。けど、これからは…先輩や仲間達と一緒なら成長出来る気がするの。』
『それは、俺もだよ。かつての仲間達も、今の仲間達も。全員が俺の大切な宝物だ。詩那…俺も一緒に成長する。互いに頑張ろうな。』
『うん。先輩~。』
『うぷっ!?。』
覗き込む詩那。
当然、前屈みになると大きな胸に顔が埋まってしまう。
こ、呼吸が…それに…詩那の…匂いが…。
『先輩。ウチはね。』
耳元で囁く詩那の声。
何処か艶かしく、それでいて優しい。
『先輩が好き。大好き。先輩の彼女に…恋人になりたい!。けどね…先輩の気持ちも理解してるよ。だから、返事は今じゃなくての良いの。いつか、いつかで良いから、先輩の返事…聞かせてね。待ってるから。』
静かにゆっくりと離れる詩那。
顔は見えない。けれど、離れる間際。
唇に柔らかな感触を感じた。
『じゃ、じゃあね。せ、先輩!。おやすみなさい!。』
眼をぐるぐるさせて、フラフラとした足取りのまま詩那は影の中に入っていった。
その顔と耳は、今まで見たことのないくらい真っ赤で頭からは湯気があがっていた。
更には尻尾の放電が夜の闇を切り裂いた。
『お休み。詩那。必ず、返事。するから。』
次回の投稿は6日の日曜日を予定しています。