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第293話 忍び寄る黒

 身体の中を渦巻くエネルギー。

 魔力の時とは違う。

 例えるなら、魔力は波の無い水面。

 エーテルは大荒れの水面って感じか。

 コントロールしようにも、右へ左へ上へ下へと俺の意識下で大暴れ。必死で留めようにも規模のデカさで全部を押さえ込むことも出来ず、留めた分も隙間からすり抜けてしまう。

 いつもの俺ならそんなこと気にすることなく、大量の魔力を思うがままに解き放ち。ただ、相手にぶつけるだけだった。

 だから、仲間と共に戦ったり、住宅地など建物や物が密集している場所では戦いづらかった。周辺を巻き込んでしまうから。


『これ。また乱れておるぞ!。』

『あいたっ!?。っ!?。わあああああぁぁぁぁぁ。』


 後頭部に走る衝撃。

 それに気を取られた瞬間にバランスを崩し俺の身体はそのまま滝の下。滝壺へと沈んでいった。

 俺がいた滝の水面に沿って伸びる細い枝の上。そこに、この仙界渓谷で出会った老人が立っている。


 飛公環。


 俺は今、エーテルを扱う修行を彼から学んでいる。

 最初は、半信半疑だったけど。このお爺さん。滅茶苦茶強い。

 修行を始めてから三日。

 話を聞くと彼は、仙台の赤国を治める王に支えていた方らしい。

 幹部や兵士、王にも戦闘面での技術指導を行っていたのだとか。

 成程ね。実戦経験もだけど戦いの戦歴からして上にいる方だ。


『基汐?。大丈夫?。』

『ああ。何とか…。』


 ふわふわと浮かびながら水面から顔を出す俺を覗く紫音。

 何を隠そう。紫音は既にエーテルをコントロールする修行を昨日。二日目で終了してしまった。

 何でも、紫音は最初からエーテルのコントロールをほぼ完璧な形でマスターしていたという。

 確かに。地下競売での集中砲火。群叢との戦い。

 紫音の星型のエーテルは的確に敵の攻撃を相殺、更には迎撃まで行っていた。

 あれだけの技術は今の俺にはない。精々が、全部まとめて吹き飛ばすくらいだ。


『続きを。お願いします。』

『がはは。良いぞ!。若い竜よ!。良い根性じゃ!。鍛え甲斐があるわ!。』


 神との戦いで痛感した。

 今のままじゃ駄目なんだ。仲間と共に過ごす穏やかな日常を取り戻す為にはもっと強くならないといけない。

 そして、光歌と再会する。光歌だけじゃない。閃や白。仲間達、皆と再会したい。


『これ!。雑念を払うのじゃ!。』

『はぐあっ!?。うわあああああぁぁぁぁぁ…。』


 ボチャ~~~ン!!!。


『ふぉっ。ふぉっ。ふぉっ。まだまだじゃのぉ~。じゃが筋は良い。精進せいよ?。若い竜よ。お主は必ず今よりも強くなれるぞ!。』


 修行の時以外は口数の少ない飛公環。


『くちゃくちゃ。ごくん。お嬢さんや~。晩飯はまだかのぉ~。』

『お爺さん。今昼食を食べている最中ですよ。』

『おいや~。そうじゃった。そうじゃった。』


 普段は素なのか。わざとなのか。何とも微妙なボケ老人の飛公環。

 

『ふぉっ。ふぉっ。若いお姉ちゃんが二人も。ワシは幸せ者じゃな~。』

『ん。お爺ちゃん。一緒に遊ぼ。』

『おう。良いぞ。良いぞ。お嬢さん。ふぉっ。ふぉっ。ワシ。まだまだ若い者には負けんぞ。』

『ふふ。お爺さん。嬉しそうですね。』


 紫音も自然と打ち解ける。


『おい。若い竜。もうちょい強くて構わんぞ。』

『こ、こうですか?。』


 お爺さんは俺と風呂に入りたがる。

 背中を流して欲しいそうで、修行の礼としてこうして男同士で風呂に入っていた。


『おお。上手いではないか。ふぉっ。ふぉっ。ふぉっ。極楽じゃ~。この歳になると自分でするのも一苦労じゃて。』

『お爺さん。いくつなんです?。』

『さて、1000から先は忘れてもうたわ。』

『千!?。』

『見えんか?。気を極めるとこうなる。仙人種特有の能力じゃよ。』

『そうなんですね。』


 小さなお爺さんの背中。

 しかし、触れるだけで分かる。

 小さく細い身体。しかし、その肉体は凝縮され洗練され鍛え抜かれた、柔軟で力強い完成された筋肉。

 

『若い竜。』

『はい。』

『何のために、強さを欲するのじゃ?。』


 俺と二人きりになると饒舌になるお爺さん。


『仲間との再会。そして、仲間を守るために。』

『そうか…。どれ。少し昔話でも聞かせてやろうかのぉ。』


 どんな気紛れか。

 お爺さんはゆっくりと立ち上がり湯船に向かって歩いていく。

 その後ろをついていき、共に湯船へと並んで座る。


『ワシは昔、赤国の王に仕えていた。』


 お爺さん。飛公環の過去。

 先先代の赤国の王に、その気の使い方と強さを気に入られ兵士達の指南役として王宮に招かれたそうだ。

 それより前は、自身の限界を越える為に、この仙界渓谷で修行に明け暮れていたらしい。

 様々な英雄級の戦士を育成。赤国の戦力向上に大きく貢献する。

 その力を認められ、王の護衛に任命されることもあったとのこと。

 先先代の王が暗殺された後で先代の王にも仕える。しかし、先先代の王の死は彼の心に深い傷を残すことになった。

 先々代の王が何処からか連れてきた不死鳥の子供。

 お爺さんはその子供の世話を任されることとなった。

 その不死鳥の子供は感情の表現が苦手で、殆んど表情が変化しない不思議な子供だったという。

 弱々しい見た目、細く今にも消え入りそうな容姿。その子を一人前にするためにお爺さんは気の使い方、戦う方法を教え育てたのだと。


『あの娘は巫女じゃった。幼き頃より神々の声に悩まされ心が壊れる寸前じゃった。』


 気のコントロール。エーテルを扱う方法を修得するにつれ神々の声を遮断する術を獲得していったという。


『あの娘は今の赤国の王となった。立派に成長したが、まだ十三の少女。あの娘の心は深い底に沈んだままじゃ。誰かあの娘の支えになってくれる者が現れることを祈りつつ、ワシはあの娘の元から離れてしまった。国を裏から牛耳る金の亡者達のせいでな。』


 お爺さんは僅かに拳に力を込めた。

 辛そうなお爺さんを見たくなく話題を変える。


『なぁ。赤国の連中は何でエーテルを使えるんだ?。あれは神や巫女しか使えない筈だろう?。』

『なぁに。ちょっとした仙技の応用じゃよ。自身の肉体に外部からのエーテルを蓄積し留める。そして必要に応じて外に出して使用する。ワシが若い奴等に教えた技術じゃ。』

『へぇ。そんなことが出来るのか。』


 だから普通にエーテルを扱えてたのか。


『しかし、無限ではない。容量はその扱う者によって差が出る。底が尽きれば補充が必要じゃ。』

『その補充って?。』

『エーテルを持つ者が触れ、その者の気と一緒に流し込む。気を混ぜぬと対象の肉体がエーテルに耐えきれず破壊されてしまうからじゃ。』


 条件付きのエーテル使い。

 しかし、制限はあっても使えることには変わりない。それも全員。強敵だ。


『ふぉっ。ふぉっ。明日も沢山稽古をつけてやるぞ!。』


 何故か上機嫌のお爺さん。

 何だろうな。お爺さんと一緒にいると…家族を思い出す。仮想世界で失ってしまった…。俺の家族を。


~~~


『さぁ。今日も修行じゃ~。』

『ふふ。元気ですね。お爺さん。それに、とても嬉しそう。』

『頑張って。基汐。私。いっぱい。応援する。』

『おう!。頼むな!。よっしゃ!。今日も頑張るぜ!。』


 四日目の朝。

 俺達は日課になった修行の為に滝までやって来た。

 紫音と玖霧が用意してくれた昼食を持参して。


 しかし、そんな俺達を感知の外から眺める者達がいることに、その時はまだ気が付いていなかった。


ーーー


『あれか?。火車(ヒグルマ)。お前が惹かれている女は?。』

『ああ。アイツだ。ゼディナハさん。俺を痛め付けてくれた女。玖霧だ。』

『俺の目的の一つはお前だったからな。他の奴はいらねぇんだが?。あの赤い鬼の仲間だろう?。』

『ああ。その通りだ。』

『アイツも…その周りの奴等も異神みてぇだな。強そうじゃねぇの。で?。お前はどうしたいんだ?。』

『赤皇がこの世界にいたからな。必ずお前もこの世界に来てるって思ったぜ。ははは。やっぱ。良い女だな。ああ…俺のモノにしてぇ…。』

『聞いてねぇし。ふむ。異神といい異界人といい。美人が多いな。良いぜ。好きにしろよ。仲間にするも良し。捕えるのも良し。お前の自由だ。』

『ああ。玖霧。お前は俺のモノだ。はぁ…楽しみだぜ。お前を俺の好きに出来るとこを想像するとな。ははははは。』

『ははは。欲望に忠実すぎるだろお前。おもしれぇな。』


 ゼディナハと火車。彼等の魔の手が忍び寄る。

次回の投稿は26日の木曜日を予定しています。

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