第290話 愛鈴
幾つか質問する。答えられるものだけで良い。答えよ。
地下牢獄で幽閉されていた赤皇の前に現れた愛鈴。彼女の放った言葉に怪訝な表情で返す赤皇だったが、すぐにその顔を笑みへと変え鼻で笑う。
地下空間には奇妙な空気が流れていた。
『おもしれぇ聞き方だな?。俺は捕虜だろ?。なのに命令や、強制じゃねぇなんてな。』
『さっき語ったではないか。妾では貴様の口は割れんと。だが、妾には知りたいことがある。故に少しでも良いから答えて欲しい。頼む。』
『ふん。………はいよ。ほれ?。何を聞きたい。答えてやるから、早く質問しろよ。』
『貴様………いや、お主から見て妾はどう映っている?。』
『随分と意味の分からねぇ質問だな。敵である俺に自分のことを聞くとは。その質問はお前の容姿にってことか?。それとも性格?。』
『全部だ。ここ数日、多少なりでも妾と会合しただろう?。率直な感想で良い。どう思った?。』
『……………。』
暫く二人は見つめ合った。
そして、静かに赤皇が口を開く。
『脆くて危うい。それだけだな。お前は確かに人の上に立てる器を持っているかもしれねぇ。度胸もありそうだし、頭の回転も速そうだ。けどな。それは器の性質であって、お前自身の内心は一国の頭には向いてねぇ。そう思った。』
『っ!?。そうか…。はっきり言ってくれて助かる。…努力はしているのだがな。』
『ははは。怒らずに感謝か。おかしい奴だな。』
相変わらず表情は変わらない愛鈴。
だが、僅かに大きな瞳が揺らいだ。変わらないのは表情だけ声色や態度には彼女の心境が現れていた。
『………はぁ。こっからは俺の独り言だ。途中で邪魔すんじゃねぇぞ?。』
その愛鈴の様子を見て赤皇は語り始める。
『何?。』
『国って言って良いか分からねぇが、俺達がいた世界には六つの巨大なギルド…組織があった。元々住んでたデケェ島国を六つに分けて、各々に支配エリアを持ったデカイ組織だった。俺もその内の一つの頭でな、強さを求めた連中が集まって出来た纏まりのねぇ集団だった。強ぇ者がトップ。頭だ。弱ぇ奴は強ぇ奴に従う。それだけがルールだ。そんで、俺はそん中で一番強かった。一番強ぇ奴がルールを決め全員ソイツに従う。簡単だろ?。』
『………。』
『でだ。俺はめんどくせぇことが嫌いだ。だが、頭になったらなったでやることが多くてな。今度は弱ぇ奴等を守らねぇといけねぇんだと。くく。散々、言われたぜ。働け。働けってよ。』
『当然だな。それが上に立つ者の務めだ。あっ…すまん。独り言だったな。』
『…そんな、俺の仕事の中に他の組織の奴等との会合があってな。互いの近況報告と今後の方針、あと…何だったかな。まぁ、互いに牽制し合ってたわ。ははは。』
『………。』
『他の連中はな。俺みたいに馬鹿じゃねぇからよ。ちゃんと組織のことを考えたり、てめぇの中にある行動理念ってやつで動いててよ。ただ強くなる為に組織の天辺になった俺とは全然違ったわ。』
『………。』
いつの間にか、愛鈴は赤皇の話を背筋を伸ばし正座した状態で真剣に聞いていた。
その様子を見て、赤皇は内心微笑ましく思い軽く笑う。そして、話の続きを語り始める。時折、質問を織り混ぜながら。
『小せぇの………いや、愛鈴って言ったか。他人が怖いか?。』
『っ!?。……………怖い…とは、考えたことはないな。………難しい、とは常々思っているが。』
既に赤皇の独り言ではなくなっていた。
独り言から対話へと。少しづつ変化していく。
『難しい…ねぇ。』
『目指す場所が同じであり、互いに向いている方向が同じ…筈なのに、人の心の中は全く同じではない。似ていても必ず何処かで食い違っている。本心では何を考え、妾にどの様な思いを抱いているか、秘めた心を察することに日々尽力しているよ。』
『そうだな。それは人と人とが接して結び付く為に必ず向き合わねぇといけねぇことだ。どんなに近しい間柄でも他人であることには変わらねぇ。ソイツの内面なんてソイツしか分からねぇからな。』
『やはり、そうか…。難しいな…。願わくば、思いの全てを叶えてやりたいと考えているのだが…。』
『だがな、そのことで悩むこと自体は悪いことじゃねぇ。いや、悩んで対話し続けること。それが他人を知る唯一の方法だろうな。』
『……………。』
黙る愛鈴。
その様子を見て、赤皇はゆっくりとした口調で昔話を始めた。
『六つの組織の話をしただろう?。』
『あ、ああ。』
『その頭にいた連中。つまり俺と同格だった奴等で、まぁ、この世界で言うところのお前と同じ位の奴って感じか?。』
『……………。』
『その中で俺が一番警戒していた奴で白いのがいてな。』
『白いの?。』
『俺が呼んでる愛称よ。でだ。奴は口が巧くてな。聞いていて心地良い言葉を並べて近付いて来んのよ。気が付いた時には懐に入られてる。そんな感じだ。警戒しない訳がねぇ。ああいうタイプは必ず裏じゃ何か企んでるって決まってんだ。その上、俺達の中じゃ強さも頭一つ。いや、もっと飛び抜けてた。実力の底が見えねぇ奴だった。俺は恐ろしいと感じたね。』
『…其奴に裏はあったのか?。』
『ああ。とんでもない裏があった。怪しい野郎だ。どんなどす黒い闇を抱えてんのかと思ったら。』
『………。』
『くく。誰よりも人の…他人が幸せに暮らせる世界を望んでた。自身の全てを懸けて、俺達を含めた…あの世界に生きていた人間達の為に戦って………最後は死んでいった。自分の思いを託せる奴に全てを委ねてな。』
『っ!?。』
『な?。人の本心なんて、ソイツが行動した結果でしか分からねぇ。それでも予想でしかない。100%他人を理解するなんて無理な話さ。』
『ほ、他にはどんな王がいたんだ?。』
食い入り気味に質問する愛鈴。
表情は依然として無表情。だが、その瞳はキラキラと輝いているようだった。
『青いのは、未だに良く分からねぇな。他人のことは異常に観察していやがるし、頭の回転も速ぇ。だが、変な奴だ。掴みきれねぇ点では一番かもな。くく。もしかしたら俺様以上に馬鹿だったのかもしれねぇな。』
六大ギルド。
かつてのギルドマスターに対する赤皇の感想が並べられる。
『緑ぃのは、頑張り屋だな。裏表のねぇ性格っていうかな。兎に角真面目なんだ。その点はお前に似ているかもな。いつも他人のことばかり考えていて、何だろうな。余裕がないというか、常に押し潰されそうっていうか。ああ。アイツも危ういって感じだ。まぁ、アイツにも大切な存在って奴が現れてからは表情も雰囲気も明るくなってたな。』
『黒いのも、そうだ。弱ぇ自分を守るために無理をして狂気的なキャラを演じてた。自分の弱さを隠す為の仮面だ。奴もお前に似てるな。』
『妾は仮面など着けていないが?。』
『くく。表現の話さ。アイツは自分の弱さを理解して意識的にキャラを作っていた。お前は無意識だ。本来の自分を心の深ぇところに封じ込めて完璧な王を演じている。いや、演じようとしている感じだな。』
『妾が?。何故、お主にそんなことが分かる?。妾と出会って数日しか経っていないというのに…。』
『分かんねぇよ。俺の感覚で感じ取ったことを言ってんだ。お前を理解した訳じゃねぇ。俺の目にはそう映ったって話よ。』
『そ、そうか…すまん。声を荒げた。』
『くく。謝んのかよ?。まぁ、良いか。話を戻すが。一番驚いたのは黄のとこだな。アイツはすげぇ良い女でな。戦いを好まない性格で常に中立。俺達のまとめ役って感じだった。何度、俺の女にして抱いてやりてぇと思ったか分かんねぇ。』
『だっ…。』
『なかなか二人っきりになるタイミングがなくてな。求婚しても上手いこと躱される。あの時はマジで惚れてたわ。ははは。』
『求婚…。』
『くく。もし二人っきりになってたら有無を言わさず押し倒してた自信があるわ。まぁ、あの時でも返り討ちだったかもしれねぇが。ははは。』
『押し倒…。お主…なかなかに…卑猥だな。』
『男として当然だろ?。好みの女が目の前にいたら自分の欲望をぶつけんのよ。それが強さを持った男の特権だ。』
『そういうものなのか…。男の心も…難しい。』
顔を赤らめ視線を逸らす愛鈴。
知識はあるのか。身体をもじもじさせながら赤皇から僅かに離れる。
『ははは。安心しろよ。餓鬼には興味ねぇよ。』
『っ!?。そ、そんなこと考えていないわ!。…しかし、様々な王がいるのだな。勉強になる。』
無表情なのに言葉だけには感情が乗っていた。
『だがな。結局、黄ぃは俺達を裏切っていた。』
『っ!?。』
『俺達側の人間じゃなく、あの世界で最も恐れ、畏れられた奴等と繋がっていた。ははは。全然気が付かなかったけどな。俺達の情報は黄ぃを通してソイツ等に全部伝わってたって訳だ。』
『裏切り…か。』
『いや、裏切りは言い過ぎた。元々の俺達の関係を考えれば仲間ですらなかった。それだけだな。ははは。』
『何故。笑えるんだ?。終わったことだからか?。』
『ん?。どうしたよ?。』
『お主は先程他人について怖いかと聞いたな
?。それに対し妾は難しいと答えた。』
『まぁ。そうだな。』
『妾は 裏切り が怖い。信頼していた者に裏切られることが恐ろしいと感じる。先代も。その先代も。信頼していた筈の部下によって殺された。民を思い良い行いで名を広めた者も。悪行の限りを尽くした不届き者も。その最期は信頼していた者に裏切られる。』
『裏切りねぇ…。』
『勘違いするな。裏切られ殺されることに恐れはない。妾が未熟だったことの証明だからな。赤国に住む 全ての民が幸せを感じる ことの出来る国にする。その為に日々研鑽を重ねてきた。』
『そうか。立派じゃねぇか。じゃあ、お前は何を恐れている?。』
『妾の命を奪う。その行為をさせてしまう。妾の愛しい臣下や民の手を妾の血で汚してしまう。どんな理由があろうとそれは 罪 だ。皆を導く立場の妾が目指す国にはその 罪 が最も駆け離れた行為だ。妾はそれが嫌だ。その重荷を背負わせてしまった者には幸せは訪れんから。』
真剣な訴え。
『じゃあ、何か?。てめぇは他人の心はバラバラで幸せの感じ方は個人個人で違うことを理解した上で、全ての国民が幸せを感じることが出来て、罪を犯す奴のいない国を目指してるっていうのか?。』
『その通りだ。勿論、それは妾の妄想で夢物語の絵空事だということも理解している。どうだ?。妾のことを嘲るか?。笑うか?。』
『そんなことしねぇよ。俺には出来ねぇって思っただけだ。考えもしねぇ。お前のことすげぇって思っただけさ。そんな思考になることも。実行しようと努力することもな。』
『……………。』
目を大きく見開く愛鈴。
『今のこの地位。元は望んでついた地位ではない。妾が適任と言われたからこの地位にいるだけだ。皆が認めないのであれば潔く身を退くことも厭わん。』
『だが、おめぇは認められる努力してんだろ?。』
『当たり前だ。妾は王になった。なったからには妾の全てを費やし民の為の努力は惜しまん。だが、妾の行い、努力に対し反発する者は必ずいる。気に食わないと怒りを露にする者も、恨む者もいるだろう。妾を邪魔に思っている者も多い。妾はそんな考えを持つ者達にも幸せを感じて欲しいのだ。』
『それは…お前…。』
『分かっておる。しかし、そんな者達が妾を殺めた時点で、私が目指す国からは外れた存在になってしまう。妾は民が幸せになれないことが何よりも恐ろしい。臣下や民の心を掴めずにいるのが本音だな。皆、本心を隠す。何を望み、何を考え、何を求めるのか。妾はそれを知ることが重要なのにも拘わらず。他人はそれを隠す。他人を理解することが難しいと言った理由がそれだ。』
『はっ。めんどくせぇ性格してんだな。』
『そうかもしれんな。他者から見れば下らぬ悩みなのかもしれん。だが、先代の死を間近で見てしまった妾にとっては大事なことなんだ。』
『見たのか?。』
『目の前でな。血を吐いて倒れた。』
『そうか…。』
『まぁ、妾の場合は種族が不死鳥だからな。殺す方法は限られてくる。もしかしたら、死よりも辛い拷問の日々が待ち受けているかもしれんがな。』
背中の大きく開いたチャイナドレス。
明らかに翼を広げる為に開いている。
『もう一つ。聞いての良いか?。』
『ああ。』
『妾を慕う者。どうすれば見極められるだろうか?。確かに臣下はいる。【華桜天】も【武星天】も皆が大事な臣下だ。現状で妾に心を開いてくれている者を知るにはどうしたら良いと思う?。お主の考えを知りたい。』
『俺は頭が良くねぇからな。そんな質問の正解なんざ答えられねぇよ。』
『…そうか。』
『けどまぁ。お前のしたいようにやってみろよ。王なんだろ?。理想の国の為に突っ切ってみろ。そして、突っ切って辿り着いた先で隣にいる奴がお前の知りたがってる奴等だろうさ。まぁ、すぐには分からねぇってな。』
『……………本当に単純な解答だな。最後に隣にいる者か。当然だが、そうだな。それだけ、妾の問いに明確な答えがないということだろう。人の真意を知る。言葉にすると短いが…ああ、難しいモノだな。』
『俺から言えるのは。お前が本当に他人の本音を望むなら。お前自身は偽るな。取り繕うな。そうすりゃあ、自ずと相手も本音で語り出しだろうよ。』
『ふむ。嘘をつかず、ありのままの妾を相手にぶつけろと…そういうことか。』
『ああ。あと、これは俺の勝手な意見だが、お前の他人の心に寄り添おうとするのも、本心を知ろうとするのも。俺は正しいと思う。そんな王がいたって良い。その考えと努力は俺には出来ねぇし正直すげぇと思う。』
『そ、そうか…。』
『だが、お前が夢見る理想の国。その基盤と土台、それは必ずお前の 色 にしろ。それだけは他人の言葉に影響されるな。お前は王になり理想を掲げて国を動かそうとしている。その理想はお前だけが形に出来る、王としての責務と責任だ。それだけは忘れるな。』
『王の…責務…。』
『簡単な話。どんな鳥だって足場がねぇと寄り付かねぇってことだ。その足場はお前がしっかりと作ってやれよ。居心地の良い足場なら気付けばお前の理想郷だろうよ。』
『足場…。そうだな。…うん。頑張る。』
『ああ。頑張れ。』
話は終わった。
暫し。沈黙。赤皇はこれ以上話すこともないだろうと、愛鈴が来る前と同様に天井を見つめ物思いに耽る。
腹減ったなぁ~と、考えながら。
そんな赤皇をじっと見つめたまま動かない愛鈴。
赤皇も視界の端で観察していた。
果たして彼女はいつまでここにいるんだと。
『重いな。この鉄のドアは。』
唐突に鉄格子を開け牢獄の中に入ってきた愛鈴。
『おいおい。何してんだ?。』
『礼だ。お主と…赤皇と話して心が軽くなった。だから、妾は赤皇にお礼をする。』
鎖に繋がれた枷で動けない赤皇の大きな身体をよじ登る愛鈴。
互いの顔が間近に迫る距離で見つめ合う。
『失礼するぞ。っ…。』
『おい。何をして…んっ!?。』
赤皇は困惑する。
突然の口づけ。流れ込んでくるのは鉄の匂い。愛鈴は自らの舌を噛み血を流した。その血を口移しで赤皇へと流し込む。
『はぁ…はぁ…。どうだ?。身体の傷が癒えただろう?。』
赤皇の傷だらけの身体は光輝き、気付くと全身の傷という傷が消えていた。痕すら残さず、身体は健康体となっていた。
『すげぇな。身体の痛みが消えたぞ?。これがお前の能力か?。』
『ああ。妾は不死鳥だ。妾の身体から出る灰や体液を使えば治癒など容易い。体内に流せば効果は体外に塗るよりも早く強力なモノになる。』
『だからってなぁ。キスすることあったか?。舌まで噛んでよ?。』
『「………お礼。したくて…。私の話…聞いてくれた人…初めてだったから…。」舌の傷は既に治っている。痛みはあるが慣れた。妾は不死鳥。外傷では致命傷にならん。』
『最初の方聞こえなかったんだが?。』
『何でもない。気にするな。さて、鎖も外すぞ。』
『おいおい。お前警戒心とかないのか?。俺は異神。お前達の敵だ。そのこと忘れてねぇか?。』
『忘れてはおらん。だが、いつまでも拘束しておくのも憚られるからな。その枷は外せんし、ここからは出れん。それだけで十分だと判断した。』
『まぁ、能力を使えねぇならお前よりも弱ぇからな。大人しく従うが…。』
全身の傷は癒えた。
健康な肉体へと回復し、それを脳が自覚すると自然に別の欲求が浮上してくるというもの。
ぐぅ~~~~~。
空腹を知らせる特大のサイレン。
拘束されてから飲まず食わずの一週間。
神となった赤皇でも限界が近かった。
『空腹か。そうだったな。待っていてくれ。今。何か持ってこよう。』
『おいおい。本当にどうした?。お前、マジでおかしいぜ?。お礼の範疇を越えてる、何度も言うが俺はお前の敵だ………って、もういねぇし…。牢獄の扉開けっ放し、上に続く階段のドアも開きっぱ。危ういって俺の感想合ってんじゃん。』
逃げることも出来たが、無表情ながらも感情を行動に出していた愛鈴が気になってその場に留まる赤皇だった。
暫くすると、愛鈴が戻ってくる。
両手には赤皇が見たことのない食料が抱えられていた。
『すまんな。もう皆が寝静まった時間だ。適当に用意したモノだが食べられる筈だ。これ、飲み物な。』
小柄な愛鈴では赤皇の腹を満たす量を持ってくることは出来なかった。
小さなパンのようなモノに肉を挟んだモノが二つと、団子のようなモノが三つ。両方に赤く芳ばしい匂いのするタレが塗られていた。
『おお。ありがたい。貰うわ。』
小さなパンを口の中に放り込む。
甘辛いタレの味が肉とパンに染み込んでいる。癖になる絶妙な辛さと甘さ。モチモチとしたパンと柔い肉が口の中で混ざり合う。
『どうだ?。味は?。』
『ああ。うめぇな。これ。』
『そ、そうか…。「初めて作ったけど…上手く出来たみたい。…喜んでくれてる…嬉しい。」沢山はないが味わって食べてくれ。』
『おう。サンキューな。でっ、こっちはっと。』
団子を一口。
タレは同じ。団子の食感。団子自体の甘さがタレの甘さと融合し口の中に爽やかな甘さが広がった。後味もさっぱりとしていて、赤皇の知っている団子とは駆け離れた味だった。
『こっちも旨いな。』
あっという間に平らげてしまう赤皇。
『ごちそうさん。旨かったぞ。』
『そうか。良かった。明日からも持ってくるからな。期待していろ。』
『……………。もう、突っ込まねぇぞ?。』
『分かっておる。赤皇は敵。そんなことは承知している。…最後に一つ聞きたい。』
『何だ?。』
『赤皇は、異神はこの世界を滅ぼすのか?。』
『そんなことに興味ねぇよ。まぁ、お前達が向かってくるなら戦うけどな。』
『そうか。妾は赤皇とは戦いたくない。なら、問題あるまい。あと…。』
『ん?。』
『「も、もっと…話…したい。」な、何でもない!。ではな。そろそろ妾は戻る。』
上へと続く階段に向かう愛鈴。
最後まで表情は変わらない。無表情のまま。しかし、態度は分かりやすい愛鈴だった。
『ああ。愛鈴。俺からも最後に一つだ。』
『ん?。何だ?。』
『俺を倒した奴。奴には気を付けろ。アイツはヤベェ臭いがプンプンしやがったからな。』
『………。分かった。肝に銘じよう。感謝する。赤皇。』
赤皇の真剣な助言に真剣な表情で答える愛鈴。
赤皇は愛鈴が見えなくなるまでその小さな背中を眺めていた。
ーーー
『らあああああぁぁぁぁぁ!!!。』
炎を纏いし剣が放つ斬撃。
狐の仮面を着けた者達が苦しみ踠きながら焼け、そして倒れていく。
『ほぉれ。消えろ!。雑魚が!。』
巨大な龍の爪が一薙で複数の者達を切り刻み、軽々と吹き飛ばした。
『はっ!。』
居合い一閃。
目にも止まらぬ刀の閃光によって、忽ち複数の首が胴から切り離され残された身体が音もなく倒れていった。
基汐を逃がすために突如として現れた狐の面を着けた五十の集団。
だが、圧倒的な個人の戦闘力の前に全滅を期した。
【武星天】
炎極星 柘榴
古極星 龍華
静極星 心螺
の、三名によって短時間で戦いは終わった。
『ちっ。やっぱり本体は一体もいなかったな。』
『雑魚が小細工しておるだけではないか?。こんな木偶人形。何体来ようが結果は変わらん。』
『問題はそこではない。【妖炎天】の者は囮。本体はこの場にいない。その上、追い詰めた異神を逃がしてしまった。これでは、愛鈴様に顔向け出来ない。』
『そ、そうだな。それは困る。愛鈴様は俺達を救ってくれたんだ。こんなところで失望させてたまるかよ!。』
『群叢、群叢の奴が確か先回りしている筈だ。今から急げば挟み撃ちに出来るかもしれぬ。善は急げだ!。行くぞ!。』
『しかしながら、別動隊の方も心配だな。何もなく終わる筈はない。』
三人は基汐達が逃げた方角へと移動する。
しかし、戦いは既に終わっていた。戦場となった森の中。そこで片腕を失い静かに休んでいた群叢と合流を果たした。
ーーー
高さ300メートルを越える巨大な塔。
赤国へ敵対する謎の組織【妖炎天】が根城にしていたとされる場所へと赴いた【武星天】のメンバー。
力極星 塊陸
溶極星 獅炎
天極星 狐畔
死極星 鬼姫
老極星 珠厳
そして、長、紅陣。
彼等は塔へと攻め入った。
全員が戦闘準備を整え、部下数百人を引き連れ一気に塔を制圧…した、までは良かった。
しかし、中はもぬけの殻。【妖炎天】の者達は一人も発見出来ぬまま全員が塔の中をしらみ潰しに探した。だが、誰もいない。
全員の開戦に際し高められた闘志は、行き場を失っていた。
全員が愕然としたその時だった。
塔が崩壊した。
突然の爆発。300メートル以上の高さを持つ塔は地面へと落下、崩落し数秒後には瓦礫の山が形成された。
『ぶっはっ!?。何が…起きやがった!?。』
『いってぇ~。いきなり爆発したと思ったら、全身が叩き付けられたぞ!?。』
『ぐっ…これ。【妖炎天】の奴等の仕業か?。建物の誘き寄せて建物ごとってか?。えげつねぇこと考えやがる。』
『いった~い。ああ~。アザになってる!?。酷いよ~。』
『皆さんは無事のようね。ですが、エーテルを使えない方々は…全滅のようですね。ペチャンコです。』
『そうか…まんまと、してやられたということか…どうする?。紅陣。』
『ここまでの準備を終わらせてんだ。【妖炎天】の奴等は逃げてるだろうな。仕方ねぇ。動ける奴はまだ生きてる奴の救出を。死んだ奴は集められる分だけで良い。一ヶ所に集めろ。弔ってから帰る。くっそ。愛鈴様に何て報告すりゃあ良いんだよ!。』
『悲しませちゃうね。』
『表情は変わらないのに、目に見えて落ち込むからなぁ…。』
『だから、ほっとけないんだけどな。』
『くっそ。将来は絶対美人になるのにな。手を出せねぇ高嶺の花だぜ!。』
『さて、死んだ者達の供養からね。終わらせましょう。』
『まんまと罠にはまった我等を愛鈴様はどう思われるか…。』
『報告したくねぇなぁ…。』
何の成果も上げられないどころか、幹部以外全滅という最悪な状況に全員が落胆する。
その後、念のために周囲を探索するも【妖炎天】の情報も痕跡も発見できなかった。
【武星天】が引き返していった様子を上空から見ていた二つの影。
『ふふふ。私等に喧嘩売って無事に済むと思ってる方が甘いのよ。』
『ええ。そうですね~。智鳴御姉様。狐と鬼を敵に回すということの意味を奴等に思い知らせてあげましょう。ふふ。』
『ええ。そうね。知果。どうやら、基汐が近くに来ているみただし。赤国の奴等との戦争は彼と合流してからにしましょうか。』
『そうですね。ふふ。ああ。楽しみですね。早く戦いたいです。蹂躙して、殲滅してやりますよ!。赤皇を捕らえたことの罰を与えないといけないですしねぇ~。』
『ええ。そうね。騙し、殺し、呪い、貪る。はぁ...閃様は何処にいるのでしょうか?。このままですと、私達…世界征服を始めちゃいますよ?。何せ、私達は…。』
『ええ。その通りですよ。御姉様。私達は世界を滅ぼす異界の神ですからね。世界に期待されているのです!。ふふ。期待には応えないといけませんね!。』
『ふふ。』
『ふふ。』
『『うふっ。うふふふふふ…。』』
次回の投稿は15日の日曜日を予定しています。