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第289話 仙技

 流水を彷彿とさせる流れるような洗練された動き。蛇の如く素早くうねる腕は間合いを掴ませず、その足運びは重心の移動を感じさせない。頭の位置が動かないせいで距離感を誤認させられてしまう。

 加えて、牽制を混ぜた腕の動きに合わせ、此方の隙を見逃さない観察眼。

 受けの構えから瞬時に攻勢に転じる判断の早さと、脅威的な踏み込みから発生したエネルギーを身体の回転を利用して加速させ、爆発的な破壊力に変換した拳が的確に急所を狙って放たれる。

 

 赤国。【武星天】が一人。【爆極星】群叢。

 

 襲撃から逃れた俺と紫音を待ち受けていた刺客。

 彼の徒手空拳の乱撃は容赦なく続いていた。


『はっ!。』

『ぐっ!?。』


 洗練され卓越した動き。

 才能や努力だけじゃない。強くなりたいと、強さを求め続けた者だけが至れる武の極地。

 直感と天武の才に恵まれた煌真とは真逆に位置する者だ。


 彼の攻撃を防ぎ、何とか逃げるタイミングを計っているのだが猛攻に隙は無く捌くので精一杯だ。

 隙を生じさせない連続攻撃。おそらく攻めにパターンはあるのだろうが、複数の型が互いの隙を絶妙に補うことで隙のない連続攻撃を可能にしていた。


 既に戦闘が始まり十五分程が経過。

 打ち込まれた拳は軽く千を越え、場の緊張感が高まっている。

 早めに対処しなければ、敵が追い付いてきてしまう。


『はっ!。』


 ほぼ同時に放たれる三つの攻撃。

 胸、顔面、首を狙った刺突の抜き手。

 胸にいる紫音を守るために両手を抱え、首は傾げて躱す。最後の顔面への攻撃は傾げたことで頬を掠った。

 鋭いナイフで切られたような鋭利な傷痕。まともに食らえば一溜りもないな。


『基汐!。離れて!。』


 紫音の言葉を合図に群叢から距離を取る。

 同時に紫音の星から魔力砲の牽制弾が放たれた。


『遅い。はっ!。』

『なっ!?。』


 エーテルを纏った前方へと放った正拳突き。

 衝撃で発生した空気の振動にエーテルが混ざり簡易的な空気の壁が作られ魔力砲を打ち消した。


『コイツ。強い。異界人なのにエーテル使えてる。どうして?。』


 紫音が小さな声で困惑している。

 確かにそうだ。紫音は最初、この世界に転生した際は異界人だった。

 その後、ムリュシーレアと出会い。そこで、記憶と神としての力を貰った。

 しかし、目の前の彼は何だ?。

 前世の記憶は無いようだが、魔力ではなくエーテルを扱っている。

 

『………ふぅ。流石だな。』


 拳を突き出したポーズを止め。俺に向き合う形で深呼吸をし呼吸を整える群叢。

 戦いの緊張感はそのままだが、彼からの殺気が僅かに弱まった。


『俺の拳をここまで凌ぎきるとは、己の身体と技を鍛え続け、この世界に転生し更なる強さを求めた。だが、君には一撃も決定打を与えることが出来ていない。称賛を受け取ってくれ。』

『………。』


 考えが甘かった。

 神々との戦いを経験し、神眷者という存在を知った。短い時間だったが神眷者が戦闘を行う場面にも遭遇した。

 それだけではなかった。注意しなければならない存在は他にもいた。

 異界人。俺と同じ世界の転生者。神としての能力を得ていない筈なのに、エーテルを操り今まさに俺と対峙している。


『群叢…君は強いな。』


 強さを求める純粋さ。

 磨き抜かれた技量は驚嘆するほかない。

 

『人々が畏怖し強大な存在である異神の君に言われるとは、嬉しい限りだ。…しかし、残念だよ。』

『何がだ?。』

『いや、すまない。これは俺の我儘だ。君の立場、状況。それらを鑑みて、この場で能力を隠すのは当然だ。その君の周囲を浮遊している星型の神具。君のモノではあるまい?。先程から君が守っている懐にいる小さな存在。彼女の神具なのだろう?。』

『っ!?。気付いてたのか?。』

『ふふ。驚くことはない。気を読むのは武術の基本中の基本。君の気に混ざって別の者の気を感じた。必然的に君の行動にも納得する。懐を集中的に守っているってね。』


 気。というのが分からないが魔力かエーテルってことなのか?。

 しかし、それで紫音の存在を知られたのも事実。どうする。俺の力を使うか?。


『しかし、それでは困る。俺の目的は自身の力が君達、異神の何処まで通用するのかを見定めること。力を隠したいという君の心情は察するに余りあるが、君の力。無理矢理にでも見てみたくなった。』


 いつの間にか遠くの方で鳴っていた爆発音が消えている。


『ふむ。時間も、そう無いようだな。さて、残念だが次の一撃で最後のようだ。最後に君の名前を聞いても良いか?。』

『…基汐だ。』

『基汐。覚えておく。そして、心せよ。次の一撃、今までと同じ方法では到底防ぎ切れるモノではない。願わくば、死んでくれるな。』  


 来る。

 彼の本当の力が!?。


『ふぅ………はっ!。』


 これは…エーテル?。

 いや、エーテルもだが、別の何か。違うエネルギーの波動も感じる?。

 そして、群叢の身体の周りで起きる変化。

 バチバチと何かが弾ける音が継続的に聞こえ、徐々に大きくなっていく。


『改めて、名乗ろう。【爆極星】群叢。我が一撃受けてみよ!。行くぞ!。』


 速い!?。

 今までとは全く違う。段違いのスピード。一瞬で懐に潜り込まれた。

 完全に群叢の間合いだ。


『【爆仙技法】!。【爆極星破豪】!。』


 群叢の両腕。至近距離から放たれた爆撃。

 火炎と衝撃。轟音と爆風が俺の身体を巻き込んだ。


ーーー


ーーー【爆極星】群叢ーーー


 仙技。

 赤国で独自に発展を遂げた戦闘技術。

 魔力やエーテルとは別のエネルギー。生命力を肉体に宿る性質と融合させて身体に纏う。

 【爆発】の特性を持つ俺の仙技によって異神である基汐の身体は大爆発の中に消えた。

 全力で放った。全力でなければ意味がないから。己の力を試す。それが俺の目的であり、全力の仙技が通用するかを知りたかった。


 両腕で練られた気が爆発の性質を持ち放たれた。

 基汐がいた後方。広範囲に渡って爆発に巻き込まれ衝撃で吹き飛んだ。

 木々は炭となり、地面は焼け焦げていく。


 手応えはあった。

 

 しかし何だ?。この胸騒ぎは、この悪寒は?。


『っ!?。』


 目の前を覆う黒い煙の中で光輝く二つの光源。

 まさか、今の爆発に耐えたのか!?。


『神具。起動。お返しだ。俺も一撃だけ反撃させて貰う。』


 尋常ではないエーテルの渦が新たに出現した光源へ収束していく。

 竜種の持つ強大なエネルギーと、鬼種の持つ禍々しさが融合した竜鬼のエーテル。

 

『ぐっ!?。』


 直感から全力で飛び退く。

 直後、高圧縮されたエーテルの砲撃が放たれ俺の腕を掠める。

 掠めた。そう。僅かに砲撃に触れたんだ。

 その瞬間。砲撃の威力に掠めた腕が持って行かれた。腕は焼け焦げ、勢いに呑まれ、肩口から引き裂かれた。


『うぐあっ!?。』


 勢いに押されそうになる身体を制御し直し受け身を取って立て直す。

 警戒体制を維持しつつ黒煙の中に潜む者を凝視し睨み付けた。


『それが…基汐。君の神具か?。』


 炎のように。燃えるような赤い鎧。 

 巨大な翼を大いに広げた禍々しくも美しい。竜と鬼の特徴を併せ持つ外皮にも似た神々しい姿の基汐が姿を現した。


『ああ。今のを回避するとはな。やはり、君は強い。』

『ははは。この期に及んで褒めてくれるとは…。』


 広範囲の気の流れを読むと、赤国の仲間達が近付いて来ているのを感じる。

 基汐も気が付いているのだろうな。俺への警戒を強め逃げるタイミングを計っているようだ。

 目的は…達したか…。


『行け。』

『え?。』

『君とこの場で戦えて良かった。この戦いの決着は、次の機会に取っておくとしよう。』

『………良いのか?。』

『ああ。問題ない。だが…もし、次の機会があるのならば…その時こそは、その姿の君と最初から全力で…互いの命を懸けて戦ってくれることを願うよ。』

『…分かった。機会があれば。全力で。』

『はは。ああ。約束だ。』


 高速で天空へと駆け上がり飛び去っていく基汐。

 数秒で俺の視界から消えた。


 失った腕を見る。

 あれが異神の力か…。

 

『ふふ。世界は広いな。基汐。君にここで出会えたこと感謝するぞ。そして、願わくば…約束を守ってくれよ。好敵手よ。』


 基汐の砲撃によって雲が欠き消えた青空を見上げ高まる胸の鼓動に心地好さを感じていた。


ーーー


ーーー赤国 王堅牢の間ーーー


 赤国には王のみが入ることの出来る部屋が幾つか存在する。

 その一つが王の寝室。王が王という責務の重しから解き放たれる唯一の場所。

 王のみと謳っているが、王が許可した者ならば入室することが出来る。


 そして、王のみが入ることが出来る場所に 王堅牢の間 という部屋がある。

 部屋と言っても牢獄だ。国にとって不利益、有害、国そのものを揺るがしかねない大罪を犯した者。国民への閲覧すら許されない重罪人を拘束する場所だ。

 滅多に使われることのないその部屋。

 何せ。そこまでの大罪を犯した者など、牢獄に入れられる前にその場での殺害か、見せしめの処刑で済むからだ。

 ここに幽閉されるのは、唯一の理由。

 生かされることに何らかの理由がある大罪人。


 今。愛鈴が薄暗い中、冷たい石造りの長い階段を降りていた。

 日の光の届かない地下深く。四方を石で囲まれた冷たい牢獄。

 そこには一人の男が捕らえられていた。


 青国から支給されたエーテルを封じ込める枷。それに四肢を拘束され更に鎖で壁に張り付けにされた男。

 全身の生々しい傷。滴り落ちる血液で彼の足下は赤い池が作られていた。


『よぉ。小さいの。また。来たのか?。何度来ようと。俺は仲間のことは話さねぇよ?。それとも、ここから出してくれるのかい?。』

『そうだろうな。』


 鉄格子の中からいきなり声を掛けられて僅かに驚く愛鈴。

 しかし、表情は変わらない。小さく肩が跳ねた程度だった。

 聞こえるか聞こえないか。小さく深呼吸をした愛鈴は話し始めた。


『ここ数日。異神である貴様に仲間のことを聞き出そうと様々なことをしたが…ふむ。貴様との会話。何を聞いても 言わぬ の一点張り。貴様の口を割るには妾では力不足のようだ。』

『ははは。そうだな。お前は優しすぎる。』

『優しい?。何だ?。その感想は?。』

『は?。分からねぇのか?。』

『………ふむ。分からん。なぁ。貴様の名前。もう一度。教えてくれぬか?。』

『あ?。ああ。それくらいなら良いぜ。俺は赤皇(セキオウ)だ。』

『赤皇…。幾つか質問する。答えられるものだけで良い。答えよ。』

次回の投稿は12日の木曜日を予定しています。

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