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第295話 盤上

 赤国。王宮。

 赤国全土を模したジオラマ模型を前に愛鈴は巫女の能力である天恵を使用しエーテルの動きを注視していた。


『楚不夜。直ちに民と非戦闘員の避難を急がせよ。エーテルを扱えぬ者達も速やかに撤退させよ!。』

『はっ!。』


 一人の黒服に指示を出す楚不夜。


『王廷への侵入者。西門から始まり、四方の門がほぼ同時に爆破された。小さなエーテルが無数に散らばり、大きなエーテルの反応が四つ。』


 状況の確認と分析。

 敵。即ち、異神が攻め込んできたということを意味する状況。

 反応から異神は四体。その中に突出して大きな反応。


『コヤツがリーダーか…。さて。何者か…。』


 模型全体を隈無く観察する愛鈴。

 彼女の頭の中に目まぐるしく情報は行き交っていく。


 敵の目的。

 考えられる複数の可能性。

 第一に想像できるのは仲間である赤皇の救出。赤皇の居場所は知られていない…と考えれば、敵が戦力を分散したことにも納得がいく。

 しかし、これらのバラバラな敵の動きが全て別の目的の為の陽動とも考えられる。

 もしくは、此方の戦力の分断。各個撃破を狙っての行動か。

 元より強大な力を持つ神。多少の数の差など覆す程の能力を有しているだろう。真正面からぶつかっても勝機が無いわけではあるまい。

 我々にとっては未知数の力。それが、複数体攻めてきている現状。この可能性は低いか…。


 頭が痛い。


 最悪なのは赤国そのものの陥落が目的の場合。

 全勢力を持って大規模な破壊行動を行おうとしている。


『いや、最後のは早計だな。』


 自身の考えにブレーキを踏む。

 赤皇と過ごす前の愛鈴ならば、問答無用で異神に対し全面的に迎撃へと動いただろう。

 しかし、赤皇とのやり取り。彼から聞いた過去話。彼の仲間との思い出。それらの情報が愛鈴の中で異神達への思いと、今まで巫女として神に植え付けられた記憶との差異が発生してしまっている。

 

『異神…は、本当に………てき…なのか?。』


 誰にも聞こえない小さな声で呟く。


 改めて盤上に目を向ける。

 敵の目的。行動。それらをエーテルの動きから読み解く。

 独立し分散した小さな反応。四ヵ所の同時襲撃。

 未だにその場に留まっている理由。


 赤国の兵士達に苦戦している?。

 いや、そんなことはない。相手は異神なのだ。

 赤皇と同等。もしくは、それ以上の力がある。

 そう考えるとますます混乱してくる頭を激しく左右に振る愛鈴。


『さて、何を企んでおるか…。敵の目的。果たして何れか…。いや…もしや、全てか?。』


 仲間達に悟られないように冷静を装う。


『愛鈴様。』

『指示をくれ。俺達はアンタの指示に従う。』


 この場にいる華桜天、武星天の全ての者が愛鈴に熱い視線を向けていた。その視線に宿る信頼を感じ取る愛鈴。

 その心強い眼差しに今までにない感情が愛鈴の内に生まれ、溢れてくる感覚を覚えた。


 妾は独りではない。

 赤皇との接触は、他者との繋がりを求めつつも距離感と他者の気持ちを図りかねていた愛鈴を成長させ、確実に自立への歩みを進ませる為の背中を押した。


 彼等の気持ちに応えたい。

 

『ふむ。では、楚不夜。』

『はい。』

『華桜天の全総力を集結させ、この最も反応の強い異神を迎撃せよ。』

『畏まりました。』

『そして、残り三つの反応。各々に武星天のメンバー、三名ずつで迎撃に向かえ。』

『はっ!。』

『して、紅陣。』

『おう。』

『頼みがある。』


 愛鈴の視線の先へ紅陣が顔を向ける。

 それで全てを察した紅陣が笑顔を向けた。


『任せな。ちょっくら、行ってくるぜ。』

『頼む。爺様の無事を確認するだけで良い。』

『了解。てめぇら、しくじるんじゃねぇぞ。』


 愛鈴が見ていたもの。

 精巧に造られた模型。そこに聳える渓谷。

 仙界渓谷から発せられている四つのエーテルの反応。

 愛鈴にとって師匠であり、育ての親である飛公環が余生を過ごしている場所でもある。

 愛鈴だけではない。この場にいる赤国の全員が飛公環から戦闘技術、仙技を学んだ。

 全員の師匠なのだ。

 謂わば、現在の赤国の基礎を作ったと言っても過言ではない人物。

 そんな愛鈴にとって大切な家族の一人の周囲にエーテルの反応が複数集中しているのだ。彼女の内心は穏やかではいられない。

 それは、これから戦いに赴く大切な家族に対しても同じだった。

 故に、愛鈴は…彼女の心から思う素直な気持ちの言葉を口にし、その場にいる全員に放ち、伝えた。


『皆の者。これは命令だ。妾からの心からの願いだ。心して聞け!。』


 表情は相も変わらず変化はない。

 しかし、声音に宿る愛鈴の感情は皆の心を動かすには十分だった。


『死ぬな。自分の身の安全を第一に考えよ。逃げることも、隠れ潜むことも責めはせん。だから………気をつけて…ね。』


 その言葉に、この場にいる全員の心は一つとなった。

 幼き王の為に。赤国の未来の為に。

 十人十色の心は今、根底を同じ思いで固め。

 たった一人の、国と民を思う王の為に動き出したのだった。


 そんな中、愛鈴の心は不安に塗り潰されそうになっていた。

 胸騒ぎ。不安感。疑心。

 動き出すエーテルの反応。数が合わないエーテルの個数。

 

『何故、アヤツがまだ赤国に…それに、神眷者の反応までも増えて…。誰だ。妾の国に無断で入り込んだ者共は…。』


 赤国で何かが起きている。

 愛鈴はそんな不安を胸に、現状、目の前に抱えている問題から取り掛かった。


ーーー


 赤国の王宮の地下には隠し通路が存在する。

 緊急時、王が逃亡や亡命などをする際に使用するのが主な使用理由なのだが、逆に今回のように敵の進攻の際に味方側の奇襲にも用いることが可能。

 地下通路は赤国の至る所に直線距離で繋がっている為に何処にでも時間を短縮しての移動が可能なのであった。


 東門。

 

 爆破された門。

 周囲には狐の仮面を着けた人型のエーテルが赤国の兵達と戦っていた。

 強さはほぼ互角。数もほぼ同数。攻めてきた狐の仮面達は攻めあぐねている状況だ。


 しかし、互角の鬩ぎ合いだとしても。

 赤国の兵達の間には常に緊張の一本の紐が身体の芯に張り詰める。

 それもその筈。

 兵達と狐の仮面達との戦いを静観し眺めている存在が、後方で腕を組み仁王立ちしているのだ。

 明らかに別次元の存在。戦闘態勢になっている訳でもないのに身体に纏うエーテルが周囲の空気を歪ませていた。


『おいおい。マジか?。あれが異神って奴か?。』

『マジだろうな。はぁ...。やべぇな。緊張してきた。』

『逃げても良いぜ?。異神にビビって戦う前に無様に逃げましたって姫に報告してやるよ。』

『は?。てめぇ、喧嘩売ってんのか?。逃げるとか。そんなダセェことするわけねぇだろうが。』

『そうだな。あの異神を倒して無事に帰れば姫の笑顔が見れるかもしれねぇしな。』

『ははは。それは良いな。絶対可愛いぜ?。』

『だろうな。女は俺の欲求を満たすだけにいる。そんな考えだった俺達が、あの姫だけは幸せにしてやりたいって思ったくらいだ。』

『無表情なのも良いが。年相応に笑って欲しいんだよな。』

『ふっ…そうだな。俺達の恩人だ。こんな右も左も分からない世界で目覚めて、暴れてた俺達に力と地位までくれたんだ。こんな時にくらい恩返ししないとな。』


 この場を任された武星天のメンバー。

 炎極星 柘榴。

 力極星 塊陸。

 溶極星 獅炎。


 彼等は目の前の異神を睨みながら近づいていく。


『さて、会話が成立するかね…。』

『おう。お前等。後は俺達に任せな。怪我人連れて安全な場所に行きやがれ。』

『一人も死なすんじゃねぇぞ?。姫が悲しむ。』


 彼等の言葉に兵達は怪我人を担ぎ脱兎の如く逃げていく。

 赤国側で残ったのは彼等だけとなった。


『逃がしてくれんのか?。優しいねぇ?。』

『俺等が相手してやるよ。存分にな。』

『で?。一応聞くが、てめぇの目的は何だ?。』


 三人を見ていた異神が組んでいた腕を解く。

 鍛え上げられた肉体。長身を支える筋肉の鎧。鋭い眼光。物静かな雰囲気。そして、異常なエーテル。

 三人に緊張が走る。


『退け。ここは俺だけで良い。』


 その言葉に狐の仮面達がエーテルへと戻り空気の中に溶け込んでいった。

 数百といた異神側の勢力が一瞬で目の前の異神一人となったことに三人は驚いた。


『は?。舐めてんのか?。数で圧倒的優位に立てるのに…その優位性を捨てるとか?。』

『いや、そうではない。覚悟を決めたお前達相手では彼等には荷が重いと判断した。』

『はっ!?。俺等の力を認めてくれるってことか?。』

『ああ。その通りだ。誰かの為に戦おうとしている覚悟の眼。その様な眼をした男達の覚悟に水をさすのは野暮だろう?。』

『コイツ…馬鹿なのか?。真面目なのか?。分からねぇ…。』

『だが、これで良い。無駄な犠牲が出ないに越したことはないからな。』


 各々の武装を取り出す。

 エーテルを纏い、その武装は神具の域へと昇華された彼等の個性を反映させた武装だ。


『【炎極星剣】。』

『【力極星斧】。』

『【溶極星蛇鞭】。』


 炎を纏い放出する剣。

 大きく重い斧。

 金属で構成された外皮を持つ蛇型の鞭。


『さぁ。こっちは準備万端だ。待ってくれた礼だ。お前も準備しろよ。』

『てめぇら。覚悟は出来てるんだろうな?。』

『当たり前のこと聞くんじゃねぇよ。来るぜ。異界の神様がよ!。』


 その言葉を合図に異神の男がエーテルを放出。


『『『っ!?。』』』


 未だ嘗て三人が感じたこともない。敵意を向けられ殺気を込められたエーテルに三人の頬を汗が伝う。


『はは…化物が…。』

『こんな奴等がゴロゴロいるのかよ…。』

『けどよ。俺達がやることは変わらねぇだろ?。お前等。』

『っ!。ああ。そうだったな。』

『姫のために!。勝つぜ!。』


 彼等の胸の中には愛鈴がいる。

 彼等が愛鈴へ向ける思いは各々に違うかのしれない。だが、中心には愛鈴への思いがあることには変わらない。

 彼女が望む未来は確実に形になりつつあった。


『炎極星 柘榴!。』

『力極星 塊陸!。』

『溶極星 獅炎!。』


 名乗りを上げ、構える赤国の戦士。


『神具。【外装鋼闘鎧機球 メヘリュ・ゴウ・ガイディア】。』


 頭上に出現しそのまま落下する四つの黒い球体。

 地面を割り、地中深くめり込んだ際の重量感のある音を響かせた球体は宙へと浮かび上がり二メートルくらいの高さで停止。浮遊し始めた。


『異神…いや、クロノ・フィリア。【装鋼機神】威神(イガミ)。お前達の相手をさせて貰おう。』

次回の投稿は3日の木曜日を予定しています。

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