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第287話 赤国の頂点

 赤国で情報収集を始め、あからさまに怪しい連中を見つけた俺と紫音。

 鎖で拘束されて引きずられながら移動する人達。多種多様な種族。最も多い人族。

 異質なのは、この光景を見て露店街の人達や通行人達が全くの無表情、無反応だということ。

 つまり、この光景自体が彼等にとって普通の風景であり、ありふれた日常ということか。

 良く良く見ると、露店街にも薄汚い格好をし、鞭や棒で叩かれ、こき使われている人達がいる。多くは人族。たまに獣人を見る。


『ああやって集められた人達を赤国の連中が奴隷として買うってことか。』

『他国にも。売ってる。みたい。』

『そうか。流石にないと思うが俺達の仲間が捕まってないよな?。』


 睦美の時の件もある。

 まだ、この世界で能力に目覚めていない仲間がいた場合、考えたくもないな。捕らえられ、最悪の場合、売り払われてるとか。

 

『分かんない。魔力だけを操る敵。あんまり怖くない。だけど。エーテルを使う敵だったら。』

『そうだな。神眷者…だったか。神に力を貰ったリスティールの住人。』


 仮想世界で俺達と戦った神々。

 奴等は何故か、このリスティールの大地に降り立つことが出来ないらしい。

 その代わりに、神々は自らの力を分け与えた存在である神眷者をリスティールに解き放った。

 理由は明確。


『そう。私達の。敵。』


 奴等は神々の代わりに俺達をこのリスティールから排除しようとしている。

 仮想世界でも命を狙われ、挙げ句、この世界でも狙われる。俺達がいったい何をしたんだかなぁ…。

 平和な日常に戻りたい。あの頃のような…。


『神眷者には注意だな。』


 睦美を襲った奴等の中にエーテルを操っている者がいた。俺が見たのは三人。いったい何人の神眷者がいるのか。それすらも俺達は分かっていない。


『敵が不透明過ぎるよな。噂では神眷者は二人だった筈なのに。俺は既に三人のエーテルを使う奴等と出会っている。』


 リーダーらしき煙管を咥えた女。

 おそらく、奴が神眷者として名が上がっていた楚不夜で間違いない。

 その他、側近に二人。

 刀を持った侍風貌の男とスーツ姿の女。

 その三人がエーテルを纏っていた。


『集めた情報以上に赤国には神眷者がいるのか…それとも、何らかの方法でエーテルを操れる方法があるのか…。』

『それも。分かんない。私も最初は魔力しか使えなかった。けど。ムリュシーレアさんにエーテルを扱えるようにして貰ったの。』

『ふむ。なら、方法が存在しない訳ではない…ってことだよな。』

『だね。基汐は私が守るね。』

『はは。頼もしいな。なら、紫音は俺が守るからな。』

『うん。うん。嬉しい。お姫様な気分。』

『おいおい。』


 まずは、あの鎖で繋がれた人達が連れていかれる先を調べてみよう。

 俺は気配を消して、ゆっくりと彼等の後をつけた。


ーーー


ーーー数時間前ーーー


ーーー赤国 中枢 宮殿ーーー


『ほぉ。昨夜か。動きがあったようだな?。』


 小さく可憐な少女が赤国の全てを模して精巧に造られた模型を眺めながら、その側に並び控える二人に話し掛けた。

 頭の左右に編んだ髪で作ったお団子の黒い髪。そこから腰まで伸びる髪が振り向いた拍子に左右に流れた。

 赤いチャイナドレスからは幼い外見ながらバランスの良い僅かな凹凸が垣間見える。

 顔は動かさず、視線だけは模型を見つめている。


『はい。愛鈴様。昨夜、強大なエーテルの反応を感知しました。』


 愛鈴(アイリン)と呼ばれた少女の質問に応えるは【華桜天】の長。楚不夜(ソフヤ)


『俺んとこの末端の連中が被害にあった。だが、周辺にいた野次馬共に聞いてもハッキリとした解答は得られなかった。どうにも、突然空から星形の石が高速で落ちてきたんだと。確認した際にエーテルを感知した。かなり強力な使い手の仕業じゃねぇかと。』


 同じく、楚不夜の横に立つ男が応える。

 チャイナ服に身を包む、赤い髪を三つ編みにした筋肉質の男。服の上からでも分かる鍛え抜かれた肉体は力強くも美しくもある。

 【武星天】の長。紅陣(コウジン)


『ふむ。何らかの口封じか…。その者達が生きていた際の行動は?。』

『詳しいことは分からなかったが…誰かと揉めてたらしい。だが、奴等が揉めてるのなんて日常茶飯事だからな。確たる証拠にはならねぇな。』

『ふむ。どれ。エーテルの位置でも調べてみるか。』


 愛鈴が赤国の模型にエーテルを流す。

 すると、赤国の様々な場所に光の柱が立ち始める。

 彼女の【巫女】としての能力。


『ひぃ。ふぅ。みぃ。…………九つ…そして、厄災か。妾の領国内で十もの異邦者共が蔓延っておるとはな…。ふむ。この渓谷にある反応…楚不夜が逃したという妾と同種の異神か?。』

『はい。その通りで御座います。申し訳ありません。愛鈴様と同種の者を捕らえようとしたこと謝罪します。』

『よい。不死鳥である妾の肉体から生まれる秘薬。その生産量…して流通量が不足しているのだろう?。この幼き身体では、生産するのにも限界がある。お主はそれを心配してくれていたのだ。妾を慮るお主の気持ち嬉しく思う。だが、流石の妾でも同種を巻き込むことはしたくない。今後は控えて欲しい。』

『はい。お心のままに。』

『しかし、正体が判明しているのはその不死鳥の異神だけなんだろ?。どうするんだ?。狩りに行くか?。ああ。もちろん、狩るのは異神だけだ。君主の同族には手は出さねぇよ。』

『いや、聞くところによるとその異神は厄介な神具を有しているようではないか。能力を聞く限り下手を打てば此方の被害も甚大。幸い渓谷はこの中心である神凰宮殿から離れておる。奴が動かぬ限り此方から手を出すのは控えたい。しかし、監視だけは怠るな。動きがあればすぐに知らせよ。』

『はいよ。だが、少し甘くないか?。俺達の目的は異神を狩ることだ。野放しにしていられる程の余裕はないだろう?。』

『お主の言う通りだ。しかし、戦いになれば民を巻き込むこととなる。それだけは避けたい。』

『そうかい。まぁ、準備だけはしておくわ。』

『ああ。頼む。さて、昨夜の動き。確認されていない異神が動いたと見て間違いあるまい。位置的に…この二つの反応が怪しいな。』


 愛鈴が指差す二つの柱。

 

『まずはコヤツ等から処理するとしようか。さて、楚不夜。』

『はい。』

『例の奴隷競売だが、それを異神を誘き寄せる餌にしてみてはどうか?。この二つの動き…数日間を遡り行動を見るに何らかの情報を集めている動きと見える。我々の情報か、それとも仲間の情報か。何にせよ。此方側に何らかの動きがあれば十分に釣れるだろう。』

『では、目につくように、競売用の奴隷の運搬を街中で行いましょう。』

『そうだな。紅陣。』

『おう。』

『楚不夜に手練れを貸してやれ。異神相手ならば好きに暴れて構わん。相手の出方次第だが、お主も力を行使することを許す。』

『了解。くく。面白くなってきたな。』

『楽しそうなところ悪いがこれは遊びではない。我等と異神との戦争だ。心しておけ。…楚不夜。周囲の住人の避難を頼む。決して巻き込むな。』

『はっ。了解しました。奴隷の方は如何致しますか?。』

『客は?。』

『判明しているので、各種族の老害かと。』

『ふむ。ならば放っておけ。大好きな奴隷共と死を共に出来るならば本望だろうよ。妾の方針に意を唱え、自分等の都合を押し付ける私欲にまみれたゴミ共を始末するチャンスだろう。』

『畏まりました。では、今回の商品。最上の品は控えておきましょう。価値にして中の中から下を提供することとします。勿論、上物と謳って。』

『ああ。頼む。さぁ、行け。吉報を待つ。』

『はっ!。』

『了解。』


 退室する楚不夜と紅陣。

 残された愛鈴は赤国の模型を見ながらため息をする。


『はぁ。平和…というのは難しいものだな。皆が同じ方向を向いてくれれば目指す場所も一つと簡単なのだが、如何せん。種でも個でも幸せの形は違う。平等とは、なんともまぁ虚ろいやすく、脆く曖昧なものだな。』

『ふふ。けど、やめないんだろ?。』


 揺らぐ炎と共に姿を現した褐色の肌の少女。

 宙に浮くその姿は、周囲との温度差で僅かにぼやけている。

 纏うエーテルは彼女の本質を具現化し炎となって荒れ狂う。


『無論だ。マズカセイカーラ。妾は妾の出来ることをやり抜くだけよ。赤国の民。全員が自らの幸せを感じ、歩むことの出来る土台を作る。それだけが妾の望みだ。』

『ふふ。面白いな!。お前の偽善は。自己満足以外の何物でもないぞ?。仮にその偽りの土台が完成したとしても決して他者はお前に感謝などせんぞ?。』

『構わん。覚悟の上。それより、妾との同盟の約束忘れぬでないぞ?。』

『勿論だ。俺の目的は異神を殺すこと。そして、お前の行き着く先を見届ける。その代わりに手を貸してやる。ただし、異神との戦いに関してだけだ。ふふ。楽しみだな。俺の炎で全てを焼き付くしてやりたいぜ。』

『ああ。それで良い。お主のやり方に口は出さん。だがもし、妾の大切な民を巻き込むようならば、この同盟は破棄だ。その時点でお主は妾の敵だ。良いな。』


 愛鈴がそう言いマズカセイカーラを睨む。

 同時に燃え盛るような翼を持つ真紅の竜が愛鈴の背後の出現する。

 同時に愛鈴のお団子の髪は解け、長い黒い髪は赤く染まり、背中からは不死鳥の翼が大きく広がった。


『はいはい。分かってるって。どうせ、奴等がここまで来ないことには始まらない。ここの連中はすぐに逃げるんだろ?。なら問題ないだろうさ。そう威嚇すんなって。』

『………。なら、良い。』


 臨戦態勢から一転。周囲の温度は低下していく。

 

『それにしても、お前は笑わないな。いつも眉間にシワを作ってよ。歳いくつだ?。』

『お主には教えたではないか。妾は十と三だ。ふむ。しかし、笑うか…。確かに笑った記憶はないな。おかしいか?。』

『ああ。おかしいな。顔も幼くて可愛いのにな。年相応に笑って見ろ。勿体無いだろう?。』

『そんなものか?。どれ。ははは。どうだ?。』

『それはマジでやっているのか?。』

『ふむ。失敗か。笑うとは…何とも難しいな。』


 愛鈴は自らの口角を指で持ち上げ、笑顔を作る。

 笑顔だけではない。愛鈴は基本的に殆ど表情を変えない。喜怒哀楽を表現するのが非常に苦手としていた。


『どうだ?。』にま~。

『………もう、良い。チッ。』 


 口角が上がっただけの無表情。

 何も変わっていない。崩れても可愛らしい表情にマズカセイカーラは舌打ちをした。


ーーー


『行くぜ。野郎共。異神共との戦争開始だ!。』


 自身が所有する【武星天】の領内に帰還した紅陣。

 そこに集まっていた幹部達に対し声を高らかにして宣言した。

 集まっているのは九人の男女。


『やっとか。紅陣さん。何処を攻め落とす?。』


 ・炎極星 柘榴(ザクロ)


『異神との戦い。自身の力を試す絶好の機会だな。腕がなる。この場所に目覚め、更に磨き上げた俺の拳が何処まで高みへと昇るか。』


 ・爆極星 群叢(グンソウ)


『全滅させて良いんだろ?。異神…何でか知らねぇけど、イライラするんだよな。何でだ?。』


 ・力極星 塊陸(カイリク)


『俺もだ。もしかしたら前世でなんかあったんじゃねぇか?。イライラするってことは、俺達を不快にさせる何かをソイツ等がやったってことだろう?。』


 ・溶極星 獅炎(シエン)


『しかしながら、我等がここにいるということは、彼等は我等を一度倒している者かもしれん。油断は禁物だろうな。』


 ・静極星 心螺(シンラ)


『ひひひ。我に任せておけば良いだろうに。わざわざ死にに行くとは愚かな。我ならば異神など一瞬で消し炭にしてくれようぞ?。』


 ・古極星 龍華(リュウカ)


『ふふ。愚かね。最も早く死にそうな台詞。これだから古いだけの龍など。もっと狡猾に慎重に行動するべきでなくて?。』 


 ・天極星 狐畔(コハン)


『喧嘩は駄目だよ。もっと仲良くね。』


 ・死極星 鬼姫(キキ)


『して、ワシ等はどう動く?。紅陣よ?。』


 ・老極星 珠厳(シュゲン)


『まぁ、慌てんなって。奴隷競売の会場。そこにターゲットが潜入するらしい。確認した異神は二柱。ここに何人か送り込もうと考えている。そうだな。柘榴、龍華、心螺。お前等行け。』

『うっし!。やってやるぜ。』

『ひひひ。楽しみだな。皆殺しにして良いのだろ?。』

『ふむ。僅かに不安な面子ではありますが…まぁ、何とかなるでしょう。』

『他のメンバーは?。』

『俺も行きたかったのによぉ…。』

『チッ。龍の小娘に…。』

『うるせぇな。安心しろって。ちゃんと戦わせてやるからよ。でだ。』


 紅陣は巨大な地図を床に敷いた。

 そして、とある箇所にナイフを突き刺す。


『その場所は?。』

『お前等も知ってんだろ?。今、俺等の邪魔をしている組織。事あるごとに介入し仲間を次々と殺していきやがる腹立たしい奴等のこと。』

『ああ~。最近出来た新しい組織か。確か名は…【妖炎天】とか聞いたな。』

『さっき、愛鈴様が【天恵】で俺達の組織に所属していないエーテルの反応を調べてよ。ここに集まっているのを確認した。数は四。』

『つまり?。』

『やはり【妖炎天】とは異神が立ち上げた組織か。』

『ああ。そうだ。そこを襲撃する。残りのメンバーでな。』

『ははは!。そりゃあ良いな!。』

『散々、俺達の邪魔をしてくれたんだ。この借りは百倍、いや、千倍にして返してやろうぜ!。』

『ふふ。皆。元気ね。お姉さんも頑張っちゃおうかな。』

『さて、行くぜ!。【武星天】!。異神との全面戦争を始めようじゃねぇか!。』


 赤国が誇る武力集団。【武星天】が動く。

次回の投稿は5日の木曜日を予定しています。

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